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動く戦場

独自設定・解釈あり。

「いや、無理だ」


 軍令部総長の加藤大将は上がってきた要望書を一瞥し、そう切り捨てた。

 要望書はドイツ海軍の次期主力戦艦に関わる調査報告書と共にやってきたものであり、何でもドイツ海軍は20インチ砲を3連装4基搭載し、30ノット以上の速力が出る、高速戦艦を建造中とのこと。

 10万トン級の空母も同時に並行で建造し、その護衛部隊やその他諸々まで建造しているのだから、もはや桁が違う。


 要望書にはドイツに負けないよう、次期主力戦艦はドイツの戦艦――グロス・ドイッチュラント級に準じた性能とすべし、とあった。


 加藤も当然にドイツの戦艦が列強のこれまでの常識を覆す性能であることは知っている。

 そして、その建造費用も。


 日本円に換算して単純計算で20億円。

 当初の予定よりも強化された長門型1隻の建造費がおよそ5000万円であるから、長門型だけで実に40隻を揃えられるような値段なのだ。


 とてもではないが、そんなものを作っている余裕は無い。


 むしろ、安い巡洋艦や駆逐艦、潜水艦を多数揃えて対抗すべし、という話も聞こえるくらいなのだ。


 幸いにも、巡洋艦と駆逐艦に関しては川内型・吹雪型の設計が独仏戦争の戦訓も取り入れ、完了しつつある。

 艦政本部からの報告によれば、武装よりも将来の発展性を考え、拡張性や安定性等の見えない部分を高めたものらしい。


 独仏の兵器開発競争を見れば、今、最新のものを積んでもすぐに陳腐化するのは目に見えている為、加藤からしてもそれは正しい判断に思えた。


「問題は潜水艦か……末次が動いているらしいが……そういえばドイツ海軍の潜水艦ブンカーは空襲避けや諜報員避けにちょうど良いな」


 ドイツ海軍が持つ20インチ砲弾ですら貫けないという、10m超の分厚いコンクリートの天井で覆われたブンカ―。

 その中でドイツの潜水艦は建造・整備・補修が行われるという。


 また、ドイツ海軍は次世代潜水艦として水中速力が高く、かつ、連続潜行時間が長いものを開発しているという。


 潜水艦と噴進弾が組み合わされ、敵国の領海内からこっそりと夜間に発射し、姿を隠す――


 将来的なドイツ海軍の潜水艦ドクトリンはそうなるであろうことが容易に想像がついた。

 加藤は目まぐるしく変わる軍事ドクトリンに溜息が出る思いだった。
















「ドイツ人の頭はどうかしている」


 海軍大臣であるチャーチルは上がってきた報告書を一読してそう言った。

 彼が海軍大臣となったのはこれで2度目だ。

 1度目は十数年前、まだドイツがイギリスへの挑戦を諦めていなかった時だ。

 あのときは極普通に就任したが、今度の就任劇はチャーチル的によろしくなかった。

 開戦劈頭、ネルソンとロドネイを喪失するという前任者の失態を補うというのは中々に骨が折れる仕事であった。


 そして、それが片付いたと思ったらすぐに次の問題が出てきた。

 それは今度の戦争を利用したドイツにおける技術的な飛躍と軍事力の増大だ。


 チャーチルは陸軍や空軍が負けるのはしょうがない、と最初から諦めている。

 陸軍はプロイセン以来の精強さを誇り、空軍は飛行機の発明者とその推進者がいる。

 となればこそ、イギリスは海軍だけは必ずドイツよりも優越していなければならない、とチャーチルは考えていた。

 別段、これはおかしな考え方でも何でもなく、極々普通の、伝統的な考え方だった。

 


