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技術加速の極み

独自設定・解釈あり。

今更ながらの酷いチートあり。

 5月12日 午前8時前


 ケルンの東 90km ジーゲン


 ジーゲンは森の中にある街であった。

 昔から鉄鉱床に恵まれたこの街では製鉄業が盛んであり、それは今もなお変わらなかった。

 午前8時ともなれば仕事へ赴く者達で街の道路は賑わうのだが、この日はそうではなかった。

 住民達はいつもと同じ日常ではない、非日常の真っ只中にあった。

 その非日常の象徴であるのは市庁舎だった。

 レンガ造りであり3階建てのこの市庁舎は日常の中では街の象徴であった。

 普段なら気さくな職員達が1階の窓口にいるのだが、彼らは姿を消し、代わりに兵士や将校達が詰めていた。

 そのような物々しい雰囲気の中、3階にある会議室には大勢の高級軍人達が集っていた。





「敵は遅刻しているようだ」


 カール・ルドルフ・ゲルト・フォン・ルントシュテット大将は居並ぶ面々に対し、そう切り出し、更に続ける。


「敵はこちらに気づいている。故に、慎重に進んでいる……だが、それが連中にとって命取りとなるだろう」


 ルントシュテットの言葉はまさしく今のドイツ軍を示したものであった。

 時間が経つごとにドイツ軍は数を増す上に防御陣地はより堅固なものとなるのだ。


 西方装甲軍集団には現在、3個装甲師団と4個自動車化師団が存在する。

 これらの師団はジーゲンを中心とし、ケルンに向かって半円を描くように配置されていた。


 その一方でこの半円に参加しない師団があった。

 近衛軍団所属の近衛装甲師団『グロス・ドイッチュラント』はこの半円よりもより東側に位置し、予備兵力とされていた。


 ルントシュテットの狙いは簡単だった。

 敵が真っ直ぐ突っ込んでくるならば両翼の部隊を動かし、包囲を閉じて殲滅。

 もし片翼に集中するならば予備の近衛装甲師団を突っ込ませる。

 中央が攻撃されずに両翼を同時に攻撃された場合は破られる可能性があったが、それとて近衛装甲師団から分派して援軍に送れば持ちこたえ、その間に中央から装甲部隊を一気に敵後方へ回りこませ、両翼共に包囲する。


 考えられるパターンはその3つであり、どれが実行されてもドイツ軍の勝利は揺るがなかった。


「問題は2点あります。それは敵が別の部隊と合流を図ったときと敵が航空支援を行った場合です」


 そう言ったのはマンシュタインだった。

 彼が危惧しているのは敵が直前で方向を変え、ライン川沿いに北上したときであった。

 そうなればエッセンが陥落する可能性が高く、下手をすれば唯一の空軍基地であるヴィットムントハーフェンや海軍のヴィルヘルムスハーフェン基地が陥落ということになりかねない。

 そうさせない為にはとにかく敵の数を減らすしかないが、西方装甲軍集団から師団を派遣すれば別の敵軍がその空いた穴を突く可能性があった。


 対して南進する可能性は皆無である、と誰もがしていた。

 南進すれば確かにルール地方が脅かされるが、そこには西方軍集団が展開している。

 その構成師団は歩兵師団であったが、それでも同盟国であるイギリスやロシアの歩兵師団と比較した場合、車両数が段違いであり、他国では自動車化師団に区分されるレベルにあった。

 ドイツで歩兵師団とされているのは単純に自走砲や戦車などのそういった戦闘車両を装備していないからに過ぎなかった。

 



 幸いにも、空軍から出向という形を取っている偵察・連絡機であるFi156シュトルヒは各師団の飛行中隊に4機配置されていた為、航空偵察は十分にできた。

 それによればこちらへ進撃している敵軍は装甲師団と自動車化師団あわせて少なくとも3個というものであったが、朝の偵察によれば敵軍はジーゲンより40km程の地点で停止しているとのことだった。


 そんな停止している敵軍に空襲を仕掛けてもらおう、と空軍の連絡将校に提案したが、彼によればエッセンに攻撃を加えている敵軍を空襲するとのことで、航空支援は期待できない。

 また戦闘機に至っては旧式のJF12では到底太刀打ちできず、頼みのJF13を装備したJG22も壊滅状態であり、直掩すらも期待できなかった。


「時間差では無理か? エッセンに取り付いている敵を空襲した後、こちらの敵を叩くのは?」


 そう言ったのは第1装甲軍団のパウル・ハウサー中将であった。

 その問いに答えたのは空軍の連絡将校の少佐であった。


「空襲でどの程度の痛打を与えることができたかによります。恥ずかしい話ですが、我々に使える爆撃機は現状では300機程度です」

「B43は最大で7トンの爆弾を搭載できると聞いたが、地上部隊を叩くには不向きなのか?」


 その問いは近衛軍団のクライスト中将からのものであったが、少佐は首を横に振る。


「B43は大量の爆弾を積めますが、その分小回りがききません。爆撃機に狙われたら、敵部隊は必ず散開しますので、B43を使うとしたら地域一帯を根こそぎ吹き飛ばすようにしなければ効果は薄いかと……」

