揃う役者達
独自設定・解釈あり。
10月に入り、寒さを感じる日々が続くが、今日は珍しく暖かな陽気だった。
窓から差し込む陽光を受けながら、彼は自らの執務室で上がってきた報告書に目を通していた。
情報省国家保安局局長――それが彼の現在の地位だ。
「フランスも中々酷い真似をする。本命を掴ませない為に、何の罪もない少女達を踏み台にするとはな」
第三者が聞けばフランスが国益の為に少女達を犠牲にしている、と思われるだろうが、実際にそうするように指示を下しているのは彼だった。
短く刈り上げた金色の髪を軽く撫でつつ、その碧い瞳は忙しなく報告書の文字を追ったが、やがて彼はその報告書を興味が失せた、と言わんばかりにデスクの隅に追いやった。
「大元に近づいてはいるものの、大きな成果はない」
彼はそう呟いた。
フランス側の諜報組織が経営していた売春宿を1つ、潰した。
そして、そこの経営者と従業員の10代から20代の少女や女性達を特別室に案内し、教えてもらったことが彼が読んでいた報告書には書かれていたが、いつも通りに数人の名前が出てくるだけだった。
そして、その数人の人物達も別の場所で売春宿やパブを経営していることが分かっている。
売春宿やパブは末端であり、そこの経営者や従業員は僅かな情報しか持っていない。
彼らと接点がある人物を割り出し、その人物をあたっても、やはり少しの情報しか知らない。
そして、その人物と接点がある人物も少しの情報しか知らず、何十人何百人と辿らねば大元に繋がらないようになっていた。
フランス側の巧みさに感心するところであったが、防諜を任されている国家保安局の局長としては忌々しいの一言に尽きた。
だが、その末端組織自体が徐々に減ってきており、近いうちに大元に辿り着く可能性は高かった。
「国外情報局のゲーレン局長が羨ましいな。あっちは楽だと聞く……」
情報省は国外情報局と国家保安局の2つに分かれている。
外国の情報を取り扱うのが前者であり、後者は国内における情報を全て取り扱う。
国外情報局のボスはラインハルト・ゲーレンだった。
そして、そんな2局が共同管理するブランデンブルク師団あがりの軍人で組織された特別行動隊が10チーム存在した。
ドイツ帝国本土は勿論、世界各地に広がる植民地にまで足を伸ばさねばならない、と考えれば10チームの特殊部隊では到底足りなかった。
故に、末端組織の殲滅などは警察の特別警備局第9大隊――Grenzschutzgruppe9(=GSG9)が対応していた。
元々ある程度予想された事態であり、警察側も成績をあちこちに示す必要があった為に乗り気でこの部隊は結成された。
そして、そこにやっぱりというかヴェルナーが加担したことでGSG9は世界に先駆けた警察系特殊部隊として経験を積んでいくことになった。
しかしながら、相手が諜報組織である場合はまず逮捕されない。
生きて捕まえたとしても情報省へと引き渡され、書類上は犯人全員射殺と処理される為だ。
ドアが数回ノックされる。
彼が許可を出すと入ってきたのは青年だった。
「シェレンベルク、何か進展はあったのか?」
問いかけられた青年――ヴァルター・シェレンベルクは首を左右に振る。
その答えに局長たるラインハルト・ハイドリヒは大して失望もしなかった。
既に報告書が上がってきている以上、そこに記載されている以外の新しい情報が出てくるとは思えなかったのだ。
「今日は別件です」
「別件?」
「ルントシュテット中将から戦後に向けた話し合いがしたい、と……」
「戦後に向けた話し合い?」
「何でも将来出てくるだろう、小うるさい人権団体や市民団体についてだそうです」
ふむ、とハイドリヒは顎に手を当てつつ、告げる。
「いつも思うが、あの人は本当に魔法使いだろう」
「確かにそう思います」
シェレンベルクの肯定にハイドリヒは頷き、言葉を紡ぐ。
「私や君、ゲーレン局長、カナリス長官などなど……まるで未来でも見てきたかのように、情報省で活躍している人物は彼が引き抜いてきた者が多い」
ハイドリヒが述べた人物の他にも陸軍からはハンス・オスターやクラウス・フォン・シュタウフェンベルク、警察からはハインリヒ・ミュラー、アルトゥール・ネーベなどもヴェルナーにより引き抜かれていた。
これによって史実での国家保安本部・国防軍情報部の面々が1つの組織に集い、互いに協力しあうという、ドリームチームが誕生した。
そもそもナチス自体が存在しないのだから、反目のしようもないので当然といえば当然だった。
また、ヴェルナーに声を掛けられ、引き抜かれた人物はその転職先で必ず成功するという都市伝説がまことしやかに囁かれていた。
