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祖国のために

独自設定・解釈あり。


「ドイツ人は頭がイカれている」


 悪態をついたのが誰だったか分からないままに、すぐに爆発音にかき消された。

 その言葉は全てのフランス陸軍の将兵の心を代弁していた。


 0時を過ぎたあたりからドイツ軍による猛烈な砲爆撃が始まり、それは空が白み始めた今もなお途切れることなく続いている。


 しかし、構築された陣地の完全破壊には至っていない。

 ところどころで多少破壊はされているものの、いまだそれらは健在であった。

 開戦以来の戦訓をふんだんに盛り込んで構築された陣地は数多の鉄条網や地雷などの障害物、対戦車壕、塹壕、トーチカ、ダグインした戦車、火砲を多数組み合わせた複雑かつ、強固なものであり、これらの陣地は幾重にも及んでいた。



 無論、このような陣地を完全破壊できないことはドイツ軍も理解していた。


 だが、いくら陣地は破壊されないとはいえ、篭もっているのは生身の人間だ。

 いかに訓練されているとはいえ、その精神には砲爆撃に晒されることで、多大なストレスがかかっている。

 士気が崩壊してしまえば、もはや戦闘どころではない。


 あと数時間も砲撃が続けばそれはあり得たかもしれないが、幸か不幸か、徐々に砲声は減り始めていく。


 そして、夜中からの砲爆撃が嘘であったかのように、辺りは静寂に包まれた。

 

 

 しかし、周囲を見渡せば、さながら巨人が暴れたかのように荒れ果てていた。

 数多の鉄条網や短い鉄骨を組み合わせた対戦車障害物は根こそぎに吹き飛ぶか、残っていたとしても進軍に問題になる程のものではなく、また地雷原となっていた場所は埋めた地雷の全てが吹き飛んでしまったのではないか、と錯覚させるほどに穴だらけであった。


 唯一、まともに多数が残っていたのは対戦車壕くらいであったが、それとて攻め手であるドイツ軍は百も承知の上であった。




「終わった……のか?」


 塹壕で若い兵士が小さく呟いた。

 

 塹壕内は地獄であった。

 血の臭いに吐瀉物の臭いが混じり合い、そこに精神に支障をきたした者の呟き声や叫び声。

 運悪く、いや、運良く死ねたならば良かったかもしれない、と思えてしまう。



「これからだ。これから敵の航空機がやってきて、その後に敵の砲兵のロケット弾の一斉射撃。それから戦車の大群と歩兵が押し寄せてくる」

 

 開戦以来のベテランの軍曹がそう答えた。

 彼の言葉を肯定するように、東の空からはエンジン音が小さく聞こえ始めていた。









「これだけの火力でもまだ足りんだろう」


 圧倒的とまで言える程の火力をフランス軍に叩きつけた。

 だが、予想通りに敵の頑強な抵抗により、その進撃速度は速いとは言えない。


 ヘルマン・ホト元帥は司令部にて断言した。

 彼は西方総軍、すなわち実質的な皇帝攻勢の総司令官となったルントシュテット元帥の後任として、西方装甲軍集団を任されていた。

 

「まったく、こうなるのも予定通りだ。何よりも、フランス軍の陣地……さながらパックフロントとでも呼ぶべきものは理想的なものだ」


 ホトの言葉に参謀長が告げる。


「バルバロッサに取られていなければ、もう少し楽にやれたかもしれません」


 参謀長の言葉にホトは肯定する。


 皇帝攻勢の実施に伴い、新たに組織された西方総軍。

 その指揮下には3個の軍集団があり、総兵力は130個師団近くとなる。

 開戦以来の総動員により着々とドイツ軍の兵力は増え続け、今では陸軍だけでおよそ180個師団を編成していた。


 このうち、バルバロッサ作戦に割り当てられた兵力は50個師団だ。

 それだけの数が今この場にいれば、と思ってしまうのは当然であった。


 とはいえ、開戦以来、頑強な陣地に対して従来の砲兵部隊では火力不足と考えられ、新たに編成された師団もある。

 それは砲兵のみで構成された砲兵師団と言うべきものだった。


 砲兵師団には各種火砲に加え、パンツァーヴェルファーまでもが配備されており、複数の砲兵師団で構成される砲兵軍団ともなれば1個軍団で火砲だけで800門近い数となり、パンツァーヴェルファーも加えればもはや敵が可哀想になるほどの火力を叩きつけることができる。