「B43は不動目標専門というわけか……」


 クライスト中将はなるほど、と頷いた。

 敵地で地域爆撃を行うならば良いが、今の戦場はドイツ本国だ。

 さすがに敵がいるから、と根こそぎ吹き飛ばすわけにもいかない。


「もし敵軍がこちらに来ず、北上した場合は直ちに追撃の為に近衛装甲師団を出した後、全ての部隊を前進させ、ケルンを奪還する……もっとも、これを行う場合は全ての戦線に十分な兵力を配置した上で、だ。もし、兵力不十分な上で敵が北上した場合は近衛装甲師団で追撃のみを行う」


 ルントシュテット大将はきっぱりと言った。

 クライストやハウサーもそれで異論は無いらしく、僅かに首を縦に振る。


 現在、ベルリンに近いという理由でジーゲンをはじめとした周辺地域に西方装甲軍集団は展開しているが、北部方面にも編成が完了した部隊が順次、配置されつつあった。

 数日から1週間程度で数個師団が展開を完了する見込みであったが、どうなるかは分からなかった。


「航空支援に関してだが、私から弟をどやしつけておこう」


 そのさりげない一言は一同の笑いを誘ったのだった。



 







 午前10時過ぎ レヒリン


 兄から航空支援が無いことの文句がヴェルナーには入ってきていたが、実際には近況報告が主であった。

 そんなヴェルナーも兄に近況報告と空軍の厳しい事情を伝え、そこからレヒリンに向かった。


 ミューリッツ湖に面したこのレヒリンには空軍の技術機関である空軍実験センターが設置されている。


 ヴェルナーがここに向かったのは一重に、1930年度のトライアルに敗れた航空機の敗者復活戦にあった。

 無論、それまでの間にメーカーが自主開発した機体を持ち込んでも良い、という条件を加えて。

 

 ヴェルナーは補給本部の長となってから多くの航空機メーカー、エンジンメーカーに自主開発を奨励し、それに対して補助金を出していた。

 自主開発させておいて技術を蓄積させ、あわよくばその自主開発機をすぐに制式採用できるように、とそういう思惑であった。


 彼が新型機について会議の席上で言った1年以内に双発戦闘機を実用化する、という自信はこれであった。

 うまくいけば1週間で実用化も可能であったが、そこまで大口を叩く程に彼は度胸がなかった。

 




「天気に恵まれましたね」


 ヴェルナーは居並ぶ面々を見てそう言った。

 空は雲1つ無い快晴であり、絶好に飛行日和だ。

 空軍実験センターの屋外にある飛行試験場、そこに彼らはいた。



 面子は豪華なものでエルンスト・ハインケル、ウィリー・メッサーシュミット、クルト・タンクなどなどの航空機メーカーを引っ張る存在達であった。


「それでは早速試験を開始したいと思います。何分、我が祖国には剣が刺さっている状況ですので、試験の結果は即量産という形になります」


 ヴェルナーはそこまで言い、司会役として連れてきたヒムラーに視線を送る。

 すると彼は頷き、口を開いた。


「事前の順番通り、まずはハインケル社からお願いします。それでは観覧席へどうぞ」


 観覧席と言っても大層なものではなく、椅子とテーブルが置かれた簡素なものだった。


 面々が着席すると同時にヒムラーは無線で指示を飛ばす。

 するとすぐに1機の単発機が駐機場からゆっくりと滑走路に侵入してきた。


 それはかつてMe109に敗れたハインケル社の戦闘機、He100であった。


 曲線を多用したそのフォルムは如何にもハインケル社らしいものであった。

 ヴェルナーはその機体を見て思わず唸った。


 かつてのトライアル時に出てきたHe100とは何かが違う。

 そう彼の直感は囁いた。


 そのとき、ハインケル博士が観覧席の前へと進み出て自信満々に告げた。


「30年度の採用試験に敗れたHe100を徹底的に改修し、新たに生まれ変わったHe100Dです」


 そう言った直後、He100Dは軽やかに空へと舞い上がった。

 パイロットとの無線はオープンとなっており、観覧席にいる面々にもよく聞こえた。

 

 それによれば上昇性能や加速性は良いが、まるで暴れ馬のようだ、と言っている。

 暴れ馬、というところでヴェルナーは眉を顰めた。

 その様子にハインケルは内心焦りながらも、それを表には出さずに告げる。


「He100から比べて操縦性についてはかなりマシにはなりました。最高速度もHe100のときは620kmに過ぎませんでしたが、D型は高度6000mで670kmを記録し、武装はマウザー社の20ミリ機関砲を主翼付け根に2門装備しております」


 そんなハインケルに対してヴェルナーは答える。


「確かに直線における最大速度は重要ですが、空戦というのはそれだけで勝敗が決まるものではありません。かといって旋回性能に特化しても強いというわけではありません」


 ハインケル博士はその評価に肩を落とすが、まだハインケル社には双発機が残っていた。

 空にあるHe100Dはそれから一通りの機動を試した後、滑走路へと戻ってきた。

 

