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次世代の兵器体系

独自設定・解釈あり。

 異形の鳥が1月のフランスの空を飛んでいた。

 その鳥が発する音は決して耳障りの良いものではないが、それに乗る者達にとっては心地良いものだ。

 



「いつも思うが、この高度をこの速度で飛ぶ我々を落とせる敵機も対空砲もないな」


 バリジア大尉はそう呟いた。


「全くです。最初にこの機体を見たときは開発者の頭のネジが飛んでいると思ったものですが……」


 後席に座るクラウス少尉の言葉にバリジアは肯定する。


「Do235を横に2つ、くっつけた異形機だからな」


 答え、バリジアは計器を眺め見る。

 高度13000m、時速740km弱。


「このDo435を落とすにはレヒリンから実験機を持ってくる必要があるだろう」

「あそこは魔窟と聞きますからね。そういえば、コレと同じように、S85を2つくっつけた機もあった筈ですが……」


 そんな2人のやり取りに、もう一方、バリジア達とは反対の左側の機体に乗る面々が声を掛けてくる。


『S95だ。それは俺のいとこが乗ってるが、S85並の速度と運動性能で爆弾を2トンも積めて、4000km近く飛べるそうだ』


 そう言ったのは左側の機体の操縦席に座る同期のリュッツ大尉だった。

 バリジアはその言葉に肩を竦める。

 かつてドイツ空軍の主力双発爆撃機であったB23を上回る性能だ。

 現在の主力であるB24も速度性能や運動性に関してはS95――JB21(Jabo=戦闘爆撃機)に譲るだろう。

  

 

『レヒリンといえば、プロペラの無い戦闘機を作ってるとかいう噂がありますが……』


 そう言ったのは左側の機体、その後席に乗ったエイルズ少尉だ。

 彼の言ったプロペラの無い戦闘機というのは昨年から囁かれている噂だった。

 あのレヒリンならば魔法使い殿から伝授された魔法を使っていてもおかしくはない、とバリジアは思う。


『単なる噂だろ? 幾ら何でも』


 リュッツの言葉にエイルズは証拠はあります、と答え、告げる。


『レヒリンの近くに住んでいる親族がいるんですが、彼によれば1ヶ月に何回か、夜間に聞いたこともない甲高い音が空からするそうです』


 バリジアはレヒリンでドラゴンでも作っているんじゃないか、と考えたが、さすがにそれはない、と頭を振る。

 

「そろそろブレスト上空です」


 クラウスの声にバリジアは前方へと目を凝らす。

 昨夜、イギリス空軍が500機程の爆撃機でもってフランス最大の港湾都市、ブレストを爆撃している。

 今回、バリジア達はその戦果確認が任務であった。


 大火災が発生したとのことだったが、さすがに高度1万mを超えていてはその煙を確認することはできない。


「高度を落とす。6000まで降下する」


 そう宣言し、バリジアはゆっくりと減速しつつ、機体を降下させていく。

 20トン近い重さであるDo435は下手に急降下なんぞすれば機体が耐えられず、空中分解を引き起こしかねなかった。



 やがて高度6000まで下り、撮影準備に入った。

 ブレストの真上を突っ切る形でまっすぐに、そして速度も500km程に落とさなくてはならない。

 対空砲なり戦闘機なりが生き残っていれば最も襲撃しやすいタイミングだ。

 

 僅か数秒のことであるのに、バリジアを含めた全員には数時間にもその時間は感じられた。



「撮影完了!」

「撤退する!」


 バリジアは一気に機体を加速させた。

 掛かるGにより、座席に体が押し付けられる中、彼は機体を旋回させ、進路をイギリスへと取った。

 写真をイギリス空軍に渡さねばならなかったからだ。


 そのまま機体を上昇させ、十分に安全圏に入ったところでバリジアは一息ついた。


「イギリスも、自分とこのモスキートでやればいいと思うんだが……」

「イギリス空軍のモスキートは我々よりは遅いですから、まあ仕方がないかと」


 それもそうだ、とバリジアは納得したのだった。












 バルト海に面したウーゼドム島。

 その島はのどかな田舎街であったのだが、ヴェルナー・フォン・ルントシュテットがここに目をつけたことで島は一転する。

 1920年代、空軍発足とほぼ同時にヴェルナーは次世代型防空兵器という名目で予算を獲得し、ここに空軍の研究機関――ペーネミュンデ実験センターを設立し、同時に研究所防衛の為に大規模な空軍基地も設置。

 以後、ここは史実と同じようにドイツにおけるミサイル・ロケット開発の拠点となっていった。

 研究・開発には陸海空軍だけでなく、RFR社をはじめとした多くの民間企業も参加しており、その規模は史実の比ではない。

 アーネンエルベ計画により一体化された後はよりその資金と人手は増加し、これまでに累計で数百億マルクという多額の予算が注ぎ込まれていた。


 ペーネミュンデにおける研究開発項目は非常に多岐に渡るが、主なものは地対空ミサイルをはじめとした各種戦術レベルでのミサイル兵器は勿論のこと、大陸間弾道弾や人工衛星(・・・・)の打ち上げ能力を持つ大型ロケットであった。

