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それぞれの準備期間

独自設定・解釈あり。

「今日も楽な任務だな」


 ベッカー少佐は鼻歌混じりにそう言った。

 開戦以来のベテランである彼は愛機をB44へと変更し、また少佐へと昇進していた。


 B43から重くなったとはいえ、より速く、硬く、また高く飛べるこのB44。

 それは高性能であったが、あくまでレシプロ機として見た場合であった。 


 ドイツ空軍が現在新規開発中の航空機のほとんどがジェット機となる。

 故にB44はドイツ空軍最後のレシプロ戦略爆撃機となるようだった。



「見渡す限り味方機しかいませんね」


 傍らの副操縦士であるボッシュが話しかけてくる。


 第3梯団の隊長機であるベッカーらの乗るB44以外にも、無数のB44が一路投弾目標を目指して飛行していた。

 彼らの周囲には無数の護衛戦闘機がおり、また早期警戒機がその電子の目でもって周囲を広く監視している。


 ここ最近、フランス空軍の迎撃機は梯団に辿り着く遥か手前で警戒機に探知され、梯団を見ることなく護衛戦闘機との空戦に否応なしに引き込まれる。

 そんな光景を横目に見ながら、爆撃隊は悠々と目標に投弾し、何事もなく帰ってきている。

 被害といえば運悪く対空砲にやられた機が僅かに出る程度だった。


『ゲシュペンスト12より、JG38の第3飛行隊へ。敵機発見、数およそ20。方位は……』


 唐突に早期警戒機より指示を拾うが、ベッカーらには関係の無いことだった。

 

 既にフランス本国に侵入している。

 だが、1年程前ならば敵機の大歓迎を受けたこの空も、もはやドイツの空となりつつあった。


 フランス空軍の迎撃は低調であり、五月雨式に少数の戦闘機が襲い掛かってくる程度であったのだ。

 それがフランスによる作戦というわけではない。


 単純にフランス側の探知が遅く、迎撃が間に合わないことにあった。


「ヤーボは今日も元気に麦を刈っているようだな」


 ベッカーの言葉を聞き、笑いが巻き起こる。

 低空奇襲を得意とする戦闘爆撃機はフランス本国を連日攻撃し、そのレーダー網をズタズタに引き裂いていた。

 他にも道路上を動く色々なものを攻撃し、フランスの物流そのものを大きく停滞させている。


 ヴェルナーはフランス側にもレーダーが配備され始めたという情報を入手するや否や、抜かりなくヤーボを爆撃前に投入することを徹底させていた。

 そして、ヤーボ以外にもチャフや妨害電波などあらゆる手段でもって爆撃隊の探知を遅らせるよう、関係各所と連携しながら作戦を進めていた。

 

 自軍の被害を最小化させる為、あらゆる手間と予算を惜しまない――


 人命第一ともいえる姿勢はベッカーのみならず、多くのパイロットにとって有り難かった。

 誰だって死にたくはない。

 ましてやそれが勝利が見えた戦争ならば。


「そういえばミサイルとやらが実戦配備についても、爆弾や機銃とかはなくならないそうですよ」

「それはまた何でだ?」


 ボッシュの言葉にベッカーは問いかける。


「何でもミサイルは高いからだそうです。爆弾や機銃弾の方が安くて良いとのことで……任務によって使い分けるとか何とか……空軍の広報誌に出てました」

「ぼかしているとはいえ、新兵器をポンポン公開するのはウチくらいなもんだろう」


 ベッカーは呆れた声でそう言うのだった。







 






 艦政本部に勤める牧野茂は溜息を吐いた。


 先日行われた軍令部の戦訓会議の結果、これからの海軍艦艇は対艦能力は勿論、対空や対潜能力にも優れていなければならない、という無理難題を押し付けてきたのだ。

 