故に、彼らは全力を尽くして自らの職務に打ち込んでいた。
しかし、そんなドリームチームでも、フランスの開戦時期とベルリン空襲の2点を明確に察知することはできなかった。
「まあ、フランス側は重要な作戦決行前には一定区画を徹底的に掃除するというのが分かっただけでも、良いことだ」
ハイドリヒの言葉にシェレンベルクは頷いた。
どちらも確度の低い情報を出すわけにはいかない、と追加調査が決まってすぐにフランス側が実行に移したものだ。
実際、フランス側の防諜体制はドイツ側からすれば感謝したいくらいにザルだった。
それはドイツ側が余りにも強大過ぎる為という根本的な原因があるのだが、フランス側が諜報分野にそこまで予算と人員を掛けられなかったということもあった。
フランスは重要な箇所だけ防御する方針であり、その為に一定区画を一定期間内に根こそぎ掃除というものになって返ってきた。
前線や基地周辺などを除けばフランス本国や植民地での情報は手に入りやすい。
例えば敵新型戦闘機に関する調査報告書が空軍及びメーカーに8月の中旬には回されているし、フランス陸軍が新型戦車を開発していることも既にその詳細な性能書がメーカーや陸軍に回っている。
他にも、兵力や物資の流れから前線と本国の予備部隊の大まかな総兵力、更に海岸部の警備状況なども丸わかりであった。
ハイドリヒはそれからシェレンベルクに幾つかの指示を出しながら、空軍省へと向かった。
そして1時間後、ハイドリヒは空軍省の長官室にいた。
ヴェルナーは思いの外、早くやってきたハイドリヒに驚きつつも、笑顔で彼を迎えていた。
ヴェルナーとハイドリヒは互いにソファに対面する形に座った。
ヴェルナーは従兵のクルツを呼び、緑茶を2人分頼むとハイドリヒはあからさまに嫌そうな顔をする。
「君のその嫌そうな顔を見ると、一本取った気分になるな」
「魔法使い殿は悪趣味ですね。いつも私と会うときは緑茶を出そうとする」
「苦いのは苦手かね?」
「緑茶の独特な風味が苦手です」
「では砂糖でもたっぷり入れてみるか? 新しい世界が開けるぞ?」
「今度、捕まえた輩に試してみるとします」
「それは可哀想に。ああ、クルツ。コーヒーと緑茶、それぞれ1つずつだ」
どうしたものか、と困惑していたクルツに指示を出し、ヴェルナーはハイドリヒを見据える。
相変わらず冷たい美貌だが、その顔には微笑みがあった。
史実の彼は決して人前では笑わなかった、というのに。
その変化は好ましいものだ。
「シェレンベルクから聞いていると思うが、小うるさい連中についてだ」
「戦後にそういった連中が出てきて、我々を糾弾すると?」
「そうだとも。君達情報省は勿論、軍や政治、既存のあらゆる体制に難癖をつけてくるだろう。どこの国の連中かは知らんが、10年、20年以内に必ず出てくるだろう」
「頭の中に花が咲いている連中とマトモに付き合う必要はない、と考えます」
ハイドリヒの言葉にヴェルナーは同意するように頷き、尋ねる。
「処理できるか?」
「不幸な事故やお気の毒な病気に加え、警察が協力してくれるなら無い罪を作りますのでご安心を」
ヴェルナーは鷹揚に頷き、更に言葉を続ける。
「マスコミは私が抑えよう。各国政府や国民も纏めてどうにかしよう」
ハイドリヒもまた満足気に頷く。
そんな彼の反応を見つつ、ヴェルナーは告げる。
「とはいえ、時代の変化により組織の刷新は行わねばならん。だが、それは団体連中の意見を鵜呑みにすることに直結しない」
ヴェルナーはそこで一拍の間を置き、更に言葉を続ける。
「連中はあくまで理想と飯の種の為にいい加減にやっているに過ぎないだろう。無論、中には大真面目に取り組んでいる輩もいるだろうから、そこらは見極める必要がある」
ハイドリヒは相変わらず不思議に思う。
何でそんなに見てきたかのように未来を予測できるんだ、と。
「君は今、こう考えているだろう。何で未来を見てきたかのように言えるのか、とね」
そう告げるヴェルナーの視線は優しいものだ。
まるで彼が息子に向けるかのように。
「私が魔法使いだからさ。だから、ほとんど全てお見通しだ。たまに失敗もあるがね」
ヴェルナーの言葉にハイドリヒは苦笑した。
「さすがは魔法使いですね」
「物語の魔法使いとは違って不老不死の術は心得てないことを承知しておいてくれ。ついでに火の玉を飛ばすとかいう意味での魔法も使えない」
ハイドリヒは小さく声を出して笑う。
その光景にヴェルナーもまた笑みを浮かべる。
「で、仕事はどうだ? ちゃんとやれているか?」
そう問いかける様は父親のようだった。
ハイドリヒはどうにか笑いを堪えながら答える。
