『CROWN plus』(26/27)縦書き表示RDF


『CROWN plus』
作:是音



LAST TURN 『CROWN』


『オ、オレがもう一人!?』

 ザックの目の前にはザック。未来のザックは笑っているようだが、現代のザックは状況が理解できていない。
 先に答えを出したのは時間に縛られない神であった。オラクルは二つの風穴を修復しながら語る。

『異なった時間に存在する同位体か。どういったプロセスで時空間を移動したかは知らぬが、実際に存在しているのは事実。未来の貴様がこの時間帯のこの場所へ来られる確率は……フン、貴様等に言っても無駄か。我が、今貴様等に合わせて人間の言語を使っているように、貴様等の使う数字で確率を述べれば、それは貴様等の言う天文単位というものになる。ただしそれは決して偶然ではない。宇宙の事象は全て必然………』

 過去のザックも未来のザックもおとなしく聞いていた。

『ま、ようするにオレは過去のお前に会うことを決定づけられていたわけだ』

 とザック(未来)。

『あ、そうだ。あとシドが作戦を起動させたぞ』

『そうか』

 ザック(未)の言葉にザック(現)が頷く。そしてシド達の様子を見た。

 神歌隊は能力者を回収し、一点に固まっている。それは作戦通りだった。

 ザック(現)は未来から来た自分に作戦の行く末を尋ねた。が、返ってきた返事は

『未来がわかっちまったら、これ程つまんねぇことはねぇぞ』

 というものだった。無論ザック(現)も未来の自分がそういった返答をするのを承知していたが。

 神歌隊の真上に巨大なワープゲートが開く。
 中から現れたのはARIS 2であった。ワープゲートから船体の先端部分だけを出している。

《シド様!ご無事で!?》

《大丈夫だよ、ご苦労》

ARISから通信を受けたシドが返事する。

《ARISと他の皆はCROWNへ!僕はザックと一緒に後から戻る!ARISは戻ったらすぐに今度はCROWNと現実世界を繋ぐゲートを開いておいて!いいかい、タイミングが命だよ!》

《了解!》

 能力者を抱えた神歌隊はシド以外惑星スパムを離脱した。
 シドも高速で二人のザックの元へ飛んだ。

《ザック!作戦開始だよ!!》

 二人のザックは宙に浮くオラクルの丸い身体に四本の腕を添え、全力で押した。

『ぎぎ……!』

『ぬぁぁぁぁぁ!』

 二人の突然の行動に驚いたオラクルは瞳からゼロ距離でレーザーを撃とうとしたが、シドの外部からの攻撃によりエネルギー収束を止められた。

『人間……一体何を!?』

 オラクルは装甲の下の瞳を回転させ、背後を見る。そこには特大のワープゲートがオラクルを飲み込むように口を開いていた。

『おらぁぁぁぁぁ!!』
『あぁぁぁぁぁぁ!!』

 二人のザックの怪力により、オラクルはワープゲートの中に押し込まれた。

―――――――

『ここは確か……人間の作り上げた世界』

 創世神を始め、二人の悪魔と瞬神・韋駄天はCROWNの海の上で飛んでいた。
 他には誰も居ない。

 シドの発案した作戦はこうである。

――――

・ザックが本体を引き付けている間に各エネルギー供給源を破壊。

・その結果オラクルは不死身ではなくなり、ワープゲートを発生させたり、万物を創造する力が無くなる。

・ARISにCROWNから特大のワープゲートを作らせる。

・ザック以外の全員がCROWNへ移動。さらに現実世界へのゲートを作っておき、現実世界へ退避。

・その時点でCROWNには誰も居ないことになる。

・ザックがオラクルをCROWNへ押し込む。(これが最も困難かと思われたが、未来から来たザックの助けにより何とか成功)

 これが今までの作戦である。この後は

・ザックがそのまま現実世界へ退避し、ギリギリのタイミングで全てのワープゲートを塞ぐ。

・つまりオラクルはCROWNに閉じ込められることになる。

・あとは本社からCROWNを形成するワープゲートとは逆位相の波長を持ったワープゲートを注入し、CROWNごとオラクルを消し去るのである。

――――

 シドはARISが残した筈の現実世界へのゲートを探した。
 それはシド達の上空にあり、オラクルはまだそれに気付いていない。

《ザック!急いで!》

 シドと二人のザックは急いでワープゲートへ向け上昇したが、ここにきてオラクルに阻まれた。

『なるほど。我をこの世界ごと消し去る。か』


 シドは唇を噛んだ。

《ちぃ!ここにきて!》

 オラクルが逆に現実世界へ行ってしまえばそれこそGAME OVERである。
 思考を巡らすシドの機体に通信が入った。ARIS 2からだ。

《シド!これは些細なプレゼントだ。受け取れ!》

 アザブルの声である。

 すると上空のワープゲートから飛来する三つの影があった。
 ザック(現)は思い出したかのようにはっとする。

『……あぁ!そういえば処分に困ってたなぁそれ!』

 空から飛来してきたのは三体の《END OF WORLD》だった。
M・A社の原型となったマテリアル・イリュージョン社の重役達が極秘裏にクローン化していたのである。前異世界大戦の後、地下で冷凍保存されたこの三体を発見したザック達は処分に困っていたのだ。