 この砲兵軍団は各軍集団に2個ずつ配置されており、これらに加え、通常の砲兵部隊も数時間に渡って砲撃をしたのだから、フランス軍はよく耐えた、と称賛されるべきだろう。



 

「もっとも、問題はない。空軍も予定通りに配達をしてくれている」


 そう言っている間にも、航空機のエンジン音が聞こえてきていた。

 それはフランス空軍のものではなく、ドイツ空軍のものだ。


 朝からひっきりなしに上空をドイツ空軍の攻撃隊が前線へ、あるいは前線から帰還のために通過していた。


「そうであるからこそ、第一波では浸透せず、小さな穴を開ける程度に留めるわけですか……」

「その通りだ。予定通りに穴を補強し、広げ、それぞれを連結させるとしよう。各部隊に通達。ベルリン発パリ行の急行列車は定刻通りに出発する。工事を完了するように、と」

 


 










 ノルマンディーにおいてはドイツ軍は順調に作戦を進めていた。

 夜中から朝まで続いた艦砲射撃により、海岸は穴だらけとなっており、地雷も鉄条網も対戦車障害物も吹き飛ばされてしまっていた。

 それはここ以外の3つの海岸も同様であった。


 4つの海岸に同時上陸というのが作戦の骨子であり、揚陸艦の後尾に展開した海兵を満載した上陸用舟艇が今か今かと合図を待っていた。

 

 揚陸艦エルベに司令部を置いているバルバロッサ作戦の総司令官であるマンシュタイン元帥は傍らにいる通信士官に告げる。


「各部隊に作戦開始を通達。征くぞ、諸君。目指すはパリ一番乗りだ」



 



 上陸用舟艇の無数の群れが海岸に向けて進発していく。

 上空援護に当たっているイギリス空軍のパイロット達はその壮観な光景に歓声を上げる者が多くいた。

  


「本当はドイツ空軍が良かったが、まあ仕方ない」


 頭上にいるイギリス空軍機に対し、舟艇の中で海兵隊のバッツ少尉はそう小さく呟いたが、気を取り直して告げる。 


「俺たちが一番乗りだ!」


 バッツ少尉は叫んだ。

 すると兵達は雄叫びを上げる。

 彼らの練度・士気はともに高い水準にあった。


 ひとえにそれはローレライ作戦に参加したことによる経験に裏打ちされたものだ。


 これから行くのは地獄だ。

 それもローレライのときは比較にならない。


 艦砲射撃と空襲が行われたものの、それだけではどうにもならない。


 改めて、バッツは乗船している兵達の顔を1人1人、見た。

 何人が生きて帰れるだろうか、と思ってしまうが、そんな考えを振り払い、前方を見る。


 あと半分程というところか、とバッツが思った直後だった。

 海岸からすぐの丘の上から複数の発砲炎。


 少しの擦過音の後に、着弾し、大きな水柱を盛大に幾つも吹き上げた。

 数秒と経たずに、弾丸も飛んでくるだろう。


「まあ、そうだわな」


 大した驚きはなかった。

 当然生き残っているだろう、と予想されていた。


 部下達もこれは予想できた事態であったので、わざとらしく、ため息を吐いてあからさまに落胆して見せる者や勲章が一つ増えると喜ぶ者など良い意味でリラックスができていた。

 舟艇の乗り心地はいつも通りに酷いものだったが、もはや慣れたものだ。


 戦闘間近というのにこの落ち着き様に、バッツは海兵隊の標語となっているものを思い出す。


「海兵は一にも二にもクソ度胸だな」


 陸軍の連中には真似出来ないだろう、とバッツは思ったが、すぐにそういえば、と思い直す。


「今回は近衛師団も参加しているから、無様な姿は見せられないぞ」

 

