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駆けっこと試し斬り

そしてやってきた出発の日。俺とジョズは朝食を済ませると、宿屋の女将さんに別れの挨拶をして、せっかくだからと『浄化』魔法で部屋を徹底的に綺麗にしてから宿を後にした。


 従魔用の小屋から出てきたノワールは、火竜騒動以来碌に運動をさせてやれなかったからか、嬉しそうだ。



「今までお世話になりました」


 俺はこの街に来てから何度か顔を合わせた事のある門番さんに、別れの挨拶をする。


「なんだ、もう行っちまうのか。せっかくこの街を救った英雄だってのによ」

「まあ、目的地のある旅をしてるもので」

「そうか。それなら仕方ないが、旅が終わったらこの街にも顔を出してくれると嬉しい。お前はこの街を救った英雄だからな。いつでも歓迎するぜ」


それだけ言うと、門番さんは門を通して俺達を送り出してくれた。俺達は門番さんにお辞儀をすると、ノワールに乗って火山方面に街道を進む。


「それで、火山の向こうにある国がなんとか公国って言うんだよな」


 俺はノワールの黒い身体に揺られながら、後ろで同じように揺られているジョズに尋ねる。


「火山を挟んで向こうにあるのはキール公国。そんでもって俺達がひとまず目指すのは火山から二番目に近い街イェーナだな。一応その手前にも街はあるが、開拓村に毛が生えた程度の規模しかない街だから、よっぽど物資に困窮しない限りは行く必要は無いだろ」


 ああ、キール公国だったな。一応昨日寝る前に聞いたような気もするが、すでに記憶が彼方に飛んでしまっている。


「詳しいな。流石は地理の事なら何でもお任せ、ジョズぺディアさんだ」

「ぺディアってなんだよ……」


 俺はジョズの知識に対して名誉あるジョズペディアの名前を授けたが、当然のごとく理解されなかった。


「ぺディアってのは……辞典的な意味だ。だからジョズの辞典でジョズぺディア。俺の故郷では知識人に対する最上位の称賛だぞ」

「別に大した知識じゃないけどな……前に言ってたウェキぺディアってのは、兄貴の故郷の賢者みたいな人だったのか?」


 最上位の称賛と言われてちょっと照れるジョズ、残念ながら全く萌えない。


「ウェキって言うのは……まあ、賢者みたいなもんだ。俺の故郷にはウェキとググールの二大賢者がいて、そいつらに知らない事は無いと言われるほどだった」

「へぇー」


 ……ジョズが真に受けるから微妙な嘘を教えるのもほどほどにするか。


「ところでジョズ、このペースで行ったら次の街までどのくらいかかるだろうか」

「えっと……大体行商の馬車と同じくらいの速度だから、大体一週間弱で着くんじゃ――」


 ジョズは俺の質問に答えながら、不穏な空気を察知したのか言葉を切る。


「じゃあ急げば明後日には着くか。なに、道中では毎回やってた事だ。最近やってなかったとは言え、すぐ慣れるさ。俺も新しい武器でどのくらい走れるのか試したいし、取りあえず火山まで走るぞ!」


 言うが早いか、俺はノワールから飛び降り、ノワールはジョズを振り落として一気に加速をする。ここから火山までは大体2kmと少し。時速60kmで走れば三分もかからず着くが、街道で行商などに驚かれないように街道から少しずれたところを走って行くので、大体五分弱と言ったところだろう。


「ちょっ、早い!」


 後ろを見れば受け身を取って着地し、俺達を追いかけてくるジョズが小さく見える。あれでも時速40kmは出ている。地球だったら人類最速レベルの速度で2kmの距離を走れて、俺にいたっては野ウサギとタイマン張れるくらいの速度で走ってるんだから、こっちの世界に来てから随分と人間をやめたものだ。



 数分ほどして、二人と一頭が火山に到着する。一位はノワール、二位が俺、三位はジョズと言う結果になった。一応俺はノワールと速度が同じくらいになるように調整していたのだが、やはり同じスピードで足場が悪いところに出ると、ノワールにどんどん離されて行ってしまうな。


「今回もジョズは最下位か。もっと人間をやめなきゃだめだぞー」


 俺は肩で息をしているジョズに言葉を掛けながら自分の身体を確認する。


「やっぱステータスが上がってから身体の感覚が全然違うな……」


 今までだったら今の距離を今のペースで走ったら結構疲れていたが、火山で魔物を一掃してレベルが上がって、ほとんど疲れを感じていない。武器も以前より重い物になったので速度が落ちるかと思ったが、剣の位置が気になったので走りながら調整はしたものの、ステータス上昇の恩恵のおかげか、武器が重いといった感覚はしなかった。


「あとは剣の威力だよな。魔物がいるのはもうちょい先か……走るぞ。今度は岩場を走るから、不安定な足元でも平原と同じくらいのスピードで走れるように頑張れ」


 今度は先程よりもゆっくり走る。足元が悪い所はノワールの独壇場だが、魔物と足場の悪い場所で戦うこともあるだろうし、こういう訓練もしておかないとな。


 街道として整備されている所を外れると、大きめの岩がいくつも転がっていて、ノワールも森や草原とは違う環境に少し戸惑っているようだ。


 ジョズが購入した下位竜の革で作った靴は、地球の安全靴を走りやすくしたような感じで、今の岩場や石が落ちているような所には最適な靴だ。それに対して俺は靴も肉体ほどではないが【金剛化】の恩恵を受けているため、ひたすら動きやすい靴を履いている為、痛くは無いが足に石がぶつかる感覚がして、あまり気持ちのいいものではない。


「まあこればっかりは仕方がないか……っと、見つけた」


 俺の視界に入ったのは、はぐれたのか一頭でいるフレイムボア。俺が数百単位で倒した相手だ。俺は腰のアスタロスをさやから抜いてフレイムボアの元へ駆け寄る。


 俺は斬撃で致命傷にならないように注意して、軽くフレイムボアの身体の表面だけを斬る。するとフレイムボアは一瞬だけビクンと痙攣したかと思うと、息絶えたのか光の粒子になっていった。


「…………」


 ……えっ!?


 ゴブリン程度の魔物は即死させると聞いていたが、文字通りの()死すぎるぞ!? 速攻性の毒薬とか、そんなの目じゃないくらいに危険だ。少なくとも地球には、服毒から0.1秒もかからずに全身に回る毒なんて存在しなかった。ペロッ、これは魔剣! とかやる暇も無く死ぬ。


 そう言えば爺さんによると見つけた時は刀身が砕かれていて(・・・・・・)  ほとんどなかったって言ってたけど……もしかして、効果が危険すぎるから封印されてたんじゃないですかね!?

 ちゃんと書き上げても色々やってて予約投稿が0時に間に合わない今日この頃。今週中にあと一、二回更新します。

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