《シド、聞こえるか?そいつらの脳波を全てお前の機体に繋げておいた。つまりお前の管理下にある。好きに使え!ただし!暴走を恐れて実験をしなかったから安全は保障できないぞ》

《了解》

《シド……》

 アザブルの声が曇る。

《お前まで行ってしまわないでくれ……。頼む》

《アザブル……》

 アザブルもシドと同じくらいオズマを失ったショックが大きかったのだ。

《行くわけないじゃん!あったりまえだろ!僕は馬鹿オズマとは違うもんね!》

 フッ、とスピーカーからアザブルの笑った吐息が聞こえてきた。

《では、本社で会おう。友よ!》

《了解!!》

 通信が切れる。

 三体の邪神がシドの機体の後ろに綺麗に並んだ。

「君達、しっかり働いてくれよ」

 シドは呟きながらパソコンのキーボードを叩いた。


『どきやがれオラクル!』

 二人のザックは背中の球体をオラクルにぶつけた。

 さらに二人の背後から漆黒の援護射撃が放たれる。二人が振り向くと邪神が三体揃って片腕を前に出していた。

『ハッハハハ!こいつぁいい!!』

 シドはキーボードを叩き続ける。

《まずは〈eternal 8〉!》

 三体の邪神はそれぞれ八つの黒い球体を出した。

《よし、〈death punish〉撃てぇ!!》

 それぞれ八つの球体は集合し、巨大な黒いビームが三本オラクルに放たれた。〈death punish{死罰}〉はそれ一本で神歌のレーザー五本分の威力がある。

 そして攻撃はあくまでオラクルをワープゲートから離れさせる為である。
 三体の邪神は見事にその役割を果たしていた。もしエンドオブワールドが大量生産され、さらに統制が取れていたのなら前異世界大戦の終末もどうなっていたかわからなかっただろう。

 海上の激戦はだんだんとオラクルをゲートから引き離していた。

 オラクルはその巨体が故に回避ができず、最上級の攻撃を全て受け入れていた。それでも尚人類を滅ぼす使命をまっとうすべく反撃し、もはや回復する能力はないのに攻撃に耐え続けるその姿は鬼気迫るものがあり、ザック達に戦慄を感じさせた。

