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閑話 スライムとヒロイン

 スライム編です、三人称。

 勇者に噂されている事など知る由もないスライムは、森の中を進んでいた。


この先には大きな湖がある。しかし、湖の中にはバハムートやクラーケンをはじめとした強力な魔物が大量に生息する上、湖の中央には水龍が住んでいるため、湖を渡るのはほぼ不可能だ。


 では人間はどうやってここを渡っているのだろうか。その方法としては二つ。一つは湖を迂回する事。


 湖を迂回すれば危険は避けられるが、その場合は湖を覆うように生えている森の外側を通らなければいけないのでとにかく時間がかかる。そのため、こちらの道を進む人間はほとんどいない。


 もう一つは、湖の下を通る巨大なダンジョンを通じて向こう側に行く事。


 丁度森に囲まれている範囲の真下には、巨大なダンジョンが通っている。そのダンジョンは分かれ道も何もない、完全に開けた空間が二階層にわたって広がっている。


 そんな巨大なダンジョンが地下に埋まっている理由には、水龍の住処となった湖の下に魔力がたまって出来たと言う説や、地下に住んでいた水龍が地上に出るため、湖が後に造られた等諸説あるが、実際の所は分かっていない。


 商人や冒険者など、ほとんどの人間はこのダンジョンを通る。勿論、ダンジョンの中なので魔物が出ない訳ではないが、湖を船で渡るよりはずっと安全だし、湖を迂回して進むよりもずっと早く向こう岸にたどり着く事ができる。


 そのため、ダンジョンの入り口が開いている場所は、森のすぐ傍にあるにも関わらず小さな町ができている。


 ちなみに、使われてる入口は湖の東西南北に一つずつ、まるで人が通る事が予想されているかのように設置されていた。


 また、このダンジョンの中に入るのはなにも人間だけではない、野生の魔物も一緒である。


 流石に、野生の魔物が湖の反対側まで行く事はほぼなく、ダンジョンに入ってくる魔物はそのほとんどが寒さの厳しい冬を乗り切るために、風も雪もなく快適なダンジョンに移動してくる魔物である。


 だが、流石に人間が小さな村まで形成して管理している入口を人間に気付かれずに入るのは無理があるため、そんな所は通らない。


 野生の魔物は、森の中に点在している小さな入口からダンジョンへ入る。その入り口は大樹の根元に開いていたり、岩穴の奥にぽっかりと開いていたりと様々だ。


 中には人間が通れるほど大きい入口もあるが、安全な入口があるにもかかわらずただでさえ方向感覚を失いやすい上、凶暴な魔物まで住んでいる森の木の根元を一々確認してまでそちらを使おうとするのは、余程の変人かあるいは犯罪者くらいだ。


 そんなわけでスライムは森の中の入り口を探しているのだが……かれこれ一時間ほど探してはいるのだが、なかなかそれらしき穴が見るかる様子はない。


 別にスライムが方向音痴だと言う訳では無く、ダンジョンへの入り口はそんなにポコポコと開いているわけではないのだ。その上小さい物は木の根や落ち葉などに完全に隠れてしまうため、注意深く探さないと簡単に見落としてしまうのだ。


 だんだんとスライムも穴を探すのに疲れたのか、休憩をしようとしたその時だった。


 すぐ近くから、ガサガサと音がした。その音を聞いたスライムはすぐに気を引き締めて――外からみただけではほとんど変わらないようにも見えるが――音がした方に意識を集中させる。


 そこにあったのは木の根――を掴んでいる人間の手。


 更にガサガサと音を立てると、落ち葉の中からゆっくりと男の頭が出てきた。その金髪の頭は辺りを見回して、ここが森の中である事を確認すると落ち葉の中へ声をかける。


「出口だ! やっと外に出れるっすよ!」


 その声と同時に男が穴から這い出ると、それに続いてぞろぞろと三人の男と縄で手を縛られた二人の女が出てきた。背格好がそっくりなのを見るに、双子だろうか。


「久々に地上に出てくるな……それで、これはどの辺なんだ?」


 全員が穴から這い出て一息つくと、大きなハルバードを背負い、最初に出てきた男と同じくらい鮮やかな金色の紙髪をした大男が最初に出てきた男に問いかける。


「そうっすね……俺の測量が正しければ、ここは湖の北側のはずなんですけど……」


 大男に尋ねられた男は、腰にぶら下げている袋から地図を取り出して答える。


「やれやれ……何でわざわざこんなところを通ってまで逃げなきゃいけないんだか……」

「まあいいじゃねえか、アレはそれに見合う対価が望めるんだからよ」


 もう一人の赤髪の男が不満そうな声を漏らすが、大男がその男の肩をたたきながら笑い、顎で手が縛られている女を指す。


 スライムがその二人に意識を向けると、手が縛られているだけでなく猿轡を噛まされていることに気付いたが、それと同じくらい目を引いたのは彼女の尖った耳。それが彼女達は彼女達がエルフである事を示していた。



「確かにエルフの里がそこそこ近いとはいえ、森の中にエルフが迷い込んでるとは思わなかったからな。しかも双子なんて、一生のうちにお目にかかれるかどうかだ。どうせあの街にいても捕まるだけだし、新しい場所でこいつらを売り飛ばした金で暫く田舎にでも身を隠すのも悪くない。それで、この先はどっちを行くんだ?」


 赤髪の男が考え直したように言うと、大男に格好が似ているためか、少し小柄に見える男に尋ねた。


「そうっすね、北の方に出てきたんだから、このまま北を目指せば街があるはずっす。そこそこ大きな街に着いて犯罪者ギルドまでいけばエルフ達を引き取ってもらえるはずっす」