 


 ペーネミュンデ実験場において、1月の半ば、成功が約束された――すなわち、デモンストレーションとして幾つかの実験が行われようとしていた。






「随分と集まったな」


 ヴェルナーは会場にいる面々に苦笑いせざるを得ない。

 彼はアーネンエルベ計画の責任者として、招待した側であったのだが、ここまで集まるとは予想しなかった。


 屋外実験場がよく見えるこの会場には陸海空軍の参謀総長、政府首脳陣などが集まっていた。

 もし今、ここで爆弾の一つでも投げ込まれればドイツはたちどころに機能不全に陥るところだ。

 だが、ヴェルナーは主催者として客の警備については万全の体制であると自信をもって言うことができた。


 隣接した空軍基地にはレヒリンより実験飛行隊を呼び寄せており、ペーネミュンデにおける実験のついでにジェット機のお披露目も企画している。

 無論、これらはその搭載武装と共にやってきている為、万が一の空襲にも対応できる。

 元々駐屯している空軍部隊も当然対応する為、余程の大軍で押し寄せない限りはまず安全だ。

 諜報組織による破壊工作に対しても、ラインハルト・ハイドリヒが部下を動員して自ら指揮を取っている為、心配する必要はない。


「ヴェルナー、随分と呼んだな」


 そう声を掛けてきたのはヒトラーだった。


「ああ、予算獲得の為に必要だからな。アーネンエルベを推進していけば必ずドイツは次世代産業において優位に立つことができる」


 ヒトラーはその言葉に渋い顔だ。


「分かっていると思うが、予算の大盤振る舞いは戦時だからだぞ? 無論、大いに必要であることは認めるが、戦時と同じ予算で考えてもらっては困る」

「そうしたら民間から募るさ」

「機密だろう?」

「転用できる部分は転用して、民生品の性能を上げてもらえればより安く仕上げることができる。将来のコストダウンに繋がるのだよ。とりあえず500億マルク程、追加予算があるとこれから10年は安泰なんだが……」

「その10年でどれだけの差を出せるんだ?」

「100年先まで安泰だ。10年で他国を完全に周回遅れにできるだろう。10年後に更に500億であるならばもう100年だ」


 ヴェルナーは電子産業――とりわけコンピューター関連は高性能化が進めば進む程に開発コストが幾何級数的に膨らみ、また技術的問題により困難となることを知っている。

 その段階までドイツにおける電子産業のレベルを引き上げてしまえば、銃弾を一発も使わずに世界市場を征服できるだろう。

 無論、同盟国には反感を買わない為にある程度は技術提供をする必要はあるが、そこをクリアすれば膨大な利益が転がり込んでくる。


 そのコンピューターに関して、既にRFR社、ジーメンス社などの幾つかの企業が共同開発した真空管を多用したケプラーという名前のコンピューターを販売している。

 いわゆる史実でのENIACと同じものだが、これの開発にはコンラート・ツーゼ、ジョン・フォン・ノイマン、アラン・チューリングなどのコンピューター黎明期の大物達が開発に携わっている。

