挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~ 作者:りょうと かえ

死の主

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

49/103

誰かの夢の中で

 クロム伯爵がアルマと対面したのは、血量の儀式が初めてだった。
 アルマはブラム王国貴族のクロム伯爵を、問答無用に殺そうとした。

 クロム伯爵はーー何もかもを喋ろうとした。
 死ぬつもりは毛頭なかったのだ。

 しかし、不可能だった。
 老人の計画も教団のことも何も言葉にできなかった、まるで禁じられていたかのように。

 結局血を抜かれ絶命したクロム伯爵は、ブラム王国に引き渡された後、鎧と剣を与えられた。
 呪われた、教団の至宝だ。

 クロム伯爵はそうして、闇に呑まれた。
 聞き覚えのある老人の金切り声が、虚空に木霊する。

「クハハハハ、ワシの名前はグランツォ……クロム伯爵よ、無念か? 惜しかったなぁ……あと一息だったのだが」

「……お前は……?」

「お前の肉体を使うもの、魂を薪にするもの……ふむ、ブラム人の身体は良い、やはり相性が良いものだ。ワシもかつては、ブラムの魔術師だったからな。さらにこたびは、すでに細工をしてあるゆえ……!」

 そこで、クロム伯爵は気づいた。
 今まで自分を手助けした者の正体を。

 死ぬ前に喋れなかったのは、こいつらのせいなのだと。
 そしてーー教団こそが全ての黒幕である、と。

「何のために……こんな、ことを……」

 老人は、待ちきれないように期待をこめて叫ぶ。
 まさに成就の時は、迫っていたのだ。

「《神の瞳》、そして王家の血を得るためよ……! 両者が揃ってはじめて、覚醒は始まり目的は達せられる。エリス王女なしでは、《神の瞳》は使いこなせぬ」

 ゆっくりと確実に、クロム伯爵の意識は薄れていった。

 底知れない黒が、クロム伯爵を覆ってゆく。
 とても、逆らえない。
 これはーー人知の及ばない存在なのだと、本能が感じ取っていた。

「エリス王女でなくても、なんならその子どもでも良かったが……そこまではいかなかったか。実に、プライドの高い女よな」

 ヴァンパイアにとって、吸血は複雑な意味を持つ。
 血を吸うとは言っても、様々な段階があるのだ。

 本来の吸血は首筋に歯をつきたてることで、それは性行為と同等だ。
 一方アエリアのように血を渡すだけで、身体に歯を触れさせないのは、軽い抱擁のようなものだ。
 ミザリーも多分、求めたのはアエリアと同じ程度だったろう。

 そしてヴァンパイアの吸血は、ある意味相手を格下にみるということでもある。
 首に直接歯を立てるのはーーヴァンパイアにとって半ば相手を支配するようなものだ。

 理解しがたいが、それがヴァンパイアにとっての寵愛なのだ。
 そして反対にーーヴァンパイアにとって肌を許すことは、相手を上として認めることだ。
 血を吸わない、単なる性行為はヴァンパイアにとって、時に屈辱的なものでさえあるらしい。

 その微妙な差異が、エリスの態度を生んでいた。
 愛はあっても最後の一線として、王女であるプライドが残っていたのか。
 正式な婚約者にならないうちには、と言っているのが聞こえるようだ。

「まぁ、良い……少し寄り道をした後は、アラムデッドの王都に向かう。同志が用を済ませている間に、エリス王女を連れ出すのだ。貴様の顔を見れば、エリス王女も喜ぶであろう!」

「う……ぐあ……」

 クロム伯爵は呻き、悶える。
 もう思考がまとまらない。

 漆黒がクロム伯爵を、握りつぶさんとしていた。
 ……魂が……魂が焼けるようだ!