 陸軍の最精鋭たるグロスドイッチュラント師団もまた海兵隊の次に上陸する。

 陸軍がよくこっちに回したものだ、と思ったが、頼もしいことこの上なかった。




 そうこうしている間にも舟艇は進む。

 幸か不幸か、バッツらの乗船している舟艇は文字通りの先頭であった。

 後続の舟艇が被弾し、炎上、あるいは転覆する中、彼らの舟艇は海岸目掛けて進む。



 そして、いよいよ運命の扉が開かれる。


 舟艇が砂浜に乗り上げて停止した。

 その瞬間に、舟艇の前部に設けられた扉が観音開きとなり、バッツらの前にはノルマンディーの海岸――彼らの上陸地点にはヴァイスというコードネームが与えられていた――が広がる。


「いくぞ!」


 バッツは叫び、真っ先に飛び出した。

 踏みしめるフランスの地に感動する暇などなく、すぐさま手近にあった穴に飛び込んだ。

 彼の部下達も同じように各々がそれぞれ穴を見つけて飛び込んだ。


 その行動から数秒もしないうちに、フランス軍はバッツらに銃口を向け、弾丸の雨を降らせてくる。

 次々と舟艇が海岸に到着し、海兵達を吐き出していく。


 とはいえ、いくら勇敢な海兵といえど、さすがに小火器やパンツァーファウスト程度でトーチカをはじめとした陣地を相手にするには分が悪い。

 やれないことはないが、被害が大きくなりすぎる。



 バッツはボルツを探し、幸いなことに、すぐ見つかった。

 ボルツは彼から3m程、後ろにあった穴に飛び込んでいたのだ。


「ボルツ! 支援要請!」


 そう叫べばボルツは了解と叫び返し、すぐさま背負った無線機を操作し始める。

 上陸地点の地図はグリッド化され、それらはドイツ軍とイギリス軍が同じものを使っている。

 その為、比較的迅速かつ正確に近接支援を行えるものと考えられていた。


 バッツはボルツから視線を外し、目の前のトーチカ陣地を見据える。


 海岸からすぐに丘となっており、その丘の上にトーチカが点在している。

 おそらくは塹壕もあるだろうし、戦車がダグインして待ち構えている可能性もある。


 そう思っている間にも、丘の上からは砲弾が次々と飛んでくる。

 機関銃どころか個人携帯の突撃銃も撃ち始めたのか、凄まじい火力密度だ。


 雨が上からではなく前から降ってくるというのが、最も分かりやすい表現かもしれない。


「イギリス空軍の新型を見せてもらおうか!」


 バッツはそう言って空を見上げると、ちょうど幾つかの編隊が次々と緩降下を開始したところであった。


 その編隊の中にはモスキートと共に見慣れぬ機体もある。


 事前にもらった資料ではイギリス空軍の新型戦闘爆撃機、タイフーンだろう。

 同じエンジンを積んで、改修を施した戦闘機仕様のテンペストもいるはずであったが、高度を高く取っているのか、バッツからは確認できなかった。


 編隊はバッツの見ている中で、次々と爆弾を投下していくのがよく分かった。

 どうやら他の部隊もそれぞれ自分達の正面にある敵の陣地に対しての支援要請をしたらしく、丘の上が満遍なく爆撃され炸裂音、閃光と共に丘の上全体が土煙に包まれる。

 

 正確に潰せたかどうかは分からないが、ともあれ、怯ませたのは確かだ。


「突撃!」


 バッツはそう叫び、穴から飛び出した。

 彼の声に続いて、次々に穴から彼の部下達は飛び出して、駆け出す。


 バッツは素早く左右の状況を確認する。

 さすがは歴戦の海兵というべきか、他の部隊も全く遅れることなく、敵の陣地目掛けて散開しつつも駆け出していた。


 銃弾は飛んでくる、砲弾も飛んでくるが、先程と比べれば比較的少ない。

 

