悪寒と代金
俺が柄を握ると同時に、剣の柄から魔力が手のひら、手首、腕へと流れ込んでくるのがわかる。それもただの魔力では無い。なんていうか……魔力と言うより、悪寒が流れ込んでくると言った方がわかりやすいだろう。自分を害する為に自分の中に入り込んでくる魔力と言うのは、なかなか気分がよくない物だ。
「ぐぐぐ……」
思ったよりも力が強く、このまま実況を続けていてもアンデッドになる未来しか見えないので俺も気合いを入れて魔力で押し返す。
俺と魔剣の魔力が、肩のあたりでぶつかると同時に肩に激痛が走る。危うく剣を取り落としそうになったがなんとか持ちこたえ、そのまま魔力をぶつける。
身体に流れてこようとする魔剣の魔力の勢いが止まり、拮抗する。それに合わせて【魔力支配】のスキルを発動させながら一気に魔剣の方へ魔力を押し返す。
すると押し返されているのを感じたのか、魔剣の魔力の勢いが強まってきた。それに対抗するように俺も魔力を強めていくが、なかなか相手の魔力が強くなかなか勝負が決まらない。
肩の痛みもだんだん強くなってきているような気がしたので、俺は【魔力支配】をフル稼働させて魔剣を押し出す。するとゆっくりとだが、俺と魔剣の魔力の境界線が肩から腕の方へ下がっていくのがわかる。それに合わせて肩の痛みが腕の方へと下がって来た。魔力がぶつかり合ってる所が痛いんだけど、これ内側からはじけ飛んだりしないよね? 大丈夫だよね?
念の為、内側からの痛みだから自動で機能してくれない【金剛化】を発動させておく。痛みは変わらないが、気が付いたら腕の血管が破裂していたなんて事は無くなる……はずだ。
そして俺と魔剣の魔力は手首を伝い、掌へ。更に駄目押しで一気に魔力を込めると全ての魔力が鞘に収まり、剣が紫色に淡く光った。
「おおっ?」
「あ、もう終わったんだ、お疲れ様。思ったより早かったね」
それを見て間抜けな声を出すジョズと、これで終わりなのか労いの言葉を掛けてくれるドレッド。
「思ったより魔力も使わなかったな……ざっと4000ってところか。『キュア』」
俺は腕の痛みを取るため、軽く回復魔法を掛けながら呟く。そもそも魔力は体内で動かしていただけで、体外に放出していたわけでは無いのでここまで減る事は異常なのだが、最初の予想よりも消費は少なく終わった。
「その程度で済んだって事はよっぽど【魔力操作】か【魔力支配】のレベルが高いんだろうね。それで、剣の感触はどうだい?」
ドレッドに尋ねられて。その場で剣を持って軽く動かす。まだ振ってないのでわからないが、効果が凶悪すぎる事以外はとても立派な剣だ。
「一応裏庭でも試してみる? 的が無いから僕が相手になるけど」
「いや、怖いからいいです」
こんな危険な物を人に向けて振り回せるか!
「そう? 一回戦ってみたかったんだけど……まあいいか。それで、そっちの彼は新しい武器とか要らないの? この余った下位竜の皮で作った靴なんてどう? ジャイアントタランチュラの糸で作った服もあるよ?」
「こら! 店の商品を勝手に取り出すでない!」
あっさりと諦めたドレッドだが、今度はジョズに狙いを定めて宣伝をしまくる。爺さんに怒られているけどいいのか。
結局、ジョズに下位竜の皮の靴と、ジャイアントタランチュラと言う蜘蛛の魔物からドロップする糸を使った服を二人分購入することとなった。
「それで、お値段の方は?」
ロマンあふれる魔剣と言う単語に思わずハイテンションになってしまったが、金が払えないなんて事態になったら悲惨だ。一応俺の『アイテムボックス』の中には金貨50枚と大金貨3枚、しめて800万ギルが入っているので足りる……と思う。
「そうじゃの……性能としては申し分ないが、魔剣に対抗する程の魔力を持った剣士なんぞなかなか居ないせいで、置物と化していた剣じゃからな。ざっと350万くらいじゃろう。面白い話も聞かせてくれたし、防具はサービスじゃ」
「この性能の魔剣にしては破格の値段だよ。デメリットがあるとしても、この倍でもおかしくない代物だからね」
爺さんがざっとつけた値段にドレッドが補足する。剣一本で1500万円以上する計算だ。まあドレッドの言葉を信じるなら、魔剣にしては安い方なのだろう。
俺は『アイテムボックス』から大金貨と金貨を取り出し、爺さんに払う。その際ドレッドが『アイテムボックス』に物凄く食い付いてきたが、黙秘を押し通した。
「それでは、ありがとうございました」
「なに、儂も今日は随分と面白い話を聞かせてもらったからな。もう出発するのか?」
支払いを済ませて外に出ると、少し日が傾いてきていた。俺は店の前で爺さんに挨拶をする。
「ええ、すでに用意は整ってあるんで、明日には出発ですかね」
「そうか……また会えたらお主の故郷やカタナの話をしてくれ。それまでには新しい刀を作っておかないとな」
「期待しています。それではこの辺で、えっと……」
「そう言えばまだ名乗っていなかったの。儂はクロードじゃ」
名前がわからなかったので最後まで爺さんで突き通そうとしたが、このタイミングで爺さんが名前を教えてくれた。
「それではまた機会があれば。クロードさんに、ドレッドさんも」
俺とジョズは二人に別れを告げると、宿へと帰った。
なんとか武器を購入し次回で出発、明日も更新です。