『だが負けるわけにはいかねぇよ!!』

 三体の邪神はオラクルを押さえ込んだ。

《今だよ二人共!ワープゲートへ!》

 シドを先頭に二人のザックはワープゲートへ飛び込んだ。

――――

 M・A社地下ARIS格納庫。

「ちょっと!ザックは帰ってくるんでしょうね!?」

 ユノが兵士に突っかかっている。

「おいおいユノ、いくらザックが心配だからって兵士に当たるなよ」

「う、うるさいわよサイ!」

 今度は元の人型に戻ったサイに突っかかっている。

 先に現実世界へ戻った全員はワープゲートの前に立ち、なかなか出てこないザックとシドを心配していた。
それでも武器を構え続けているのは最悪の事態に備えるためである。

 アザブルとランスは本社の管理室へ行き、ワープゲートを塞ぐと同時にCROWNを消滅させられる準備ができていた。

 と、その時

「見ろ!出てきたぞ」

 最初にゲートから飛び出したのは瞬神・韋駄天。シドである。モニターでシドの無事を確認したアザブルは安堵した。

 続いてザック(未来)、その後にザック(現代)の巨大な姿が現れた。

 タイミングを見計らってレイモンドがARISに向かって叫ぶ。

「よし!ワープゲートを閉じろ!」

 それに合わせてアザブルがCROWN消滅コードを起動させた。

だが

『待てレイモンド!』

 ザック(現代)が叫ぶ。皆が見ると、悪魔ザックの両足に触手が巻き付いているではないか。

『我は創世神オラクル!神の誇りにかけて貴様等人間を滅す!!!』

 凄まじい執念である。恐ろしい程の力で引き戻されるザック(現代)の腕をザック(未来)とシドの機体が掴んで踏張った。

 慌ててレイモンドがワープゲートの閉鎖及びCROWN消滅コードの中止を叫ぶ。



 ワープゲートの閉鎖は中止できたが、CROWN消滅コードに至っては手遅れである。

 ワープゲートの中は様々な亜空間が生まれ始め、その一つに触れたオラクルの触手が千切れた。

『……人類が勝ったか。我は……創世……神』

 圧縮空間と思われる亜空間に最後まで神の誇りを捨てなかった創世神オラクルは消えていった。

『ぎ……しまった!』

 ザック(現代)もまた、その中の一つに下半身を吸い込まれていた。

 ザック(未来)は過去の自分の腕を引っ張りながらなにかを思い出すような顔をした。そして隣で同じく腕を引っ張るシドに話し掛ける。

『おいシド……』

《な、なんだよこんな時にぃ!》

『こいつぁ時空間だ』

 シドが目を見開く。

《何でそんなことがわかるんだよ!》

『いや、何でって……』

 少し間が空く。

『オレがこの中から過去へ飛んだから』

 ザック(現代)が必死になって脚を引きぬこうとしている中、ザック(未来)とシドの機体は顔を見合わせていた。

『つまり……』

 ザック(未来)が口を開く前にシドが叫んだ。

《ザック!ザック!未来じゃない、現代のザックだよ!!》

 必死にもがくザック(現代)が顔を上げる。

『な、なんだ……よ』

《今から僕が言うことをよく聞くんだ!いいね!?》

『な、なにも今じゃなくても……』

《いいから!!》

『わ、わかったわかった』

 シドはザックに過去へ飛ぶ旨を伝えた。過去へ飛んだらオラクル右腕に苦戦している自分達への打開策等を。
 ザック(現代)はもがきながらもシドの話を聞いていた。

『じゃあなにか?オレはこれから過去へ飛んで過去のオレを……』

 ザック(現代)ははっとする。そしてザック(未来)の顔を見る。ディアボロス化した顔は表情を読み取りづらいが、笑顔でいるように見えた。

『そういうことだ過去のオレ。最後の仕事、頼んだぜ』

『フッ、わかったよ。最初から作戦が成功することを知っていれば気が楽だ』

 少し間があり、シドとザック(未来)は手を離した。
 ザック(現代)は時空間の中に消えていった。ザック(未来)となる為に。

そしてワープゲートは閉じられ、CROWNは存在しなくなったのだった。


―――――


 その後のザックとシドは大変だった。
他の面々が二人がザック(現代)を見放したと思い込み、非難の嵐を浴びながら説明しなければいけなかったからである。


 全ての事情を理解した全員は改めて平和が戻ったことを実感したのだった。


―――――

一ヵ月後

M・A社 社長室

CROWNの代わりとなる新都市の開発を進めるM・A社。
 社長室のソファにはファムが座り、デスクにはザックが座っている。

「ふぅ、兄さん。この会社ってこんなに忙しいの?」

「ハハハッ、お前が皆と一緒に居たいって言ったからだろ」

 ファムはトランプをひらひらさせている。

「こんなトランプが人類を救ったなんてねぇ」

「まだ油断はできないぞ。オラクル以外の神に狙われる可能性だって十分ある」

 ファムは考え込むような顔をする

「……ねぇ兄さん、オラクルが執念深かったのは神としての誇りもあったけど、本当は地球が大好きだったからなんじゃないかしら?」

「そうだなぁ。究極的に考えたら今の人類は害虫なのかもしれないな」

「そうならないように私達が努力しないとね」

「あぁ。神を相手にするのはもうこりごりだ」

 その時部屋のブザーが鳴り、設置されたモニターにジンとアンカーが映る。

《ザック、また他社の送り込んだ部隊が侵入したぞ》
《つーかレイモンドとユノ、ライアが先に行ってるが、問題はサイだ》

「……また邪混沌がキレたのか?」

《ご名答!》

 ザックは席を立った。

「行くぞファム」

「了解」

 部屋を出る直前にザックはデスクの上にある二つの写真立てに目を向けた。

 一枚はCROWNで一緒に撮ったアウスとメーヴェ。満面の笑みのザックとメーヴェに対してアウスは照れ臭そうに微笑んでいる。

 ザックは後にスティングからスパムで二人に会ったことを聞くことになる。

 そしてもう一枚は本社でオズマと写った写真である。
シドとザックの肩に手を回し、悪そうに笑うオズマ。それを呆れ顔で見るアザブル。

 ザックは二つの写真に笑顔を向けると、仮面を付けた。


「行ってくるぜ、親友」












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP | NEXT


小説家になろう