 しかし、その密度は増しつつあった。

 バッツは退避と叫び、穴に飛び込んだ。

 彼は穴から少しだけ顔を出し、後方を見る。


「……思った以上に少ないぞ、ちくしょうめ」


 海岸に辿り着いている舟艇は想定していたよりも少なかった。

 彼が見ている間にも、海岸に辿り着く前に、舟艇が被弾し、炎上した。


 海には味方の大艦隊が見える。

 上空には友軍の大編隊だ。


 しかし、肝心の海岸には圧倒的に優勢な敵軍と圧倒的に劣勢な自軍しかいなかった。










「何が足りない?」


 マンシュタインは司令部にて、短く尋ねた。

 問いかけられたのは海兵隊の総司令官であるクリーガー少将だった。

 クリーガーの元には上陸した海兵達からの悲鳴じみた救援要請、支援要請が届いていた。


「火力です。一時的にでも敵を黙らせられれば、そして、海岸に辿り着きさえすれば突破できます」


 クリーガーの問いに、マンシュタインは今度は海軍との連絡役である将校に視線を向ける。


「主砲弾を撃ち込めるかね?」

「誤射の可能性が高く、困難です」


 連絡将校は静かにそう答えた。

 イギリス空軍の連絡将校にマンシュタインは視線を向けるが、彼が何か言うよりも早く、連絡将校は答える。


「今、ここにいる航空機の爆弾では大きな効果が見込めません。反復して叩き込んでいますが、どうにも芳しくありません」


 海岸の予想以上の苦境に、イギリス空軍は戦闘爆撃機だけではなく、制空用として最低限の戦闘機を残し、残る戦闘機を全て地上攻撃に回していた。

 できることは機銃掃射くらいだが、無いよりはマシであった。


「数時間にも及ぶ艦砲射撃と空爆にも耐える敵の陣地と篭もる将兵は見事だ。敬意を称して、予定よりも早いがアレを投入しよう」


 マンシュタインの言葉に参謀長が問う。


「アレは海岸に辿り着けますか?」 

「射程は長い。撃ってから沈没しろ、と伝えておくように」


 船上でも撃てるように専用の揚陸艇まで作ったのは幸運だった、とマンシュタインは確信した。

 そして、まさか自分があのような代物にまた頼るとは、とやれやれと溜息を吐いた。

 初めての実戦となったフランス軍の要塞攻略では有効ではあったものの、ひっくり返った車両がそれなりに発生し、急遽、改修を施した上での、今回の上陸作戦だった。













 ド・ゴールは非常に忙しかった。

 彼はこれまでの功績が認められ、中将へと昇進し、2個の機甲師団を指揮する軍団長であったが、ドイツ軍の今回の攻勢により、あちらこちらから救援要請が舞い込んできており、各部隊を縦横無尽に走らせていた。


 幸いなことに、ドイツ空軍による空襲は比較的低調であり、ドイツ軍の攻勢開始から、これまで2回襲われる程度で済んでいた。

 車両や人員に多少の損失は出たが、本格的な大空襲に遭えば車両の全損もありうる為、幸運と言って良いだろう。

 


「あちこちで突破口が開かれてしまった」


 ド・ゴールは参謀長にため息混じりでそう言った。

 彼の元にはあちこちからよろしくない報告が入ってきており、それらを統合すると、ベルギーからルクセンブルクに至る各所で幅10km程度の穴を開けられたらしかった。 


「ドイツ軍は雪崩込んでくるだろう。明日はもっと忙しくなる。今日のうちに、できるだけ叩かねば」


 ド・ゴールの判断は極めて常識的なものであった。

 機動防御により、浸透してくるドイツ軍を迅速に叩く。

 それが彼に与えられた役割であった。

 

 彼の2個機甲師団以外にも10個の機甲師団が機動防御の為に動いており、どうにか対処できるのではないか、という期待があった。

 なぜなら、ドイツ軍もまたフランス軍の機甲師団の動きに応じて、機甲師団を出してきており、ドイツ軍は各所に開けた突破口を維持するのに必死であるかのような、動きであったのだ。