「……ってことは、あと一息だな。とっとと街で金に換えて、久々にうまい物が食いたいし、そろそろ行くぞ……ん? スライムか。珍しいな、人の姿を見ても逃げないなんて」


 その答えを聞いた大男は、休憩の為に地面に置いていたハルバードを担ぎ直し、意気揚々と進みだそうとしたところで足元にいるスライムに気がついた。


 普通スライムは、人間や魔物等に遭遇すると、勝手にパニックを起こして壁にぶつかって死んでしまう為、こうして人間の前にどっしりと構えているスライムなどそうそう拝めるものではない。


「本当だ。と言うより、こうやってじっくりとスライムを見ること自体が稀なんすけどね」

「そう言えば三十年生きてるが、スライムを間近で見る機会なんてなかったな……まあ、どうでもいいけどよ」


 三人は少しだけ珍しそうにスライムに目を向けたが、別にスライムをじっくり見たところでどうしようもないのでそのまま無視し、先頭を進む大男がなんの気無しにスライムを蹴っ飛ばそうとして――大男が盛大に転んだ。


「はっ――」


 それに誰かが驚きの声を上げようとするが、それよりも早くスライムの身体が動き、三人の意識を奪う。


 ずっと下を向いていた双子のエルフ達は、男達が倒れる音を聞いて顔を上げるとスライムと目が合い、驚愕の表情を浮かべる。


 それに気にした様子もなく、スライムは再び目にもとまらぬ速度を以てエルフに着けられている猿轡と縄を斬り裂き、ついでに二人の腕に着いていた腕輪を破壊する。


「えっ!?」


 拘束が解かれ、自由になったエルフは思わず驚きの声を上げる。それもそのはず、何せ最弱の代名詞であるスライムが、目にもとまらぬ速さで三人の男を倒し、あまつさえ自分達の拘束具まで破壊したのだ。


「嘘、本当に魔力もちゃんと操れる……」


 自由になったもう一方のエルフは、自分の身体に魔力が巡る事を確認し呆然と呟く。


 二人に着けられていた腕輪は、腕輪から不規則な魔力波を流すことで相手に魔力を使わせないようにする為の拘束具の一種で、素材は金属でできているので素手ではおろか、その辺の剣でも簡単には壊せない代物なのだ。


 そんな二人の足元を何事もなかったかのように通り過ぎようとするスライムに、エルフの片方が声を掛けた。


「ま、待ってください!」


 思わず大声をだしたエルフに、スライムは何か用? と言ったように振り返る。


「スライム……さん? あの、助けて下さってありがとうございました! あっと、あの……もしかして、野生のスライムさんですか?」


 スライムは野生と言われた事への抗議の意味を込めて【威圧】をその少女に放つと、再び歩き始める


「ひっ!? ご、ごめんなさい! あ、あの――」


 スライムは彼女達の話を最後まで聞かずにダンジョンの中に入っていく。彼女達は捕まっているところを、運よく自分に出くわして拘束を解くことができたのだ。スライムはただその程度にしか考えていない。


 自分はあくまで魔物であり、彼女達があの後目を覚ました男達に再び捕えられようが、森の中で野たれ死のうが、その責任を取る必要はないし、その後の事など考えるだけ無駄なのである。しかし、誰に似たのかお人よしなスライムは、彼女たちなら問題ないであろうことを確信していた。


 魔法を操る事に長けた種族と言うこともあり、内包している魔力は男達の倍以上はあった。不意打ちされたのならともかく、正面から魔法の制限無しで戦えばまず負ける事はないだろう。それに、エルフは森に住む者である。森で野たれ死ぬような事態にはなるまい。そもそも迫害されているわけでもないエルフなら、倒れている男からいくらかの金を拝借すれば、街まで行って冒険者として生活すると言う選択肢もある。


 スライムはそんな事を思考しつつ、ダンジョンに入っていく。


 こうしてスライムの新たな噂が出来上がっていくのだが、当の本人は知る由もなかった。



 一方で、森に残された双子のエルフは呆然と立ち尽くしていた。


「今のは夢……じゃない?……とにかく、こいつらから杖を取り返すついでに使えそうなものを……セラフィ?」


 先に現実に戻ってきた少女はこの後の事を提案するが、セラフィと呼ばれた―先程スライムに【威圧】を飛ばされていた――少女は反応が無い。


「ちょっと、そろそろ――」

「か……」


 流石にいつまでも留まっているわけにもいかないと感じた彼女は、セラフィを軽く揺さぶるが、その瞬間にセラフィはぽつりと何かを呟いた。


「え? 今何て――」

「かっこいい……」

「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 こうしてエルフの恋の物語が始まったりするのだが、当の本人はやっぱり知る由もなかった。


 やっとヒロイン候補(予定)を出せた事に安堵してみる。誰のヒロインかどうかは置いといて。


スライム Lv80(26↑)

【生命力】 900/900(140↑)

【魔力】 210/210(110↑)


 ◆スキル


[火魔法 lv4](2↑)

[水魔法 lv3](2↑)

[威圧 lv2](NEW!)

[土魔法 lv2](NEW!)

[風魔法 lv2](NEW!)

[溶解液 lv5](1↑)

[大食い lv6](4↑)


 ◆固有スキル

[悪食]

[スライムイーター]

[早食い]

[触手 lv3](NEW!)

[肥大化 lv4](1↑)


 ◆称号

[大食い]


 ◆加護

[神々からの注目](NEW!)


 次回から本編(誠一視点)に戻ります。スライム編は本編じゃないです。

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