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許可証と入口

 翌朝、俺が起きて窓を見ると、まだ完全には日が昇っていないのにも関わらず、街の中心では多くの人が活動している気配を感じ取れた。


 俺はジョズが寝ている隣の部屋の鍵を魔法で外して、――現代の鍵のような複雑な構造では無いのである程度魔法が使えれば解錠できる程度のものだ。そのため俺とジョズの部屋の鍵部分には、俺が結界魔法を張って簡単に動かないようにしている――ジョズを叩き起す。


 べ、別に幼馴染委員長展開なんて考えてないんだからねっ! 街を案内させるためなんだからねっ!……自分でやっておいてあれだが、虚しくなるな。萌えという概念が存在しない世界とはこんなにもつまらないものだったのか。恐るべし、ジャパニーズHENTAI文化。


 閑話休題(それはさておき)


 宿を出る際に朝食はどうすればいいかと聞かれ、買い物をしたら食べに戻ると伝えると、50分後くらいを目安に用意しておくと言われた。そこまで時間がかかる買い物でもないので、それで了承して外に出た。


 早朝は露店などはほとんど出ておらず、市場スペースが用意されている。やはりこの時間帯は、飯屋や宿で働いている人間などの、商売のために食材を狩って行く人が多い。画面越しでしか見た事は無いが、日本の築地市場によく似ている。向こうと比べて人工的な光が圧倒的に少ないけどな。


 俺はそこで野菜などを中心に買って行く。『アイテムボックス』の中は低温で保たれているので一週間分を購入。更に、『アイテムボックス』の空間を複数個作りだせるようになったので、氷点下20℃程度の環境で開いた空間を『冷凍庫』と名付け、万が一に備えてそちらに食材を放りこんでいく。必要に応じて自由に広くできる冷凍庫なんて、そのうち冷凍した食べ物だらけになりそうだな。


 買い物を済ませて宿に戻ると、用意ができる少し前くらいに帰って来たようで、食堂で朝食を待ちながらジョズと今日の話をする。


「飯を食ったらすぐに宿を出てダンジョンに行こう、手続きを済ませて一階層を抜けて、すぐに戦闘が起こるような事は無いと思う」


 ジョズによると、ギルドでダンジョンに潜る旨を伝え、簡単な審査を経て入場許可書をもらうらしい。普通は20分ほどかかるそうだが、ここでも高ランク冒険者は面倒な手続きを飛ばして発行してもらえるらしい。高ランク冒険者とは随分信用されているらしい。


 そんな話をしている間に朝食が運ばれてきた。ハーメルンもなかなかおいしいものが集まっていたが、完全に商業に特化している街であるこちらの方が朝食もいい物が出ている。尤も、俺達がハーメルンで泊っていた宿屋が中堅冒険者用――つまりそれほど裕福では無い人間向けのものだったことも大きいのだが。


「やっぱ高い宿の飯だけあってうまいな……」


 俺がそんな事を考えていると、ジョズも同じような事を呟いていた。流石に王城で出ていた物にまでとは言わないが、この世界基準でいえばかなりおいしい部類になる。俺はもう少し塩気のある方が好きだが……この世界も異世界系のテンプレ宜しく塩や砂糖などの調味料はかなり高価だ。その事を考えると、せっかく海沿いにいたんだからジェークルにいる間に飯を楽しんでおけばよかったな。


 朝食を済ませると、俺達の持ち物は全て『アイテムボックス』とアイテムポーチの中に入っているので、部屋に戻ることもなくチェックアウトを済ませる。その際にダンジョンへの入場許可書をもらってくるなら、それまでノワールは個々の従魔小屋で預かってくれると言われた。これが高級店の余裕……流石は二人で一泊銀貨五枚……日本円にして二万円近くするだけはある。


 ダンジョンの入り口まで行くと、朝早いと言うのに多くの商人や冒険者達でごった返していた。どちらかと言うと商人の方が多いだろうか。ダンジョンの中で商売をする者と、大きな馬車を曳いているのは俺達と同じようにダンジョンを抜けて他の街に行くのだろう。


 ダンジョンの三階層目にはより強い魔物が湧いているため、B~Aランクの冒険者達の狩り場になっているらしい。ダンジョンコアを持つ階層は更に下にあるようだが、三階層の広大さと通路の複雑さによってなかなか攻略が進んでいない状態らしい。