「性能というのは目的と合致していなければどれだけ速度に優れた戦闘機であっても意味がありません。軍の方針としては最高速度が劣っていたとしても、新兵が扱いやすく、多少のミスが許される頑丈な機体を求めているのです」


 ヴェルナーの言葉にクルト・タンク技師が何度も頷いていた。

 パイロットでもある彼からすれば何よりもまず扱いやすく頑丈であることは有難いものであり、Me109が採用されたのも当然と考えていた。


 そして、新米が戦場から生還していくにつれベテランとなり、結果として新米が多数生き残ることはベテランを多数増やすことに繋がる。

 そのベテランは新米を育て、またその新米が生き残りベテランとなる……

 機体性能もそうであるが、最終的にはパイロットの腕が勝敗を決することとなる。


 事実、JG22からの報告では敵新型機は速度では圧倒的優位にあり、おそらくは時速600km前半程度は出ているが、JF13で対処可能である、としていた。


「次は双発機に移ります」


 ヒムラーは上司の言葉が一段落したタイミングを見計らい、告げた。

 その言葉にヴェルナーは頷き、それを確認したヒムラーが無線から指示を飛ばす。


 すると先ほどよりも騒々しいエンジン音が辺りに響き渡る。


 ゆっくりと駐機場から動かし出した機体にヴェルナーは笑みを浮かべた。

 その表情にハインケルの表情も明るくなり、再び自信満々に告げる。


「He119双発戦闘機です。エンジンにはDB601Dを使用し、最大1200馬力の出力を発揮します」


 ヴェルナーは僅かに頷きながら、問いかけた。

 彼はHe119から全く視線を外していない。


「あれはどの程度のものですか?」


 そう問いかけているうちにHe119が離陸し、上昇を開始した。

 先ほどとは別のパイロットが操っており、彼曰く離陸時の視界は良好、上昇性能も良いとのこと。


 He119は史実のHe119ではない。

 史実のHe119は双子エンジンを搭載した爆撃機であったが、このHe119は戦闘機であった。


 ヴェルナーが目を離さなかったのは史実では夜戦として活躍したその機体が、軽量小型化されたようなバージョンであったからだった。


 He219ウーフー、それが史実でのこの機体の正式名称であった。

 そして、そのHe219のイラストをヴェルナーはかつてハインケルに手渡していた。


「小型軽量を追求しつつ、各所に装甲板を張り巡らし、防弾にも配慮してあります」


 イラストに対してハインケルは若干のアレンジを加えていた。

 それが操縦席の位置であった。

 オリジナルのHe219は前面にあったが、He119を機体中央となっており、細長かった胴体も横に若干膨れ、また短くなっていた。

 

「また、3車輪式降着装置を採用し、離陸性能を高めており、更に緊急時の脱出用として射出座席が装備されています」


 ヴェルナーは鷹揚に頷く。

 それらは真新しい単語であったが、この場で知らない者はいなかった。


「高度6000mで最大速度は622km、武装は13ミリ機銃を機首部に6丁装備しており、航続距離は増槽無しで1800kmです」


 He100Dと比べたら鈍足であったが、パイロットからの評価は双発機にしては加速性も運動性も良好であり、一撃離脱に特化した機体と報告した。


 ヴェルナーはなるほど、と頷く。

 彼はHe100Dはともかく、He119については既に心の中で量産を決定していた。

 無論、He100Dも1個飛行中隊分は生産させて前線部隊に試験名目で配備しようとも。


 軍の方針から――その方針についてもヴェルナーが推進したのだが――そう言ったものの、それでも670kmという速度は魅力的であった。

 

 だが、He100は確かにMe109よりも高速であったが、まるでレースに出るかのような困難な操縦性と防弾性能の不足が敗れた原因であった。

 