 牧野は1925年から艦政本部にて各種艦船の設計に携わりながら、造船先進国となったドイツへと留学。

 1929年に留学を終えて帰国、その後は艦政本部でもそれなりの地位に就いていた。


 予算からくる設計の制限はきつかったが、元々内外の状況が震災などを除けば極めて安定していた為、かなりの余裕を持って海軍の艦艇は設計・建造されている。


 そんな牧野にとって衝撃的だったのは睦月型駆逐艦や球磨型軽巡洋艦の後継として吹雪型駆逐艦、川内型軽巡洋艦の設計がようやく終盤に入りつつあったのに、ここにきて独仏戦争の戦訓を取り入れろという命令が出たことだ。

 元々吹雪型や川内型は牧野が留学前から――1926年から調達が持ち上がっていたものの、予算不足という難題と欧米との技術差を何とかするのが先だ、という判断によりお流れになっている。

 


 そんな経緯があったのだが、戦訓を取り入れれば当然ながら最初からやり直しとなり、大きな手間が掛かる。

 もっと早くに言え、と艦政本部の誰も彼もが思ったのだが、用兵側としては独仏戦争は陸戦主体となり、まさか海戦が起こるとは予想外のことだった。


 ともあれ、作ってから改装やら何やらするよりは設計段階でやり直す方が懐に優しいのは確かだ。

 勿論、艦政本部側の不満は大きいが。

 

「しかし、難しいな」


 牧野は自らのデスクにて吹雪型と川内型の設計図と睨めっこだ。

 朝からずーっと彼はこうしていた。


 予算と技術的な制約があるが、それ以外の制約は無いに等しい。

 条約などで国際的に雁字搦めにされてしまうことと比べ、予算も技術も所詮は国内問題であり、時間経過での解決が期待できた。 

 また用兵側も無理難題を言った自覚はあるらしく、急げとは言っていない。


「一番手っ取り早いのはドイツのフネを真似ることだが……」


 彼はドイツに留学していたことから、ドイツ海軍の若手の技術者や軍人達には知り合いがそこそこいた。

 彼らと一緒にどのようなフネを今後建造すれば良いか、とよく議論したものだ。


「駆逐艦や軽巡を針鼠にしようとしていたな」


 飛行機の発祥の地ということから、航空機に対する理解は深いらしく、対空砲としても使える両用砲を主砲に据えて、機銃もなるべくたくさん載せるという主張を彼らがよくしていた。

 何でも海軍と空軍の実験で標的艦に改造された戦艦を沈めたとか何とか。


「主砲を両用砲にして、あとは機銃を増設すれば良いか……」


 だが、と牧野は頭を悩ませる。

 復元性の問題からあまり多くの武装は載せられない。

 とすると、百発百中とはいかないまでも高い命中精度を誇る対空砲なり射撃指揮装置なりが必要となる。

 それらがあれば大量の武装を載せなくとも、充分な対空能力を得ることができるからだ。

 一応昨今の航空機の急激な進歩に対応すべく、日本でも陸海軍が共同でドイツの88mm高射砲や105mm高射砲や射撃指揮装置を戦前より輸入・研究しながら、当面の繋ぎとしてライセンス生産している。

 冶金技術などの問題からドイツ製よりその性能は数段落ちるが、それでもそこそこの性能を誇る。


 とはいえ、これには幾つかの問題があった。

 欧州では既に時速700km超えの戦闘機が敵味方問わずに乱舞しており、爆撃機や攻撃機についても時速400kmから時速500kmは当たり前、速いものになると爆装して時速600kmを超えるという。


 当然ながら、現在日本がライセンス生産しているドイツ製の高射砲は戦前に開発されたタイプであり、戦訓を取り入れて改良が施されたタイプではない。

 また高射砲そのものは勿論、その周辺機器なども精度の面で大幅に劣っており、高速化する航空機に対応する最新型をライセンス生産するには別途契約を結び、クルップ社やラインメタル社などに技術指導をしてもらわねばならない。

 そして、もっとも重要な点は現在日本がライセンス生産している旧型の88mm高射砲や105mm高射砲であっても値段が恐ろしく高いことだった。

 例えば88mm高射砲は1門あたり7万円程の値段であり、これは九〇式戦闘機1機とほとんど同じ値段だった。


 故に海軍では主力艦に優先的に配備され、陸軍では東京・大阪・名古屋・福岡などの要地にのみ配備されている。

 


