第三十一話 シオンVSエステリーナ
『お待たせしました!それではこれより第四試合、シオン・セレナーデさんVSエステリーナ・ロンドさんの試合を始めます!!』
「お、ちょうど始まるみたいだな」
俺がレヴィを連れて闘技場に戻ると、シオンとエステリーナの試合が始まろうとしていた。
「レヴィ、いい加減離れろって」
「えー、このまま観客席まで運んでよ」
「そんなことをすれば俺は再び卵まみれになる」
男の嫉妬というのは恐ろしいものだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「まさか、エステリーナさんと戦うことになるとは思いませんでした」
「それは私の方もだ」
フィールドで向き合い、二人はいつも通りの会話をする。
そんな中、観客席では『シオン派』と『エステリーナ派』に別れて互いに火花を散らしている。
「手加減は無用だぞ、シオン」
「エステリーナさんの方こそ」
実力はエステリーナの方が遥かに上だ。
しかしシオンは風魔法を扱うのがかなり上手い。
どちらが勝つかは分からないのである。
「・・・ジークさん、どこに行ったのかな」
「うん?」
「え、あ、何でもないです・・・」
「ふふ、心配するな。あそこを見てみろ」
つい心の声を漏らしてしまったシオンは真っ赤になりながら観客席を見た。
そこには飛来する卵や凶器を躱しながらも、シオンの視線に気付いて手を振るジークがいた。
「好きな人に自分の戦いを見てもらいたかったんだな?」
「う、そ、その・・・」
「ふふ、顔が赤いぞ」
「うぅ・・・」
もじもじしながらシオンは俯いた。そんなシオンを見て観客席で倒れる男達が続出。
「本当にシオンはジークの事が好きだな。この前もソファで寝ているジークの寝顔を微笑みながらずっと眺めていたし─────」
「わああっ!?なんで知ってるんですかぁっ!!」
さらに真っ赤になった顔を両手で覆いながら、シオンはあたふたした。
そんなシオンを見て観客席で悶えた男達が再び続出。
『えー、試合を始めてもよろしいでしょうか?』
「あっ、ごっ、ごめんなさいっ!!」
「うん、始めてくれ」
『それでは、第四試合開始です!!』
司会が試合開始を宣言したが、シオンはまだ慌てている。
「ほら、ジークが見ているんだぞ。いつまでそうしているんだ」
「う、うぅ・・・」
やがて落ち着いたシオンは、風を自身の周りに渦巻かせた。
「ぜ、絶対勝ちます・・・」
「それはこちらもだ」
エステリーナは魔剣に炎を纏わせると、勢いよく剣を振るった。燃え盛る炎の斬撃がシオンに襲い掛かる。
「っ、ウインドピラー!!」
しかしシオンが咄嗟に唱えた風魔法にかき消されてしまう。
「ウインドカッター!!」
「はあっ!!」
そしてシオンが風魔法を放つが、エステリーナは魔剣でそれを受け止めた。
「ふむ、中々やるな」
「エステリーナさんこそ」
お互い完全に戦闘モードに入っている。
バチバチとぶつかり合うのは互いの魔力。
「なら、これはどうだ?」
にやりと笑い、エステリーナは高く跳んだ。
そして剣先に炎を集めていく。
「っ・・・!?」
「《炎をもたらす魔剣》!!」
エステリーナは、剣先に集めた炎を巨大な剣の形へと変え、シオンに向かって放った。
「うああッ!?」
炎の直撃を受けてシオンは勢いよく吹っ飛ぶ。エステリーナは炎を魔剣に纏わせるだけではなく、直接魔法として放つことも出来るのだ。
「どうだ、シオン。これが私の魔剣技だ」
「くっ、うう・・・」
まだまだ余裕のエステリーナに対し、今の一撃だけでシオンはかなりのダメージを負ってしまった。
しかし、痛みを我慢してシオンは立ち上がる。
「まだ、負けてませんよ」
「・・・見事だ」
そんなシオンを見てエステリーナは再び魔剣に炎を纏わせた。
「いくぞ、シオン!!」
「っ・・・!!」
エステリーナが地面を蹴り、シオンに向かって疾走する。
そして、放たれた炎がシオンを呑み込んだ。
「・・・っ!?」
しかし、突如巻き起こった暴風にエステリーナの炎はかき消され、彼女は後方に弾きとばされた。
「なっ────」
「《山崩しの暴風》」
フィールドの中心に現れた巨大な竜巻。
まるで全てを呑み込むかのような暴風が闘技場全体に吹き荒れた。
『こっ、これはっ!シオンさんの魔法でしょうか!?解説のイツキさん!!』
『ふむ、どうやら風の上位魔法のようだな。あらゆるものを破壊する嵐の如き魔法だ』
何故か解説役として実況に参加しているイツキがシオンの魔法を見ながらそう言った。
魔法には、段位が存在する。
練習すれば、誰にでも扱うことが出来る《初歩魔法》。
扱うにはある程度の実力が必要となる《中級魔法》。
そして、その属性の中で最も威力の高い《上位魔法》。
かなりの魔力を必要とする上位魔法は、一歩間違えれば魔力切れという、魔法使いにとって最も最悪な事態を引き起こす可能性のある危険な魔法だ。
しかし、その破壊力は並の魔法を遥かに上回る。
「くっ、まさか上位魔法を習得していたとは・・・」
「私だって、毎日特訓してきたんですよ」
「ふふ、ジークの為・・・か?」
「う、そ、そうですけど・・・」
竜巻の中から聞こえてきた小さな声に、エステリーナは苦笑しながら返事を返した。
恐らく中にはシオンがいるのだろう。
しかし、
「これ程の魔法を維持するには、かなりの魔力が必要な筈だ。もう限界が近いのではないのか?」
「その前に終わらせます」
「ならば、こちらも全力で迎え撃とう」
そう言うとエステリーナは、魔剣に魔力を集中させた。
赤いオーラのようなものが彼女の身体から魔剣に集まっていく。
『あれは、エステリーナさんが何かしようとしているようです!!』
『ふふ、我が妹も本気を出すみたいだな』
そして、集まった魔力は最大火力の爆炎となって、エステリーナの魔剣の周囲を渦巻いた。
「さあ、いくぞシオンッ!!」
「っ!!」
エステリーナが地を蹴ると同時にシオンの魔法がエステリーナに向けて放たれた。
暴風が迫る中、エステリーナは魔剣を構える。
そして、
「《焔凰裂翔斬》!!!」
「なっ─────」
放たれた斬撃は、荒れ狂う竜巻を消し飛ばした。
「うっ、ぁ・・・」
完全に魔力が尽きたシオンは、勢いよく地面に倒れ込む。
『そこまで!第四試合勝者はエステリーナ・ロンドさんです!!』
『ふむ、流石は我が妹』
そんな司会達の声を聞きながら、エステリーナはシオンの元へと向かい、手を差し出す。
「すまない、やり過ぎた」
「・・・ふふ、完敗です」
シオンはその手を掴み、よろりと起き上がった。そしてエステリーナに肩を借り、二人でフィールドをあとにするのだった。
◇ ◇ ◇
〜シオンの上位魔法が発動した時〜
えー、どうも、ジークです。
さっきからね、吹き荒れる風に乗って卵がね、俺にだけぶつかりまくってくるんですね。
隣にいるレヴィには当たりもしないんですよ?
はは、このままじゃ全身卵まみれ人間になってしまうでぇ。
と思っていたら、エステリーナの放った炎の一部が俺にまで届き、卵が焼けた。
「おお〜、ジーク、卵焼きが出来てるよっ!!」
やかましい。