第34話 ボア狩り①
今は10月1日である、10月に入った。アレンは7歳になった。
土間に集まるアレン一家の家族である。
「じゃあ行ってくる」
「行ってくるね、母さん」
「気を付けてね、ロダン、アレン」
ロダンとテレシアが出かける前のキスをする。そのあとテレシアがアレンを抱きしめる。結構しっかり抱きしめられる。今生の別れのようだ。
ロダンが槍を握りしめ、いつもの狩り用の食料などが入った袋を渡される。背中の袈裟懸けに背負った荷物は、今日はアレンの分も入っているので、いつもより少し大きめだ。
9月の頭に、村長から領主からの指示でもっとボアを狩ってほしいと言われた。ロダンが狩りを増やして対応しようと考えていたところ、アレンが解決策を提案したのである。
ロダンもゲルダも提案には乗ってくれた。それなら犠牲も負担も少なくなるだろうという感じである。
今日はアレンの提案を実施する日だ。
ゲルダとも合流をする。ミチルダに抱かれたリリィとクレナが横にいる。
「あーれーん! わたしもいきた~い!!」
クレナがアレンの腕を握ってくる。クレナも一緒にボア狩りに行きたいようだ。ゲルダが困ったなという顔をしている。
「はは、もう少し大きくなったらね」
「え~あれんだけ~~」
「僕も見学だけだから」
アレンも同じ歳なのにと頬を膨らませる。またねと頭をポンポンする。今日の騎士ごっこはアレン抜きでアレンの家でやってくれと言う。マッシュだけではクレナの家に行けない。
ゲルダと共に住宅街の先にある門を目指す。
今回のボア狩りではアレンは見学だけで狩りには参加しない。
アレンの提案はロダンもゲルダも飲んでくれた。しかし、狩りは駄目だと言われた。小一時間かけて必死に説得する。アレンの案なら危なくないと言った。
しかし、ロダンは駄目だ、絶対に駄目だと引かない。7歳かそこらの子供では絶対に駄目だと言われた。
では、見学ならいいかと言った。それも駄目だと言いそうになる。提案した作戦の確認のためにどうしても必要だという。結局離れたところから見学なら良いと話がついた。ゲルダがなぜここまで行きたいのかという顔をしながら、アレンとロダンの口論を見ていた。
いつから参加していいのか? 来年ならいいのかという話もした。せめて10歳と言われた。7歳も10歳も一緒だと思う。前世で35歳だもの。農奴の子供が家の手伝いをするのが大体10歳辺りとの話だ。
そんな常識のためか3歳の頃、家を手伝うと言って、ロダンはショックを受けた。
義務教育もなく労働年齢が早い農奴である。平民の子供も同じくらいに家の手伝いを始める。ロダンは10歳から家の畑を手伝っているという話を聞いたことがある。
なお、この異世界の成人は15歳からだ。
(あと3年も参加できないのか。グレイトボアの経験値がほしいぞ。なんとかしなくては)
アレンにとって経験値が全てである。10月に入ったのでアルバヘロンの狩りも再開する予定だが、グレイトボアの経験値も手に入れたい。見学と言いつつなんとかできないかと考えている。
(ふむ、カードの調整もいい感じだな)
一応今日は見学だけだが、アルバヘロン戦も控えているので、カードの調整を狩り仕様に変更をした。
7歳になり0.6倍から0.7倍に増えたステータスを何度も見る。
【名 前】 アレン
【年 齢】 7
【職 業】 召喚士
【レベル】 2
【体 力】 45(65)+75
【魔 力】 42(60)+35
【攻撃力】 16(24)+75
【耐久力】 16(24)+18
【素早さ】 35(51)+28
【知 力】 49(70)+10
【幸 運】 35(51)+35
【スキル】 召喚〈3〉、生成〈3〉、合成〈3〉、強化〈3〉、拡張〈2〉、削除、剣術〈3〉、投擲〈3〉
【経験値】 600/2,000
・スキルレベル
【召 喚】 3
【生 成】 3
【合 成】 3
【強 化】 3
・スキル経験値
【生 成】 51,418/100,000
【合 成】 51,410/100,000
【強 化】 51,400/100,000
・取得可能召喚獣
【 虫 】 FGH
【 獣 】 FGH
