木刀とSS+ランク
お待たせしました。新章(?)突入です。
火竜騒動から数日が経った。あれから俺達はすっかり街のヒーローになってしまい、街中で姿を現すとちょっとした騒ぎになるくらいには有名人になった。そのため、出発の準備がなかなか出来なかったりもしたが、それも含めて訓練にもなったので良しとしよう。
「まあそれはさておきジョズ、俺の木刀を見てくれ。こいつをどう思う?」
俺は木刀をジョズに見せ、魔力を流しながら問いかける。別に木刀が別のナニかを表している訳では無く、俺がダンジョンで作った木刀だ。
「どうって……いつも通りの木刀――いや、なんかおかしいな。いつもより魔力の流れがぎこちない気がする」
ジョズは俺が魔力を通したまま木刀を振って見せると、すぐに俺の木刀に違和感があることを見抜いた。最初にあった時は魔法も下手くそだったのに、今はちょっとした魔力の流れの変化に気付けるようになったのだから大したものだ。やっぱり師匠が優秀だからか? うん、きっとそうだ。
「お前も知ってる通りこの木刀には無駄――もとい使用者の事を想った素晴らしい機能が沢山ついている訳だ。改造しすぎていつのまにか特異級の武器になっていた」
「まあ、確かによくわからない機能がたくさんついてるな。先端に指の形の魔力が出てきたりするし」
指し棒代わりに使えないかと思って追加した先端が指の形になるギミックだったが、使いどころがない上に木刀が太いので指し棒として扱いづらいので、実際に使う場面が来なかった残念機能だ。
「まあそんな素晴らしい木刀なんだが、今まで酷使しすぎて限界が来た」
俺が木刀に流す魔力を消すと、丁度パキリと音を立てて一筋の罅が入った。
「元々木刀の中に魔法陣を書きこんだり魔力を通す穴を作ったりして無茶してたんだけどな。素材が良かったのと、木刀を保護する魔法も一緒に組み込んでたからなんとかここまでもったんだが……流石に無詠唱もどきの負担が大きすぎた」
火竜から逃げる時に使った、木刀に魔法陣を埋め込む作戦は、木刀に一度に流す魔力が多かったせいか、木刀にかかる負担があまりにも大きすぎたようだ。仮にもう一度使えば、まず間違いなく木刀が真っ二つになるだろう。修理しようにも、エルダートレントの木材等そうそう手に入るものではない。普通のトレントの木材なら少しは持っているんだがな。
「そう言う訳で、俺は武器を買いに行く必要があるのである」
とはいえ、あの木刀は俺の自信作だ。ランクも特異級であるように、その辺で買えるような代物と言う訳ではない。ここハーメルンなら買えないこともないが、火竜騒動での収入の内、結構いい金額が飛んでいくことになるだろう。
「今後ノスティア王国を目指すにあたって、戦闘の機会はたくさんあるだろう。臨時収入があったから買おうと思っているんだが、一応短剣も持ってるし、ジョズの意見も聞いておこうと思ってな」
俺は役目を終えた木刀を『アイテムボックス』の中に仕舞い込みながら聞く。
「そうだな……兄貴のことだから、木刀が無いだけでその辺の輩に後れを取るような事はまずないとはいえ、今回みたいな不測の事態に備える必要はあるだろうし、やっぱりメインとなる武器はあった方がいいだろう。どうせ、今回の金も俺はほとんど働いてない訳だしな」
ジョズの賛成ももらったし、そうと決まれば早速買いに行くか。流石に木刀は売ってないだろうし、金属製の剣になるだろう。刀とかもあるんじゃないかと思うとなんだかワクワクして来た。
俺は外に出るなら見ためだけでも武器を持っていようと木刀を腰につけ直し、この間見かけた鍛冶屋へ向かって宿を出る。
幸いこの街にはいろんな情報が集まってくるためか、すぐに住民達が違う話題に飛び付いて行ってしまうため、俺の人気もある程度おさまってくれた。俺の顔を知っているのも、あの時にギルドにいた人だけだったのも大きいだろう。
そんなこんなで鍛冶屋に着く。剣が描かれている看板と、営業と書いてある札からして営業中なのだろう。俺はドキドキしながら扉を押した。
「すいませーん……」
俺が扉を開けると、中には1m程度のおっさん――たぶんドワーフなんだろう――と、客らしき青年が話しあっていた。
「だから真っ二つになったんだよ! みてみろこれ! 何が絶対に折れないだ!」
「どこの世界に剣で妖岩を叩き斬ろうとする馬鹿がおるんじゃ! そんなことしたら壊れるにきまっとるわ!」
「だから絶対折れない剣を作れって言ったんだろうが!」
「だからって妖岩が剣で斬れないことぐらい子どもでもわかるわ! そんな剣がほしいならオリハルコンでも持ってこい!」
「んだとこのハゲ!」
「誰がハゲだ!」
「…………」
え? ここ本当に鍛冶屋なの? あ、でも会話の内容は確かに剣の話っぽいし……てか妖岩って【金剛化】のスキル持ってる岩の事だろ? あんなの○鉄剣でも持ってこない限り切れないだろ。
「あの、すいませーん」
「何じゃ!」
俺がもう一度声を掛けると爺さんの方がこちらを向いた。いや、俺に怒鳴られても困るんですけど。
「いや、普通に客なんですけど……」
俺が控え目に言うとドワーフらしき爺さんは俺を値踏みするような目で見てくる。
「む?……随分とひょろっちい奴だな。そんなんで剣を振れるのか?」
失敬な。これでもこっちの世界に来てからはいろいろ鍛えられたから筋肉もついてきた方だぞ。尤も、この世界の住人と比べればあまり背も大きくないし、全体的にほっそりしているのだが。
「ご心配なく。これでもそこそこ強い冒険者なんでね。今まで使っていた武器がダメになって、臨時収入もあったんで新しいのを買おうと思って」
俺が木刀を軽く手で叩きながら答えると、爺さんは少しだけ驚いたような顔をする。
「なんだ、練習用に木剣を持ってる駆け出し冒険者かと思ったら違うのか。という事はお主が今流行りの英雄か」
その声を聞いてか、さっきまで爺さんと口論をしていた青年がこっちに来た。
「へえ、彼が今話題の?……うーん。SS-では中の中ってところかな?」
会ってそうそうめちゃくちゃ上からな評価を頂いたが、正面に立たれればこの男の実力がわかる。
――おれよりも強い。
俺だって相当な死線をくぐり抜けてきたが、こいつは同じかそれ以上の経験をして来たのだろう。俺と一つか二つくらいしか変わらないのだろうに、身にまとっているオーラが違う。
俺が警戒心を抱いたことに気付いたのか、彼は自己紹介をして来た。
「あぁ、俺はSS+ランクのドレッド、こう見えて百二十……三歳だったかな? だんだん数えるのが面倒になってきたけど、多分そのくらいだね。以後よろしく」
そんな彼は世界に二人しかいないとされる人類最強の片割れだった。
今月中に出発させられるといいなぁ……