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魔剣と毒

 前話の話を書いてから日本刀についていろいろ調べてたら鋼を熱した後急冷するとか、打ちながら折り返すとか物凄く大変な行程がいっぱい……昔の人はよくこんな作り方を見つけられたよなぁ……

「おお、そうじゃったな、すっかり忘れておったわい」


俺が呼び止めると、爺さんは本当に忘れていたようで豪快に笑ってごまかした。おいおい……まあ、俺もすっかり話しこんでしまったのだが。


「それで、どんなのが希望だ? 勿論時間さえあればこのカタナも作ってやれるが、流れの冒険者のようじゃし、それほど長い間居る訳じゃないだろう?」

「まあ、こいつが壊れさえしなければ、そのまま出発しようとしてたくらいですからね」


 もっと前に分かっていれば早いうちに頼むこともできたのだが、こればっかりは仕方ないだろう。


「そうじゃな……製作期間が取れない以上は今ある物しかないが……そうじゃな、昔手に入れた魔剣で、刃がボロボロだったので手入れをしたのはいいが、魔剣の効果が強力すぎてまともに使いこなせる奴がドレッドしかいなくてな、部屋の隅で埃をかぶっていたが……お主なら大丈夫じゃろう。ついて来い」


 魔剣と言う心躍る単語を零して奥の部屋に向かう爺さん。やっと本題に入れると思い、ジョズを連れて奥に――


「あれ? ジョズがいない」


 ついでにドレッドの姿も見えない。そう言えば爺さんと話しこんでいる間にどこかに消えてったような……


「ん?――ああ、どうせ奴の事だ、裏の庭でも勝手に使ってるんだろう。庭もこっちだ」


 何と、この鍛冶屋には庭まで付いているようだ。大通りに面していて、商売をするにはこの上ない程の立地なのに、庭まで付いている広さなのか。SS+ランク冒険者も出入りしているし……一体この爺さんは何者なんだろうか。


 爺さんに連れられて店の奥へ、その先の扉を開けるとそこには縦横30mずつ程のそこそこ広い庭があった。


地面は土だが、庭には風情を出すためなのか真ん中に大きなクレーターが。その中央には下半身が氷漬けになっているドレッドと、ボロ雑巾と化したジョズが置かれいて、とてもおしゃれな庭となっている。


「……随分風情のある御庭ですね?」

「……あ奴に剣の試し切りをさせると時々こんな感じになるからそこまで気にはしてないがの」


 俺が庭を褒めると、爺さんは呆れたように溜息をついた。SS+ランクにもなると、試し切りでクレーターを作るのか、傍迷惑だな。


 今回は試し切りをする剣は無いし、何故かジョズまで巻き込まれている。更にはドレッドが氷漬けになっている。


 俺達の話しに飽きたドレッドがジョズを庭まで誘い、模擬戦でもしようと言いだした。ハンデとしてドレッドはその場から動かない、みたいな制約をつけて戦ったが、それでも手も足も出ずにボコボコにされた。


 状況から察するに、こんな感じなのだろう。他人の店で何やってんだこいつらは……


「おーいジョズ、生きてるかー?『ハイヒール』、『浄化』」


 俺がボロボロになったジョズに回復魔法と浄化魔法を掛けてやると、すぐにジョズは起きあがった。


「う……兄貴か。SS+ランクってあり得ないくらい強いのな」


 どうやら相当ボコボコにされたようで、ジョズが遠い目をしている。


「A-ランクとしては下の中ってところかな。まあ、名誉でもらったランクみたいなものだし、A-としてやっていくのにさして不自由はしない程度の実力だろうね。最初に見た時はB+の真ん中くらいだと思ってたけど、いろんな技を使ってくるのはちょっと予想外だったね」


ドレッドが氷を溶かしながら冷静に評価をつける。ジョズにも初見殺しになる技をいくつも教えておいたのだが……完封されたか。


 ……さっきちらっと確認したジョズの生命力は半分ぴったりだったし、不自然にクレーターが途切れてる所からして結界も張ってあったのだろう。さらに『浄化』で服が元通りになったことから、服に傷が付かないようにまで調整していた事がわかる。もし俺が同じ条件で戦ったらここまで気を配って勝つのは難しいだろう。