 He119はひと通りの機動を行った後、やがて地上へと戻った。

 同時にハインケルはヴェルナーからの評価に期待した視線を向けてきた。

 そんな彼に対してヴェルナーは何も言わずに会釈しただけだった。



「次はRFR社のエドガー・シュミュード技師によるS85です」


 ヒムラーの言葉に一同は駐機場から出てくる機体に注目する。

 ヴェルナーももうほとんど会社業務には携わっておらず、名義を貸している程度であり、どんな機体が開発されているのかは知らなかった。


 出てきたのは単発戦闘機だった。

 それを見たヴェルナーは笑いたくなった。


 こんなにも早く、あのとんでもない機体が出てくるなんて。


 彼がそう思っているうちにハインケルに変わってシュミュードが前へと出てきた。


「私の機はつい最近、量産が開始されたばかりのDB602F型エンジンを装備しております」


 聞き慣れぬエンジン名に一同は首を傾げる。

 ヴェルナーは史実の情報からこの機体ならばあのエンジンというのが分かっていたが、それは量産が開始されたばかりであり、輸入に関しては交渉中であった。

 当然の如く、イギリスやロシアでも技術加速の影響から史実よりも数年程早く色々の兵器が登場していた。

 ちなみに一番驚くべきところはあのイギリスがドイツの影響もあってか、マトモな戦車の開発に成功し、それを配備できていたことであったりする。


 ともあれ、補給本部の長である彼もDB602F型などというエンジンは初耳であった。

 幾ら彼が軍における航空機開発の実質的なボスとはいえ、個々のメーカーの製品全てを把握しているわけではない。


 シュミュードは笑みを浮かべながら更に告げる。


「DB602F型は従来の601とは全く違い、流体力学を全面的に取り入れた設計により無理なくコンパクトなエンジンに収めています。既存のDB601シリーズは限定的に取り入れた為、従来のものより小型に収まっていますが、それよりも更に小型化に成功したものです」


 そのとき、エンジン音を響かせながらS85が空へと舞い上がっていった。

 パイロットは操縦に癖があるが、加速性が良いと称していた。


「DB602F型は1250馬力の出力を発揮し、2段2速式のスーパーチャージャーを搭載しています。このスーパーチャージャーはDB601シリーズに装備されているものを改良したものであり、高高度性能はJF13に勝ると自負しております」


 そのとき、パイロットの声が飛び込んできた。

 縦の旋回性能や低空での旋回性能が悪いものの、それ以外はJF13よりも良好であるとのことだった。


「S85は高度7500mで最大610kmを発揮し、武装は13ミリ機銃を4丁装備しております。ただ、防御はJF13に一歩譲りますが、それでも航続距離は増槽無しで1300km、有りで1800kmを誇ります」


 ヴェルナーは溜息を吐きたくなった。

 何で1930年にP51が飛行しているんだ、と。

 確かに不思議なことではない。

 ヴェルナーは何年も前から層流翼やら後退翼やら果ては全翼機やらの、極めて未来的な翼について述べており、それらの研究はRFR社をはじめとした各メーカーで盛んに行わている。

 10年以上も早くT34もどきの戦車がドイツに出てきていることやレーダーの試作型ができていることからも、技術加速の原因であるドイツでは史実と比較して最低でも数年から早ければ10年程は技術が加速している。

 ジェット機についてもMe262やTa183、F86セイバー、Mig15などの黎明期のジェット機から最新のF15やF18、F22、Su27などの現代的なものまでイラストを提供していた。

 無論これらは戦闘機に留まらず、B52やB1、B2といった爆撃機にも及ぶ。

 それらは何枚にも複写されて各メーカーではそのイラストを絵に描いた餅から現実の餅にしようと日夜研究を重ねていた。

 ほとんどが手探り状態である為、その歩みは非常に遅かったが、それでも着実に少しずつ前へと進んでいた。


 


「ところでシュミュード技師、S85は何か欠点があるのですか?」


 ヴェルナーは設計した本人に尋ねてみた。

 すると彼はよく聞いてくれました、と言わんばかりに不敵な笑みを浮かべる。


「層流翼の性質上、どうしようもない低速時の旋回性能の悪さと改善できなかった縦旋回の悪さ以外は全て改善できています。また、エンジン馬力を上げればより高い性能を得ることができるでしょう」

 

 どうやらただのP51ではなく史実のH型どころか、それを上回る化け物らしい、とヴェルナーはあたりをつけた。

 よくよく考えれば彼の周りにはメッサーシュミットやらクルト・タンクやらのドイツ航空機業界の天才がいる。 

 彼らからアドバイスを貰ったりすればとんでもない機体ができるのも当然かもしれない。


 ヴェルナーはそう思ったものの、シュミュードは言わなかったことがあった。

 エンジンが非力なことから、どうしても重量軽減せざるを得ず、シュミュードが言っているように防弾性能がJF13と比較して弱いこと、また13ミリ機銃4丁もその装弾数に関しては本来なら280発のところを130発に制限されていることなどなどであった。

 これらの努力により、JF13がフル装備状態で3.6トンであるのに対し、S85はフル装備状態で2.8トンであった。

 もっとも、シュミュードからすれば最低でも1500馬力クラスのエンジンができれば全ての制限が取り払われる為、それらのエンジンを搭載できるよう設計に余裕を持たせてあった。

 そうであった為に、大馬力エンジンがあれば、という条件をつけたのだ。



 ヴェルナーはメッサーシュミットの表情をうかがった。

 自らが手がけたJF13よりも防御を除けば圧倒的な高性能っぷりに何か思うところはあるのではないか、と彼は思った。


 しかし、予想に反してメッサーシュミットは何も感じてはいないようだった。

 むしろ彼は満足気にうんうんと頷いており、その横にいるタンクも同じようなものであった。


 この2人、S85に匹敵する化け物を持っているのか、とヴェルナーは思いつつ、ハインケルへと視線を移した。


 彼の狼狽っぷりは傍目から見ても可哀想なものがあった。

 He100Dは速度性能においては優っていたが、操縦性は段違いのようであり、パイロットは軽やかにS85を操っている。


 本来、双発戦闘機も次期主力単発戦闘機の繋ぎに過ぎない。

 これは双発戦闘機計画そのものが立ち消えになるのではないか、という思いにハインケルはかられていた。


 その思いは的中し、ヴェルナーは双発戦闘機は必要ないのではないか、と思い始めた。

 同時に既存のエンジンをこねくり回したところで大して違わない、という認識も改めた。

 彼がエンジンについての知識を持っていなかったことがそこにあり、やはり付け焼刃の未来知識ではきっかけを与えることはできても、有用な助言を与えることはできないと改めて感じた。