 しかし、そんなイギリス側の事情なんぞ知らぬとばかりにドイツ海軍は勢力を増しつつあった。


「20インチ砲搭載戦艦を8隻、10万トン級の大型空母も8隻……」


 チャーチルは傍にあったスコッチの入ったグラスを呷った。



「あの魔法使いめ、カネの使い方まで指導しやがって」


 チャーチルも頻繁に会っている友人と呼んでも差し支えない程度には交流がある男の顔が脳裏に浮かぶ。


「個人としては良い人物だ。だが、公的な立場から考えれば最悪の人物だ」


 苦々しくチャーチルは呟く。


 まだ十数年前の、建艦競争に明け暮れていたドイツならば勝ち目は十分にあった。

 外交的にも経済的にも。

 だが、あの魔法使いのおかげでドイツは国家としての基盤をより強固にさせ、それはドイツの力を経済的にも外交的にも大きく増大させた。



 どうしようもない、とチャーチルは溜息を吐くしかなかった。











 ムスタファ・ケマルは元々極普通の軍人であった。

 それなりに昇進して退役して終わる筈であった彼の運命を大きく変えたのはひとえに、ドイツによる経済的・軍事的な大規模な支援であった。

 それが表面化し出したのはイタリア・トルコ戦争。

 ドイツ軍は義勇軍としてコンドル軍団を派遣し、発展途上であった戦車等の新兵器を惜しみなく投入、イタリア軍を海に蹴落とした。


 オスマントルコは元々ヴィルヘルム2世のイスラム教徒は友人発言などもあって親独的であったが、このドイツ義勇軍の派遣、そしてイタリア軍に対する圧倒的な勝利により、よりそのムードは強まった。

 そんなケマルはイタリア・トルコ戦争時、少佐としてトリポリタニアにいた。

 ドイツ義勇軍の活躍を間近で見、また義勇軍の将校達等の交流により、彼はドイツに範を取った軍事的改革を掲げ、陸軍内部に研究会を立ち上げた。


 ドイツ側としてもこの動きは関係強化に都合が良かった為に、裏に表に支援し、いつのまにやらケマルは軍政改革者として祭り上げられてしまう。

 しかし、ケマルはそれに応えるだけの能力とカリスマ性があった。

 

 とはいえ、彼がうまく改革者となれたのは1つの大きな原因がある。

 それはアブデュルハミト2世の急死とメフメト5世の即位だった。

 1878年のロシア・トルコ戦争の敗北からアブデュルハミト2世は非常事態宣言を出し、立憲的な憲法であったオスマン帝国憲法を停止、専制政治に乗り出すが、国民の不満は強く、その不満に対抗する為に厳しい弾圧を行った。


 当然に国民は余計に反発し、不満を持ったマケドニア駐留軍が反乱を起こす寸前までいった。

 しかし、当のアブデュルハミト2世が急死し、あれよあれよという間にメフメト5世が即位、オスマン帝国憲法が皇帝の権力を制限する形で復活する。


 ケマルも当時、何がなんだかさっぱり分からなかったが、今ならば誰が仕組んだか理解できた。

 メフメト5世が即位してすぐに、ドイツから派遣される各種の顧問団が増加し、またドイツ系企業の中東地域での資源探査団の派遣等が極めてスムーズに行われたからだ。

 そして、そのメフメト5世は即位前、頻繁にドイツを訪問していた経歴があった。



 そのような政治的な大きな動きがあったが、ケマルにとって現状は満足すべきものだった。

 ドイツの支援により、帝国は強靭となっていることが実感できたのだ。


「早く参戦したいものだが……もはや勝利は見えている。参戦は許さないだろう」


 ケマルは溜息を吐く。


 宗教的な兼ね合いもあり、ドイツとオスマントルコは正式な同盟を結んではいない。

 だが、経済的・軍事的には様々な協定を結んでおり、準同盟国と言っても過言ではないものの、ドイツ政府は暗に参戦するな、と告げてきている。


 故に、勝手に参戦してバルカン半島に手を出せば、すぐにでもドイツとロシア、そしてイギリスが動くことは間違いない。

 強靭となっているとはいえ、列強を相手にするには荷が重過ぎるし、何よりも利益が無い。


 しかし、友好国の為に何もできないことがケマルとしてはもどかしかった。


 