 彼らは現在、アーネンエルベ計画に取り込まれ、トランジスタで駆動するより小型で高性能なコンピューターの開発に邁進していた。


「国家予算2年分だぞ? これまでの戦費も合計して10年分、借金を抱えることになる。そして、戦後にはよりカネが掛かる」


 ヒトラーの言葉はもっともだった。

 フランスから獲得するだろう植民地の開発には膨大なカネが必要であり、それでいて利益が出るようになるには年単位の時間が掛かる。


「大丈夫だ。国債のほとんどは国内で回している。個人で一番買っている私が言うんだから間違いない」 


 ヒトラーは痛いところを突かれた。

 ドイツ国債は他国でも飛ぶように売れているが、それでもその大部分はドイツの中央銀行をはじめとした銀行や企業、あるいは個人投資家に買われている。

 これは外国が債権国になることを防ぐ処置であり、政府の財務顧問となっているヒャルマー・シャハトの提案によるものだった。



「……500億だぞ? それ以上は私では無理だからな」


 ヒトラーの承諾はあくまで議会でアーネンエルベ計画への予算増額を推進する、というだけであり、議会と政府を説得せねばどうにもならない。

 だが、ヴェルナーにとってヒトラーが味方に回ったことは非常に頼もしい。

 故に、彼が笑みを浮かべ告げる。


「関係各所を説得する為の資料は提供しよう」

「当然だ」

「まあ、今回のデモンストレーションを見れば否が応にも予算増額には応じると思うがね」


 そんなに凄いのか、とヒトラーが問いかけようとしたとき、声が響いた。


「皆様方、本日はペーネミュンデへようこそお越しくださいました。技術責任者のセルゲイ・コロリョフです」

「同じく、副責任者のヴェルナー・フォン・ブラウンです」


 会場の視線が一斉にその声の主達へと集中する。

 壇上に上がっていたのは2人の若者だった。

 コロリョフは20代、ブラウンに至っては10代後半であり、あまりの若さに出席者達からはどよめきの声が洩れた。


 そんなどよめきに対して、コロリョフは笑顔で告げる。


「我々が若すぎる、ということに対する文句でしたら、そこにいるルントシュテット中将へどうぞ」


 突然振られたヴェルナーであったが、特に慌てることもなく、居並ぶ面々に告げる。


「彼らに関しては私が保証する。彼らがいなければ我が国のロケット開発は10年以上遅れることになるだろう」


 そんな褒め言葉に対し、コロリョフとブラウンは苦笑する。

 予算も人員も設備も最高峰なのだが、ヴェルナーから出される要求は非常に過酷であるが為だ。


「さて、実験場をご覧ください」


 コロリョフの言葉に出席者達は一斉に実験場が見える窓際へと移動する。


 そこには3台の大型トレーラーがあった。

 そのトレーラーには発射台があり、そこにはミサイルが備え付けられている。

 本来ならば専用のキャニスターに収められているのだが、今回はデモンストレーションということもあってむき出し状態だ。

 

「ミサイルには対空・対艦・対地と主に3種類がありますが、今回は対空ミサイルの実験を行います」


 そして、プロペラ音が響いてきた。

 やがて、実験場上空に遠隔操縦式の標的機が飛んでくる。


「今回、用意した対空ミサイルはそれぞれライントホター、ヴァッサーファル、シュメッターリンクという名称です。これらは誘導方式こそ同じですが、それ以外は全く異なるものであります」


 コロリョフによればヴュルツブルクレーダーでもって誘導し、ある程度の段階でミサイル本体に搭載された小型レーダーが誘導を引き継ぎ、目標に突入もしくは目標の近辺で近接信管(・・・・)により爆発するとのことだった。

 また、赤外線誘導装置が保険として搭載されており、更にはより進歩した方式――テレビ誘導方式やレーザー誘導方式といったものも目下開発中とのこと。


 さらにこれらのミサイルは車両発射型もあるが、そちらは付属するもの――レーダーやら射撃指揮装置やら電源車やら――が大掛かりになりすぎる為、今回の実験には参加しないこともあわせて説明された。


「それでは実験に移りたいと思います。今回の標的機は時速600km、高度2000mを飛行しております。まずはライントホターから」


 コロリョフはそう言い、傍らにいる係員に頷いてみせる。

 係員は無線電話で指示を飛ばすと、間髪入れずに轟音と共に発射台から、独特な形状のライントホターが空へと舞い上がる。

 風を切るその音は会場内に集った観客達の多くを驚かせながら、ライントホターはみるみるうちに小さくなり、やがて爆発した。


「ライントホターは四段式液体(・・)燃料ロケットであり、速度は時速1520km、最大射程距離は220kmですが、炸薬は120kgと少ない為、殺傷範囲が狭いタイプです」

「既存の対空砲よりは遥かに使えることは間違いない」


 そう声を挙げたのは空軍参謀総長のファルケンハインだった。

 彼の言葉に同意するかのように、陸軍のゼークトや海軍のシェーアもまた称賛する声を上げる。


「1発あたりのコストはどうですか?」


 そう問いかけたのはヒトラーだった。

 彼の言葉に続くように、あちこちから「高価過ぎるのは問題がある」というような声が上がる。

 いずれも政府高官や議員からのものだった。


「ライントホター1発の値段は2万3000マルク程ですが、量産すれば2万マルクか、それ以下になります」


 コロリョフの言葉に続くように、ヴェルナーが口を開く。


「空軍省補給本部の試算では昨年の8月に導入した近接信管(・・・・)付き高射砲弾によって、爆撃機を1機落とす為のコストは3000発、だいたい4万マルク程です。大量生産している為、1発あたりの値段が安い高射砲弾でも、大量消費すれば大きな金額になります。その為、ミサイル兵器は極めてコストの面から考えても良い兵器であると言えます」


 多くの面々はそれで納得したが、彼の悪友――ヒトラーは納得しなかった。


「ルントシュテット中将に質問しますが、高射砲弾1発あたりのメンテナンス・運用コストとミサイル1発あたりのものではどちらが高いですか?」


 嫌なところを突かれたヴェルナーだったが、彼は慌てずに答える。


「そういった面から考えればミサイルの方が高いのは事実です。しかし、撃ち漏らしが高射砲と比較してあまりありません。そして、敵爆撃機による爆撃を許せばそれだけ国民の財産・生命に関わるとなれば、多少のコストが掛かったとしても、より効率的な兵器が必要ではありませんか?」


 政治家にとって、もっとも反論し難いものを押し出したヴェルナーにヒトラーは渋い表情となる。

 だが、彼は釘を刺すのを忘れない。


「メンテナンス・運用コストと開発・調達コストの削減を希望します」

「次に新規開発する場合、部品点数の徹底的な削減と部品の共通化によるコストの削減を予定しておりますのでご安心を」

 