【 鳥 】 FG
【 草 】 F
・ホルダー
【 虫 】 F3枚、G3枚
【 獣 】 F15枚
【 鳥 】 F2枚
【 草 】 F7枚
強化のレベルは3になり、その後も日々魔力消費を行い、スキル経験値を稼いできた。生成、合成、強化のレベル4には全て残り半分になっている。来年には召喚レベル4になりそうである。
強化レベル3の効果は、加護になる2つのステータスが50も増える。どんどんステータスが強化される召喚獣である。
集会所の広場を抜け、門に近づいていく。人だかりができている。今日のボア狩りの討伐の仲間たちである。皆槍を握っている。
おおきたきた! という声が聞こえる。皆がアレンを見ている。本当に来たという顔をしている。だが、ロダンやゲルダに反対の声を上げる者はいない。
ロダンが見学をしても良いと許可をし、ゲルダがそれを反対しなかった。
そして、アレンも人並み以上の力をこの1年間示してきた。水くみや薪の買い出しを見ていた農奴も多い。レベルがあり人の力が数倍にも数十倍にもなる世界で、アレンの存在は受け入れられたようだ。
「全員集まったら行くぞ。今日は新人が2人いるからな。気合を入れるぞ!!」
「「「おお!!」」」
ロダンの掛け声に皆が返事する。1年ぶりに帰ってきたボア狩りのリーダーである。目頭が熱くなる者も多い。
まだ全員揃っていないので待つ。2人の新人は既に来ている。2人とも平民だ。去年参加した5人のうちの2人との話だ。槍を持ち、集合場所で待機している。
今まで10体しか狩ってこなかったボアを倒す数を増やすためには以下の方法がある。
・狩りの頻度を上げる
・狩りの団体を増やす
狩りの頻度が上がれば、当然狩れるグレイトボアも増える。そして、今20人で狩りをしているが、その団体を2つ作れば、2倍のボアを狩れるようになる。
その両方において必要なことは、新規のボア狩りの担い手を増やすことだ。
(まずは、この2人が問題なく狩りできることを示さないとな。人を増やしていくのはそれからだ)
最初は2人から始める。回数を重ね、ボア狩りの参加者を増やしていく予定だ。
考えていると、全員揃ったようだ。
「揃ったな、行くぞ!!」
「「「おおお!!!」」」
今度はゲルダが掛け声を上げる。皆の威勢のある返事と共に、門へ向かう。
(農奴に生まれて7年。とうとう村からでるのか)
今回、アレンも外出許可を村長からとってある。ロダンとゲルダから求められたら、村長も断れないのである。今回の狩りに必要だと言ったら、本当かという顔はされたようだ。
「おお!!」
思わず、声が出る。
数メートル先の木の門を抜けると、そこは村の外であった。門の先はあまり整備されていないがはっきりと道だと分かる。去年来た騎士団もここから来たのかなと思う。
道には生えていないが、そうでないところにはまばらに木が生えていて地平線は見えない。外は林や森ほどでないが木が生えており草原ではない。近くの木が刈られているのは、木こりが薪用に刈っているのかなと思う。
世界の広がりに見入ってしまう。
「アレン、いくぞ。こっちだ」
ロダンが、固まって動かなくなったアレンに声をかける。
騎士団たちがやってきたこの道は使わないみたいだ。門を抜け、回り込むように林を目指す。うっそうとした林が少し遠くのほうで見える。
(これから3時間ほど歩いて、第一の狩場につくんだっけ)
今日は一番近い狩場で新人を参加させた狩りのリベンジだ。そこまで結構距離がある。
歩きながら、ロダンやゲルダに聞いた狩り方について再確認していると、1人の青年がロダンに寄っていく。
「今日は頑張ります!」
(あれ、どこかで見たな)
どうやら平民の新人参加者の1人のようである。
「ああ、まあ今回はそんなに踏ん張らなくていいはずだからな」
そう言って、ロダンがあまり力むなよと言う。
(ああ、去年見舞いに来ていた青年だ。今年も参加したのか)
ロダンが村長に新人を2人、農奴からでも平民からでもいいので募集してくれと言った。分かったと村長が言ってやってきたのが今日参加した2人だ。
23人の男たちが、グレイトボアのいる狩場を目指すのであった。