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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~ 作者:りょうと かえ

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愛する人

 そう思ってから、僕はやっとイライザの言葉を咀嚼できていた。
 お慕いしてる、そう言われたよね!?

 勢いで流してしまったけれど、確かにそうだ。
 嫌われてはいない、とは当然思っていたけれど。

 僕の頬は、真っ赤になってるだろう。
 熱い、とにかく身体が熱い。

 風がさらりと吹くたび、自分の体温が高まっているのがわかる。
 イライザの青色の髪がちょっとだけ舞い、彼女はそれをかきあげる。

 何気ない仕草にも、目が離せない。
 そして、なおさら思う。

 出来る限り、側にいたい。
 僕は彼女の頬に手を伸ばした。

 イライザは涙の跡を真っ白なハンカチで拭って、首を少し傾ける。
 僕の手を、受け入れてくれる。

 ふにっとして頬が、僕の手のひらに納まる。
 風が止み、時間がゆっくりと流れている気さえする。

「……落ち着いたら、二人でどこかに出掛けようよ。そうだ、グラウン大河なんてどう? 船旅が楽しいって評判だよ」

 グラウン大河は、大陸を横断する重要な運河だ。
 巨大な船が行き来するだけでなく、河の勇壮さから観光客も絶えないと聞く。

 イライザは目を細めて、僕の手のひらに顔を預けている。

「いいですね……私も行ったことがありません」

「ウナギが美味しいらしいよ……こっちではあんまり食べないんだけどさ」

 ウナギやどじょうのような鱗のない魚は、ディーン王国ではあまり食べられることがない。
 僕がディーン王国にいる時には、全く食事に出てこなかった。

「……私、結構好きですよ」

 ぱちくり、と目を開けてイライザが言う。
 意外だった。宮廷魔術師は貴族ではないけれど、上流人として衣食住は豪華はなずだ。

「まぁ……私は生まれは良くないですし。コツがあります、濃い目のソースをかけると美味しいんです」

「今度、試してみるよ……」

 僕は、もう一つの単語が気になった。
 生まれが良くないーー。

 宮廷魔術師は、国立魔術学校を首席かそれに近い優秀な成績で卒業しないとなれないはずだ。
 建前では平民も一代で貴族入り出来る数少ない道だけれど、現実は厳しい。

 実際に入学試験を突破するには家庭教師を雇い、勉学に専念できる環境が不可欠だ。
 必然的にそれなりの商家か、貴族の子弟でないと条件は満たせない。

 宮廷魔術師になるだけでも、並々ならぬ才能と努力が必要だ。
 僕は、そんなイライザの過去を詳しく知っているわけではない。

 アラムデッド王国では、あくまで仕事仲間だったのだ。
 あまりプライベートな話はしたことがない。

 もちろん、生まれがどうのとか詮索するのは失礼なことだ。
 とはいえ、僕は純粋な好奇心で、もっとイライザのことが知りたかった。

 生まれはどうでもいいけれど、好きな食べ物、好きな劇、好きな本、好きな服とか。

「……私はジル様が少しだけ羨ましいです。私と母は、父親に捨てられましたから」

 かすれるような声でイライザが言うのを、僕は黙って聞く。
 僕の父が戦死しているのは、当然イライザはよく知っている。

「お金だけ、時折送られてくるんです……そのおかげで、勉強して私は宮廷魔術師になれましたけれども」

「それはお金のせいじゃない、イライザの努力のおかげだよ」

「…………ありがとうございます。私も、見返したいんです。独り立ちはしましたけど……まだ、足りない気がします」

 イライザの気持ちは、身に沁みる。
 いままで16年生きてきて、十分やったと思えることなんてほとんどない。
 誰もがもっと自由に、もっと思い通りに生きたいと望んでいる。

「僕は、君の足りない何かを補えるかな?」

 何気なく、僕はイライザに確かめた。
 イライザが儚げに、それでも嬉しそうに笑う。

「もう、なってます。……あ、信じていませんね?」

「そんなことは、ないよ……」

 ただ、きれいなイライザに見とれていた。
 もうすぐ時間が来るーーこの後も予定が一杯あった。

 このまま、頬から手を離すのがあまりに惜しい。
 会えなくなるかもと思うだけで、胸がつかえて辛かった。

 もっと、触れたい。
 イライザの顔に触れ続けて、いよいよ僕は耐えられなくなる。

 僕は、ゆっくりと顔をイライザに近付ける。
 体の奥から沸き上がる衝動に身を任せて……イライザも目を閉じてくれる。

 木々のざわめきが、すうっと遠ざかる。
 僕はそっとだけれど、初めてのキスをした。
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