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寝坊と報償

 翌日、くたくたになって宿屋に入るや否や眠りに落ちてしまった俺達は、目が覚めた頃にはもう日が高く上っていた。野営しているうちに身に着いた経験からしてそろそろ正午になるといったところだろう。


 ……要するに、寝坊した。


一足先に起きたジョズにたたき起され、急いで着替えると食事もそこそこにギルドへ走る。ギルドの入り口に着くと、討伐隊の隊長、アランさんが俺達を待っていてくれた。


「早くしろ! 今回は公式の式典だから遅刻したら大問題だ!」


 二人とも起きたばかりで走ってきたのに気付かれたのか、アランさんは苦笑しつつ俺達を奥に行かせる。


 ギルド二階に入ると大勢の冒険者が集まっている。その中でも真ん中にいる怪我をした冒険者には見おぼえがある人もいる。昨日、俺が帰還途中に治療した冒険者だ。


「報償の話って、また小さい部屋でやるのかと思ってたんだが、なんか結構大々的だな……」


 俺がポツリと漏らすとアランさんは苦笑しながら、


「そりゃそうだ。こいつらは火竜に遭遇して生き残った……いや、それでなくとも千に近い魔物を討伐したんだ。ドロップアイテムは火竜に潰されちまった物もあるが、それでも十分な収入になる。その上、今回はギルドを通して国からも報償が出るそうだしな」


 と言ってきた。それもそうか。火竜はどうしようもなかったが、他の魔物は大量にドロップ品を残していたからな。そういえば、こういうときのドロップ品はどうやって分けるんだろう。援軍が来る前に自分で倒した奴はほとんど回収してしまったが、それは討伐隊関係なしに俺個人の実力だし問題はない……はず。


 それからしばらくすると、奥からギルマスの爺さんが出てくる。それだけで周りの冒険者の喧騒が小さくなった。


「ふむ……どうやら主役も揃ったようだし、そろそろ始めるとするかの」


 爺さんが仮設の演壇の上に乗り、辺りを見回すとそう宣言した。もしかして俺達を待ってたのだろうか。うん、そうですよね。ごめんなさい。


「それでは、今より龍神の火山、大規模魔物討伐作戦成功の儀を取り行う。Sランクパーティー、『フェンリル』のデリック、アルベルト、フィリア。A+ランク冒険者のアラン。そしてC+ランクパーティー、『グランティア』のセイイチ、ジョズ。前へ」


 ギルドマスターが名前を呼ぶと俺の前の人が一斉に脇に退き、アランさんが壇上に向かって歩き出す。俺達も咄嗟に歩いて、ヘマをしないようアランさんの半歩後ろをついていく。


 俺達六人が壇上に上がり、爺さんと向かい合う。


「まずは『フェンリル』の三人よ、この緊急事態に真っ先に動き、龍神の火山へ向かってくれた。お主等がいなければ此処まで迅速な対応はできなかっただろう」


 三人は爺さんに向かって礼をすると、周りからは拍手が上がる。拍手が収まってから、爺さんは言葉を続ける。


「その功績に対して、ギルドと国から一人あたり大金貨十枚、1000万ギルの報酬が与えられる」


 その言葉に周りの冒険者からどよめきが起こる。まあ、日本円にして5000万円相当だからな。俺もびっくりだよ。


「報酬は三人分、パーティー用銀行に入金済みだ」


 その言葉に三人は改めて礼をする。心なしか三人とも嬉しそうだ。


「次に討伐隊隊長、アランよ。51名に上る冒険者達を巧みにまとめ上げ、火竜に遭遇したにも関わらず死者無く帰還して来た。お主がいなければ被害は拡大していただろう」


 アランさんも同じように礼をし、周りから拍手が上がった。


「お主の功績に対し、国とギルドから大金貨五枚、500万ギルの報償を。更に、冒険者アランのランクをS-ランクとする」


 アランさんは少し驚いたような表情をしつつ、再び礼をする。今度は先程よりも大きな拍手が起こった。


「そして、C+ランクパーティー『グランティア』よ。お主等は最初に魔物の氾濫を察知し、ギルドに知らせてくれた。それだけでなく、火竜に臆することなく相対し、誰も死なせずに生還して来た。お主等がいなければそもそもこの作戦は成り立たなかっただろう。また、調査の結果ではここ数年はワイバーンの活発化も起こらず、経済の目覚ましい発展が予想されるとの事だ」


 俺も前の四人にならって頭を下げるが、実は俺がいなかったらあの氾濫も起きなかったんだよな……爺さんもその事を分かって最後の言葉を付け足したのだろう。少し罪悪感も残るが、結果的には良かったわけだし、まあいいか。