 ドイツ軍の予備兵力である機甲師団を潰せれば、攻勢を阻止できる――


 それはフランス陸軍の前線指揮官において、誰もが思うことであった。












「杞憂であったかな」


 ウェイガン大将はドイツ軍の動きに首を傾げていた。

 浸透するか、それとも突破口を広げるか、その2択で参謀達と協議している最中にも、続々ともたらされる前線からの報告。

 それらを整理・統合するとドイツ軍は突破口の維持に必死であり、機甲師団も繰り出してきているというものであった。

 それに対応すべく、こちらの機甲師団が動いていることも合わせて報告された。


「ドイツの兵力からすると、すでに突破口から浸透してもおかしくはないのですが……」


 参謀の一人の発言に、ウェイガンもまた頷いた。


 ドイツは少なくとも十分な兵力を持っている筈であった。


「上陸部隊を待っているのでは?」

「いや、参謀長。おそらくそれはないだろう。すでに向こうも我々がノルマンディーに兵力を置いていたと報告がいっているだろうからな。待機させている機甲師団はどうしたものか……」


 ベルギーからルクセンブルクに至るまでに12個、ノルマンディーに4個、そして念のためにと前線から少し離れたところで待機状態にある4個。

 合計20個の機甲師団が手元にはある。

 これらのうち、16個は急速に消耗するであろうから、待機している4個機甲師団を投入するタイミングを見極めなければならなかった。


「今、投入することでドイツ軍を押し返せる可能性はあるか?」

「不可能です」


 すかさずに否定する参謀長にウェイガンは苦笑する。


「となれば、彼らを投入するのはドイツ軍がもっとも油断している時だ。例えば……こちらの陣地を突破した直後か」


 ウェイガンの判断もまた常識的なものであった。












「フランス軍も流石にこれは見抜けなかったようだな」


 西方総軍の司令部にて、ルントシュテット元帥は安堵していた。

 刻々ともたらされる報告を元に、彼の眼下に広がる巨大な戦域図に置かれた無数の駒がオペレーター達に動かされていく。


 ノルマンディーは膠着しているが、それ以外は予定通りだ。

 第一波により、幅10km程の突破口を各所で開き、つい先刻投入された第二波はその突破口の維持及び他の突破口との連結を目指して動き始めている。


 穴を塞ごうと動いたフランス軍の装甲師団は第一波及び第二波の装甲師団と真正面から対決し、その戦力をすり潰している。

 それこそがまさにドイツ軍の狙いであった。


 フランス軍は罠に嵌ったのだ。


「魔法のようです、まさに」


 参謀長の言葉にルントシュテットは肯定する。


「私がもし、フランス軍の指揮官であったなら、今、彼らがしているのと同じ対応をしただろうな」


 ルントシュテットは今回の作戦の概要を再度、思い浮かべる。


 敵の全戦線において砲爆撃を実行し、一時的に機能不全に陥らせる。

 地上軍の第一波は突破口を開き、第二波はその維持と拡大・他の突破口との連結に動く。

 

 その結果、開かれる突破正面は数十kmから百数十kmにも達する。

 

 そして、第三波は第一波、第二波の攻撃に参加していない部隊であり、なおかつ長距離を単独行動が可能である大規模な諸兵科連合部隊であった。

 

 予定通りに進めばフランス軍は第二波までの攻撃により予備戦力まですり潰された後、第三波により前線から一気に食い破られるのだ。

 唯一の問題点は第三波の補給であり、それに伴い、攻勢が限界に達することであったが、もし第三波が攻勢限界点に達してもなお、フランス軍が諦めなかった場合に備えて第一波・第二波から部隊を抽出し、第三波と同等規模の諸兵科連合部隊を編成。

 第三波に代わって、更に奥深くまで進撃する予定となっていた。




「年内には終わらせたいものだ」


 ルントシュテット元帥の言葉は虚空へと消えていった。


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