 その風景を見つつ、冒険者ギルドに入る。流石は大陸最大級のダンジョンがあるだけの事はあると言うべきか、まだ朝早い方だと言うのに活気にあふれていた。


「早いうちに来て正解だったな……受付はあっちか?」


 遠くの壁に貼ってある小さな文字を【遠見】スキルを使って読むと、そこには「ダンジョン入場許可証発行」という文字が見えた。張り紙の指示通りに従って進んでいくと、それらしき受付が二つ並んでいて、そこに10人ほど人が並んでいるのが見えた。


 俺とジョズはその列に並び、順番が来るまで待つ。大体30分くらい待った事を考えると、一人を捌くのに五、六分程度かかるらしい。


 順番がきた俺は受付のお姉さんに話しかける。


「ダンジョンの入場許可書を発行してもらいたいんですけど」

「地下一階に行かれる場合は商業地区の入場許可証、二階層以下に行かれる場合は迷宮地区の入場許可証が必要になります。商業地区の許可証は無料、迷宮地区の許可証は銀貨一枚です。また、入場許可証の発行にはギルドカードが必要となります」

「それじゃあ迷宮地区の方で」


 俺はそう言うと銀貨とギルドカードを取り出す。受付のお姉さんは俺のギルドカードを見ると驚いたような表情を浮かべる。


「えーランクは……SS-ランク!? もしかして火竜を退けたあのセイイチさんですか!?」

「ええ、まあ」


 その勢いに思わず返事をしてしまったが、退けたというよりは俺が逃げたと言った方が正しいんだよな……


「あっ……す、すいません! まさかこんな所で会えると思っていなかったもので……それで、許可証の方は問題ありませんね。S+ランク以上の方ならこの紙に署名をしていただければ何度でも自由にお使いいただけます」


 すぐに落ち着きを取り戻したお姉さんは一枚の紙を取り出した。よく見るとところどころに複雑な模様が描かれており、簡単に複製することはできないようになっている。


 俺はその紙に名前を書くと、お姉さんはそれに判子を押して俺に渡してきた。


「では、これをダンジョンの出入り口で見せればダンジョンに繋がるどの出入り口も利用していただく事ができます」


 俺はお姉さんから紙を受け取ると、列から離れる。そのすぐ後にジョズも終わったようで、ジョズも着いてきた。


「思ったより早く終わったな。『グランティア』の知名度が上がってたお蔭で、ほとんど確認無しでもらえたよ」


 そう言ってジョズの見せてきた許可証は、A-ランク用のものなのか、入る時に券に印をつけられ、ダンジョンを出るときにそれを回収するという、まるで電車の切符のようになっていた。


用を済ませた俺達はギルドを後にし、宿屋でノワールを引き取りに行った。


せっかくなので従魔小屋を見てみようと俺達でノワールを迎えに行くと、全くと言っていいほど野生を感じさせない姿でくつろいでいるノワールがいた。そんなに快適だったのか……


 名残惜しそうに従魔用の布団を見つめるノワールを連れて宿屋に礼を言って出ると、再びダンジョンの入り口に向かった。


 先程よりも少し人が増えているダンジョンの入り口で、俺はノワールとジョズと離れないように人の波に沿って進む。10分ほどゆっくりと歩いて待っていると、厳ついおっさんが一人一人許可証をチェックしていた。


「それでは次……む、冒険者ギルドの特別許可証?……ふむ、確かに本物のようだな。そっちの連れの許可書も見せてくれ」


 俺がギルドでもらった許可証を見せると、おっさんは怪しげに許可証を見たが特に問題なく通され、ジョズの許可証にも赤い判子を押してもらえた。


 入口を通してもらった俺達は階段を下ると、さらにその先にある門でおっさんが許可証の確認をしていた。


「……よし、確かに確認した。この先は魔物が出ないとはいえダンジョンだ、危機管理は自己責任で頼むぞ」


 今更な確認に了承すると関所を抜け、俺は大陸最大規模のダンジョン、『大回廊』への第一歩を繰り出した。

 自分の作品を読みなおしてたら大地もヒロイン候補に入れていい気がして来たけどきっと気のせい。

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