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壊れた海のひとつまみ
作:北本彩和



エピローグ


 台風が去った日、ぼくは貝殻拾いに行った。まだ暑いけど、青い空はどことなく秋の気配。空は作り物めいてどこまでも澄み渡っていて、なにもかも飲み込んで澄ましかえっていると思った。まとわりつくような熱が消え昨日までと違う空気は、秘密を抱えてよそよそしい。
 ぼくは泣かない。取り乱して泣き崩れる父を見て、気持ちのどこかが冷めてしまった。心の一部が兄について行ってしまって、それがちょうど柔らかい部分だったに違いない。ぼくは泣かない。泣く必要はまったくない。必要かどうかで涙を測る。そのこと自体が冷たいかもしれない。でも仕方がない。ぼくは悲しくない。父と違って、ぼくは兄と永遠の別れをしたわけじゃない。ぼくと父は違う。
 人間の体は海と同じ成分でできているらしい。CMでそんなことを言っていた。兄が海に溶けたから、今ならぼくの体より海の方が濃いだろう。地上の体を溶かして捨てて、兄はそろそろ人魚になった頃だろう。あの海の底の人魚の国には着いただろうか。残った骨が海岸に流れ着いている。脆くて堅い、白い欠片たち。ぼくは昨日まで兄だったそれをびんに詰めた。
 海からの帰り道に飴を買った。花火の前に行った店に、今度は一人で行った。
 それで今、ぼくの部屋には三本の青いびんが置いてある。母の破片、兄の欠片、飴の入ったもう一本。最後の青いびんに入る日が、ぼくにも来るかもしれない。ぼくはその約束の日を待っている。
 いつか来る夏を。







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