 ヴィクトル・プッヘルトは騒々しいエンジン音の中、十字を切った。

 そんな彼を見、同僚のヴォルフラムが言う。


「ヴィクトル、大丈夫か?」

「ああ、勿論だ。早く降下したい」


 ヴィクトルは自分に向けられる同僚達からの視線に不敵な笑みを浮かべ、そう答えた。

 彼は名前の通りにフランス系ドイツ人。

 だが、その精神はドイツ人そのものであった。


 戦前から陸軍に志願し、降下猟兵となるべく厳しい選抜試験を突破した彼にとって、ドイツの為に戦えることは喜ばしいことだった。

 フランス系である、というだけでよろしくない事をされた経験は多くある。

 しかし、彼はその経験を糧として、ここまできていた。


 そんな彼にとってフランスとの戦争はむしろ待ち望んでいたところであり、戦うことでドイツ人であると証明したかったのだ。


「降下猟兵は皆、兄弟である。ここには祖国を愛するドイツ人しかいない」


 彼らの上官であるヴァイラント少尉が言った。

 始終仏頂面で必要なことしか言わないが、何事にも率先して取り組む、頼れる上官であった。



 突然、機体が揺れた。

 同時にエンジン音に負けないくらいの爆発音が機外から聞こえてくる。


「フランス軍の対空陣地が撃ち始めたらしいな」


 そうヴォルフラムが言った直後、機長の声が機内に響く。


『降下地点まで残り5分となりました。本日はヴンストルフ発、ガイレンキルヒェン行、魔法使い航空のご利用、誠にありがとうございます』


 元々はルフトハンザ航空のパイロットだったという、機長の放送に降下猟兵達は笑う。

 程よく空気が緩んだところで、ヴァイラントは告げる。


「装備確認!」


 ヴァイラントの声に降下猟兵達は一斉に互いに互いの装備確認を行う。

 嫌になるほどに訓練で繰り返された降下直前の装備点検だ。

 それぞれがあっという間に装備点検を終え、不具合を訴える者は誰もいない。


 点検が終わり、降下までの時間は数分にも満たないが、酷く長く感じられた。


 その最中、ヴィクトルは事前のブリーフィングを改めて思い出す。


 降下地点はガイレンキルヒェン基地から少し離れた畑。

 敵の守備隊は基地を守る歩兵部隊程度。

 もし敵機が出てきたとしても、護衛についているヤーボと戦闘機が蹴散らしてくれる。


 地図は勿論、ここらの出身者もいる。

 不安は何もない――


 ヴィクトルがそう思った直後――


『降下地点まで残り1分!』


 機長の微かに緊張した声。

 同時に機体側面にある扉を輸送機のクルーがゆっくりと開く。


 一番に降下するヴァイラントは扉のすぐ傍におり、眼下には緑色の田園地帯がよく見えた。

 また朝日も見え始め、雲一つない絶好の降下日和だ。

 ところどころ対空砲火による爆煙が見えるのはご愛嬌。


『降下地点到達!』


 ヴァイラントは機長の声を聞くなり、機内にいる降下猟兵達に叫ぶ。


「行くぞ! 悪魔共! 降下だ!」


 そして、ヴァイラントは扉から大空へ。

 遅れる者は誰もおらず、訓練通りにあっという間に全員が空へと飛び出した。









「こいつは凄い」


 フリッツ・ロージヒカイトは愛機であるTa152を操りながら、四発輸送機や六発輸送機から次々と降下猟兵達が降下する様を見て、そう呟いた。


 空一面に咲く草色のパラシュート。

 その独特の軍服と厳しい選抜試験から緑の悪魔とも言われる彼らはこれから敵中で孤立した戦闘を行わねばならない。


 そんな彼らへの援護と敵機からの護衛がフリッツをはじめとした護衛部隊に与えられていた。

 護衛部隊は主に戦闘機と戦闘爆撃機、近接支援機にて構成されており、戦闘爆撃機と近接支援機が地上部隊の援護、戦闘機が敵機の排除にあたる。



 輸送機は任務を終えた機から順次、基地へと機首を向け始めている。

 フリッツが見たところ、落とされた味方は今のところおらず、また早期警報機からも敵機発見等の報告はない。


『ここからが本番だ』


 無線で入る小隊長の声にフリッツは気を引き締める。


 風防からはヤーボや攻撃機が次々と地上攻撃に移っていくのが見える。

 S95やDo235、あるいはA5といった面子は敵の地上部隊にとってはまさしく死神だろう。


 

「……しかし、フランス空軍は来るのか?」


 地上はともかく、空はドイツのものとなって久しい。

 何でも夜明け直前に敵機の大編隊が侵入したが、それはどうも敵の電波妨害らしかったとのこと。

 しかし、出撃前のブリーフィングによれば敵機への警戒を怠るな、という命令があった。

 その命令はあの魔法使い直々のものだという。

 その為、戦闘機部隊は高度2000m付近に滞空しており、低高度からの奇襲に備えていた。

 高高度からの敵はFK44ですぐに探知できるが、問題はレーダー探知がし難い低高度からの敵である為、ある意味当然の配置だった。


 魔法使いだから未来でも見通せるのかな、とフリッツが思い、何気なく下を見た時だった。


 西の方に何か動くものを見つけた。

 

 フリッツは目を凝らしてみる。

 森の緑に混じり、高速で動く物体が幾つも見える。


 味方機が西から来るなんて話は聞いていない。


「敵機発見! 方位2-7-5! 低高度! 多数!」


 フリッツは叫ぶ。


『JG87及びJG68はただちに迎撃に迎え!』


 すかさずFK44より指示が入る。

 