「お主等の功績に対し、国とギルドから大金貨十枚1000万ギルずつの報酬。そして、冒険者セイイチのランクをSS-、冒険者ジョズのランクをA-とする」


 その言葉に一瞬固まるが、すぐにお辞儀をする。C+から数えて……えっと、一気に九階級特進だ。そりゃ驚くだろう。


 拍手の音をとざわめきを聞きながら、こんなに一気に昇格していいのだろうかと思うが、ギルドマスター、それも冒険者ギルドで一番権力のある存在だ。きっと許されるんだろう。


「本来ならあり得ない事だが、あまりに強い者を下のランクにしたままだと、指標としてのランク制度が意味をなさなくなるからな。ギルドマスターとして、そして元SS+ランク冒険者としてこのランクを授ける」


 その言葉に、大きな拍手と喝采が沸き起こる。まあ、確かにSランクパーティー三人よりもぶっちぎりで活躍してた奴がC+とかだったらそれはそれで問題だよな。


その後、壇を下りて脇に下がると、再び爺さんが口を開く。


「そして、討伐隊の諸君。お主等には本当によく頑張って貰った。急な招集に集い、力を貸してくれたお主等に大金貨二枚、200万ギルずつを報償として渡そう。パーティー単位で参加した物にはパーティー用銀行へ、個人単位で参加した者には後ほど渡す」


 その言葉と共に今までで一番大きな喝采が沸き起こる。あ、あの冒険者、足怪我してるのにそんなに跳ねたら危な――ほらこけた。まあ、笑ってるし大丈夫だろう。


 一通り騒ぎ終わると、爺さんが最後にコメントをする。


「ふう……まあ、言いたい事は全部言ったし、とっとと終わらせるか。形式ばった儀式も疲れたしの。……ほれほれ、もう終わらせるから酒場に行こうとするな。『ストリング』」


 途中で飽きたのか、こっそり酒場に行こうとしていた冒険者が爺さんに足を掛けられ、笑いが起こる。


「まったく……それじゃあ、これでお開きとしようかの。今日は酒場の酒も大量に入れてあるし、マスター権限で一割引きになっておる。存分に飲むがいい、酒飲み共!」


 爺さんがパンと手をならすと冒険者達が一斉に三階へと上がる階段に殺到する。ちなみにさっきこけた奴は、蹴っ飛ばされて見えなくなった。憐れ。


「どうする兄貴? 俺は流石にアレの中に入って行こうとは思わないんだが……」


 ジョズは階段の方を見て言う。酒場に向かって走る人。階段の前で押し合い圧し合いをする人。上からは怒鳴り声もする。


 ……うん、俺もアレに入ろうとは思わん。


「まあ……帰るか? いや、どっちにしても階段の前にいる冒険者が消えるまで下にも降りれないか……」


 仕方が無いので、階段周りの冒険者達がいなくなるまで、依頼掲示板でも見て時間を潰す。


 俺が火山に行く前とくらべて、Bランク~Aランク辺りの依頼がごっそりと減って、その代わりにCランク前後の依頼が増えている。


 その内容はほとんどが火山の様子の調査。それと取り残したドロップアイテムの回収などだ。火山の魔物がほとんどいなくなってしまったせいで、討伐依頼などがなくなってしまったのだろう。


 俺が依頼の掲示板を見ていると、不意にジョズに話しかけられた。


「そう言えば、なんだかんだで長い間この街にいたわけだけど、そろそろ出発の予定を立てた方がいいんじゃないか?」

「……そう言えばそうだな。今回の件で金も入った事だし、火山の封鎖が解除されたらこの街を出るか」


 かれこれ二週間もいた街だから愛着が無いわけでもないが、俺達の目指すところはもっと先、ノスティア王国とグラント帝国だ。ここはまだ中間地点。火山を抜けて、ダンジョンを抜けてと、やらなきゃいけない事もいっぱいある。もしかしたら、途中で浅野達勇者一行に会うかもしれんな。そしたらそいつらと一緒に王国に殴りこみに行くのも悪くない。


「そうと決まれば準備だな。仮に手ぶらでも魔法がある以上なんとかなるとはいえ、アイテムポーチも『アイテムボックス』もあるし、持っていける物は準備するのに越した事はないだろう。火山の封鎖が解除されるのもそんなに遠くないと思うし、早速買い出しの準備だ。まずは朝飯……もとい昼飯を食べにいくかな」


 それと同時に俺の腹が鳴る。まあ、起きてから何も食べてないからな。


 俺達は苦笑しつつ冒険者ギルドを後にした。……夕方ごろにワイバーンの逆鱗の事を思い出し、ギルドに依頼完了報告をしに行くのだが、それはまた別のお話。


 ついに百話まで来てしまいました。エタらなければ物語の進行上百話か二百話くらいは行くんじゃないかな……とぼんやりと考えていたこの作品も、ついに百話と思うとなんだか感慨深いものが。


 ここまでお付き合いくださった読者様、完結までもうしばしの間お付き合いくださると幸いです。


 ああ、あとがきに何をかこうか考えていたら0時の投稿予約に間に合わなく……!

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