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大回廊とマラソン

 ダンジョンを見回すと、そこには地上にも負けないくらいに多くの人がいた。まだ朝早いからか物を売っている店は少ないが、ポーション等のダンジョンに必要な消耗品を売っている店はちらほらと出ている。ちなみに値段を確認したところ、地上の三割増しになっていた。ちなみに二階層で同じもの買おうとすると、最低でもこの三倍から五倍はするようだ。


「それにしても随分明るいんだな。俺の知ってるダンジョンも真っ暗では無かったが、昼間みたいに明るい感じでは無かったぞ」


 屋外の日の光のようなあかりではないが、強いて言うならこう……ビッグサイトの中みたいな明るさがある。


「ダンジョンの壁は内部の魔力を吸収して光ってるんだ。それでもこの階層は普通のダンジョンではあり得ないくらいに光っているから、このダンジョンは神が作って管理しているなんとか言われているけど……眉唾物だな」


 ジョズは特に気にしていないように言うが、俺は実際に神の作ったダンジョンとやらを知っているので、本当にそうだったらあの『サウロスの迷宮』と同じ、もしくはこのダンジョンの大きさを考えると、それ以上のダンジョンである可能性があると言うことだ。


 まあ、あれは事故みたいなもんだし、他の商人と同じように普通に通っていればあんな事は起こらない……はずだ。


 それから30分程歩くと、またもや門が建っていた。おそらくこの先が二階層へ続く道なのだろう。


 俺達はそこでまたダンジョンへの許可証を見せる。門番さんは俺の許可証をみると怪しげに俺を見てきたが、俺がギルドカードを見せるとすぐに謝って通してくれた。


 門番さんはジョズの許可証にも青い判子を押す。


「ここから先は強力な魔物が徘徊している。尤もお前さんたちが苦戦するような魔物は居ないだろうが、ごく稀に三層の魔物が紛れ込んでくると言う報告もあるから気をつけるようにな」


 そんなおっさんの忠告に了承して、俺達は『大回廊』の第二層に足を踏み入れる。


 第二層、といってもいきなり森林が広がっているなんていう事は無く、あくまで環境は洞窟のままだ。変わったところと言えば、一層目より暗くなっている事と、先程はただ洞窟が広がっているだけだったのに対し、今度はちゃんと壁があり、道ができている事か。通路の幅は大体八車線ほどでかなり広い。


 【遠見】のスキルを使って先を見てみると、何台かの馬車が走っているのが見えたが、特に戦闘などをしている様子は見受けられない。


「第二層でもすぐに魔物が出る訳じゃない。暫く進んでいると横に細い道が出て来て、そこからかなりの頻度で魔物が出てくるようになる。逆に、その辺りに行くまではほとんど戦闘は起きない」


 ジョズの説明を聞いて【索敵】のスキルを発動してみると、確かに遠くの方に魔物の気配が感じられる。事前に調べた情報によるとダンジョンの中は蛇行が多く、馬車でここを抜けようとすると二週間弱はかかるらしい。


「普通の馬車の倍の速度で走って五日ってところか? いや、実際は二人しかいなくて身軽だからもうちょい早くなる筈……どっちにしても馬車と同じペースで進んでいてもしょうがないよな」


 馬車の速度が時速20km弱だとして、時速40km程度で進めばいいだろうか。それくらいならうちのノワールさんは俺達二人を乗せたまま軽々と走ることができる。


 そんな訳でノワールに乗ったまま、何台か馬車を抜かしつつ先に進んでいると、だんだんと道が蛇行してくる。それに伴って、比較的細い道があることに気付いた。


「さっきも言った通り、こういった細い道から魔物が出てくる。湖の中心に近づくにつれて魔物が強くなるのでまだこの辺りは大した魔物は出てこないけど、油断できる相手でもないな」


 ジョズの言葉を聞きながら【索敵】を発動させると、確かに横道の奥から魔物の気配が、百メートルほど前方にも、数体の魔物が通りに出てくるのが分かる。そこまで強くないようだし、ジョズにやらせるか。


「ジョズ、前にゴブリン達が五体だ。行けるな?」

「普通のゴブリンと亜種のゴブリンメイジ、後はソルジャーか?……まあ、何でもいいか」


 俺の後ろでノワールに乗ったままのジョズは、狙いを定められる距離まで近づくと、詠唱を始める。


「炎よ 貫け 『(フレイム)(アロー)』」


 俺の教えもあって詠唱も短くなってきたジョズの放った火の矢は、五本に分裂して魔物に命中する。魔物は一撃で息絶え、光の粒子になり消えていく。A-にふさわしいと言える手際だ。他のA-ランクの強さを知らないけど。