「取りあえず、ちゃんと庭は直しておけよ……それで、魔剣の話しじゃったな。こっちだ」


 もう慣れたのか、ドレッドに声を掛けるとすぐに本題に戻る。俺がジョズを連れて店の中に入ろうとすると、ドレッドが慌てて、


「ちょ、あの魔剣を売るのかよ! なんか怖いから俺も行く! 『地均し』っと」


 と一瞬でクレーターを平らにして俺達に着いてきた。魔法とかは凄いのに、なんか残念な人だよな……



 店の奥に戻ると、店頭に並んであるのよりもずっと高そうな剣が置いてあった。【鑑定眼】スキルのおかげか、鑑定のウィンドウを開かずとも、材質がミスリルやオリハルコンである事が理解できる。


 そんな中、隅っこに布を被せられている鉄の箱が目に付いた。爺さんはその箱に近寄ると、中から一本の剣を取り出す。そして慎重に俺の元へ運んできた。


「これじゃ……」


 爺さんが握っている柄には魔力を纏った布が巻かれている。ああでもしないと魔剣の影響を受けてしまうのだろう。俺はその剣を【鑑定眼】で視る。


[魔剣アスタロス 伝説級


 上位の悪魔(デーモン)によって作られた剣。これに斬られた生物は体内に毒を盛られ、金属を溶かす。また、竜種の生き血に刀身を浸す事で刃が再生する。


 また、剣の効果を完全に扱うには魔剣に認められる必要があり認められない者が持つと、毒に侵されアンデッドとなる

]


「効果が物騒だな、おい」


 魔物相手ならともかく、殺したくないような相手にはとても使えない代物だ。それ以前に、デメリットが怖すぎる。アンデッドになるって意味わからんわ。


「流石にこいつを修理するのには骨が折れたわい。最初に手に入れた時は刀身が砕かれていて、柄の先に少し刃が付いている程度だったからな」

「火山でこっそり下位(レッサー)(ドラゴン)を拉致って、三体の竜の血を吸わせてようやくこの状態にまで戻せたよ」

「その後ドロップした竜の皮を使ってなんとか鞘も仕上がったのじゃ」


 本当に竜の生き血で再生させたのかよ。しかも下位の竜とはいえ一体だけじゃ足りないのか。


「まあ必要な竜の数が多くなっちゃったのは、竜を縛りつけて腹に突き刺したんだても刺してから三分もしないうちに経験値になった、って言うのもあるんだけどね」


 ど、ドラゴンを三分で殺す毒ですか……なんか使いにくそうだな。


「オーガ程度までならちょっと掠っただけで即死だったし、金属も斬れさえすればミスリルでも溶かすからね。流石にオリハルコンは斬れなかったからわからないけど」


「け、検証済みですか……でも、デメリットの方は大丈夫だったんですか?」


 確かに火竜のような化け物と戦うのにはこのくらいは必要なのかもしれないが、俺がアンデッドになったらどうしようもない。


「デメリット? ああ、最初に持つ時に剣から身体に魔力を流しこまれるけど、自分の魔力でおとなしくなるまで押し返せばそれ以降は問題なく使えるようになるよ。多分SS-ランクの君なら問題なく使えるはずだ」


 ドレッドにとっては大したことはなかったのか、簡単に言ってくれるが、命がかかっていると思うと流石に試すのは怖い。


「大丈夫だって、魔力が5000あれば十分に押し返せる程度の強さしか持ってないから」


 俺の魔力は8000。ステータスとしては十分に足りる。【魔力支配】を使えば体内に押し込まれた魔力もなんとかできそうだし、ここはドレッドの言葉を信じて試してみるべきか。


「それじゃあ、試させてくれますか?」

「はいよ」


 俺が覚悟を決めると、ドレッドはジュースでも渡すくらいの気軽さで剣を渡してくる。


「あ、兄貴、大丈夫なのか?」

「大丈夫だって」


 ジョズは心配そうにしているが、今日だけでドレッドの人や物を見極める力が凄い事は分かったし、SS+ランクの問題ないという言葉を信じてみる。


「それじゃ、柄の布を外して剣を握ってね。それと同時に魔力が出てくるから、後は頑張って」


 ドレッドの言葉を聞きながら、柄にかかっている布を外し、左手で鞘を持って剣を支える。そして軽く深呼吸をすると右手で柄を強く握りしめた。

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