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闇の十字星

闇の襲撃者

作者:小倉蛇
 刑事の捜査活動は二人一組での行動が原則だが、場合によっては一人で動かねばならないこともある。
 例えば、情報屋に会うことなどがその一つだ。
 犯罪に関する情報を警察に提供している、所謂“情報屋”は、その存在を犯罪者たちに知られれば命が危うい。そのため、警察の人間と接触する際も細心の注意をはらい、信頼のおける特定の刑事としか取り引きをしないのが常だった。
 神奈川県警逢空署捜査一課の刑事矢島はコンビニ強盗事件の捜査中だったが、一人定食屋で早めの夕食を摂っていた。
 彼は、情報屋に会いに行った相棒の宮坂が戻るのを待っているのだった。
 食事を終えると、テーブルに置かれていたスポーツ新聞をめくりだした。後ろの方に〈主婦が目撃/ゴミ集積所にミ=ゴ出現!〉という記事を見つけて読み始めた。ミ=ゴというのは最近、世界中で目撃されている未確認生物のことだった。記事には人間の脳にコウモリの翼が生えた生物がゴミ集積所のビニール袋を食い荒らしている様子がイラストで再現されていた。目撃者の主婦はスマホで撮影したのだが、その生物の姿は写っていなかったという。ミ=ゴは至近距離からではどんなカメラで撮影しても、なぜかその姿は写らないと言われていた。そのため未だに鮮明な姿を捉えた信頼のおける映像は存在しないのだった。
 記事を読み終えて時計を見た。午後五時四十五分。宮坂と別れて一時間以上が経っていた。情報屋から話を聞くにしては長すぎる気がした。ふつう情報屋は長話を好まない。
 連絡を入れてみるべきか、と思案していると携帯が鳴りだした。
 相手は課長だった。
「矢島、お前今どこにいるんだ?」
「いや、ちょっと近くで食事を……」
「すぐに第六埠頭に行け」
「えっ、あの、何か?」
「行けばわかる」
「あ、はい」
 矢島は課長の話し方で、何か悪いことが起きたなと直感した。


 第六埠頭に近づくと、一課捜査官の衛藤が電話をかけてきた。場所の詳細を告げられたが、何があったのか聞く前に切られてしまった。
 現場は波止場に近い倉庫の裏で、警告テープが張られ、鑑識のカメラのフラッシュが何度も瞬いていた。
 一課の捜査官たちは皆、所在無げに暗い顔をして立ち尽くしていた。
 矢島は衛藤に近づいて尋ねた。「何があった?」
 衛藤は黙ったまま、目を救急車へ向け、軽く顎を動かした。
 赤い回転灯を廻した救急車の開いた後部ハッチへ、死体袋が積み込まれるところだった。矢島は駆け寄って救急隊員を止めると、ファスナーを開けた。
「宮坂!」
 袋の中の死体は矢島の相棒だった。
 ただの死体ではなく、頭部が、髪の毛の生え際のあたりで鮮やかに切断されていて、脳が無くなっていた。
 矢島は衛藤に詰め寄った。
「どういうことだ!? 何があったんだ?」
「さっき死体が見つかったばかりだ。まだ何もわかっちゃいない」
「落ち着け、矢島」
 刑事たちが矢島を宥めた。


 署に戻ると、捜査会議だった。
 まず、死体発見に至る経緯が報告された。
 午後五時二十分ごろ、倉庫周辺の清掃を行っていた作業員により宮坂は発見された。積み上げられた古いドラム缶の影に死体は横たえられていた。周囲に血痕などは見られないため、他の場所で殺害され頭部を切断された上で、この場所に運ばれたものと考えられた。
 切断部はあまりにもきれいで、通常考えられる方法では人の頭部をこのように切り取るのは不可能と思われた。
 未だ死因は明らかになっていない。抵抗した様子は見られず、死顔も安らかなもので、まず何らかの方法で眠らせた上で頭部を切断し、脳を抜き取ったことで結果的に死亡したものと推測された。
 倉庫の作業員たちは誰も不審な人物や車を目撃してはいなかった。
 一通りの報告が終わると、宮坂とコンビを組んでいた矢島が説明を求められた。
 課長が矢島に質した。