 ヴェルナーは抜かりなく、そう返したところでコロリョフが言葉を発する。


「ではヴァッサーファル、シュメッターリンクの実験に移りたいと思います」








 その後、実験は順調に進んでいった。

 その中で、ヒトラーが1種類に絞った方がいいのではないか、とこれまた嫌な質問をしてきたが、もし開発に失敗した場合の保険とより多角的な技術開発及びその蓄積の為に必要である、とヴェルナーが答えたことでヒトラーも納得した。



 そして、全てのミサイル実験後、ヴェルナーは時計を見ながら告げた。


「では本日はもう一つ、世界で初めての航空機をお見せしましょう」


 彼の言葉から程なくして、空に響き渡る甲高い音が聞こえてきた。

 それはどんどん近づき――


「何だあれは!?」


 素っ頓狂な声を上げたのは海軍のシェーアだった。

 彼に続いて、ゼークトやファルケンハインも次々と驚きの声を上げる。


 彼らをはじめとした多くの大将達は戦時動員による陸海空軍の規模拡大により、昨年末に元帥へと昇進している。

 故に、元帥となった者達はますます下の者の手本となるべく、気を引き締めていたのだが、そんな彼らですらも驚かざるを得なかった。


 彼と同じように、出席者達は窓から見える空に浮かぶ異形のものを見つけていた。


 見つめる彼らの視線の先にあるのは尖った鏃のような形をした、プロペラの無い飛行機達だ。

 その機体は史実のMe262やF86、あるいはMig15ではなく、より洗練されていた。

 ジェットエンジンは21世紀におけるジェット戦闘機と同じように、胴体内に設置されており、エアインテークはS85と同じように、胴体下にあった。


 もし史実の21世紀を知る者が見れば、それはF16ファイティング・ファルコンを一回り小さくしたものであることが分かるだろう。

 無論、その性能に関してはF16には到底及ばない。

 いくら技術加速しているとはいえ、何から何まで21世紀の技術レベルには程遠い。

 とはいえ、ヴェルナーの知る21世紀の技術レベルを、この世界では20世紀中に達成しそうな勢いであることは間違いない。


 デモンストレーションということもあって、高度は1000m程であり、十分に肉眼で視認できる距離だ。


「世界初の実用ジェット戦闘機、JF30です。最大速度は時速1050km、航続距離は1300kmとなっています。従来のターボジェットエンジンと比較し、この機体に使われているものは2軸式圧縮機や2段噴射型燃料装置などが使われている為、全ての高度において圧縮機効率を60%以上、燃費効率は80%以上改善しております」


 ヴェルナーは出席者達の反応に満足しながら、そう説明した。

 しかし、誰も彼もが空を飛ぶジェット機の編隊に見とれている。


「では、このジェット機がどのように戦うのか、ご覧ください」


 ヴェルナーの言葉に合わせるように、標的機が4機現れ、それぞれがジグザグに動き始めた。

 4機のJF30は機敏に動き、標的機の背後へと回りこむ。


 やがて1機のJF30の両翼が煙に包まれると同時に何かが発射された。

 その何かは標的機の間近で爆発し、それによって標的機が墜落していく。


「先ほどの地対空ミサイルは誘導でしたが、今のは無誘導の対空ロケット弾……R4Mオルカンと呼称されるものです」


 ヴェルナーの説明と共に、更なる動きが起こる。


「何が起こったんだ?」


 誰かが言った言葉は出席者達の心を代弁していた。

 別のJF30は標的機の背後から何かを発射すると、その何かは白い尾を引きながら標的機へ近づき、爆発。

 爆煙が晴れた後には標的機は欠片も残っていなかった。


「今のは空対空ミサイルのX4ルールシュタールです。これはミサイル本体に内蔵したレーダーと赤外線誘導装置が目標を捉えるものです。初期には有線による誘導でしたが、トランジスタの開発により小型化・高性能化をレーダーが成し遂げたが為、このような誘導方式が可能となりました」


 残る2機は標的機の背後から機銃掃射。

 ジェットエンジンの甲高いタービン音に混じって聞こえる独特な発射音。


 残った標的機は木っ端微塵となった。


「JF30は基本的にミサイルでもって攻撃をしますが、当然機銃……正確には20mmガトリングガンを積んでいます。ミサイルは一見万能に見えますが、無力化する術は幾つもあります。故に、機銃は絶対に積まねばなりません」