 旧型ですら生産に四苦八苦しているのに、最新型ともなればそれを日本で生産した場合、どれだけの値段になるか想像もつかないことが陸海軍上層部が生産タイプの切り替えに踏み切れない大きな理由の一つだった。


 牧野はどうにもならない現状に溜息を吐き、頭を切り替える。


「搭載量に余裕を作れば武装はひとまずはそれなりで良い。それよりも……」


 艦の強度や復元性、機関に余裕を持たせれば長く使える――


 牧野はそう考えることで武装はそこそこに、それ以外の部分を追求することに決めた。










「航空機だ、航空機だと騒いでいるが、これからは潜水艦も重要な時代だ」


 軍令部次長の末次信正はそう呟き、自身の考えが間違っていなかったことを改めて確認する。



 日本は現在他国との関係においては非常に安定している。

 とはいえ、陸海軍が政府と共に協議して定めた仮想敵国というものは存在する。


 まず第一にロシア帝国。

 日露戦争のリベンジマッチ、不凍港を手に入れる為に再び南下してくる可能性があると考えられている。

 かつて破ったバルチック艦隊は再建され、より強力となっている。

 無論、ウラジオストックを拠点とする極東艦隊もまた以前よりは強力であることは言うまでもない。

 戦艦こそないものの、重巡をはじめ多数の艦艇と共に潜水艦、航空機が配備されている。


 やすやすと日本海の制海権・制空権を奪わせないが、それでも戦えば苦戦は免れない。

 


 次にアメリカ合衆国。


 太平洋の彼方にある国だったが、その海軍力は侮ることはできない。

 大陸やフィリピンに有する利権や植民地の為、日本と衝突する可能性は低いながらもあると考えられている。

 またその国力は欧州列強やロシアと比較した場合は落ちるものの、日本よりは遥かに強大であり、太平洋を渡って侵攻できると海軍は判断していた。


 そしてドイツ帝国。

 満州や中国に利権を多く有し、また太平洋上にも数多くの植民地を有している。

 現状のところは対立する可能性は皆無だが、その国力や技術力の高さから充分な警戒を要すると考えられている。

 特にロシアやアメリカとは違って空から直接本土攻撃をしてくるのではないか、という面で危険視されていた。




 これらの仮想敵国への対策として末次は以前より潜水艦の発達に力を入れ、強力な武装と長い航続距離を持った潜水艦の開発をすべきだと主張していた。

 海軍としては潜水艦と戦艦や空母、陸上基地からの航空機を組み合わせた漸減邀撃構想が基本方針として定まっていた。


 そして、独仏戦争での運用を見るに、潜水艦は次世代で戦艦や航空機と並ぶ主力と評価するに相応しい働きであったが、どうにも彼が考えていたように潜水艦というのは簡単なものではなかった。


「武装は重要ではない、大事なのは隠密性と静粛性……そして水中での行動力だ」


 末次からすればまさか水中での音を拾ったり、潜水艦が発する磁気を探知したりするなどでその居場所を割り出すなどという発想は思いも寄らなかったものだ。

 

 初戦こそドイツやイギリス相手に大戦果を上げたフランスの潜水艦も、今ではシェルブール戦のような例外を除けばほとんど攻撃に移る前に探知され撃沈されているという。

 見つかってしまえば潜水艦がいかに脆弱であるか、末次は嫌でも理解できた。


 そして、それらの弱点から逃れる為には隠密性と静粛性を高め、また万が一発見された場合でも逃げ切れるように水中での行動力を向上させねばならない。


 既に末次は潜水艦に関しても研究会を立ち上げ、ドイツやイギリスから戦闘詳報を取り寄せて研究させていた。


 研究会の面々は潜水艦自体が地味なことから参加する者は少ないものの、だからこそより熱心だった。

 中には面白いアイディアもあり、潜水艦とドイツが実戦配備している噴進弾を組み合わせてみてはどうか、というものもある。

 そういったアイディアを末次は漏らすことなく記録し、実行できる範囲であちこちに提案をしていたりする。

 

