第三話 合成獣
ギィィィィッ―――
「・・・へっ、『いらっしゃい』だとさ」
「馬鹿な奴だな」
そう言いながらも中へと入っていく三人。
中は、以外に広かった、結構天井が高い、さっきの聖堂に近い造りの部屋だ。
「神聖なる我が教会にようこそ、国家錬金術師殿が、何のご用ですかな?」
教主コーネロの声が上の方から降ってくる。
(・・・『死をも恐れぬ軍団』どうせ人間は、死という恐怖からは逃れられない)
心の中でシンジが呟く。
「教義を受けに来たのかね?」
「ペテンハゲ教主の説法、聞いているヒマはねえんだよ」
ハゲという言葉にコーネロはヒクッと眉を引きつらせる。
「単刀直入に言うぜ。さっさとその石俺達の方によこせよ、このハゲ教主が」
シンジは思いっ切り毒を吐きながら言う。
「それに、それは賢者の石だろ?」
左手に付いている指輪を指さすエド。
コーネロは笑顔を絶やさずにいながらも、冷徹な表情へと変えていった。
「ふ・・・流石は国家錬金術師。すべてお見通しという訳か。ご名答!伝説の中だけの代物とさえ
よばれる幻の術法増幅器…我々錬金術師がこれを使えば僅かな代価で莫大な錬成を行える!」
「・・・・・・・・・・さがしたぜェ!!」
エドの鋭い目が、賢者の石を捕らえる。ただ、シンジの表情は浮かない。
(やっぱり・・・力が減少している、このままだと・・・)
「ふん!なんだそのもの欲しそうな目は!?この石を使って何を望む?金か?栄誉か?」
「あんたこそペテンで教祖におさまって何を望む?金ならその石を使えばいくらでも手に入るだろ。」
「金ではないのだよ。いや、金は欲しいがそれは黙っていても私のフトコロに入ってくる。
信者の寄付という形でな。むしろ私のためなら喜んで命も捨てようともおい柔順な信者こそが
必要だ。すばらしいぞぉ!!死をも恐れぬ最強の軍団だ!!準備は着々と進みつつある。
見ているがいい!あと数年の後に私はこの国を切り取りにかかるぞ!!ははははは!!」
「いや、そんな事はどーでもいい。」
「てめぇの願望なんざ興味ねぇな」
「どうッ!!?」
ぺいっ、と手を横に持っていき、そう言うエドと、興味なさそうに切って捨てるシンジ。
コーネロはショックを受ける。折角ここまで語ったのに、こうも簡単にあしらわれては腹が立つ。
「我が野望を『どーでもいい』の一言で片付けるなぁ!!貴様は軍の人間だろうが!!」
(そんなに叫ぶと血圧上がるぞ、ジジイ)
「いやぁ、ぶっちゃけて言うとさ、国とか軍とか知ったこっちゃーないんだよねオレは。それじゃ、とっとと賢者の石をよこせ、そうすればあんたのペテンは黙っといてやる」
「はっ!!この私に交換条件とは・・・貴様達の様なよそ者の話など信者どもが信じるものか!
奴らはこの私に心酔しておる!忠実な僕だ!貴様達がいくら騒ぎ立てても奴らは耳もかさん!!
そうさ!馬鹿信者どもはこの私に騙されきっておるのだからなぁ!ははははは!!」
そう勝ち誇ったように笑いながら言うコーネロに、エドは軽く拍手を送る。
「いやー、さすが教主様!いい話聴かせてもらったわ。確かに信者はオレ達の言葉にゃ耳も貸さないだろう。けど!」
アルが、バチン、と鎧の留め金を外した。空洞のアルの中に入っていたのは・・・
「ロゼの言葉には、誰もが耳を貸すだろうよ」
ロゼだった。そう、ロゼは今までのコーネロの言葉を全て聞いていたのだ。
「!?ロゼ!?いったい何がどういう・・・・・」
「教主様!!今おっしゃった事は本当ですか!?私達を騙していらっしゃったのですか!?