「なぜ宮坂は別行動を取っていた?」
「情報屋に会いに行っていたんです。相手が一人で来ることを要求していて」
「その情報屋の名は?」
「聞いてません」
「何か手掛かりはないのか?」
「さあ」
「で、その情報というのは?」
「それも聞いてません。ただ、何かよほど重要な用件だったらしく、すぐ会いたいと言ってきたようです」
「宮坂と別れた時間は?」
「たしか、十六時四十分か、四十五分か、そのぐらいです」
「お前たちは小銭町で聞き込みの途中だったんだな?」
「そうです」
「おい、待て」刑事の一人が言った。「死体発見が十七時二十分だぞ。小銭町から第六埠頭まで車で飛ばして二十分はかかる。残りは多く見ても二十分。その間に宮坂を眠らせてあの手術をやったというのか」
「宮坂の携帯電話の着信記録は十六時三十八分が最後だ。その点で矢島の証言に矛盾はない」
 と別の刑事が発言した。
「だいたい脳を盗んでいくっていうのはどういうことなんだ!?」
「まさか移植できるわけもないしな」
「こりゃ個人でできる犯罪じゃないぞ」
「狂信的な組織が絡んでいるのか……」
 口々に意見を述べ始めた刑事たちを課長が静めた。そして当面は現場周辺の聞き込みと防犯カメラのチェックを重点的に行う方針が告げられ、分担が決められた。
 矢島は捜査から外された。コンビニ強盗の捜査で連日深夜まで勤務していた彼には休養が必要と判断されたためだった。


 翌日、小雨の中、矢島は署長の代理の者とともに宮坂の葬式に出席した。
 宮坂に子供はなく家族は夫人だけ、弔問客も少なく寂しい葬式だった。
 死体はまだ解剖からもどっておらず棺もないまま葬儀は行われていた。
 矢島は未亡人が一人になった隙を見て話しかけた。
「プルートウという言葉に心当たりは?」
 だが、夫人は黙って首を振っただけだった。
 宮坂が妻に仕事に関する情報を伝えているとは思わなかったが、念のため確認しておく必要があった。
 あの時、情報屋からの電話に出た宮坂が、「プルートウか」と呼びかけるのを矢島は耳にしていたのだ。
 情報屋の身に危険がおよぶ可能性がある以上、捜査会議でもその名を出すわけにはいかなかった。一課のメンバーを信頼していないわけではないが、知る者の数が増えれば、それだけ情報漏洩の危険が高まることも否めなかった。
 プルートウが宮坂を殺したということがあるだろうか。情報屋が刑事を殺す、それもあり得ない話ではないが、よりありそうなのはプルートウが持っていた情報を警察に知られては困るものの犯行だろう。だとしてもなぜ、あのような方法で殺害しなければならなかったのか。頭部を切断して脳を抜き取る、そのために要する時間を考えると、宮坂は情報屋と接触する前に殺された可能性が高い。
 プルートウ……、それはローマ神話の冥府の神、ミッキーマウスの飼い犬、鉄腕アトムの最強の敵、そして冥王星を意味した。
 矢島が自宅に帰り着くと同時に携帯電話が唸りだした。
「あんたが矢島さんか?」
 相手はかすれた囁き声で言った。
「誰だ?」
「おれのことはプルートウと呼んでくれ」
「宮坂の情報屋か?」
「そう……、宮坂さんのことは残念だった。もしもの時は、あんたに連絡するように言われてたんでね」
「待て、今どこにいる?」
「悪いが、会って話す暇はない」
「どういうことだ?」
「いろいろと危険な奴らが……いや、とにかく、宮坂さんに伝えるはずだったネタを教える」
「何だ?」
「最近、屋根にでかいアンテナをつけたフォルクスワーゲンが市内を走り回ってる。そいつを探すんだ」
「フォルクスワーゲン!? それがどうした?」
「おれに言えるのはそれだけだ。じゃあな。おれはもうこの町を離れる。あんたと会うことはないだろう」
「おい、待て! プルートウ!」
 情報屋は電話を切った。


