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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~ 作者:りょうと かえ

水底の船

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燃えるように

 宣言通り、ライラはまたグラスにワインを注ぐ。
 すでに三杯目になっている。

 獣人族は酒好きとは聞いていた。
 身近に獣人族がいなかったので、体感する機会もなかったけれど。

 アラムデッドではヴァンパイアだったし、ディーンでも獣人族と会食する機会はなかった。

 獣人族はその名の通り、獣や鳥といった動物の特徴を残す種族だ。
 たいがいはおおらかで協調性に富む。

 その代わり、和を乱そうとする人間に厳しい傾向がある。
 ヴァンパイアと相性は当然良くないので、アラムデッドでは見掛けることはほとんどない。

 そんなライラがイヴァルトへの特使なのは、不思議かも知れなかった。
 僕の知らない、事情があるのかもしれない。

 三杯目に口をつけると、ライラも流石に一息には飲み干さない。
 ほぅと息をつくとライラが、グラスの縁を艶かしく指先で撫でた。

「……アラムデッドでは、大変でしたね」

「ええ……まぁ、色々と」

 とりあえずは無難に答えよう。
 ライラの飲み方を見て、僕はそう思っていた。

「私はお酒が好きなのですがーーアラムデッドでは、お酒はそれほど重視されていないんですよね?」

「……大抵は紅茶、時にコーヒーですかね。くだけた場では、新鮮な血液とか……」

 アラムデッドではライラの言う通り、酒を飲む機会はそれほどなかった。
 ヴァンパイアにとっては血が嗜好品で、ことさらに酒を好む習慣がないのだ。

 ローストビーフをつまみながら、僕は話をする。柔らかくかなり脂が乗っている。
 当然だけれど、僕が実家で食べるものよりか遥かに上等な品だ。

「なるほど……わかる気がします。血を好むヴァンパイアの気持ちが」

「……そうなんですか? 普通なら、やっぱり変わってるかと……」

「私にも、ヴァンパイアの血が流れてますから」

「ぶふっ!」

 思わず、吹き出してしまった。
 ライラは面白そうな目で僕をみつめる。

「クォーターですが、ヴァンパイアの血が流れているのです……残りは獣人族の血ですから、気付きはしないでしょう」

 大陸にすむ5つの種族ーーヒューマン、エルフ、ドワーフ、ヴァンパイア、獣人族は互いに混血が出来る。
 違う種族同士の子どもは、両者の特徴を引き継ぐので比較的わかりやすい。

 ただ4分の1となると、外見上の特徴が薄いヴァンパイアの血はわかりづらくなる。
 ライラはまさに、そのパターンということか。

「だから今回の件で、私が選ばれたのでしょうね。ヴァンパイアに熱心な聖職者は少ないですし……」

「そういうことでしたか……」

 納得した。
 ヴァンパイアとの折衝もある、ヴァンパイアの血を引いてるなら気質も似ているだろうし適任だ。
 そして、ライラの無茶な性格もヴァンパイアの血筋ゆえの気がしてきた。

「アルマ様から推薦を受けたときはびっくりしましたけれど……なんらかの確信があったのでしょうね」

「そのあたりは、さすがですね」

 裏で手を回すことについては、やっぱりアルマは隙がない。
 と、同時に嫌な予感がぞくりと背中を走り抜けた。

 僕のことについて、いらない情報がライラに渡っているのでは……。
 例えば《血液操作》で、血が美味しくなるとか。

「ジル……私は血を飲んだことはありません。血の匂いをかぐと少し興奮はするので、飲めるとは思いますが」

 ゆらりとライラがワイングラスを持って立ち上がる。
 グラスの半分ほどに残ったワインを、ライラはぐぐっと飲み干した。

 気合いを入れるような、勢いをつけるかのような飲みっぷりだ。
 そのまま、テーブルに指を這わせてライラが近づいてくる。

 僕は彼女の瞳はうっとりと……これまでによく見たヴァンパイアの気配を漂わせていた。
 僕の背骨と固い木の椅子がぶつかる。
 無意識に背中を引いていたらしい。

 ライラの茶色の整えられた耳と尻尾が、ぴんと立っている。

「怯えてますね……? わかります、審問官は怖いですよね。最初に会ったときから、今もそう思ってるのがわかりますよ」

 ライラがゆっくりと、赤らんだ顔を近づけてくる。

「……そんなことは、ないです」

 僕はぶるぶるると、言葉だけ否定する。

「ライラさんは、血を吸うことの意味を知っているんですか?」

「……知りません。そんなことはどうでもよくありませんか、私はヴァンパイアではないのですから」

 ライラの右手が、僕の首筋に当てられる。
 熱い。獣人族の体温は高いのだ。

「私の中にあるーーヴァンパイアの血が、燃えているようです。こういうことはありましたけれども、初対面に近い人には初めてですね……」

 そのまま、ライラは僕の血管をなぞるように指を上下させる。
 やめさせた方がいいのに、僕は動けない。

 彼女は欲望に忠実というよりーー自暴自棄になっているように、僕に思えたのだ。
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