『攻撃に移る! 続け!』


 小隊長の命令にフリッツもまた従う。


 今回が初陣となるフリッツであったが、そこまで緊張してはいなかった。

 ひとえに、それは敵機よりも性能が上であること、また戦争そのものもドイツの勝利が確実であること、何よりも味方の方が数が多いことが彼に大きな安心感を与えていた。




















 ラ・メスリーは今回の作戦は博打だ、という印象を抱いていた。

 開戦以来、消耗に次ぐ消耗で機体もパイロットも――整備兵すらも櫛の歯が欠けるように少なくなってきている。

 補充のパイロットや整備兵は一応は配属されてくる。

 だが、彼らが一人前になるよりも戦死するか、病院送りになる方が早かった。


 そんな最中にベテランを揃え、ドイツ空軍の目を誤魔化して一時的に航空優勢を取り、陸軍と協同して敵の侵攻部隊を撃破する――


 今回の作戦――シエルは内容は簡単だが、極めて難易度が高いものであった。




『敵が気づいたぞ。増槽を落とせ』


 メスリーはそんな声を聞いて反射的に増槽を落下する。

 ふわり、と機体が浮き上がるのを感じるが、もはやそれは慣れたものだ。


 愛機であるVG53のエンジン音が心強い。


『敵はたくさんいる。あくまで作戦目標の達成だけを考えろ』


 中隊長の指示にメスリーは了解、と返しながら、列機に告げる。


「生き残ることを考えろ。死人に口なしだ」


 メスリーはそう指示し、機体を上昇させる。

 何はともあれ高度を取らねばどうにもならない。

 

 高度計の針は瞬く間に回転し、高度をぐんぐんと上げていく。

 メスリーには振り返らずとも列機がついてくることが感覚で分かる。


 真っ向からTa152が火箭を迸りながら、突っ込んでくる。

 敵機はガトリングガンを搭載しているらしいが、あんな撃ち方ではすぐに弾切れになってしまうだろう、とメスリーは思いながら、僅かに機体をズラしてその射線から外れる。


 高度計が3000をさしたところで、メスリーは機体を水平へと戻し、戦場の状況を再確認する。


 あちこちには火を吹いて落ちていく敵味方の機体。

 幸いなのは敵の戦闘機の数がこちらとほぼ同数というところだ。

 ジェット機が出てこなければ互角に戦いを進められる。


 レシプロ機で現在のところ、対空ロケットを装備した機はない。

 何かしらの制約があるのかもしれなかったが、メスリーには分からない。




「前方の敵機を頂こう」


 ジェット機が出てくるまでが勝負、とメスリーは確信し、指示を出しながら、機首を向けた。














「ドイツ人はやはり侮れない」


 ド・ゴールは敵兵が空からやってきた、という第一報を聞き、そんな感想しか出てこなかった。

 フランスにも空から兵を降下させる、という発想は戦前からあり、実験部隊も創設されている。

 だが、予算的な問題からその拡充を断念していた。


 事態は極めて深刻だった。

 前面に敵部隊が橋頭堡を確保し、兵力を増強しつつある上、背後にも敵が侵攻している。


 ド・ゴールらの機甲師団は挟撃の危機にあった。

 師団の属する第11機甲軍集団の総司令官であるガムラン大将は予備に置いてあった機甲部隊にガイレンキルヒェンの救援を命じている。

 一時的にドイツ空軍とフランス空軍は拮抗状態にあるが、すぐに敵の増援がやってくることは間違いない。



 改めて、ド・ゴールは大テーブルに置かれた作戦図を見る。

 要塞地帯の全面に渡っての攻勢でこちらの目を惹きつけ、さらにその背後への奇襲上陸、そして今回の空挺降下。


 念には念を入れるドイツ軍の攻勢作戦は教本にしたいくらいであった。


 ドイツ人はこちらが対応できないような、空陸協同の飽和攻撃を仕掛けている――


 全くもってシンプルであったが、それ故にもっとも強力なやり方だった。

 

「後ろは他の部隊に任せ、前面のドイツ軍を全力で粉砕する。今日は我々にとって最も長い一日になるだろう」


 彼は傍らにいる参謀長にそう告げた。











 ライン川から上陸したドイツ軍は着々とその兵力を増強し、橋頭堡を確固たるものとしつつあった。

 上陸したドイツ軍は海兵隊2個大隊、3個近衛師団に膨れ上がっており、じわじわとその奪還地域を広げている。

 意外なことだったのは昨夜の時点でフランス軍は市街戦を嫌い、迅速に近隣の都市や街から退却したことだった。

 その為、上陸部隊の司令部はニールストからメンヒェングラードバッハへと移っている。

 だが、これらの撤退はフランス軍の敗北を意味しないことをドイツ側の将官達はよく分かっていた。

 