「ええ、何とかやっています。閣下の忠告のおかげで海軍を不名誉除隊にならずに済みましたし、2年足らずで局長の地位に就けたのもあなたのおかげです」
「君を情報省に放り込んだ後はただ扱き使え、とカナリスに言ったくらいだ。それを乗り越え、今の地位に就いたのは君の能力だ」
ハイドリヒはその言葉に不思議と自信と勇気が湧いてきた。
他の者からは滅多に言われない言葉であるということもあるが、何よりもハイドリヒはヴェルナーが本当の自分を知っていると確信していたからだった。
魔法使いは全てを見通す――そうであるが故に、彼の前では本性をさらけ出せるという安心感がハイドリヒにはあった。
「ところでフランス側の諜報網はどうだ?」
「組織構築は見事ですが、我々の敵ではありません。既に末端は壊滅に近く、大元へ手をかけつつあります」
「フランスは末端組織を再構築することもできないのか?」
「毎月二桁のペースで潰されてはまず不可能です。遠からず、ドイツ本国からフランス側の地下組織は一掃されるでしょう」
ヴェルナーはそのニュアンスに対して心配気味に問いかける。
「アーネンエルベ関連が洩れたら大事だぞ?」
「ご心配なく。ガセネタを多数掴ませていますので……ちなみに一番手強いというか、粘着質なのがイギリスです」
ヴェルナーはなるほど、と頷きつつ、最近レーダー中将から仕入れた情報を開陳する。
「イギリスといえば、連中は殴られたら10倍にして返さないと気が済まないらしい。各個撃破されるのが嫌だ、というのは建前でどうやら戦前から建造している戦艦4隻の就役を待ってからフランス海軍をタコ殴りにする計画だそうだ」
イギリス海軍ならば数の利を活かして今の状況――16インチ砲戦艦2隻、15インチ砲戦艦8隻――であってもフランス海軍を叩き潰せる。
しかし、イギリスは戦前からクイーン・エリザベス級戦艦の代艦として16インチ砲を三連装4基搭載した、6万5000トン級のキングジョージ5世級戦艦の建造を進めていた。
この世界ではワシントン海軍軍縮条約もロンドン海軍軍縮条約も無かったが為、これは別におかしなことではない。
それ故、ドイツ海軍は圧倒的な強さを求めて20インチ砲戦艦の設計を戦前より進め、ロシア・アメリカ・日本・イタリア・フランスでも16インチ砲戦艦の更なる建造もしくはより大口径砲を搭載した戦艦の設計が進められていた。
とはいえ、それらの建艦計画はどこの国でも財政を圧迫しない、海軍の通常予算内で行われることになっている。
無論、交戦状態にある国家は除いて。
「ゲーレンから聞いた話だが、既にフランス海軍は大型艦艇の建造を諦めているらしく、ブレストやトゥーロン、あるいはダカールといった港湾では中小艦艇や潜水艦の建造が主らしい」
「無難な選択です」
ヴェルナーの言葉にハイドリヒは頷いた。
本国がすっぽりイギリス・ドイツの戦略爆撃機の行動範囲に入っている。
これでは片っ端からドックごと建造中の艦艇を破壊されかねない。
とはいえ、せっかくのドックを空けておくのも勿体無いが故、建造期間が短くて済み、破壊されてもそこまで懐に痛くはないものを作るのは道理だった。
それからヴェルナーとハイドリヒはその話の内容を世間話や昔話に移していった。
10月の終わり頃、陸軍兵器局の局長であるフリードリヒ・フロム大佐は提出された設計案を前に悩みに悩んでいた。
RFR社、MAN社、ダイムラー・ベンツ社、ヘンシェル社、ポルシェ社といったドイツを代表するメーカーが提出してきた案は性能表だけみればどれも魅力的だった。
どのメーカーもガスタービンエンジンを搭載しているという点では共通している。
肝心のガスタービンエンジンは年内には量産体制が整うらしく、来年頭から量産が開始される。
ハインケル社だけでは手に余るのでRFR社、BMW社といったメーカーもライセンス生産することになっていた。
また、その整備体制に関しては専門科目が陸軍の技術学校や民間の技術専門学校に既に設けられており、育成が始まっている。
ガスタービンエンジン自体が四号戦車の次、五号戦車の為のもの、ということもあって数年の時間的余裕があった。
「ポルシェ案は落とす」
フロムはきっぱりと言った。
過去にも戦車の競作に参加しているのだが、奇抜なアイディアばかりだった。
今回も電動モーターとガスタービンの組み合わせをエンジンに提案してきていた。
早い話、ガスタービンで発電機を回し、発生した電気でモーターを回すことで駆動させる。
いわゆるハイブリッド式であり、トランスミッションを省き、無段階変速できる利点があった。
とはいえ、利点ばかりとも言えない。