奇跡の業は、神の力は私の願いを叶えてはくれないのですか!?あの人を甦らせてはくれないのですか!?」
もはや叫び声に近い、ロゼの言葉。そんな言葉に、コーネロは思わず声を詰まらせる。
だがコーネロは、声を絞り出すようにロゼに話し掛ける。
「ふ・・・確かに神の代理人というのは嘘だ・・・だがな、この石があれば今まで数多の錬金術師
が挑み、失敗してきた生体の錬成も・・・お前の恋人を甦らせることも可能かもしれんぞ!!」
「ロゼ、聞いちゃだめだ!」
「ロゼ、いい子だからこちらにおいで。」
「行ったら戻れなくなるぞ!」
「さぁどうした?お前は教団側の人間だ。」
ロゼの心の中で繰り広げられる、葛藤。そして、聞こえてくる悪魔の声。
「お前の願いを叶えられるのは私だけだ、そうだろう?最愛の恋人を思い出せ、さあ!!」
ロゼは3人から離れ、コーネロの方へと歩いて行った。
ロゼの葛藤が、終わった。聞き入れてしまったのだ、悪魔の声を。
「3人ともごめんなさい。それでも私にはこれしか・・・これにすがるしかないのよ。」
「いい子だ・・・本当に・・・さて、では我が教団の将来を脅かす異教徒は速やかに粛清するとしよう。」
凶悪な笑みを浮かべたコーネロは何かのレバーを下げた。
何やら錆び付いたものが開く音がして、何かがバシンと床を叩いた。
「この賢者の石というのはまったく大した代物でな、こういう物も作れるのだよ。合成獣を見るのは初めてかね?ん?」
それは、ライオンとも、爬虫類とも言い難いもの。それはエド達の後ろに現れ、
今にも襲いかかりそうだ。アルがヒュー、と口笛を鳴らす。「悪趣味だな」と呆れて言うシンジ。
「これじゃぁ、丸腰で戦うのはきついな」
そう言って、シンジはポケットから数個の鉄を手に取り、それを両手に包み錬成をする。
鉄が、連鎖するようにくっつき、長くなる。
錬成し終わった後には、一本の刀がシンジの手にあった。
「む、貴様も錬金術師か!!なら、まず貴様から消してくれるわ!!」
合成獣がシンジに襲いかかる。だが、
「消えるのは、貴様の合成獣だ」
シンジは合成獣の腹の下に潜り込んでいて、刀を構えていた。
そして、
「一刀・・・・・・両断!!」
ヒュン、ザバンッ!!ブシャァァァァ!!ベチョッ!!ベチョッ!!
「うっ!」
合成獣を腹から両断し、そこから、血が勢い良く吹き出し床に転がる合成獣の死体。
ロゼは、それを見て口を押さえる。(しばらく、肉系は駄目ですね)
「なっ、あの合成獣を、いとも簡単に!」
「所詮、貴様は三流としか言いようがねぇよ」
そう言った後に、シンジは刀を振って血を拭う。
そして、綺麗になった刀を三流教主に向ける。
「降りて来いよ、テメェなんざ、一分以内に片付けてやるぜ」
と、挑発をするシンジ。
「くっ・・・・・・ならば、私が直接、神の元へ送り届けてやろう!!」
そう言ってコーネロは石の力を使い、杖から銃を錬成した。
その銃をエド達へ向け、引き金を引く。凄まじく発砲音が響く。
辺りからは砂埃があがり、エド達の姿は見えない。
「ははははははははは、・・・!?」
「いやぁ、俺達って神様に嫌われてるだろうからさ、行っても追い返されると思うぜ!!」
エドとシンジの前には、床から錬成された壁。もちろん弾はエドとシンジには当たらず。
今度はアルとロゼの方へ発砲する。
アルはロゼを抱き抱え、コーネロに背を向けて走る。弾は虚しくも跳弾する。
「きゃーーーっ!!!」
「あだだだだ」
「アル、いったん出るぞ!」
「バカめ!!出口はこっちで操作せねば開かぬようになっておる!!」
「はんっ!!錬金術師にはそんな常識、通用しない!!」
シンジはそう言って、両手をパンと合わせ壁に手を当てる。目映い錬成反応が起き、壁に大きな扉が現れた。そして突き破るように勢いよく開ける。
「んなあーーーっ!!??」
「出口がなけりゃぁ、作るのがモットー!!」
そう言って、ピューーーーンッと逃げる。
そうこうしている間にも、警備の男達は追ってくる。そして、エド達の行く手を阻む。
「止まれ、そこの者!」
「ほら、ボウズ。丸腰でこの人数相手にする気かい?ケガしないうちにおとなしく捕まり・・・」
「そっちこそ、怪我したくないのなら、とっとと、そこをどけ!」
シンジが制止の声を聞かずに瞬時に男達の懐に潜り込み、峰打ちを当て、気絶させる。
その横では、エドが機械鎧を大きな刃物に錬成して、凶悪な笑みで男達をなぎ倒す。
アルも「はい邪魔ー」と言って男を蹴り倒す。
「お?この部屋は・・・。」
「放送室よ。教主様がラジオで教義をする・・・。」
「ほほーーう。」
(あ、なんかいやらしい事考えてる・・・)