 次の日、相棒を失った矢島は書類仕事を命じられた。午前中は従順に仕事に勤しんだ。だが、昼過ぎに課長が外出すると、交通課の警官に、大きなアンテナをつけたフォルクスワーゲンを見たことはないかと尋ねて回った。見たという者はいなかったが、そのかわり、改造した外車にやたらと詳しいと言う中古車屋のオーナーを教えられた。
 矢島は自分のスバル・アルシオーネでその店に向かった。
 中古車屋は《ホーネット》という名で、国道沿いの大きな駐車スペースにキャデラックやリンカーンなど、車幅の広いコテコテのアメ車を並べていた。ガレージで車の整備中だったオーナーは、白いつなぎを着て、オイルまみれの両手をぼろきれで拭いながら出てきた。よく日に焼けた長身の男だった。
 矢島が名を告げると「高原です。何でも聞いてください」と白い歯を見せた。
「じつは、屋根に大きなアンテナをつけたフォルクスワーゲンというのを探しているんですが」
「フォルクスワーゲンねえ……」高原は首をひねって考えてから何かを思いついた。「ああ、ああ、それタイプ2かな?」
「タイプ2?」
「ほらあの、ビートルっていう丸っこいの、あれがタイプ1なのね。で、タイプ2っていうのはバンで、デリバリーバンとか、ワーゲンバスとか呼ばれてますけど」
「ああ、そういうのもありますね。とりあえずフォルクスワーゲンだったら何でも」
「バンのやつだったら何度か見たな。確かに屋根にでかいアンテナみたいなのを付けてましたよ。ボディはアイボリーっぽいグレーで、中にいろいろ機械を積んでたみたいだったな」
「持ち主はわかりますか?」
「うん、噂だから確かじゃないけど、すご腕のハッカーだとかで、名前が……そうだ、サダコっていってたな」
「サダコ!? 女なんですか?」
「いや、男……だと思うけど……ほら、ハンドルネームってやつでしょ」
「どこで会えるか、わかりませんか?」
「ううん、ああ、鰤ヶ崎の海岸通りに鉄道の車両を改造したレストランがあるんだけど、夕方そこの駐車場に止まってるのを何度か見たな」
「そうですか。どうも」
 矢島は礼を言って店を後にした。


 アルシオーネで海岸通りを走っていると、それらしいレストランを見つけた。
 流線型の客車が夕日を浴びてオレンジ色に輝いていた。
 矢島は近くの路上に車を止めて様子を窺った。駐車場にドイツ車の姿はなかった。
 午後五時すぎ、携帯電話が着信した。相手は課長だった。
「お前、どこをほっつき歩いてるんだ?」
「あ、報告書を仕上げるのに二、三確認が必要な点がありまして」
「いいから、すぐ戻ってこい。お前に聞きたいことがある!」
「いや、しかし……」
 電話は切れた。その時、レストランの駐車場に小型のバンが入っていくのが見えた。アイボリーがかったグレーの車体で、屋根に三叉のアンテナを付けたフォルクスワーゲンだった。
 ワーゲンのドアが開くと男が降り立った。フードにファーのついたハーフコートを着て、首にゴーグルを下げていた。袖口にのぞいた手首はガリガリに痩せていた。痩せた男は店に入っていった。カウンター席についてオーダーをしているのが窓から見えた。
 矢島は、男が食事を始めるのを待って車を降りた。店から死角になる方向からワーゲンに近づいた。
 後部の窓から覗くと、内部には奇妙な機械が詰まっていた。サダコはすご腕のハッカーと言っていたが、天井に突き抜けたアンテナと無数のコードで繋がれたその機械は、パソコンとも無線機とも違うようだった。丸いスクリーンのあるコンソールはレーダーか、何かの測定器を思わせた。矢島はこれと似たものを目にしていたことを思い出した。
 それは一か月ほど前、陣野晴嵐という天文学者が死んだ時のことだ。天体観測用のドームに設置されていた機械。これはそれを小型化したもののようだった。三叉のアンテナの形も同じだ。陣野晴嵐は、エーテル波によってミ=ゴを捕える実験を行うと言って、その後死体で発見された。記録上は火災による焼死ということになっていたが、実際は宇宙生物に殺された可能性があることを矢島は知っていた。その同じ機械が今目の前にあった。