ハイブリッド式の自動車――ガソリンエンジンと電動モーターを組み合わせた――ものはポルシェ社が製作・販売しているが、その値段は高くならざるを得ず、生産台数もそこまで大きくはなかった。
そもそも、肝心のトランスミッションに関してはフルカン継手から発展したトルクコンバーターを備えた全自動変速機が一般自動車に装備されているドイツの現状では弱点とはなりえなかった。
全自動変速機は史実では1939年にGMがハイドラマチックという名称のものをオプション装備として販売している。
そもそもこの全自動変速機――ATは史実でもそうであるし、この世界のドイツでもそうであったのだが、女性などの非力な存在にとって従来のトランスミッションは変速時に力を込めねばならなかった為、走行中にそれをするのは困難だった。
世界の半分は女という言葉通り、女性にも車が売れればより利益が上がる、と企業が考えるのは道理。
故に、女性でも扱える車を、ということで全自動変速機が開発されたのは3年前――1927年のことだった。
ついでに言えばヴェルナーも前世ではAT限定免許のみであり、MT車――それも21世紀のものよりももっと熟練した操作を必要とする――の運転は甚だ心細かったが為、強力に推進した。
そのおかげで全自動変速機は急速に発展していたが、さすがに戦車にまで使えるレベルには達していない。
だが、トランスミッション関係もまた大幅に進歩していることは間違いなかった。
対する鹵獲したフランス戦車や情報省から回されてきた調査書によればそのトランスミッションはトルクコンバーターを備えていない、ドイツ側から見れば古めかしい構造だった。
唯一、サスペンションはドイツ側と同じ、独立懸架式のトーションバーであるが、トランスミッションが弱点であることに変わりはない。
「RFR社案は野心的だな」
フロム大佐は何とも言えない表情を浮かべる。
50口径125mm滑腔砲やらジャイロスタビライザーやら、その他諸々の新機軸が取り入れられていた。
最大重量は56トンと応募してきた設計案の中では最も重い。
「だが、RFR社らしくない。これでは1台あたりの調達コストは2倍では済まないぞ。それに滑腔砲もまだ試験段階だ」
ガスタービンエンジンに浮かれ過ぎたのだろう、とフロム大佐は思いつつ、MAN社、ダイムラー・ベンツ社、ヘンシェル社と見ていく。
主砲口径としては3つのメーカーはどこも105mm55口径ライフル砲であり、堅実な部類だ。
海軍の高射砲として使用されている、より長砲身のものもあるが、砲身命数が少ない為、この口径にしている旨も追記されていた。
そこから彼の視線は主砲以外の装備、装甲や接地圧、速度などにいき、最後に重さと予想調達コストに目を向ける。
「最も軽いのがヘンシェル社の47トン、装甲はRFR社の四号戦車と同等レベルか……」
予想調達コストも四号戦車のそれと比べて1.3倍程度とかなり安い。
実質的に105mm砲の値段分だけだ。
だが、さすがに次世代主力戦車の装甲が複合装甲とはいえ、一世代前と同じままというのは問題がある、とフロムは考える。
「MAN社が49トン、ダイムラー・ベンツ社が53トンか……」
3社の中で装甲が最も厚いのがダイムラー・ベンツ社だが、その分、重く、調達コストも2.2倍程度に見積もられている。
フロムは必然的にMAN社案へと目をやった。
調達コストは四号戦車の1.7倍、それでいて四号よりも装甲が強化されている。
「MAN社案を中心として協議してみよう」
その後、参謀本部と協議した結果、費用対効果が最も優れているMAN社案が採用されることとなった。
MAN社はRFR社の牙城を崩せたことに大いに湧き、対するRFR社は色々なものを詰め込み過ぎた事を悔いることになった。
12月も間近に迫った空軍省ではヴェルナーが現時点での航空機配備状況などを確認していた。
開戦以降、戦時体制への移行が順調に行われ、また多くのメーカーが工場の拡張や新規設立を行った為、先月の月産数は戦闘機だけで4000機、全ての機種を合わせれば9000機にも達していた。
これらのうち、機種整理としてJF13と予備機の為に細々と生産が続けられていたHe100の2機種は生産ラインが廃止された。
開戦初期を支えたJF13は最初の装備部隊となったJG22では多くの撃墜王の愛機であり、その頑丈さと扱いやすさから多くのパイロットから惜しまれた。
それ以外にも従来の名称決定方法を変更し、トライアルに関係なく、制式採用順に数字を変えていくという今更過ぎる決定が下された。
これにより、既存の機種のうち、Me209やTa152、S85、He119がその対象となり、これらをそれぞれJF14、JF15、JF16などといった風に改名しようとした。