「敵はヴィリッヒの近郊に集結している模様です。ここからおよそ10km程の地点です」


 

 参謀長の言葉にクライスト元帥は僅かに頷いた。

 野戦で決着をつけるのは臨むところだ。


「しかし、降下猟兵を投入するとは全く予想外でした。てっきり、フランス本国の為に温存するものかと思いましたが」


 そう告げるのは海兵隊のクリーガー少将だった。

 陸軍と海兵隊の合同作戦会議、それは上陸後から度々開かれている。


 今回の会議の議題は集結している敵地上部隊をすぐに叩くか、それとも空軍の支援が十分に受けられる状況になってから叩くか、決定する為であった。


「せっかくの兵力だ。使わねばもったいない。それに連中は強敵だからな」


 クライストの言葉にクリーガーは同意する。

 油断すれば負けるのはドイツであったからだ。


「会敵予想地点は見晴らしの良い草原です。敵は装甲師団を中心とし、最低でも3個師団以上とのこと」


 参謀長が続けた説明にクライストは笑みを浮かべる。


「3個師団か……中々に大きな獲物だ。空の状況はどうなっているかね?」


 クライストの問いかけた相手は空軍から派遣されている連絡将校だった。


「あと1時間もすれば援軍が到着しますので、問題はありません。ですが、あくまで要塞への支援と降下猟兵への支援を同時に行っている為、こちらに支援機をすぐには回せません」


 長大な要塞線は20インチ砲弾をはじめとした戦艦の主砲弾により散々に攻撃を受け、半壊状態であるが、まだまだ空軍の支援はあちこちで必要であった。

 降下猟兵への支援は言うまでもない。

 

「3時間程頂ければこちらにも支援機を回すことができます」


 そう連絡将校は言って口を閉じた。

 それを受け、クライストは告げる。


「よろしい。定石通りにやるならば、ガイレンキルヒェンの制圧が終わってからゆっくりと取り掛かるのが良いが……問題はフランス人は穴掘りが得意だということだ。頑強な陣地を作られる前に潰さねばならん」



 陣地が構築された後に空軍の支援の下に叩くか、それとも陣地が構築される前に叩くか――


 空軍から出向扱いの司令部直属の偵察機部隊によれば、今のところは大規模な陣地は見受けられないとの報告が入っている。

 また、集結している戦車や装甲車は偽装が施されているものの、それはすぐにでも動けるような簡易なものとのことだ。


「よくできた陣地に空爆は大して効果はありません。それは先の要塞攻撃でも証明されています」


 参謀長の言葉にクライストは頷き、肯定する。


「攻撃するとしよう」
















「如何なさいますか?」


 フランス軍第11機甲軍集団の総司令部では参謀長が短く、総司令官のガムラン大将へ問いかけた。

 状況は刻一刻と変化――それもフランスにとって悪い方へ――する。


 しかし、空の状況はフランスにとって悪くはない。

 少なくとも現時点では。


 空軍の連絡を信じるならば、同数のドイツ空軍相手に一歩も引かずに戦っているとのこと。

 それはすなわち、一時的であっても航空優勢――とまではいかなくとも、敵機に邪魔をされる悔しい思いはせずに済む可能性は高い。


 ガムランは大テーブルにある地図を見る。

 そこに置かれた敵味方のコマ。

 ガイレンキルヒェンは近くにいた2個機甲大隊を救援に向かわせてある。

 いくらドイツ軍といえど、重力は無視できない。


 輸送機ではそこまで大量の重装備は運び込めない、と踏んだガムランは救援の兵力をあまり割かなかった。


 要塞線はよく保っており、未だどこも突破を許していない。

 しかし、こちらの被害は甚大で、今にも突破されそうな箇所は幾つもある。


 そこへ救援に向かうには上陸したドイツ軍を叩かねばならない。


 

 幸いにもヴィリッヒ近辺に集結した機甲師団は3個師団。

 敵の戦力もほぼ同数であり、また地形は起伏の少ない田園地帯。

 

 兵器の差はあるが、戦術で補える――


 ガムランはそう確信し、告げる。


「上陸したドイツ軍を攻撃せよ。連中に大陸軍の恐怖を思い出させてやるのだ」






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