 意外にも噴進弾に関しては航空本部の大西大佐や陸軍でも乗り気であり、研究所の設立に向けて動き始めていた。

 これには戦訓会議後から少し経過した後、非開示としていたドイツ軍の次世代的な戦術や戦略等について開示したことの影響もあった。

 ドイツ派遣団に伝手のある者からは既にそういった情報が伝わっていたが、陸海軍上層部が公式的に開示したというのは大きな意味がある。

 既に周回遅れにされているとはいえ、やるのとやらないのでは大きな違いがあるとドイツに遅れて日本もできる範囲で注力し始めたのだ。



 そんな動きを作り出した末次だったが、彼としては先の戦訓会議でようやく一息つけた、というのが実情だった。


「しばらくは砲術屋も静かになる……」


 末次は机の引き出しから日本海軍における編制表を取り出す。


 遣欧艦隊として派遣されている長門級の長門・陸奥と金剛級の金剛・比叡。

 日本の守りとしている長門級の相模・伊予と金剛級の榛名・霧島。

 それ以前の戦艦は全て廃棄か、もしくは練習艦とすることで費用の削減を実現している。


 戦艦8隻というのは充分に誇れる数字だ。

 その性能も列強に勝るとも劣らないと末次であっても確信している。

 とはいえ、静かになった砲術屋達は次期主力戦艦は46cm砲か51cm砲を搭載する高速戦艦を、と画策しているらしいという噂が既にあった。

 


「しかし、空母か。確かに戦艦に比べれば脆いだろう。だが、かといって戦艦のように頑丈に作ろうというのはどうなのか……?」


 末次は今度は引き出しから、大西大佐から提出された空母の原案を取り出した。


「我が国は1艦足りとも無駄にはできず、徹底的な不沈対策を取るべし……か」


 予算問題もあるが大西大佐の言い分ももっともだ。

 沈んでしまえば掛けた費用も何もかも一切合切が全てがお終いだ。


「また、政府の連中に文句を言われるな……」


 末次は溜息を吐くしかなかったが、日本を守護するには勿論のこと、列強に対して発言する為にも相応の軍事力が必要なことは確かだった。


 大西の案を見ていくと、最後に名前についての案まである。

 末次は苦笑しながら、見てみるとそれは戦艦としてでも通用しそうな名前だった。


「天城・赤城・加賀・土佐か……どうなることやら」










 


「おおう、こりゃとんでもないな」


 大西瀧治郎は現在テスト中の機体について、感嘆の声を上げた。

 その機体は非常に大きい。

 その見た目は4翅の二重反転プロペラ、逆ガル式の主翼を低翼に配置した特徴的なものだ。

 大西がこれまで目にしてきた日本製の機体は勿論、ドイツ空軍から研究用に買い取ったDo235やHD75と勝るとも劣らない。

 


「あれだけ荷物を抱えてあの速さか……」

 

 大西は目の前にある光景にそう呟いた。


 横須賀海軍航空隊の九〇式戦闘機がまるで追いつけないのだ。

 その機体は模擬弾で最大爆装しているにも関わらず。


 最大爆装量5トン、もしくは主翼下に2本ずつ、胴体下に1本、合計5本の魚雷を1機で運ぶことができる。

 更に地上支援用として20mm機関砲を両翼に合計4門装備している。


 それがドイツ海軍の艦上攻撃機――MB11グライフであった。

 液冷エンジン特有の尖った機首に搭載されているのは液冷24気筒H型エンジンであり、3800馬力を誇る化け物エンジン。

 最大爆装状態で重量は14トンにも達する、下手な双発爆撃機よりも重いものだった。

 それでいて最大爆装状態で最大速度553km/hを叩き出し、その状態で2000km、爆装しない場合は最大速度632km/hで4800kmという航続距離を誇る。


 日本陸海軍の基準ならば、というか世界中で見ても双発爆撃機のスペックなのだが、ドイツは艦載機として開発してしまった。


 これを空母から飛ばす為にドイツ海軍が開発した蒸気式カタパルトも試験されたが、結果は良好であり、大西をはじめ、横須賀航空隊や航空本部の視察者は目眩がしそうであった。


