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紅き血に口づけを ~外れスキルからの逆転人生~ 作者:りょうと かえ

覚醒と帰還

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鮮血まとって

 短時間で、勝負をかける。
 アンデッドならば、多少の傷も無視されてしまう。
 消耗戦では圧倒的に不利だ。

 《神の瞳》を懐にいれて、集中する。
 血の刃に鞭を作り不意をつく。

 単純だが効果的な筈だ。
 狙うのはただひとつ、クロム伯爵の頭部だ。

 自然発生のアンデッドには、ろくな自我はない。
 クロム伯爵の意識が残っているならーー逆にそこは生身と同じ重要性があるはずだ。

 他のブラムの騎士は、エルフ達と戦闘になっている。
 こいつらも、恐らくアンデッドだろう。

 僕とクロム伯爵は間合いに入る。
 クロム伯爵の足さばきは、ぎこちない。

 身体をうまく扱えていない!
 互いに剣を振りかぶり、刃を交える。

 剣が触れる瞬間、赤く染まった刃がうめき曲がり、蛇になる。

 旅の間に僕も、練習を重ねていた。
 盗賊と戦った時よりも、はるかに素早く形を変えて迫っていく。

 クロム伯爵が、驚きの声を上げる。

「ヌウッ! 魔術ではなくスキルか!?」

 遅い、すでに血の蛇は眼前だ。
 僕の刃がクロム伯爵の額を貫きーー直後、クロム伯爵が血の蛇を左手で鷲掴みにする。

「なっ……!」

「ぬぅぅぅ……!!」

 細身とは思えない怪力で、僕は刃ごと放り投げられる。
 確かに貫いたが、効果がない!

 受け身を取り、僕はすぐに体勢を立て直す。
 クロム伯爵は額と左手から、血を流している。

 傷にも血にも、まるで無頓着だった。
 やはりーー完全にアンデッドだ。

「危ない危ない、操作系のスキルか……貴様のスキルは《血液増大》ではなかったか? いつそんなものを身に付けたのだ……油断ならないな」

 少しは貫いたはずだが、言葉にも乱れはない。

 ダメか、クロム伯爵は余裕だ。
 周りはアンデッドとエルフの魔術や血が飛び交う、地獄になっている。

「頭を狙うのは悪くない、クロム伯爵よりも察しがいい。しかし……そもそもクロム伯爵の肉体は問題ではない」

 クロム伯爵が、魔力で鳴動する鎧を叩いた。
 低い金属音が鳴り、その動作の意味を僕は悟る。

「……力の源は、鎧か」

「いかにも、ワシの魂は鎧に宿っている。鉄壁にして至高の肉体よ。宿主となる身体は必要だが、並みのアンデッドと比べて耐久力は桁違いだ」

 クロム伯爵は相当の自信だが、あながち過信でもない。
 鎧と魔術の二重防御は、僕が壊せる代物ではなかった。

「もう気付いているだろうが、死霊術の力は《神の瞳》の前では大きく弱まる。操作系の貴様を殺すのは……中々に面倒だ。この身体にはまだ使い道があるのでな、あまり傷物にしたくない」

 やはり、予想通りの力を《神の瞳》は持っていた。
 とはいえ防げるのは死霊術だけだ。
 剣で斬られれば、僕は死ぬしかない。

 クロム伯爵は、両腕を広げる。
 役者のような雰囲気が、戻ってきていた。

「《神の瞳》を渡せ。そうすれば、命は助けてやる。ワシの望みは、それだけだ!!」

 いきなりエルフを斬って、何を言っているんだ。
 今だって配下のアンデッドは、エルフと殺し合いをしていた。

 こいつには自分の都合しかない。
 ただ死に損なった、悪しきアンデッドだ。

 妥協の余地なんて、あるはずない!