 もうS85で決定で良さそうな気がしたが、一応全部見てみなければ分からない。

 事前に性能表というものはヴェルナーの個人的な趣味からもらっておらず、実機を見た後に改めてもらう形となっていた。

 最後にヴェルナーはシュミュードに尋ねる。


「あの機体はどのくらいの年月を掛けたものですか?」

「1928年の1月には試作機が完成しておりますが、エンジンの性能が不良で30年のトライアルには出せませんでした。それからダイムラー・ベンツに依頼してエンジンと過給器の改良……実質的なDB602F型の開発に取り組み、このエンジンは去年の4月1日に量産が開始されました」

「それから改めて試験なり何なりして、改善にだいたい1年というところか……」


 なるほど、とヴェルナーは頷いた。

 史実と違って時間的余裕は十分、周りにいる最高レベルの天才達からの助言、RFR社の膨大な技術的経験と豊富な資金、最新の設備……それらはS85をより欠点の少ない戦闘機に仕立てあげたようだった。


「ところでシュミュード技師、私はこのS85を横に2つ並べてくっつけた機体をあなたに提案しようと思います」


 ヴェルナーは懐からメモ用紙を取り出し、さらさらとイラストを描いてシュミュードに渡した。

 それは極めて安直な機体であったが、シュミュードはそれを見、真剣な表情となった。

 メッサーシュミットやタンク、あるいはハインケルといった面々も覗きこんで思わず息を飲んだ。


「双胴双発複座の長距離護衛戦闘機……これに爆弾や開発中の機上レーダーでも搭載すれば多用途機として使えるかもしれません。ただし、S85と同等以上の性能とする必要がありますが」


 ヴェルナーが提案したのは史実のP82ツインムスタングであった。

 安直な話であったが、それを実際にやり、高性能機としてしまうのだから史実のノースアメリカン社は色々な意味で凄かった。


「開発期間は?」

「2年以内で」


 ヴェルナーの言葉にシュミュード技師は真剣な表情のまま頷いた。

 双発戦闘機……というか、双発戦闘爆撃機兼夜間戦闘機もこれで目処がついた。


 史実の二次大戦後の機体が早ければ2年後に出てくるという色々な意味でおかしな状況であったが、ヴェルナー達からすれば一刻でも早く新型機が欲しい為、有難い状況であった。

 もっとも、その頃になればドイツに引っ張られてイギリスで史実のスピットファイアMk14とかモスキートとか日本では烈風、紫電改、疾風、五式戦、ロシアではラボーチキンLa7とかヤコブレフYak9――特にロシア製は史実と違って全金属製で――出現してくる可能性が非常に高かった。

 無論、同盟国側だけではなく、多数の技術者を引き抜かれて弱体化している筈のアメリカでもヘルキャットどころかベアキャットやタイガーキャット、スカイレーダーにP47など大戦後期から戦後にかけてのものが出てくる可能性は高い。


 最もそれが顕著に分かる例は日本にあった。

 史実では十二試艦上戦闘機として1937年に海軍から提示されることになるが、この世界では技術加速の影響から既に零戦五二型に相当するものが部隊配備されている。

 制式採用年度がJF13と同じだった為、九〇式戦闘機として。

 もっとも、第一次世界大戦が無かった為に格闘戦こそが空戦の勝敗を決するという思想は海軍は勿論、陸軍にもなかった。

 その為、盛んにより良い空戦方法の研究が行われている真っ最中であった。

 そして、彼らが求めたものは防弾性能もそれなりに良く、速度もそこそこ出、火力もそれなり、という良く言えばバランスが取れた、悪く言えば器用貧乏な機体であった。

 もっとも、最大速度は高度6000mで564kmとJF13よりも速かった。

 


 そのような分かりやすい例とは別に、史実には無いような進化を遂げそうなのがフランスとオーストリア・ハンガリーであったが、果たして戦争が2年後まで続いているかどうかという問題があった。


 そして、ヴェルナー個人としては2年以内に決着を着けるべきだ、と考えている。

 確かに今回の戦争では勝ちが見えているが、それでも長引けば長引く程にイギリスやアメリカ、ロシアといった国家の介入を強く受けることになる。

 特にロシアは協定を超えた範囲の領土を要求する可能性があり、そうなればイギリスが当然抗議してくる。

 そうなってしまえばロシアとイギリスで対立が起こり、同盟は簡単に崩れ去るだろう。

 イタリアだけはうまく立ち回りそうだが、彼の国の基本的な望みは未回収のイタリアであり、また地中海の安定だ。

 フランスが消滅すれば地中海の安定は自ずと達成でき、ドイツとの交渉で未回収のイタリアを回収することもできる。

 