 矢島は自分の車に戻り、男が食事を終えるのを待った。しばらくするとまた携帯電話が唸りだした。発信者の番号で課長からと知れたので、電源を切って放置した。
 男が店を出てきた。ワーゲンに乗り込むと、駐車場を出て海岸通りを北上した。矢島は追跡を開始した。
 日はすっかり暮れていた。満月が普段より大きく見え、不気味に赤く光っていた。アルシオーネは格納式のヘッドライトを展開し前方を照らした。
 フォルクスワーゲンはやがて山道へ入っていった。周囲には民家も少なくなってきた。距離を置かないと尾行に気づかれそうだった。テールランプが見えなくなるまで減速した。一本道なので見失う心配はない。こんな時間にわざわざ山の中へ入っていくのは、この先に目的地があるのだろう。
 前方の闇の奥に大きな建築物が見えた。無数の曲がりくねった配管が壁を這っていた。矢島は車を止めて徒歩で接近した。どうやら廃工場のようだ。敷地の中にワーゲンが止められていた。建物の一角から灯りが漏れていた。忍び足で近づいて、汚れた窓からそっと中を見た。
 黒いTシャツを着た、腕の細い男の背中が見えた。吊るされたLEDランタンが照明だった。痩せた男は、廃材に板を載せた即席の机に向かって、椅子代わりのビールケースに座っていて、ノートパソコンを操作していた。画面に何が表示されているのかは身体に遮られて見えなかった。
 建物の中は倉庫のような空っぽの空間で、行き場のない配管が天井から垂れ下がっていた。他に人の気配はなかった。床の上にサイフォン式のコーヒーメーカーが置かれ、アルコールランプで炙られていた。
 男がコーヒーを淹れに立った。そのおかげでパソコンのモニターが矢島の視界に入った。目を凝らしてみると、そこに表示されているのは血まみれの死体の画像だった。
 頭部を切断され脳が無くなっていた。宮坂と同じ殺され方だが、服装などからして別の人間の画像だった。
 マグカップを手にした男が振り返ったので、矢島は素早く身を隠した。
 あの画像、宮坂殺害と同じ手法の事件が他にも起きているということか。これは話を聞かねばなるまい。矢島はドアのところへ行って押し開けた。ギーッと音が響く。
「誰だ!?」
 男が言った。
「邪魔するぜ」
「誰だ?」
 男が繰り返した。
「警察の者でね」
「警察……」
「逢空署捜査一課の矢島だ」
「あの、宮坂って刑事の相棒だな」
「ほう、おれを知ってるわけか」
「あんたに会いたかったんだ。あんたなら、おれの話を信じてくれるはずだからな」
「話ね。ふん、聞かせてもらおうか。サダコさんよお。サダコさんっていうんだろ?」
「あ、ああ、そう呼んでくれ。ハンドルネームだが」
「で、話っていうのは?」
「うん、ええと、何から話せばいいのか……」
「じゃあ、まず、この画像について説明してもらおうか」
 矢島はノートパソコンの画面を叩いた。
「これは先月千葉県で発見された死体。マスコミは報じないけど、警察の人なら知ってるでしょう」
「そんな話聞いてないぞ」
「ふうん、やっぱり下の方には知らせないのか」
「お前はどうして知ってるんだよ!?」
「ネットには真実があるんですよ。少しづつだけど情報は流れてる。探し方のコツがわかれば見つけられるんだ」
 サダコがタッチパッドを撫でるといくつもの死体の画像が表示された。
「他にもこんな死体があるのか?」
「ええ、一年ぐらい前から、富士の樹海とか、青森の恐山とか。最初は山ん中で見つかってたんだ。最近になって大阪とか千葉とか都市部にも現れるようになって、今度が逢空だ」
「これだけ事件があって、隠蔽されてるのか……」
「ネットじゃそれなりに話題になってますけどね。ただ、ミ=ゴがらみだとどうしてもネタと思われがちで」
「ん、ミ=ゴって言ったか?」
「そうですよ、ミ=ゴがやってるんですよ」
「この、脳を奪っていく殺人をか?」
「そうです。ラヴクラフトの小説に書いてある通りにね。特殊な金属円筒の容器に入れて保管してる。情報収集が目的なんだろうけど」