しかし、これらの機体はその名称で書類・現場問わずに定着した感があった為、次の採用機から、ということになった。
ヴェルナーはエンジンの生産台数に目をやり、次いで現場からのエンジン寿命の短さやオーバーホール間隔の短さの指摘に顔を顰めた。
「待望の大馬力エンジンだが、やはり無理をしているな」
Ta152をはじめとした主力機は1800馬力クラスのエンジンを搭載し、その性能を大幅に高めていた。
例えばTa152に搭載されたエンジンは従来のjumo212ではなく、過給器の性能向上及び冷却能力の向上によるシリンダーブロックの小型化などにより馬力を上げたjumo213であり、1820馬力を発揮する。
これにより、制限されていた20mm弾のフル装弾が可能となり、また主翼付け根に13mm機銃が2丁増設され、最高速度も弾薬・燃料満載状態で高度7500mで時速732kmを記録した。
ドイツはヴェルナーの指示通り、敵新型戦闘機出現から3ヶ月足らず――9月の時点で液冷12気筒系列エンジンの馬力を大幅に引き上げることに成功したのだ。
また、空冷エンジンにおいても排気タービン過給器を搭載したBMW801Q型というとんでもないものが誕生していた。
14気筒にも関わらず、高度12000mで1700馬力以上の出力を発揮するこの化け物エンジンはB43に若干の改修を施した上で搭載され、この改良型はB44として配備されつつあった。
そして、これらのエンジンには統制装置、いわゆるコマンドゲレートが装備されており、パイロットの負担を大幅に軽減することに繋がっていた。
とはいえ、大馬力の代償は大きい。
元々が1500馬力クラスまでなら頑張れば出せるエンジンを無理矢理チューンアップしている為、エンジンのオーバーホール間隔はドイツ空軍の基準である600時間には全く届かず、最も良く働くエンジンで200時間だった。
平均は170時間程度であり、1週間程度でオーバーホールもしくはエンジンを交換しなければならない程にガタがくる。
「だが、これは一時的な状況だ」
ヴェルナーはそう呟き、エンジン開発状況に関する報告書へ視線をやる。
空冷18気筒エンジンはBMW社、RFR社の2社により開発されており、来年2月頃に、液冷24気筒はRFR社、ユンカース社、ダイムラー・ベンツ社が開発中であり、来年3月頃には量産に入る。
そして、空冷28気筒エンジンは来年5月以降に実用化される予定であった。
無論、これらのエンジンにもコマンドゲレートが装備される。
そして、既存戦闘機や爆撃機にこれらのエンジンを搭載する為、改修や戦訓に合わせた改良も同時並行で進められていた。
その改良の一例としてTa152があった。
この機体はタンク技師がエンジン不足を懸念した結果、空冷・液冷どちらにも対応しようとした長っ鼻だったが、液冷エンジンの供給に問題がないことが確認された為、液冷エンジンに最適化した尖った形に変更され、その長さも削られる。
これにより空気抵抗が削減されるが、24気筒エンジンでは20mm機関砲のモーターカノンが使えなくなる。
それ故、既存の武装を全て取っ払い、主翼の強度を増強し、マウザー社の13mmガトリングガンを片翼3丁、合計で6丁搭載し、高度8000mで最高速度784kmが予定されていた。
このガトリングガンはTa152以外の戦闘機にも搭載されることになっており、発射速度に優れる反面、弾切れに陥りやすい欠点があったが、パイロットの腕でどうにかなると考えられていた。
そして、ヴェルナーは情報省から届けられた情報からフランス側が未だに大馬力エンジンを実用化する見込みがないこと、ジェットエンジンの開発がフランスにおいては基礎研究程度であり、来年の5月頃には推力1000kgの量産型エンジンが完成するドイツ側が大きくリードしていることを知っていた。
電子技術にいたっては対空レーダーと射撃レーダーの存在が確認されているものの、既にドイツ側が前線である西部や南部から安全地帯である北部・東部にまでその防空レーダー網を張り巡らせているのに対し、フランス側は仏独国境地帯に少数配備されている程度。
また、フランス側が真空管に代わるものの選定に苦心していることも掴めていた。
その一方でドイツにおけるトランジスタ開発は大きく進捗しており、来年中には本格的な量産に入ることができる段階にあった。
既に試作品がヒュールスマイヤ―社などの開発メーカーから様々な分野のメーカーに提供されており、それを利用したより高性能なレーダーや電子計算機をはじめとした電子機器が設計・開発されている。