 未来は際どいものだ、とヴェルナーが思ったところで無線からパイロットの声が再び響いた。

 S85を見ればちょうど着陸に入るところであり、彼によれば前方視界の不良と着陸速度の速さが欠点として挙げられた。


 シュミュード技師をヴェルナーが見れば彼は首を左右に振った。

 どうやら解決できない問題点の1つだったらしい。


 そこまで望むのは酷だろう、とヴェルナーは思い、何も言わなかった。

 頑丈で扱いやすく、ミスをしても許される機体――とはいっても、JF13よりもほとんどの面で上回っているならば多少の問題点があっても十分採用候補に入る。

 史実のP51で着陸事故というのは余り聞かなかった為、訓練時間を多く費やして解決できるレベルの問題だろう、とヴェルナーは考えた。



「次はメッサーシュミット博士の機体です」


 ヒムラーの言葉にヴェルナーは滑走路へと目を向ける。

 そして、言葉を失った。


 それはJF13とは似ても似つかないものであった。

 

「JF13こと、Me109から徹底的に贅肉を削ぎ落とし、軽量化した機体です」


 メッサーシュミットが自信満々にそう言った。

 ずんぐりとした樽のような機体であったJF13。

 F4Fと言った方が相応しいこの世界のMe109=JF13であったが、ヴェルナーからすれば目の前にある機体こそがMe109に相応しかった。


「防弾性能はJF13より劣ります。ですが、速度・上昇力・加速力・運動性、その全てで優越している機体であり、高度7000mで最大624kmを発揮できます」


 ヴェルナーは思わず史実での機体名称が出てきそうになったが、何とか飲み込んだ。

 メッサーシュミットが持ってきた機体は史実におけるMe109F型を全体的に大きくし、より洗練したものであった。

 ただ、史実にあるような事故を起こしやすい主脚配置ではないところが、世界の違いを感じさせた。


「機体名称はMe209となっており、武装は主翼のマウザー社製の20ミリ機関砲2門と13ミリ機銃2丁となっています」


 やれやれ、とヴェルナーは溜息を吐いた。

 例によって例の如く、パイロットからはJF13を上回る運動性能や加速力、上昇力といった点が報告される。


「航続距離はS85と比較して落ちますが、それでも増槽無しで1200kmを誇っております」


 30年度のトライアル、もう1年くらいズラした方がよかったかなぁ、とヴェルナーは思い始めた。

 とはいえ、1年ズラしていたら、JF12しか戦闘機が存在しておらず、パリ空襲など到底行えなかっただろう。


「とりあえず、後でS85とMe209で比較試験をしましょう」


 ヴェルナーは疲れた声でそう言った。

 もうテストする意味が無い、と彼は感じていた。

 どちらも同程度に優れているだろう、と。

 しかし、このMe209もS85と同じく苦肉の策が取られていた。

 すなわち、重量軽減の為の諸々の処置であった。


「次はタンク技師によるものです」


 出てきた機体にヴェルナーはすぐに目を離した。

 特徴ある長鼻と細長い主翼。

 もうそれだけでこの機体が何か分かった。


「私が送り出す機体はTa152というものです。速度は高度7500mで600km程度ですが高高度は勿論、中低高度でも対応できるようアスペクト比の比較的大きな細長い主翼を採用しました」


 一般に細長い主翼=アスペクト比が大きいものは高高度を高速で飛ぶのに良いとされている。

 そうしなければ大気の薄い高高度で十分に揚力を得ることができずに飛行維持ができない為だ。

 対して戦闘機においてはアスペクト比の小さい短めの主翼が良いとされている。

 事実、S85やMe209もそうであった。

 細長い主翼ではロール性能が悪化し、強度的にも不利である為だ。

 だが、敢えてタンクがそうしたのはそれらが妥協できるレベルのサイズ――すなわち、高高度での戦闘機動が行え、なおかつ中低高度での戦闘も行える主翼を見つけた。

 彼がただ細長く大きな主翼とは言わず、比較的といった形容詞がついていることからも、それはうかがえた。

 史実では中低高度用のTa152C型も計画されたが、高高度型のH1型であっても、低空では低翼面荷重となって運動性は良好だったりする。


「Ta152にはJumo212D型を使用しており、2段2速のスーパーチャージャー付きで1200馬力を発揮します。なお、このエンジンは倒立V型となっており、プロペラ軸内に機銃を仕込む……いわゆるモーターカノンが可能となっており、ここにマウザー社の20ミリ機関砲、機首上部には13ミリ機銃を2丁装備してあります」