 ミサイル万能論への戒めを交えたヴェルナーの言葉だ。 

 そして、全ての行動を終えたJF30は上空で編隊を組み直し、帰投していった。





「君は……どれだけの功績を残せば気が済むんだ?」


 そう言ったのは陸軍のゼークトだった。

 今日のドイツがあるのは紛れもなくヴェルナーの功績であることは疑いようがない。

 そして、今また彼は歴史を作った。


 多くの者が飛行機が時代を変えると感じたように、彼らもまたジェット機が時代を変えると感じたのだ。 


 対するヴェルナーは答える。


「私はきっかけを与えたに過ぎません。きっかけさえあれば、私がいなくても祖国はこれくらいはやりましたよ」


 それに、と彼は続ける。


「私はドイツ人であり、更に貴族であります。ならばこそ、祖国の発展に人一倍尽くすのは当然の義務です」


 ヴェルナーは笑みを浮かべて、そう言った。


「君は最終的にどこを目指すのか?」


 そう問いかけたのはシェーアだ。

 彼からすればドイツの軍備は飛躍的に強力になっていくが、その行き着く先はまるで想像できなかった。

 対するヴェルナーは不敵な笑みを浮かべ、答える。


「神話に出てくるヨルムンガンドやリヴァイアサン、あるいはフェンリル。それらが神話通り(・・・・)の性能でやってきても、打ち倒せるようにする……というのが今のところの最終目標です」


 質問をしたシェーアを含め、このままいけば本当にそうなりそうで怖かった。

 だが、非常に頼もしい答えでもあるのは確かだった。










 

 ペーネミュンデにおける実験後、ヴェルナーは仕事が増える結果となった。

 とはいえ、その仕事は空軍の業務ではなく、どちらかというと式典に出席というものばかりだ。

 彼はこれまでの功績を認められて、元帥に3階級昇進の上、勲章を総ナメにした挙句、伯爵の爵位を叙任されたのだ。

 これまでの、というのは今日に至る全ての彼の功績だ。

 もっと早く、その都度行えば良かったのだが、年齢的に若すぎるという、どうしようもない問題から派生するだろう余計なやっかみを回避する為でもあった。



 しかしながら、政府高官や軍高官、皇帝たるヴィルヘルム2世、果ては国民に至るまでこの程度では彼の功績に報いたとは到底言えない、ということを理解していた。


 そんな多忙な彼であったが、空軍省の執務室で開発中の航空機を見て、ニヤニヤするという第三者から見れば実に怪しい時間を作ることは忘れていなかった。

 


「予算があるうちに色々作らねばな」


 ヴェルナーは満足気に戦闘機に関する開発報告書を見て頷いた。


 既にドイツ各軍では勝利への道筋が完全に見えている段階だ。

 故に、各軍では――というよりか、兵器開発・調達を担当する部門では装備の高性能化と低価格化に躍起になっている。

 ヴェルナーのように、予算が獲得できるうちに色々やってしまおう、という思考だ。

 これに関しては各軍の高官達も全面的にバックアップしている。


 例えば空軍ではJF30以外にも、名目上は保険として様々な機体を開発している。

 単純に開発している機体数は10を超え、試作されているエンジンはその倍以上。

 また、その開発機については全て21世紀のものがモデルにされていた。


 F16もどきのJF30以外にも、モデルとなったものはF14、F15、F18、F22などなどの西側戦闘機だったり、Mig29、Mig35、Su27、Su37、Su47などの東側戦闘機もあり、節操がなかった。


 ヴェルナーにどれだけの恩賞を与えても、その功績に報いることができない、という大多数の意見に対して、好き勝手に航空機を開発・調達できるだけで十分というのが彼の素直な意見だった。


 彼は最終的には西と東を混ぜ合わせたとんでも機体を作る気が満々だった。

 とはいえ、価格の高騰という議会と政府を敵に回す爆弾は常に付きまとう為、既にハイ・ローミックスの2本立てと戦闘機のマルチロール化を進めることが決定していた。

 ローとしては単発ジェット機を、ハイとしては双発ジェット機を、という具合だ。

 また、戦闘機は基本マルチロール化されるが、それでも純粋な制空戦闘機としてコストをそこまで考慮しない単発ジェット機を作ることも合わせて決定されている。


 純粋な制空戦闘機の開発は欧州情勢に起因するものだ。

 ソ連が存在せず、アメリカも中堅国以上大国未満という現状から、将来的に欧州諸国同士での小規模紛争が勃発する可能性は存在する。

 大国以上超大国未満という国家が複数乱立しているというのが現在の欧州だ。

 今はドイツを中心とした君主同盟を組んでいるが、情勢など簡単に変わる。


 故に、ヴェルナーは純粋な制空戦闘機が必要であり、それはアンチステルスレーダーと人間が耐えられる速度域での変態的な格闘戦能力を備えたものであるべきだと考えていた。


 しかしながら、大推力のジェットエンジン――ターボジェットではなくターボファンエンジン――が開発・量産されていけば最終的には単発のマルチロール機と単発の制空戦闘機の2機種体制になることが予想されており、最低でも40年以内には達成すべきであるとヴェルナーは各所に檄を飛ばしている。


 

 ヴェルナーは次に爆撃・攻撃機に関する開発報告書へと目を向ける。

 戦闘機のマルチロール化により、小型爆撃機は将来的に姿を消す運命にある。

 だが、そこに至る為の時間は現時点の試算では最低10年は必要であり、そうであるが故に単発の軽攻撃機も開発リストには載っている。

 もっとも、その数は少数であり、多くを占めるのはB52もどきやターボプロップエンジンを使用したTu95もどき、あるいはB1もどきの大型爆撃機であったり、B2もどきの全翼爆撃機だった。