フランスとドイツにおける絶望的な国力の差とヴェルナーのテコ入れがここにきて表面化してきていた。
「とはいえ、日本は気張ったなぁ……」
ヴェルナーは予定通りに明後日、ドイツのキールに入港する日本からの大規模な遣欧派遣艦隊を出迎える予定になっている。
日本海軍の遣欧艦隊は長門級2隻、金剛級2隻の戦艦を中核とし、小型空母(=鳳翔)1隻、巡洋艦6隻、駆逐艦15隻の大艦隊だった。
なお、遣欧軍はなけなしの予算をやりくりして作られた戦車師団1個と自動車化師団1個であり、その総司令官は山下奉文中将、第1戦車師団の師団長は今村均少将、第1自動車化師団は本間雅晴少将、海軍の遣欧艦隊司令官は角田覚治中将だった。
日本もまたドイツの影響を受け、史実とは異なっている。
その中で大きなものの1つが人事制度だった。
ヴェルナーが能力を発揮し、年齢など関係無しに異例の速さで軍内部で昇進していくのを見て、欧米の真似をして日本でも年齢など関係無しに有能な人材がより上にいきやすくなるよう、制度を整えていた。
この人事制度をはじめとした海軍内の構造改革に尽力したのが永野修身だった。
史実でも、制度改革を行おうとしていた彼はこの世界ではヴェルナーという意外な存在に間接的に後押しされ、その制度改革を史実よりも早く軍務局に纏めさせ、実行させている。
とはいえ、恒久的に高い階級――将官に就けるのはポスト数の関係上、よろしくない。
その為、作戦ごとに適正のある将校を臨時に昇進させ、作戦終了後は元の階級に戻るというやり方をしていた。
さて、遣欧部隊のうち、陸軍の遣欧軍、遣欧航空隊、官民からの視察団は安全を考え、シベリア鉄道――史実と違い、ドイツ・ロシア・アメリカ・イギリス・日本の多くの企業が建設に参加した上、単線ではなく複線となっている――経由で艦隊よりも早くドイツ入りしていた。
だが、その航空隊も陸軍部隊もとてもではないがフランスとの戦いについていける装備ではない、と陸空軍参謀本部に判断され、所詮アジアの小国か、という雰囲気が陸空軍上層部に漂っていた。
そして、ヴェルナーはそれをどうにかすべく、あちこちに根回しを進めている真っ最中だ。
「日本軍へのドイツ製装備の貸与、アーネンエルベなどなど……仕事は盛り沢山だな」
やれやれ、と溜息を吐くヴェルナーだった。
ジーゲンから東へ100km程のところにあるフリッツラー空軍基地は前線に最も近い空軍基地ということもあり、開戦以降大規模な拡張が続けられていた。
開戦前は単発機専用の滑走路が3本だったこの小規模な空軍基地は11月時点では大型機専用の滑走路4本、単発機専用は6本に増え、500機近い作戦機を揃えており、今もなお拡張工事は続いていた。
そして何よりも、ここは日本より派遣された遣欧航空隊の基地でもあった。
本来ならば同盟国の窮地を救う為、日本の強さを見せつける為、その士気は大いに盛り上がって良い筈だったのだが、航空隊の士気はだだ下がりだった。
陸軍飛行第六四戦隊部隊長である加藤建夫少佐は盛大な溜息を吐いていた。
彼は若輩ながら少佐の地位に就けたのは海軍の構造改革に負けるな、と陸軍も気炎を上げて改革に取り組んだ結果だった。
そんな加藤は陸軍航空隊でも技量優秀として名の知れた人物だった。
そして、彼が溜息を吐いている理由は唯一つ。
「我が方の九〇式は二一型となり、エンジンが強化され、速度も向上した日本の最新鋭機なのだが……」
遣欧航空隊をはじめとし、陸軍部隊、視察団はそれぞれの分野で大きな――それこそ落雷が直撃したかのような――衝撃に襲われていた。
欧州における航空機の高性能っぷりと月産数の膨大さに上は司令官、下は兵卒まで顔を真っ青にした。
遣欧航空隊は九〇式戦闘機86機と九〇式爆撃機42機という大所帯だった。
そして、ここから分かる通り、陸海軍は基本的に同じ機種を採用していた。
欧州列強が多く加入している同盟に入れてもらっている日本は周辺に軍備増強をするに値する国家が存在しなかったのだ。
太平洋の向こう側にはアメリカがあったが、その太平洋に散らばる南洋諸島の多くはドイツとイギリスの植民地であり、日本にアメリカが手を出すにはドイツとイギリスと刃を交える覚悟が必要だった。
だが、そのアメリカにはドイツと戦う意志はない。
長年のアメリカ系企業優遇――主に資源開発で一枚噛ませる――によって政府から国民まで親独的だ。
つまり、欧州の同盟に加盟している限り、日本の安全は保障されたようなものだった。
故に、国力増大の為、産業育成や技術開発に予算をつぎ込むのは必然といえた。
そんなわけで陸海軍の予算は慢性的に苦しく、共通化できるところは共通化し、少しでも予算を浮かそうという涙ぐましい努力であった。