「断る……!!」

「……ふん、ディーンの人間は何百年経っても変わらんな。頑固者、正義面した奴ばかりだ。やなり虫酸が走る……!!」

 吐き捨てたクロム伯爵が、正当剣術の構えを取った。
 剣術なら僕に分があるせいか、もう力任せに向かってはこない。

 周りの戦いは、泥沼だ。
 もしアンデッドに囲まれれば、おしまいだ。

 打開したいが、僕にも手がない。
 血の刃で魔力みなぎるあの鎧を貫くのは、とても無理だ。

 弓を作っても、力不足だ。
 決定打にならない。

 ……いや、待て。
 鎧で、身体をーー無理やり動かす。
 クロム伯爵は、そういうことをしているのだ。

「やるしかない……!!」

 僕は、《血液増大》で腕から一気に血を噴出させる。
 鉄の匂いが満ちて、血だまりが水溜まりのように広がる。

 クロム伯爵は、まだ動かない。
 僕のしようとしていることに、気づかない。

 大切なのは、想像だ。
 鎧、鎧、鎧……身体を覆いつくすほど、巨大で重厚……。
 波打ち、匠の技……鋼鉄の、不破の鎧……。

 必要なのは、圧倒的なイメージだ。
 神から与えられたスキルで、世界をねじ伏せる想像力だ。

 僕の血が渦巻き、足からもも、下半身から上半身へと昇っていく。

 あっという間に血が、僕の全身にまとわりつく。
 生暖かさも色合いも、僕の《血液操作》で思い通りになる。

 冷たく、硬く、鋼のように!
 2つのスキルを最大限に使い、僕は血の鎧を作り上げていた。

 モデルは、目の前のクロム伯爵の鎧だ。
 魔術文字が描きこまれた、美しくも呪われた鎧。

 籠手とともに、指先もちゃんと動いてくれる。
 第2の身体のようなものだ。

 僕の鎧を見て、クロム伯爵は不愉快そうに眉をつり上げる。

「貴様……何の真似だ? 付け焼き刃の猿真似で、まさかワシの鎧に勝ると思ったのか」

「いいや……だけど、僕にできるのはこれしかない!」

 僕は賭けた。
 目の前のクロム伯爵は強い、強すぎる。

 ディーンが誇る《三騎士》を超えるかもしれない。
 だが、勝ち目はまだわずかにある。

「行くぞ……!!」

 身体と一緒に、精神力で血の鎧も動かす。
 生死の境に、極限まで意識を高める。

 僕の思い通りになっている!
 イメージが強制的に身体を動かし、いままでよりも加速する。

 骨と筋肉ではない。
 中と外の血が呼応して、力になっていた。
 肉体だけでなく、精神そのものが身体を突き動かしているのだ。

「愚か者め、一刀両断にしてくれるわ!」

 大上段に剣を持ち、クロム伯爵も走り出す。隙だらけで、防御は考えていない構えだ。

 当然だ、僕のスキルでクロム伯爵の鎧は壊せない。
 しかし、そこの付け入る隙がある!

「死ねぇぇぇい!!」

 死の一撃を振り下ろそうとするクロム伯爵に、僕は手を伸ばす。

 さっきと違い、狙うのはクロム伯爵の腕の方だ。
 捕らえろ、食らいつけ、僕の血よ!

 血の蛇がクロム伯爵の腕に巻きつき、勢いを削いでいく。
 それでも、クロム伯爵は構わず踏みこんでくる。

「無駄なあがきだ!!」

 またも怪力で振りほどかれそうになるが、今度はそうはいかない。
 矢継ぎ早に、次のイメージを組み立てる。
 これは、そんな複雑なものじゃない。

 足から血を伸ばして、自分を地面に釘付けにする。
 接地している足をしっかりと、食いこませるのだ。 

「ぬぅ!? 味な真似を……!!」

 僕の狙いは悟られてない。
 この一瞬、クロム伯爵が止まればそれでよかった。

「僕の……勝ちだ!!」

 息も絶え絶えに、僕は言い放った。

 この鎧は、僕の血でもある。
 つまりクロム伯爵の左腕の血と、僕の血が触れていた。

 クロム伯爵の血も、今なら《血液操作》で操れる。
 僕は必死に、破壊的なイメージを送りこむ。

 ねじれろ、固まれ、刺になれ!
 残酷なようだが、これしかない!

「なっ……がっ!?」

 クロム伯爵が、苦しげに呻く。
 本来なら他人の血を操作するのは、こうも上手く行かない。
 魔力があるために、十分に効果を発揮しないのだ。

 だがすでに死んで操られているだけのクロム伯爵は、どうだ!?
 血に魔力がもうないかも知れないと踏んだのだ。
 鎧で動くだけの中身なら、あり得る話だった。

 確信したのは、さっき血の蛇で貫いた一瞬だ。
 もう脱け殻同然だった。

 後は組み付けさえすればいい。
 スキルでクロム伯爵の肉体を、内部から破壊したのだ。

「ぐぐぐっ……こ、こんな……小僧に!!」

 クロム伯爵の身体から力が抜けて、膝をつく。
 すでに腕から脚と、僕のスキルが駆け巡っていた。

 もう、クロム伯爵は立ち上がれない。
 呼応するように、エルフのアンデッドが続々と崩れ落ちる。

 主人たるクロム伯爵からの死霊術が弱まったのだ。
 戦い続けているのは、一緒に連れた騎士だけになっていた。

「……終わった……!!」

 僕はゆっくりと、クロム伯爵から離れた。
 もし傷を塞がれていたら、終わりだった。

 鎧に頼りすぎたゆえの敗北だ。
 クロム伯爵も、これで眠りにつくだろう。
 いくら憎い相手とはいえ、アンデッドの姿は忍びなかった。

「……ジル男爵」

「クロム伯爵っ!?」

 目にわずかな光を灯し、クロム伯爵がささやいた。
 いままでの妄執と醜さが、薄れている。
 まるで、別人になったかのようだった。

「ああ、目が覚めたようだ……俺は、俺は……死んだのか? それとも、もう一度死ぬのか……?」
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