「情報収集……、宇宙生物が?」
「ええ、侵略する気なのか何なのか、そこまでは知りませんけどね」
「待てよ。おれが見た死体は胸を引き裂かれていたが……?」
 矢島は陣野晴嵐の死にざまを思い出して言った。
「それはたぶん、かれらと敵対している者を殺す場合でしょう。脳を奪っていくのは殺すのが目的じゃないですからね。脳自体はまだ生きてる可能性が高いわけで」
「まだ、生きてる……だと……」
「ところでその、胸を裂かれて死んだのって、陣野晴嵐のことですか?」
「ああ、知ってるのか?」
「もちろん、ぼくあの先生、尊敬してるんすから」サダコは足元に置いていたカバンの中を手で探りながら言った。「ほら」と取り出して見せたのは『エーテル波による深宇宙探査』と題された陣野晴嵐の著作だった。ページの間に何枚もの付箋が挟み込まれていた。
「ずいぶん読み込んでるようだな」
「ええ、それで聞きたいんですが……」
 その時、カザッと何かが屋根をこすったような音がした。
 サダコはビールケースを蹴って立つと、音の方へ目を向けた。
「何だ?」
 矢島は月光に照らされた天窓に一瞬、コウモリの翼のような影が横切るのを目にした。
「来た! 奴らだ!」
「奴らって何だ?」
「車へ!」
 サダコは矢島をドアの方へ押しやった。
「おい、何だ、何が来たんだ?」
 数か所で一斉にガラスが割れる音がした。飛び散る破片とともに黒い影が建物の中へ飛び込んできた。巨大なコウモリのような何かだった。大型犬ぐらいのサイズのものが全部で五体。膜のような翼をはばたかせて床を這うように動き回っている。
 そのうちの一匹が突然猛スピードで動くと、サダコに襲い掛かり、鉤爪を左胸に突き刺した。
「うあぐっ!」
 矢島は怪物を蹴り飛ばした。靴先は渦巻型の感覚器官らしきものに当たり、鉄の塊を蹴ったみたいに足がしびれた。怪物は目を廻したように床の上をぐるぐると旋回していた。
 他の四体は警戒した様子で距離を置いて取り巻いていた。
 矢島は胸から血を流しているサダコを引きずって外へ出ると、地面に寝かせた。
「しっかりしろ、サダコ!」
「く、車のな……」
 口から血を吐きながらサダコが何かを伝えようとした。
「何だ?」
「車の中の……あ、赤い……スイッチ……」
「赤いスイッチ、それを入れればいいのか?」
 矢島が聞くとサダコは頷いた。
 矢島はワーゲンの後部ドアから車内に入った。
 コンソールの円形スクリーンの横に大きな赤いスイッチがあった。それをONの側へ押し上げた。
 スクリーンが点灯し、モーターの作動音が響いた。
 屋根の上でフォーク型のアンテナが立ち上がり回転し始めていた。
「スイッチを入れたぞ。これでいいのか?」
「ああ……これで奴ら……ミ=ゴは、近づけない……」
「あれが、ミ=ゴか?」
 ガラスの割れる音を聞いて矢島が振り返ると、ミ=ゴたちが飛び去っていくのが見えた。
 サダコは血を吐いて咳き込んだ。
「おいっ、しっかりしろサダコ!」
「定夫っていうんだ……。松本定夫……それが、本名……」
「そうか定夫。今、医者を呼んでやるからな」
「本を……、あの本が……奴らの狙い……」
 その言葉を最後に松本定夫は動かなくなった。
 首筋に手を当てると脈は止まっていた。ともかく矢島は携帯で救急車を呼んだ。
 それから建物の中を調べに戻った。異様な臭いが漂っていた。
 定夫のノートパソコンは高熱で炙られたように熔解し破壊されていた。陣野晴嵐の本は、どこにも見つからなかった。ミ=ゴが持ち去ったのだろうか?
 外へ出ると、作動し続けていた機械がオーバーヒートしたためか、フォルクスワーゲンが火を吹いて燃え上がっていた。
《闇の十字星》第三話です。
連作の英題は'Dark Star Crossing'にします。
次回第四話は「闇の召喚者」です。
んんー、ありゃりゃ……

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