「レナールがエリス王女に預けた《神の瞳》のひとつ、それも回収すれば晴れて貴様の役割は終わるぞ……クハハハハハハ!」

 クロム伯爵は、わずかに理解した。
 このグランツォは、魂をむさぼり食う悪魔だと。

 自分の人格、魂も長くは保てない……。
 エリス、そして妹もまた巻き込んだのがわかった。

 自分の知らないところで、妹のロアが呼び出されていた……。
 なんとか、なんとか……それだけは……。

 しかしクロム伯爵の意識は、深く落ち込んでいく。
 これが、クロム伯爵の最後の意思だった。

 ……僕の意識もまた、ひきずられ闇の底に消えゆこうとしていた。

 ふと、場面が変わる。
 切り替わるように新しい、別のどこかになる。
 またもや豪華だが、どこか陰のある一室だった。

 痩せて疲れ果てた銀髪のヴァンパイアの青年が、《神の瞳》を同じく銀髪の美しい少女に渡している。

 わかった。
 よく知った顔だった。
 これは多分、数年前のエリスだ。

 ならこの青年が、エリスの兄のレナール……か?
 エリスと同じ銀髪だ、そうだろう。

 これは《神の瞳》自身の記憶か。
 過去へ、過去へと向かっているのか。
 まずい、僕は直感した。

 このまま、延々と過去を上演されては。
 ひたすら遡ってしまっては……。

 どうなる? 1000年分も僕の頭に入ってくるのか!?
 耐えられるわけがない。
 僕自身の精神が、おかしくなる。

 僕は、頭の片隅に渾身の力をこめた。
 もういい、ここまででいい!
 十分だ!

「はぁ……はぁ……!」

 僕は引きちぎらんばかりの勢いで、《神の瞳》の首飾りを外していた。
 息も荒く、汗もたっぷりかいてしまった。

 右手には、《神の瞳》を握りしめている。
 危なかった。

 なんとか、間に合った。
 取り返しのつかないところまで、行かずにすんだ。

 《神の瞳》は、特に何も変わっていない。
 紅い光も放たずに、いる。

「覚醒……してたわけじゃないのか」

 グランツォとの戦い終わって意識を失った後も、こんな夢を見ていた。
 そして、あれから荒野を駈けた今も……だ。

 頻度が、あまりに多すぎる。
 こんなのを毎日されては、たまらない。

「身に付けて寝るのは、もうやめよう……」

 僕はベッド横の荷物にぐっと《神の瞳》を押し込むと、再び横になった。

 かすかに虫の音が聞こえてくる。
 朝には少し、時間がある。

 まだもう一回眠れるだろう。
 僕は、その時はっと気づいた。

 エリスはーーどのくらい長く《神の瞳》を持っていたんだ?
 エリスも、今の僕のように身に付けていたのか?
 夢の中で、誰かの記憶を見続けたのか?

 最後に会ったエリスは、なんだかおかしかった。
 クロム伯爵との別れの為と言って、僕に近寄ってきた。

 僕に抱かれてもいいような、口振りだった。
 ……本当にあのエリスかと思ったほどだ。

 あれがエリスの本性だったのか?
 何か、変わってたんじゃないのか。

 クロム伯爵を愛していたエリス。
 僕に抱かれてもいいと言ったエリス。

 いまいち、重ならない。

 例えば《神の瞳》によって、何かが……。
 誰かの記憶、精神に影響されてたなんてことは……。

 そうだ、ありえる。
 《神の瞳》がどこから来たのか、確かなことはわからない。

 でもーーやめよう。
 《神の瞳》を持って眠り続ければ、僕にもわかりそうだけれども。
 全ての謎、教団の秘密も過去の何もかもが明らかになるだろうけれども。

 それは、危険すぎる。
 人間が手を出していい領域じゃない。
 深入りするな、イライザが言ったとおりだ。

 まさか夢の中に、こんなに入りこんでくるとは思わなかった。
 僕も早く封印して、手放すべきなのだ。

 胸の中で決意を新たにしてーー僕はもう一度、眠りについた。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