そんな中で生まれた九〇式戦闘機や九〇式爆撃機は日本陸海軍航空隊の期待を背負った存在だった。
しかし、新鋭機だと思っていたそれらが欧州では立派な旧式機という現実を突きつけられればガックリとこない筈がない。
そして、ドイツ側の配慮として日本軍の戦闘機は爆撃機を狙うよう、要請をされたのもまた心が痛かった。
「加藤少佐、ここにおられましたか」
そんな声に加藤は現実へと思考を戻す。
「篠原、どうかしたのか?」
声を掛けてきたのは加藤率いる六四戦隊の篠原弘道准尉だった。
「噂になっているのですが、我々がドイツの航空機に乗るというのは本当ですか?」
「噂は所詮は噂、と言いたいところだが、現状を見ればその可能性は高いな」
「……到着してすぐの模擬戦は酷いもんでしたからね」
加藤はその光景を思い出してげんなりする。
実戦を想定して行われたその模擬戦は開始時、高高度に陣取ったドイツ側が終始、一撃離脱に徹し、低中高度に陣取った日本側を翻弄した。
日本側は反撃しようにも、圧倒的な速度で迫っては去っていくドイツ軍機に攻撃を仕掛けるのは至難の業。
結果、回避に精一杯となり、模擬戦が終わった時、日本側の機体はペイント弾の数や着弾場所から撃墜判定となったものがほとんどであった。
「昔、日本は反独だったらしいが、当時の政府はよく国民の批難に耐えてドイツの側についたと思う」
加藤はそう言ったが、航空機はまだ性能面では圧倒的不利だが、全く通用しないレベルではなかった。
「こりゃ大人と赤ん坊だ」
西竹一大尉はそう呟いた。
彼の言葉は並んでいる四号戦車の群れと、そこから離れたところにある日本陸軍の最新鋭戦車である八九式戦車を比較した素直な感想だった。
長砲身の88mm砲は誰がどう見ても恐ろしい破壊力を秘めており、またその角張った装甲は無骨さを感じさせた。
対する八九式戦車は小柄で愛嬌があり、四号戦車よりも遥かに価格が安いくらいしか言えなかった。
ドイツ陸軍の説明によれば三号までは傾斜装甲であったが、複合装甲の開発により、そこまで大きな傾斜をつける必要がなくなったとのことだった。
何でも、量産性とコストを考慮し、また大きく傾斜させずとも十分防御力が確保できた為だとか。
しかし、傾斜装甲も複合装甲も何のことやらさっぱり分からず、説明を聞いてようやく納得した記憶は真新しい。
「砲弾を弾く必要もない程に頑丈な戦車とはな……道理でウチの八九式が通用しないわけだ」
9月の終わり頃、到着してすぐにある実験がドイツ側から提案されていた。
それは主力戦車として配備が始まっていた四号戦車を攻撃してくれ、というものだった。
結果は零距離から複数の八九式戦車で取り囲んでタコ殴りにしても、装甲を僅かに歪ませるだけだった。
八九式戦車の主砲は短砲身57mm砲。
単純に名前だけではそこそこの威力があるように思えるが、史実と比較してマシになっているとはいえ、ドイツとは絶望的な冶金技術の差があった。
砲身そのものや発射する砲弾といった肝心の部分の材質が未熟であり、それがそのまま威力の減衰となって現れてくる。
無論、冶金技術は装甲などにも影響する。
結果として日本の戦車は欧米と比較してカタログスペック上はそれなりの性能であっても、実際には『やわらか戦車』なのであった。
ちなみにドイツ陸軍が性能比較として八九式戦車と見た目がほとんど同じものを数台、メーカーに作らせ、日本側の前で四号戦車の主砲及び主力対戦車砲である88mm砲の試射を行った。
結果、2000m以上離れていても正面装甲を見事に貫通されるというある意味当然な結果となった。
山下奉文中将以下、全ての陸軍将兵の顔が真っ青に染まったのは言うまでもなかった。
おまけに、この四号戦車は10月から量産され始め、11月時点で全てのメーカー合計で月産2300台というのだからもはやお話にならない。
質・量どちらの面でも優れ、おまけに実戦経験も豊富――日本は中国大陸に深入りしていない為、日露戦争以降実戦を経験していない――の相手に、根性とか練度でどうにかなると思う程、愚かではなかった。
「むしろ、ドイツから戦車を購入した方が早いかもしれない」
西の呟いた言葉は遣欧軍の誰も彼もが思っていることだった。
当面はドイツから戦車を購入して凌ぎ、ある程度のものが作れるようになったら国産を導入するのは何も不自然ではなかった。
角田覚治中将は感心と呆れが混じった複雑な表情をしていた。
2日後にキール入港を控え、艦隊は現在北海にある。
スエズ運河、ジブラルタル海峡を抜けてきた遣欧艦隊はフランス本国に近づくのを避ける為、ジブラルタル海峡通過後はブリテン島を迂回する形に進路を取っていた。