 そして、ドイツ海軍は空母を建造中というのだ。

 ドイツ海軍の広報誌によれば試験用として3万5000トンと5万トンの空母を2隻ずつ、本命の主力として10万トンクラスの大型空母を4隻。


 噴進弾や噴進式航空機を実戦配備するくらいなのだから、当然といえば当然かもしれないが、と大西は思うがいくら何でもこれはひどい、と言わざるを得なかった。


「これと制空戦闘機としてTa152を艦載機に転用した機体……MF252か」


 そのMF252もTa152の最新タイプと比較した場合、艦上機であることから制限が多い為、若干性能は落ちるものの、日本の九〇式とは比較にならない性能を誇っている。


 どちらも新鋭機といっても良い部類だが、既にドイツ海軍も艦載機は噴進機――ジェット機とするよう定めているとのことで、艦載ジェット機の開発までの繋ぎとして少しでも導入コストや運用コストを下げる為に日本に売り込んできたというのが事の顛末だった。


 開発競争に出遅れている日本と開発競争の最先端を突っ走っているドイツとは、その点において利害が一致したことが今回のような事態を招いていた。


 既に日本陸海軍の上層部は全てとまではいかないが、それでもそれなりの数のドイツ製兵器の導入を図ることで、当面の繋ぎとし、その分の浮いた予算で基礎的な技術力の向上を図ることにしている。

 対するドイツは最先端にあるが故、既存の兵器を全て旧式に変えるようなものを開発し、配備する。

 そして、ドイツは現在戦争中であり、大量の兵器が存在する。

 それらが丸ごと旧式兵器に変貌する為、不良在庫を抱え込んでしまう。

 少しでもそれを捌く為に売りつけたいところだが、下手な国に売っては自国の脅威となる。

 とすると、国力が貧弱で脅威とならないような、距離的に遠い国となり、日本がまさに当てはまった。



 やがてMB11は全ての試験を終えたのか、滑走路へと進入し着陸し、そこから搭乗員が降りてきた。

 今回の試験飛行の栄誉に授かったのは淵田美津雄大尉だった。


 彼は大西の前で敬礼し、大西が答礼すると手を下ろしながら短く告げる。


「凄すぎますわ」


 だろうな、と大西も同意しながら問う。


「操縦性はどうか?」

「八九式と比べて重い分鈍いですが、そもそも比較するのが間違っとります。あっちとこっちでは誰に聞いたってこっちを選びます」


 八九式は史実での九七式艦攻に相当する機体だ。

 日本海軍の主力艦攻として、欧州派遣中の鳳翔にも数機搭載されている。

 だが、母艦航空隊自体が鳳翔しかない為、訓練・哨戒用として細々と生産が続けられている。


「何か不満な点はあるか?」


 大西は質問の仕方を変えた。

 

「特にはありません。電探も正常に稼働しておりましたし、これなら単座でも長距離攻撃を仕掛けられそうです」


 うむ、と大西は満足気に頷く。

 このMB11、これほどの化け物性能であっても、価格は九〇式戦闘機4機分程度であり、何とかそれなりの数を導入できそうだった。

 なお、MB11やMF252以外では既に幾つかの機種が配備されることが決まっていた。

 

 

 















 



「ふむ……」


 レーダー大将は報告書を見、顎に手を当てた。

 報告書は今後の大海艦隊の艦艇調達計画の進捗状況だ。


 グロス・ドイッチュラント級戦艦は予定通りに3年以内に8隻全艦が竣工する。

 またジェット機すら運用可能な航空母艦ヴェルナー・フォン・ルントシュテット級は5年以内に予定された4隻が竣工し、他に技術習得の為に建造した3万5000トンと5万トンクラスの航空母艦は2年以内に各2隻ずつ竣工する予定だ。