 さらに、とタンクは続ける。


「エンジンがより大馬力になれば主翼付け根に13ミリ機銃を2丁装備できるようにしてあり、航続距離は増槽無しで1200km程度です」


 良いところばかり述べているタンクであったが、やはりというかTa152も重量軽減措置を行なっていた。

 1番影響を受けたのはモーターカノンである20ミリ機関砲であり、ベルト給弾式のこれは120発の装弾数を誇っていたが、60発に制限されていた。

 とはいえ、ヴェルナーにはそこら辺は分からないところであり、彼はただ目の前の機体に目を奪われていた。


 そうこうしているうちにもパイロットからは報告が入ってくる。

 ロール性能は悪く、上昇力も今一であったが、低空での旋回性や操縦性も良く、また、高度7500mでの運動性も非常に良好であるとのことだった。


「……比較試験については撤回します。単発戦闘機はHe100Dも含めて全て採用、ただしHe100Dについては少数のみ生産とします」


 また、とヴェルナーは更に続ける。


「He119については唯一の……というよりか、ハインケル社以外は全部単発戦闘機であった為、制式採用し、主として双発戦闘機として大量生産します。後に、戦闘爆撃機として使うかもしれませんのでそれに関連する試作型は作っておいてください」


 ヴェルナーの独断であったが、彼は何が何でも上を説得するつもりであった。

 正直、これらの機体が量産でき、順次エンジンを向上させていけばドイツはフランスなどには負けない。


 結局のところ、ネックとなるのはエンジンであった。

 全ての航空機の心臓部、それが弱ければどうにもならない。

 図らずともヴェルナーの既存エンジンをこねくり回しても、というのは不正解であると同時に正解でもあった。

 機体設計で高性能を出すことができるが、それでも劇的な性能向上は狙えないのであった。


 試験後、ヴェルナーは渡されたそれぞれの性能表から割り振るべき任務をつけた。

 S85は航続距離が長く、高高度では高性能であることから爆撃機の護衛機として、Me209は3機種の中で上昇力と加速力に最も優れていた為に迎撃機として、Ta152は高高度から中低高度、どこでも戦えることと比較的長い航続距離であることから制空戦闘機として。 


 3つも生産するよりは1つに絞った方が良いのではないか、という批判を回避する為にこじつけたものだが、外れてはいない、とヴェルナーは確信していた。

 

 また当初の予定であった双発戦闘機に関してはHe119を採用したのは現時点で最も重武装の機体であった為だ。

 13ミリ機銃といえど6丁の集中射撃を受ければまず単発機ならば一撃で落ちるだろうことは想像に難くない。



 



 試験から数時間後、ヴェルナーは空軍参謀本部にて緊急の会議を開き、ファルケンハイン大将以下主要な将官や佐官達に試験結果を報告。

 彼らはどの機体も甲乙つけ難く、どれもがJF13を上回るということに狂喜し、すぐさま量産に移すよう命じてきた。

 また、ヴェルナーの自主開発の奨励が称えられ、作戦部の大佐――当時はその自主開発への補助金に対し予算の無駄と言い切っていた――も満面の笑みであった。

 とはいえ、異例の全て採用であり、1つに絞った方が良いのではないか、という意見もやはり出てきたが、それぞれ任務が違うことを盾にしてヴェルナーは押し切った。


 そんなわけで決定後、ヴェルナーはただちに1機でも2機でもいいから部隊へ早急に配備するようRFR社とハインケル社に働きかけた。

 

 その結果、増加試作機として作られていた分がそれぞれ2機を残して空軍の教導航空団へ引き渡されることになった。

 その内訳はS85が4機、Me209が6機、Ta152が8機、He100Dが2機、He119が8機であった。

 また空軍はヴェルナーを通してRFR社とハインケル社に対して正式な量産を命令し、7月までにそれぞれ300機を生産することが目標とされた。

 この一方でこれらの新型機が十分な量産体制を整えるまでの間はJF13の量産も行わなければならない為、メーカー側は大量受注で嬉しい反面大慌てであった。

 特にRFR社ではB43も量産しなければならなかった為、いっぱいいっぱいであった。

 その事情を考慮し、ヴェルナーは手を打った。

 それはアラド社、ゴータ社、フォッケウルフ社などの中小規模の航空機メーカーや他業種の大手メーカーに航空機をライセンス生産をするように命じた。

 それらはJF13から今回の新型機、あるいはB43の大型爆撃機に至るまで。


 大量生産方式が十分に浸透し切ったドイツでは全力稼働の為に多少の準備期間を経た後は膨大な量の製品を製造することができたが、生産ラインの転換に掛かる時間は早くて3ヶ月だ。

 それまでにパイロットの訓練をしたり何だりとやることは山積みであり、ちょうど良い期間でもあった。



 










 5月13日 午前1時


 ケルン近郊



 ド・ゴール少将は焦燥にかられていた。

 本来ならば昨日のうちにジーゲンに存在する敵軍と戦闘を開始している筈であったのだが、師団所属の飛行中隊による航空偵察によれば敵軍が少なくとも3個師団以上展開しているとのことであった。


