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続ける予定はなかったのですけど、前作『白景色』と掛けてあります。こちらだけでも読めます。
春畔道
作:緋乃柄 みう


 星の瞳が咲き乱れる畔道。
 その花は優しい藍で、僕の足元に彩を添えている。彼方に見える桜の枝はうっすらと桃に色付き、満開にはまだ少しの時間を要するのだろう。
 その場に屈み込み、その小さな花弁に手を伸ばす。何かに縋るように、答えを求めるように。
 その花が、萼の部分から音もなく、ぽろりと落ちた。
 何故だか僕はそこで急に居た堪れない気持ちになって、その花を左の掌に握り、また立ち上がる。暖かな春の日差しは、僕の全身を包み込んで大地に降り注ぐ。それは、もうすっかり春だということを図らずとも知らせてくれていた。
 畔道を逸れて山の脇、木漏れ日の神秘的な神社の鳥居を潜る。ぽつぽつと樹の間から溢れる春は白い染みになって、石造りの参道に影を作っていた。
 コツコツ、と境内に靴の音が響く。鎮守の杜にまで浸透していく音に身を任せながら、拝殿に向かう。本殿は見たことがない。
 カツカツ――自分の足音ではない、もう一つの音が小さく木霊する。
 後ろを振り向くと、いつの間にか僕の後ろに小さな女の子が付いて来ていた。僕が立ち止まると、びっくりしたようにいそいそと立ち止まった。
――何か用?
 僕が話しかけると少女はゆっくりと顔を上げ、温かく穏やかで、見る者を幸せにさせるようなあどけなさで笑ってみせた。
 少女の手を取って、隣に来るよう促す。二人で並んで歩いていると、木々が風に揺すられた時のような、静かな声がした。
――瑠璃
 少女の名前なのだろう。
 瑠璃はこちらを見て穏やかに笑ってくれた。それだけで、心に何かが溢れてくるのが解る。
 暫くの静寂。山の声に耳を傾けながら歩く瑠璃との時間は、掛け替えのないものに感じられて心が静まっていくのが解る。いつまでもこの時間が続いて欲しい。
 ゆっくりと歩いていると、僕の心の感傷が薄れていくような気がした。左手に感じられる温もりが、今は僕の全てに感じられる。
 瑠璃が僕の手を一際強く握る。
 見ると、瑠璃は笑ってくれた。あの温かく穏やかな笑みだが、どこかそこには、戸惑いが混じっていたような気がする。その中の寂しさが、いつまでも残像のように僕の眼に残る……。

 ……静寂は、本の些細なことで破られた。
 参道で鳴いていた雀たちが、音を立ててパタパタと、澄み切った光の中に飛んで行ったのだ。
 左手の隙間に優しい春風が通り、少しの時、気が付かなかった。
 瑠璃は、もう僕の隣にはいなかった。拝殿の手前。もうこんな所まで来てしまっていたのか。
 左手にあった星の瞳の花は、もう既にない。代わりに少女の手の温かみと、春風の優しさが手の中に残っていた。
 何故だか、またすぐに会えると僕は思った。
 鳥居を潜り、境内を出る。遥か遠方に見える山、うっすらと色付いた桜。
――あの桜が散る前にもう一度……
 それでなくても、後一年すれば会える。僕には、そんな気がしてならなかった。


オオイヌノフグリ=星の瞳=瑠璃唐草=天人唐草……です。一応ショートショート第二段です。













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