 無論、重攻撃機としてA10を模した地上攻撃に特化した双発攻撃機もあり、この機体に関してはヴェルナーは何が何でも部隊配備をするつもりだった。




 なお、既存のレシプロ機に関しては開発途上のものも多くあったが、ジェット戦闘機・爆撃機の量産化の目処がついたことにより、全てキャンセルされる結果となった。

 残っているレシプロ機の計画といえばエンジンの載せ替え・武装の変更などの改修計画のみであった。

 そして、JF30の本格量産は予定通り5月頃を予定し、また単発のジェット爆撃機も今年の8月頃を目処に量産に移る。


 来年の年末までにはほぼ全てのドイツ空軍部隊がジェット機を装備していることになるだろうが、それまでフランス空軍が、というよりかフランスという国家が継戦能力を維持しているか、甚だ疑問であった。


「輸送機や哨戒機とかもC130もどきやP3もどきがあるが、ネックとなるのはアビオニクスなんだよな」


 アビオニクスの開発はアーネンエルベにおけるコンピューター・レーダーをはじめとした電子技術の研究・開発と連動している。

 故に、航空機だけができても、それに搭載するアビオニクスが不完全であるならば宝の持ち腐れ状態になりかねなかった。

 だからこそ、ヴェルナーは追加予算を無心したのだ。


 そして、その追加予算の審議はまさに今日の午後から議会で行われる予定だった。















「500億マルクでは少ないのではないか?」


 アーネンエルベ計画への追加予算の提案者であるヒトラーに対して、そう問いかけてきたのは与党の議員に彼は思わず苦笑した。

 その議員もあの場にいた人物であり、与党内ではそれなりの影響力を持った人物だ。

 彼の発言をきっかけに、次々と与党内から「もっと多くの予算を費やす必要がある」という声が上がる。

 彼が事前に根回しをしたこともあるだろうし、あの場にいた議員がそれだけいたということもある。

 また野党からも同じような賛成の声が上がる。

 元々ヒトラーは野党にも根回ししていたこともあり、反対の意見はほとんどない。


「だが、新たに国債を出すのは財政のバランス的によろしくはない。確かに有用だが……」


 そう発言したのは政府の財務顧問の1人、ルートヴィヒ・エアハルトだった。

 その横に座っているヒャルマー・シャハトも同意見らしく、頷いている。


 ただでさえ、戦後にはカネが掛かる状況だというのに、これ以上財政バランスを崩すのは財務顧問として容認できなかった。

 彼らとしても、その成果自体は当然認めている。



 しかし、ヒトラーはその反論も織り込み済みだった。


「今、真空管は世界中のあらゆる製品で使われています」


 唐突な彼の言葉にエアハルトとシャハトは身構える。

 ヒトラーがこういった話をしてくるとき、大抵は反論させる気を失わせるものを持っている時だったからだ。


「では、その真空管をより小型化、高性能化したものが量産に入りつつあるのですが、利益がどれだけ出るか、分かりますか?」


 その大きな爆弾にエアハルトとシャハトを含め、議場にいる全ての者が固まった。

 ヒトラーは議場を見渡し、更に告げる。


「そして、それよりも更に小型化・高性能化したものをアーネンエルベでは開発していますが、どうでしょうか?」


 兵器よりも、その話はよほど魅力的だった。

 一応、ペーネミュンデの実験においてもヴェルナーはトランジスタと言っているのだが、それが真空管の代わりになるものとは技術者でもなればさすがに読み取れなかった。


「元が取れるどころか、お釣りがくる……そういうわけだな?」


 ヒャルマー・シャハトの問いかけに対し、ヒトラーは軽く頷いた。

 それらのやり取りを見ていた財務大臣であるルートヴィヒ・シュヴェリン・フォン・クロージクはゆっくりと口を開く。


「ドイツ帝国は常に最先端をいき、世界にその技術を広めることで利益を得ることが重要だ。そして、最先端技術の開発には多くの資金が必要となる」


 故に、とクロージクは言葉を続ける。


「1000億マルクの追加予算を出すものとする。国債に関してはこれまで通り、国内で回す。その為に国債の購入を推進する国内企業・国民向けのキャンペーンもあわせて行おう」


 思い切った決断に議場は騒然とした。

 マスコミは完全に締め出しているが、今回の会議の内容は遅かれ早かれすっぱ抜かれるだろう。

 アーネンエルベなどの重要な部分はぼかされるが、それでもドイツが何かに対して多額の予算を追加した、というのはマスコミにとって格好のネタだ。


 ヴェルナーに一働きしてもらう必要があるな、とヒトラーは思うのだった。












 2月を迎えたニューヨーク州の州都オールバニは寒さが厳しかった。

 春はまだまだ先という印象を人々に与えるには十分過ぎたが、知事であるフランクリン・ルーズベルトにとって、そんな寒さを吹き飛ばす出来事が存在していた。


「ドイツで新たな追加予算可決、戦時国債発行か……」


 ルーズベルトは知事の執務室で今朝の朝刊を読んでいた。

 記事によれば1月の終わり頃、ドイツで追加予算に関する審議会が開催。そこで予算が可決され、戦時国債が新たに発行された旨が書いてあったが、それ以外の情報は無く、後は評論家の解説や推測だった。