ブリテン島を迂回している間はイギリス空軍の戦闘機やイギリス海軍の駆逐艦部隊がエスコートしてくれていたが、今、遣欧艦隊をエスコートしているのはドイツ海軍だった。
巡洋艦4隻、駆逐艦23隻という大規模なエスコート艦隊を用意したドイツ海軍に角田も感激したものだが、ドイツ本土に近づくに連れ、上空を飛ぶ航空機の数が気になった。
ドイツ空軍は昼夜問わず100機近い戦闘機と十数機の哨戒機を遣欧艦隊上空に張り付けていたのだ。
それだけの直掩機や哨戒機を回してくれるのは感激を通り越し、不気味ですらあった。
エスコート艦隊の司令官であるハンス・ラングスドルフ大佐によれば空軍が夜間作戦行動を可能にしているとのことだったが、それにしては妙に統制が取れ過ぎていた。
ドイツ空軍のパイロットが全員一騎当千の猛者というならばあり得ないでもないが、幾ら何でもそれはあり得ない。
「ドイツ軍は我が方に期待しているのか、それともドイツ軍の精強さを見せつけているのか……判断に困りますな、長官」
そう声を掛けたのは長門艦長である木村昌福大佐だった。
「両方だろう。ドイツ海軍は強大だが、開戦時に港に主力を閉じ込められたと聞く……もっとも、彼らにとってそれは大きな痛手ではあるまい」
角田は渋い顔でそう告げた。
彼をはじめとした艦隊首脳部には大使館経由でもたらされたドイツ海軍の戦時拡張計画を知っていたからだった。
戦艦8隻、空母20隻以上、それらを護衛する巡洋艦や駆逐艦、さらには潜水艦や空母搭載機までも全てを数年以内に揃えるという。
日本から見れば誇大妄想甚だしい計画であったが、ドイツにはそれをするだけの力がある、と山本大佐の注釈がついていた。
連合艦隊をその気になればダース単位で揃えられ、同時並行で陸軍や空軍も大戦力を整えられる超大国、というのが日本海軍から見たドイツという国であった。
そのとき――
「上空の哨戒機より入電。『敵潜水艦を発見』とのことです」
その言葉に角田と木村が窓から前方へ目を凝らしてみれば、同じく哨戒機からの通報を受けたらしい、ドイツ海軍の駆逐艦が1隻、列を離れて敵潜水艦が潜んでいる場所に急行しているのが見えた。
潜んでいる海域上空には通報したらしい哨戒機が旋回している。
電探か何かで探知したのだろうことが窺えた。
「我が方も早急に電探などの電波兵器を導入せねばならん」
角田の言葉に木村は頷いた。
電探、いわゆるレーダーに関しては概念こそあるが、予算がつかず棚上げ状態だった。
「しかし……」
角田は言葉を飲み込んだ。
彼はこう言いたかった。
援軍としてきたのか、それともドイツの凄さを見にきたのか、よく分からない、と。
木村はその飲み込んだ言葉を察した。
彼は立派なカイゼル髭を撫でながら、告げる。
「我々の為すべきことはフランス海軍の撃滅にあります。ここはドイツやイギリスといった欧州強国の庭先。その庭先でフランス艦隊を撃滅し、日本海軍ここにあり、と盛大に名乗りましょう」
木村の言葉に角田は笑みを浮かべつつ、先ほどから黙りっぱなしの参謀長へと視線を向ける。
遣欧艦隊長官就任にあたり、角田は是非に、と参謀長に就任を要請した人物がいた。
その名は志摩清英。
彼は少将に臨時に昇進した上で参謀長となったのだが、彼は通信畑の人間だ。
角田が選んだ理由はひとえに、日本から遠く離れた欧州での艦隊行動ということで各艦は勿論、同盟国海軍との連携・連絡を密に取りたいが為だ。
また、欧州諸国が電波兵器を実用化し配備していることから、電波の専門家として知恵を借りたかったということもあった。
「参謀長、どうかしたのか?」
「ドイツ空軍機の夜間飛行について、考えておりました」
ほう、と角田は興味深そうな声を上げる。
「ドイツが航空機に搭載できる小型の電探を持っているのは間違いありませんが、もしフランスも持っていた場合、我々は夜間に大空襲を受ける恐れがあります」
「だが、いくら電探があったとしても艦船へ正確に投弾することはできまい」
角田の言葉に頷きつつも、志摩はさらに言葉を続ける。
「しかし、フランスが数百機の爆撃機でまるで投網を被せるように攻撃してくる可能性はあります」
角田はそれを聞き、告げる。
「その懸念はドイツ側に伝えておこう……しかし、ネルソン級を食われたイギリス海軍が沈黙を保っているのが不気味だな」
大使館経由の情報では11月初めからドイツ海軍と共同で海上封鎖をやっているとのことだが、それ以外に目立った動きはない。
あのジョンブル共が殴られっぱなしで終わるわけがない、と角田は勿論のこと、艦隊首脳部の誰もが確信していたのだった。