「ほい、『ストリング』」


 俺はすれ違いざま、魔法で糸を伸ばしてドロップ品を回収する。どうせゴブリンの腰布程度しかないので拾ってもしょうがないのだが、馬車も通るような道でドロップ品を放置するのはマナー違反だからな。ジョズ一人で回収もしてくれれば完璧なのだが……時速40kmの速度で走る馬上から魔法を駆使してドロップ品を回収する場面と言うのは、はたして俺と別れた後は何度もあらわれるのだろうか。


 その後も何度か魔物と遭遇したものの、強くてもオーガ程度しか出てこなかったので特に問題もなく四時間ほど進むと、道の横に大きな岩が置いてあるのが見えた。


「あれはこのダンジョンの九か所に置いてある岩で、ダンジョンを九等分しているらしい。このダンジョンの人工物説の根拠になっている一つだな。ちなみに魔物だ」


 東京湾のトンネルの壁に1kmごとに数字が書いてあるのと同じようなもんか。便利な物がある――って魔物!? ただの岩にしか見えないが……いや、岩の魔物と言えば心当たりがあったな。


[妖岩 lv300]


 もしやと思って【鑑定眼】を使ってみると、やはりこいつだった。『サウロスの迷宮』にいたこいつからもらった【金剛化】のスキルには本当にお世話になっている。あれが無ければ今までに何度死んでいたことか……


 スキル無しでも防御力が恐ろしく高い妖岩。しかもあそこにいた個体の三倍のレベルを持ったこいつは、スキルを奪っても壊せるかどうかってとこだな……仮に壊す事ができても、『大回廊』を使う人が迷惑をするだけなので絶対にやらないが。


「せっかくだからここで昼飯にするか」


そろそろノワールにも休憩が必要だろうと思い、岩の傍で昼食を取ることにした。


「それにしても、まだ一割なのか……」


『アイテムボックス』から食材とノワールの餌を取り出すと、簡単に料理を作って食べながらそう呟く。風景がほとんど変わらない上に魔物も一撃で沈むような敵しかいないので、早くもダンジョンに飽きがきそうだ。


 そんな俺にジョズが面白そうな話題を振ってきた。


「そういえば二つ目の岩を超えた先に分かれ道があって、蛇行が少ない分ショートカットになっている代わりに、三層に繋がる道があるせいで強めの魔物が出てくる道があるんだが、そっちを通るか?」


 先程まで通ってきた道は、かなり蛇行が多かった。ノワールに乗っていればそれで加速が遮られるような事は無いが、早く到着ができるのならそれに越したことは無い。勿論、レベルが200や300の魔物が徘徊していると言うのなら勘弁してほしいところだが。


「どのくらいの強さの魔物が出るんだ?」

「バランスのとれたA-ランク冒険者なら無理なく通れるはずだ。魔物のレベルで言うと70くらいだな」


 バランスのとれた冒険者パーティー、と言うのは前衛、後衛、回復などが揃っている六人から八人程度の冒険者の事だ。俺達の人数だと少し厳しいような気もするが、魔物のレベルは俺が『サウロスの迷宮』から出た後に落ちた森とだいたい同レベル。その事を考えると俺とノワールがいれば余裕だろう。


 勿論この目安は体力の温存等を考えての物なので、一戦一戦はジョズでもなんとかなるはず。リスクは少ないと言えるだろう。


「じゃあそっちを通るか。と言うことで今日中に二つ目の岩まで行くとして、昼飯食ったら次の岩まで走るか?」

「岩の間って普通は馬車が一日以上掛けて進む距離だから! その距離を走るとか無茶だから!」


 俺の何気ない呟きに全力で抗議するジョズ。本気で24時間マラソンと同じくらいの距離を走るわけだから、普通の人間にはまず無理だろうな。大丈夫大丈夫、A-ランクだって割と人間辞めかけてるような体力だからそのくらいいけるって。魔物は俺が倒すから。


 結局、一度休憩をはさんだもののジョズは約120kmの道を走り、その頃には地上は真っ暗になっている時間だった。ダンジョンのような危ない所でやる事じゃないな。まあジョズが寝ている間にこっそり回復魔法を掛けておいたので明日には疲れは取れている……はず。

 以上、妖岩さんとの感動的な再開でしt……やめて! 石投げないで! スライムちゃんは次回出てくるから!


 ちなみに作者はきららフェスタは落選しました。ええ落ちましたよ。

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