 そして、評論家達は批判的だ。

 既に勝ち目が見えているのに、新たな戦費を費やすのは自殺行為――そういう論調だ。


 彼はその朝刊を横に置いて、別の新聞社の朝刊を読んでみるが、やはり同じことしか書かれていない。


「情報封鎖をする必要があるくらいに、多額の予算を何かに使っている。単純な戦費ではない筈だ」


 ルーズベルトはそう結論づけるが、さすがの彼も一体何に使われているのかは分からない。

 ヴェルナーという個人的なコネはあるものの、そのヴェルナーも核心的な部分については話さないし、ルーズベルトとしても当然聞かない。

 例え、彼がもし聞いたとしても、ヴェルナーにはぐらかされてしまうだろうことは想像に容易い。 


 おそらく、イギリスやロシアの情報機関は躍起になってこの予算の用途について調べるだろうが、何も掴めないだろう、とルーズベルトは予想する。

 やすやすと掴ませてくれる程に甘い国ではない。


「まあ、ウチには関係ないな」


 敵になったり味方になったりを繰り返す複雑な関係の欧州にとって、味方であるが敵でもあるドイツの動向は気になるだろうが、遠く離れたアメリカにとってドイツは良い取引先であった。

 特に食糧に関してドイツはロシアとアメリカの2国がその輸入のほとんどを占めており、農家は戦前から嬉しい悲鳴を上げている。

 同じ事は日本にも言えたが、日本の場合、アメリカやロシアと重複している項目がほとんど無く、その輸出量自体も2国と比べて圧倒的に少ない為、摩擦は起こっていない。


 その一方で自動車・造船・航空機やそれに関連する製品などの工業製品分野はドイツの聖域であり、アメリカにおけるこれらの企業はとてもではないが太刀打ちできなかった。

 故に、アメリカの自動車などは国内向けの販売に終始しており、輸出先も南米やフィリピン、日本といった国々に限定されていた。

 

 とはいえ、このような聖域を作る一方で資源開発には一枚噛ませてくれる為、アメリカ企業はドイツに対して友好的だ。

 もっとも、噛むのはアメリカ企業だけではなく、イギリス企業などもあったりするが、それでもドイツが全てを独占するような関係ではない。


 ルーズベルトは新聞のページを捲り、目を通していく中、コラムでドイツにおける日本食・日本文化ブームについて触れられていた。


「日本もうまく儲けているものだ」


 コラムによれば米などの日本食の材料や調味料、焼き物などの工芸品が多くドイツへ輸出されており、またドイツからイギリス・イタリア・ロシアなどでも徐々にその影響を高めているらしかった。

 その為、日本ではより大規模な生産の為に農業改革が行われているとのことだ。


「独自のものを輸出するというのは良い案だ。他国から反感を買わないからな」


 ウチも何か独自のものを輸出しよう、とルーズベルトは思ったものの、パッと思いつくものは昨夜、夜食として食べたバーガーだった。


「……何事もチャレンジは大事だ」


 とりあえずヴェルナーに相談してみよう、と彼は心に決めるのだった。


 







 



 2月の寒風吹き荒ぶ富士裾野演習場では1台の戦車が堂々たる姿を披露していた。

 どっしりと構えた車体は大きく、またその火砲は長く大きい。

 

 その戦車を見て、陸軍技術本部の原乙未生大佐は溜息を吐いた。

 

「……原大佐。この四号と我が軍の八九式は……」


 そう躊躇いがちに声を掛けたのは参謀本部から視察にやってきた梅津美治郎少将だった。

 戦車に関しては付け焼刃程度の知識しかない彼であっても、目の前にあるドイツ軍の現主力戦車――四号戦車は圧倒的に八九式よりも洗練され、強大な動く要塞であることが分かった。


 昨年の暮れ、ドイツ陸軍からの売却話に飛びついた陸軍は派遣部隊とは別に、研究用として3台の四号戦車を日本本土へと輸送していた。

 そのうちの1台が彼らの前に存在した。


「笑ってしまうぐらいに、我が軍の八九式は玩具ですよ」


 原大佐は自嘲気味にそう答えた。

 それに、と彼は続ける。


「今年中にドイツ軍では五号戦車が量産されるというらしいです」

「……欧州の、いや、ドイツの戦車発達は尋常ではない速さだ」


 そう返す梅津にハッキリと原は告げる。


「現状の技術では四号戦車はあまりにも高度過ぎてライセンス生産もできません。その概念を真似ることはできますが、根本的な部分はどうにもなりません。ネジ一つとっても、我々とはその工作精度が違い過ぎます」