 なお、これらの技術習得用空母を廃棄もしくは練習艦とすることで追加で4隻のヴェルナー級の建造を認めるという約束を議会と政府に取り付けてあった。




「ヴェルナー・フォン・ルントシュテット級か……」


 艦に名前をつけられるというのは名誉なことであったが、レーダーからするとどうにも笑いが込み上げてくる。

 それは彼がヴェルナーと友人関係にあることも起因する。


「しかし、予算がやはり厳しいな。機器や兵器の性能向上化に伴って、予想通りに値段も上がっている……」


 レーダー大将は溜息を吐いた。

 日本軍の将官達が聞いたら、何て贅沢な悩みなんだ、と誰も彼もがツッコミを入れるに違いない。


「ローレライ作戦でどれだけ海軍が更に点数を稼げるか、それでまた状況も変わってくるだろう」


 そのとき、扉が叩かれる。

 レーダーが許可を出すと入ってきたのは彼の参謀長だった。


「長官、こちらがローレライの……」


 差し出した書類の束をレーダーは受け取り、さっと目を通す。


「参加兵力は駆逐艦6隻に輸送艦6隻、海兵隊2個大隊か。揚陸艦は使わんのか?」

「揚陸艦を使うにはさすがに狭過ぎます。輸送艦から舟艇をクレーンで下ろし、そこに海兵を乗せて上陸させることになっています」


 レーダーは頷きながら問う。


「奇襲されると面倒だぞ?」

「空軍のルントシュテット元帥は近接支援機と戦闘機を常時張り付けると言っています。100機は出せると」

「流石は魔法使いだ。あいつは本当に魔法の壷から飛行機を出しているのかもしれん。事前爆撃は?」

「戦術爆撃機と近接支援機を上陸3時間前に200機程投入予定です」

「充分だ。陸軍からの支援は?」

「デュイスブルクにて、遡上開始前から3時間の砲撃を予定しています。近隣の砲兵を総動員すると……」

「陸軍部隊は?」

「橋頭堡確保後、12時間以内に1個師団相当を先陣として送り込むとのことです。必要なだけの輸送艦は既にこちらから提供してあります。本隊は装甲師団を主力とする5個師団だそうです」


 6個師団か、とレーダーは反芻する。

 陸戦のことには疎いが、上陸地点はデュイスブルクからおよそ30kmのところにある岸辺だ。

 そこは遮るものが何もない場所であり、また、すぐに通りに出ることができる。

 遮るものがないということはこちらの航空支援を充分に活かせる。

 敵にとっても攻撃し易いが、敵の動きが空から丸見えであることから問題はない、と考えられていた。

 しかし、多数の兵員が悠長にいられる場所ではない。

 故に、すぐに進撃をしなければならないだろう。


 また、師団規模の兵隊を運ぶとなれば十数隻の輸送艦が必要だ。

 幾らライン川が大河といえど、どうやっても渋滞を起こし、敵に態勢を立て直す間を与えてしまうだろう。


 陸軍の計画によれば36時間以内に南北に部隊を前進させ、脆弱な敵軍の戦線を食い破り、敵の要塞陣地を根こそぎ包囲することになっている。


 とはいえ、陸軍側もすんなりと事が進むと考えてはおらず、敵の装甲師団が後方に配置されており、迅速な機動防御に出ると確信していた。


「民間からライン川の船舶運航について、マニュアルを……いや、携わっていた輸送事業者を引き抜いて対策チームを立ち上げよう。少しでも渋滞を緩和するには専門家に任せるのが一番だ」


 ローレライ作戦の実施は5月半ばとされており、ローレライの実施に合わせて20インチ砲弾をはじめとした主砲弾を使ったフランス軍前線陣地に対する攻撃も開始されることとなっている。

 そして、これら一連の作戦行動はツィタデレと命名された。


 レーダーはツィタデレ作戦により遅くても6月までには戦線が一気に動くと考えていた。


「……そういえば、陸軍の新型戦車が……」


 ヴェルナー経由で聞いた話によれば陸軍は五号戦車の試験配備の前倒しを決定しているらしかった。

 対する空軍も新型のジェット機や既存のジェット機の改良型の配備を前倒しすると発表している。

 海軍もそうであるように、陸軍や空軍も戦争が終わるまでに少しでも点数を稼いでおきたいのが本音であった。




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