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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~ 作者:りょうと かえ

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アルマとミザリー

 アラムデッド王国の王宮にて、アルマとミザリーは対面していた。

 真夜中であるものの、ヴァンパイアのアルマの執務室は灯りに満たされている。
 今、アルマは執務室の書類を片付け、本をバッグへと詰め込んでいた。

 アルマの表情は、晴れやかだ。
 ミザリーはそれを立ったまま眺めながら、唇を噛んでいる。

「本当に、宰相をお辞めになるつもりでありますか……アルマ様」

「ええ、そうよ」

 あっけらかんとアルマは口にした。
 まるで、週末にピクニックに行くような気軽さで。

 王都での戦闘が終わり、アルマは想像もつかないほど立場が悪くなっていた。
 幽閉されていたはずのレナール、そして婚約破棄をやらかしたエリスが死んだのだ。

 いくらカシウ王が国政でのアルマの必要性を理解しているとは言っても、限度があった。
 二人の子どもを亡くした怒りと悲しみは、言語に絶する。

《神の瞳》を王族にも秘匿していたのも、当然立場をさらに悪くさせた。
 アルマとしては300年前に当時の聖教会の許可を得て、安置していたのだが。
 日毎に貴族からの非難の声は、高まるばかりだった。

 ずっと秘密にしてきたのはアルマの判断だし、結果として《神の瞳》の一つは奪われたのだ。
 これまでの秘密主義のせいだ、と糾弾されればアルマには返す言葉もない。

 建国者たちから国を預り、守り抜いて300年。きれいごとでは済まず、手を汚すこともしばしばだった。

 政務は苦痛ではないし、憎まれるのは慣れている。しかし、それだけなのだ。

 怨まれたり、暗殺されかけたりすることをよしと思うほどの精神はない。
 区切りをつけるにはいささか、格好悪い時かも知れないが。

 あらゆる流れが、ここが潮時だと告げていた。
 しがみつくよりは、本当に引きずり下ろされる前に立ち去るのがいいだろう。

「……あなたがいなくなったら、どうやってこの国を動かしていくのでありますか」

「ミザリー、あなたがやればいいわ」

 ミザリーは机に勢い良く手をつけて、大声で抗議した。

「投げ出すのでありますか!? これまでやってきて、ここまでやってきて!!」

「……もう、無理ですわ。カシウ王も私を慰留するけれど……」

 しかしカシウ王と生まれたときからの付き合いであるアルマには、彼の苦悩と怒りがはっきりとわかった。
 死霊術師に関わったとはいえ、愛する子どもを失ったのは変わらない。

《神の瞳》のことが秘密でさえなければーーあるいは王族も納得できたのかもしれない。
 しかし現実にはアルマは共有を拒み、カシウ王もまた、自分が信頼されていないと受けとるしかなかった。

 哀しむべきは、そうであってもアラムデッドの王族からはアルマを手放せないということだった。
 王家の守護者であるアルマを失えば、他の大貴族からの干渉や策動は増すだろう。

 それゆえに今はまだ、カシウ王はアルマを必要とする。
 だが一度芽吹いた不信は、育ち続けるものだ。

 遠からず決定的な破局を迎えるのでは、とアルマは予感していた。
 その前に自分に出来ることは、潔く身を引くことだ。

 それに、新しい目的もできていた。

「隠居するつもりはありませんわ。《神の瞳》を取り返すのに、連合軍に協力しにいくのですわ」

「なっ……!?」

「けじめをつけさせてくださいませ。このままでは、かつての仲間に顔向けできませんわ」

 再誕教団は長きに渡って大陸に潜んできた。
 今現在、死霊術師との戦闘経験があるものはほとんどいない。

 さらにアルマの300年に及ぶ経験ともなれば、誰も追随することなどできない。
 聖教会の持つ死霊術の知識でさえ、アルマの経験に勝るものではないのだ。

 ミザリーもそれは、頭では理解できていた。
 それでも、ミザリーは呟かずにはいられない。

「……私は、あなたに居て欲しいであります」

 ミザリーにとって、アルマは取り立ててくれた恩人でもあり武芸の師匠でもあった。
 アルマは、いまさらながらに自分の罪深さを自覚した。

 あまりに多くのことが過ぎ去っても、忘れてはいけないことがある。
 自分にとっては、《神の瞳》がそれだった。

 しかし、ミザリーにはどうだろう?
 自分という存在は、もう少し大きいのかも知れなかった。

 アルマは小走りにミザリーへと近づくと、背伸びをしてミザリーの頭を撫でた。
 子どもをあやすように、優しい手つきで。

 ミザリーは黙ってそれを受けていた。

「ミザリー、ごめんなさい……。でもこれは、いつか来ることでしたわ。永遠に生きる者なんていないのですから」

 にこり、とアルマは微笑んだ。
 ミザリーはなんとも悔しそうだった。

「あなたの手の大きさは、変わらないであります……」

 アルマはまだ剣を握りたての頃の、ミザリーを思い出していた。
 その頃には、身寄りのいないミザリーをよく撫でたりして、励ましていたものだった。

 いまや、彼女は自分の後を任せられる唯一の人間だった。
 ヴァンパイアは身勝手だ。強いものにしかーー心も身体もだが、上のものにしか従わない。

 ミザリーもよくわかっている。
 アルマは、手を止めずにそっと呟いた。

「あなたの背が伸びたのよ……新しい宰相さん」
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