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最高のタイガース=プレイヤー
作:坂田火魯志



第一章


                 最高のタイガース=プレイヤー
 まああまり期待はしていなかった。殆どの人間が。
「また外れや」
「そやそや」
 こんな調子であった。この球団の助っ人はまああまり期待されない。意外と活躍した助っ人も多いのだがファンはこう言うのである。
 球団もまた。何か妙な宣伝をしていた。
「バスじゃありませんから」
「バースです」
 本名はバスである。しかし何故かバースと表記していたのだ。
 これには理由がある。この球団、はっきり書いてしまえば阪神はグループにバス会社も持っている。それで彼が打たないと阪神バスがどうとか言われたりマスコミにバス渋滞だのそんなことを書かれることを縁起でもないと嫌ったのだ。実に鉄道会社らしい話である。
 こうしてこのバースという助っ人が決まった。髭を生やした白人であった。
「あいつどうなんやろ」
「あかんで、あいつ」
 こういう声が聞こえる。それにはれっきとした理由もあった。
「あいつ子供の頃足骨折したらしいわ」
「ホンマか?」
「ああ、そうらしいで」
 これは本当のことだった。実際に彼は幼い頃に両脚を複雑骨折している。その為脚が非常に遅かった。つまり守りに支障が出る。
「確か外野やったな」
「ファーストも守れるらしいけれどな」
 だが外野手に登録されている。これを知ったファン達はさらに不安になった。
「甲子園の外野、大丈夫か?」
「そんなのであの広いグラウンドを」
「まああかんやろ」
 またこう言われた。
「どうせまたスカや」
「そやな」
 こう言い合う。とにかくマスコミはやたらと宣伝するがファンの多くは期待していなかった。この球団のファンは昔からこういうところがある。熱狂的なのは有名だが妙なところで醒めているのである。そうでなければこのチームは中々応援できないのも確かだ。
 そうして開幕になった。やはり彼の守備は悪かった。守備範囲が狭いのだ。
「わかってたけれど」
「これは」
 一塁側の阪神ファン達も呆れた。守れないに等しかった。
「あかんやろ」
「しかも打たへんやないか」
 そちらもさっぱりであった。特に速球に弱いのだ。
「スカやな」
「ああ、スカや」
 皆早々と匙を投げた。六月の中頃には帰るだろうと思っていた。ところがだ。
 六月になった。次第に守備位置もファーストになるようになって守備も気にならなくなったがそれ以上にバッティングが。絶妙に当たりだしたのだ。
「な、何や!?」
「これは一体」
 皆打ちだした彼に驚きを隠せない。彼は次々とヒットにホームランを打ちだしたのだ。しかも勝負強い。これには誰もが驚いた。
「嘘やろ」
「また打ったで」
 巨人戦でもそれは同じだった。ここぞという場面で打つのだ。彼は阪神になくてはならない存在になっていた。六月になって別人のようにだ。
「いつも六月までは駄目なんだ」
 それが彼の言葉であった。
「けれど六月になってからはいつもこうなんだ」
 そういうことであった。それ以降彼は打ちまくった。まさに助っ人であった。
「頼りにしてええかな」
「ええんちゃうか?」
 ファン達は今の彼を見て言う。丁度夏場だった。阪神限定の辛い期間である。甲子園を高校野球に貸し出す為にロードになる。人はこれを『地獄のロード』と呼ぶ。ここで阪神はいつも負けるのである。阪神だけにある素晴らしいハンデである。
「しかも夏でも打つし」
「今年はな」
 まだ悲観的なファンはここで今年は、と言った。ここにも問題があった。
 一年目活躍した助っ人は研究されるのが常である。それで翌年からはそれを集中的に突かれて封じられる。それもプロではよくある話だ。極端な例では日本シリーズでそれが行われる。とにかくそれで潰れる助っ人が実に多いのである。
「来年はどうかな」
「来年か」
「あかんかも知れんで」
 彼等はそれを心から心配していた。







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