 幾ら勇猛なド・ゴールといえど、自軍の3倍以上の戦力とぶつかるようなことはしなかった。

 その為、彼は後続する自動車化師団の到着を待ち、戦力比を2倍程度にまで縮めた上で攻撃を開始しようとした。

 だが、これには上層部が待ったを掛けた。


 彼らはベルギー攻略にあたった部隊及びフランス本国にて編成が完了した部隊をドイツへ送り込むまで進撃を停止するようド・ゴールに求めた。

 その為、彼に下された命令はケルン近郊まで引いた上での、陣地構築であった。

 その反面、北海沿いにドイツ北部へ進撃している部隊に対してはヴィットムントハーフェンやヴィルヘルムスハーフェンを落とすよう叱咤している。


 フランス軍は無能でもなければ怠惰でもなかった。

 横にドイツという不倶戴天の敵を抱えた彼らは油断することなく、常に思考を続けた。


 上層部が導き出した結論はこのような状況に陥った場合、下手にド・ゴールの部隊を動かせば、これ幸いとばかりにドイツ軍は側面に快速師団を配置することで守備を固めた上で、機甲師団でもって一気に中央突破を図ってくると読んでいた。

 そうなれば南部と北部に分断され、各個撃破されてしまう。


 ド・ゴールとてそれくらいは分かったので、上層部の命令に意見を呈することなく従った。


 全てはドイツ軍の対応が予想以上に早いことが誤算であった。


「問題はどこに活路を求めるか?」


 ド・ゴールは司令部とされた天幕内で呟いた。

 深夜ということもあり、参謀達には仮眠を取らせている為、彼は1人であった。


「このままではずるずると消耗戦に引き込まれる」


 ド・ゴールは南部戦線、すなわち二重帝国とドイツの国境での戦闘についても報告を受けていた。

 二重帝国軍は軍事顧問団をはじめとしてフランスから様々な支援を受けていたが、やはりというか、マトモな作戦行動は取れそうもなく、軍内部での言語の統一も不十分であった。

 その為、国境線から動くな、防御に徹しろというドイツ軍の戦力誘引の役割をフランスから与えられていた。

 

 しかし、それも怪しかった。

 昨日の昼間からドイツ南部に展開しているドイツ空軍による空襲が国境陣地に掛けられ、対抗しようとした二重帝国軍の戦闘機――フランスから提供されたD520――が迎撃に向かったものの、如何せん数が少なく、一世代前の戦闘機であるJF12に落とされていた。


 また航空偵察によると最低でも5個師団相当の兵力が独墺の国境に展開し始めているとのことだった。

 数日前まで師団規模の兵力は存在せず、国境警備隊レベルの戦力であったにも関わらず。

 確かに戦力の誘引という役目を果たしているが、前面のドイツ軍は減るどころか増えているという報告が夕方に行われた航空偵察により判明していた。


「二正面作戦を行える兵力か……羨ましい」


 とはいえ、ド・ゴールにとって悪い報告ばかりではなかった。

 肝心のベルギー方面の戦闘は既に終了している。

 こちらではうまく電撃戦を展開でき、ベルギー軍が動員を完了する前にケリをつけることができた。

 堅固な要塞があるとはいえ、国土面積が大きくなく、また軍事費にそこまで多くの予算を割けるわけでもなかった為、ベルギーは比較的簡単に攻略できた。

 そして、数日以内に鉄道でもってドイツ方面へ機甲師団・自動車化師団それぞれ3個、歩兵師団10個が展開する。

 また、フランス国内からは編成が完了した歩兵師団5個、機甲師団1個、自動車化師団2個が送られてくることも確定していた。

 合計で機甲師団4個、自動車化師団5個、歩兵師団15個という20万人以上の大兵力であった。

 予定によればそれら師団が完全に展開を完了するのは1週間後の5月20日。


 1週間でどれだけの敵が増えるか、ド・ゴールは考えたくもなかったが、現有戦力ではどうしようもないことも事実であった。


「……待てよ?」


 絶望しかなかったかのように思えたド・ゴールであったが、彼は電撃戦の基本を思い出した。

 敵の兵力が最も薄い箇所を突き、敵戦線後方へ浸透、包囲殲滅――

 

 そして、現状では敵の兵力が最も薄い箇所は無い。

 無いならば作り出せば良いのでは――? 

 

 ド・ゴールはドイツ軍が意図していると思われる中央突破を思い描きつつ、地図へと視線を移した。


 北部と南部を分断するように中央突破――ならば逆に、北部及び南部にこちらの兵力を集めておき、敢えて突破させてやったところを両翼から叩けば――!


 独仏国境にいる軍集団規模の敵軍はルール工業地帯防衛の為、その地を離れることができない。

 故に、積極的攻勢に出ることはしない筈。


 ド・ゴールはすぐさま外にいる従兵へ参謀達を全員起こしてくるよう命じたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく読ませていただいています。 数十話読んでた気分だったのにまだ12話しか読んでなかったと言う事実に驚愕してます…
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