「だろうな」


 批判的な意見を梅津はあっさりと受け入れた。

 彼からしても、欧州派遣部隊から山のような報告をもらっている。


 それらはどれもこれもがドイツと日本の格差を際立たせる結果となっている。

 

「だが、次の戦車はもっと……」

「心得ております」


 海軍と同じく万年予算不足に泣く陸軍であったが、いくら何でもこれは酷すぎるということで去年から新型戦車の開発が始まっていた。

 そして、その新型はドイツ戦車の長所を丸々取り入れようというのが基本方針であった。


 だが、派遣部隊が得た情報では最低でも長砲身75mm砲クラスの戦車砲ではないと、これからの陸戦に対応できないという絶望的なものだった。

 

 とはいえ、希望はある。

 大威力砲として海軍の艦載小型砲やら野戦高射砲を元に改修して使えば良い。

 また、エンジンに関しても四号戦車と同じように、航空機用エンジンを転用すれば馬力の面では何とか解決できる。

 だが、最大の問題は装甲だった。


 四号戦車の複合装甲に使われているセラミック系素材なんぞ、作っているのは世界でドイツだけだ。

 となれば四号と同じ装甲を得るためにはその分、傾斜をつけ、また装甲板自体を分厚くしなければならない。

 だが、それではエンジン馬力が足らなくなるというジレンマだった。


 1番手っ取り早いのは四号戦車そのものを次期主力戦車として採用し、ドイツから輸入することだ。

 ただ、補修部品一式も含めて輸入する必要がある為、値段は相応に掛かる。


「現代的な陸軍へ生まれ変わるには豊富な火力と機甲兵力、そしてそれらを十分に支える兵站が必要だ」

 

 梅津の言葉は参謀本部が推し進める近代化計画そのものであった。

 原は頷きつつ、口を開く。


「四号はほぼ全ての面で八九式に圧倒的に優っていますが、それでも苦手とする面があります」

「ほう?」


 興味深げに梅津は目を細めた。


「まず第一に価格です。八九式戦車はおよそ8万円ですが、四号の場合はドイツ軍の調達価格は1台辺り30万マルク……1円はおよそ0.5マルクですから、60万円にもなります。ドイツ大使館によれば25万マルクで販売するということですので、50万円です」


 梅津は価格に見合った性能がある、と言いたかったが、それを言うのはグッと堪えた。

 門外漢の彼ですら、その性能差に呆れてしまうのだから、作った彼ら――特に戦車の国産化に尽力してきた原にとって、その衝撃は計り知れない。


「次に優るのは日本国内での機動性です。平野が多い欧州と違い、我が国は国土の大部分が山岳であり、また数少ない平野でも水田や畑が広がるなどで四号のような戦車では足を取られ、マトモに動けない可能性があります」


 梅津は確かに、と頷いた。

 

 現在の状況で欧州派遣部隊を除けば海軍はともかく、陸軍が表に出るという状況は極めて少ない。

 最悪の、そしてもっとも確率が低い可能性としてはアメリカが攻めてきたり、ロシアが同盟から離脱して再び南下してくるといったそういったものが考えられたが、その場合でも今の同盟にいる限りはドイツ・イギリスの世界的な強国が援軍としてやってきてくれる。

 アメリカもロシアも太平洋・極東に軍を出している間に大西洋・ヨーロッパからドイツ・イギリス軍が雪崩れ込んでくるという二正面作戦を強制的に強いられる状態になる。

 

 故に、国外での戦闘は考えられず、あったとしても欧米軍のサポート程度となれば国内でどのように運用するか、というところに重点が置かれるのも当然のことだった。


 だが――

 

「聞いた話によれば、この四号は履帯が広く、泥濘地帯でも走行できるらしいが?」

「その広い履帯と大きな車体のせいで列車移動ができなかったわけですが……」


 原の答えに梅津は渋い顔をした。


 ドイツ本国は標準軌と広軌の2本立てであり、そういった輸送面での制限はほとんど無い。

 対する日本は狭軌を採用しており、これによって列車移動の際に制限が出てしまう。


「結論としては小型で大威力火砲を積み、また泥濘地帯でも問題なく走行できる安い戦車が必要なのです」


 原の言葉に梅津が頷いた。

 それこそが日本陸軍が求める新型戦車の基本概念に合致している。


「で、現状ではどこまでできそうか?」

「海軍の高射砲や野戦高射砲を戦車砲へ改修している最中です。エンジンについても、選定を進めております」


 梅津は鷹揚に頷くが、参謀本部では新型戦車の国産を推進する一方で別の計画も持ち上がっていた。

 その計画とはドイツのメーカーに日本陸軍仕様の戦車を新しく作ってもらおう、というものだ。

 既にドイツ政府の了承を得ており、2月後半にはドイツメーカーに要求仕様書が提出される手筈となっている。


「しかし……何にせよ、根本から変えねば駄目だろうな」


 梅津の呟きは原にも聞こえ、彼は僅かに頷くのだった。




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