「小僧共ォォーーーーっ!!もう逃がさんぞ〜〜〜!!」
エドとシンジのいる放送室まで、やっと辿り着いたコーネロ。
かなり探し回ったのか、ゼェゼェと肩で息をしている。
「もう諦めたら?あんたの嘘もどうせ、すぐ街中に広がるぜ?」
「それより、そんなに走って、その後に叫ぶとかなり血圧上がるぞ、もう、あんたは年なんだからよ」
「余計なお世話じゃあ!!フン、教会内は私の直属の部下だし、バカ信者どもの情報操作などわけもないわ!」
「やれやれ、あんたを信じてる人達もかわいそうな事だ。」
「信者どもなぞ戦のための駒だ!ただの駒に同情など不要!!それになぁ、神のために信じ幸福のうちに死ねるなら奴らも本望だろうよ!錬金術と奇跡の業の区別もつかん信者を量産して駒はいくらでも補給可能!これしきの事で我が野望を阻止できるとでも思ったか!!」
そう言って高らかに笑うコーネロ。しかし、シンジとエドはニヤリと笑う。
「くっ・・・ぶははははは!!」
膝を叩きながら大声で笑うエド。右手で顔を覆い、クックックと笑うシンジ。
一方、コーネロは何が何だか分からないと言った様子だ。
「だぁーから、あんたは三流だっつーんだよ。このハゲ!」
「小僧!!まだ言うか!!」
「これ」「なーんだ♪」
エドが見せたのは、ONになっておるマイクのスイッチ。コーネロの足元にはマイクがある。
つまり、今までの会話は街中に流れていたのだ。ラジオをつけている人はもちろん、
アルが教会の鐘を使ってスピーカーを錬成したので、外にいた人にもバッチリ聞こえていた。
「ま、まさか・・・貴様らぁーーーッ!!!いつからだ!!そのスイッチ、いつから・・・」
「「最初からvもー全部、だだもれvv」」
「なっなっなっ・・・なんて事を〜〜〜っっ・・・このガキ共・・・ぶち殺」
「遅ェよ!!」
先程と同じく、銃を錬成し発砲しようとするコーネロに、そんな暇を与えないエド。
エドの鋼の甲剣が、コーネロの錬成した銃を真っ二つにする。
「あんたとは格が違うんだよ。」
「私は・・・私は諦めんぞ・・・・・・この石がある限り、何度でも奇跡の業で・・・」
「ちっ・・・」
またもや錬成しようとするコーネロに、エドは斬りかかろうとする。
が、ばちぃ、と言う音と共にコーネロの手から血が噴き出す。コーネロの手は、
機械と肉が混ざり合った、もはや人間の手とは言えないものとなっていた。
「・・・っぎゃあああああ!!!う・・・腕っ・・・私の腕が!!」
「な・・・なんで・・・いったい・・・。」
「・・・・・やっぱりな」
コーネロの腕を見て、確信したシンジ。
「や、やっぱりって?」
「・・・あの石は、未完成品なんだ。だからリバウンドが起こった、とんだ粗悪品を掴まされたな、そして、力のなくなった石は、砂になる」
シンジの言う通り、石はひびが入り砂になった。
「そ、そんな」
エドは魂が抜けたように落ち込む。
シンジは、コーネロに近付いて、
「ギャーギャー五月蝿いんだよ、ちったぁ黙ってろ!!」
バキッ!!
拳を握り締め、強烈な右ストレートをコーネロに叩き込む。
その一撃で、気絶するコーネロ。
「ハンパ物?」
「ああ、とんだムダ足だ。やっとお前の身体を元に戻せるかと思ったのにな・・・。」
「ボクより兄さんの方が先だろ。機械鎧は色々大変なんだからさぁ。」
「しょうがない。また次さがすか・・・。」
あーあ、とため息をつき、エドとアルは立ち上がる。
が、横から、ロゼの弱々しい声が聞こえてくる。エド達は一旦止まる。
「そんな・・・嘘よ・・・。だって・・・生き返るって言ったもの・・・。」
「諦めな、ロゼ。元から___」
「何て事してくれたのよ・・・これからあたしは!何に縋って生きていけばいいのよ!教えてよ!ねぇ!!」
そう言って、泣きながらエド達を責め立てるロゼ。
そんなロゼにエドが口を開き、冷たく言い放つ。
「そんな事自分で考えろ。立って歩け、前へ進め。あんたには立派な足がついてるじゃないか。」
そう言ってロゼの横を通り過ぎ、シンジ、アルと共に歩き出した。
ロゼは、エドの言った言葉を思い返しながら、空を見上げていた。
「『立って歩け、前へ進め』か、エドが他人に言うセリフじゃないな」
「・・・」
妙に静かな街の通り道で、シンジが先程の言葉を言って、皮肉を言い立ち止まる。
その言葉に、エドは顔を俯かせる。
アルは顔を背ける。
「・・・決めたからには、必ず最後まで突き通せ。俺はお前達二人を責めるような事はしない、行くぞ」
そう言って、再び歩き出す。
エドもアルもシンジのあとに続く。
汽車に乗り次の街へと向かう。
三人の旅。 |