賽は投げられた。覆水盆に帰らず。こぼれたミルクは戻らない。
うん。色々な言いかたがあるよね。
「あ・・・あの・・・私・・・。」
そうして僕もたった今自分でとった行動を後悔している。その一人だった。
「私は・・・その・・・。」
放課後に好きな女の子を呼び出して告白した。くそう・・・こんなことならしなけりゃ良かった。
「私は・・・。」
ああ・・こんなに胸が痛い。しんどい。高校の合格発表なんか目じゃないね。
もういやだ。断られるんだろうか・・・断られるんだろうなあやっぱり。
だって彼女は可愛くて人気者で・・・僕みたいないじけたヤツとなんか見合うわけは無い。
ああ・・・もう聞きたくない。断られる所なんて。そうしてまだ答えも聞いていないのに自分がどんどん惨めになる。
そうして・・・。
「あ・・・ちょっと・・・待ってッ!」
気がついたら怖くなった僕は彼女の前から走って逃げ出していた。
涙で前が見えない。ははは・・・まさか高校生にもなって泣くなんて思ってなかったな・・・。
夜、家に帰った僕は暗い部屋でベッドの上でボーっとしていた。まさに覆水盆に帰らず。
なにやってんだろ・・・僕?
答えも聞かずに逃げちゃうなんて・・・なんか男として最低だなもう。
せめて断られるにしてもちゃんと答え聞いてからならまだ・・・笑ってごめんって言って・・・明日からも普通にしてられたのに。
そうするつもりだったのに・・・気が動転して・・・。
彼女怒ってるかな・・・怒ってるだろうな・・・呼び出しておいて逃げちゃうんだもん。
明日からどうやって彼女と顔合わせたら良いんだろう・・・学校に行く勇気すらもう持てない。
ああもう・・・なんで告白なんかしたんだ僕の馬鹿!
あれ・・・そういえば僕はなんで告白しようと思ったんだっけ・・・?
あ・・・。
そう、あれは今日の昼の休みのことだ。僕は前から彼女が好きだったんだ。でも奥手だからなかなか話しかけられなくて・・・。
そんな時に彼女がカッコいい男と話して笑っているのが見えたんだ。それを見た僕は・・・なんだか胸が痛かったんだ。
さらにそのときに聞こえるクラスメートの話し声。
「あーあ、やっぱり彼女アイツと付き合ってるのかな・・・。俺狙ってたのになー。」
「ああん? お前じゃ見合わないって。」
「へへへ・・・まあそうだけどさ・・・あ〜あ、もう彼女アイツとヤったのかなあ。」
「ん・・・そりゃあやっただろうさ・・・羨ましーよなー。」
「ん・・・あの胸なんかなかなか・・・。」
その話が聞こえてきた時・・・僕は彼女とその男が抱き合っている光景が目に浮かんだんだ。
好きな人の裸が妄想されても、不思議と興奮はしなかった。
むしろ気分が凄く悪くなって・・・モヤモヤして・・・いても立ってもいられなくなって・・・。
それでそのまま彼女に約束取り付けちゃったんだ・・・。
なんていうか・・・単純だな・・・僕。嫉妬に狂って告白して逃げて・・・最低。
ああ・・・なんだかもう・・・死にたいや。
・
「ふふっ・・・。」
「どうしたの・・・あなた?」
「いやあ、僕が君に始めて告白したときの事を思い出してさ・・・。」
「ああ・・・うふふ・・・あの時はびっくりしたわ。突然付き合ってくださいで返事する前に逃げちゃって・・・。」
「う・・・まあ思い出すと今でも恥ずかしいけど・・・。」
「あらそう? でももう十年にもなるのよね・・・。」
「うん。お願いがあるんだ。」
「なに?」
「キスして。」
「ふふふ・・・はい。」
まあそうして色々あって彼女は僕の奥さんになった。
色々あったってそりゃあもう凄く色々あったさ。
最終的には仲間を集めて魔王退治に出る所まで発展したんだなコレが。その結果七個の球を集めて・・・まあいいや。
とにかくそうして僕はめでたく彼女と結婚したって訳。
賽は投げられて覆水は盆には帰らない。当たり前のこと。人生は戻らない。
でも、流れない水は腐る。取り合えず結果はどうあれやってみることが大事なんじゃないかな?
あの時もしも彼女に告白しなかったら僕の人生は全然違うものになっていたことになっただろう。
でもその時そうしたということは少なくともその時はそれが最善だったって言うこと。
ならばすべての過ぎていったことは必然。失敗も沢山あった。でも・・・。
そうやってさまざまな選択から今の道を選んで僕は生きている。
もしその結果が悲しい物だったとしてもその時それを最善だと自分が思っていたんならそれはきっと間違いじゃない。
だから僕は今まで間違った選択をしたことは・・・無いんだ。
「あなたー、コーヒー入ったわよー?」
「ああ、ありがとう。今行く。」
だから僕は今日も生きている。
いつか終わりが来る、その日まで。
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