ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
きみを守る
作者:佐々岡洋介


 大学生という立場の人間は往々にして時間を持て余している。その中でも、3年生なんていうのはその最たるものだ。一年二年とまじめに講義に出席し、それなりにカリキュラムを埋めて、それなりに単位を修得すれば、3年になれば、取らなくてはいけない講義の数はグンと減る。しかし、卒業論文に取りかかるにも、就職活動に取りかかるにも、三年生の前期という時期にはまだ早すぎる。
 まじめな人は、そうも言わずに少しずつ準備に取り掛かるのだろうけど、大概の大学三年生は余った時間を遊興に回すか、労働に回す。俺ももちろんそちら側の人間だ。

 付き合っている彼女をストーカーから守る。

 それは遊興だろうか、はたまた労働だろうか。……たぶん、それはただの徒労だ。
 夜の十時半、住宅街は等間隔に配置された街灯とカーテンの隙間から漏れている室内灯の明かりとテレビ番組の音声のせいか、いやに明るく感じられる。
 彼女の自宅へのご帰還をこの目で見届けて、俺は大げさに息を吐き出す。念のために、家の周りをさっと確認する。特に変わった様子もなく、怪しい人影も見えない。彼女の自室の明かりがついたことを確認して、僕は家路についた。
 道すがら、携帯電話を取り出して、着信履歴から電話をかける。今日も、特に異常はなかったよ。おやすみ。
 ここ数日のストーカー騒ぎのせいか、いつものようなはつらつとした声を聞くことは出来なかった。気がめいっているのか怯えている印象すらある。安心していいんだ、俺が守ってやるから。そういうと、スピーカーからは彼女のすすり泣く声が聞こえてきた。緊張の糸が切れたのだろう。安心出来る言葉をいくつか投げかけて、俺は通話を終えた。
 今日はストーカーの姿を確認する事が出来なかった。いや、「今日も」と言うべきだろう。今日で4日ほど彼女の送り迎えをしているが、ストーカーの影を感じる事が出来なかった。
 彼女はいもしないストーカーの影に怯えているのだ。
 もともと、彼女は精神的脆い所があって、精神的な疾患があるのだと、聞かされた事があった。もちろん彼女本人からではないけれど。
 イメージしやすいのが被害妄想。その被害妄想がひどくなったものが彼女の症状だ。正確には違うらしいけれど、精神医学の事はよくわからないので、俺はちょっとした被害妄想だと考えるようにしていた。その方が気楽だし、物事を深く考えずに済む。
 大学の三年生、まわりの学生はサークルだバイトだ、旅行だなんだと最後のモラトリアムを(こんな言い方は古いのかもしれないけれど)満喫している。
 俺は、いもしないストーカーから彼女を守っている。



 俺が今年21歳の暇な大学3年生で、彼女は今年18歳の受験生である高校三年生だ。年の差は三つ、大学生にしては珍しい年の差ではない。しかし、相手が高校生となると少し話は変わってくる。大学の3年生で高校生と付き合っていると、ほぼ間違いなくロリコン!と面白おかしくネタにされる。それが、四年生と一年生のカップルであれば、そんな事を言われる事はない。その差は何なのだろうか、と考えることがあるが、結局よくわからない。たぶん、世間では高校生と大学生では明確な線引きがなされているのだろう。俺にはわからない線引きだけれども。
 なので俺は、大学の友人たちに彼女がいる事を隠している。以前、高校生の彼女を持つ知人がネタにされているのを間近で見ていたので、同じ轍は踏みたくないと思ったのだ。俺と彼女の関係をバカにしてネタにされるなんて、想像しただけでも吐き気がしてくる。
 俺と彼女が出会ったのは、通学途中の電車だった。朝の満員電車で、彼女が僕の足を、かかとで思いっきり踏みつけたのが出会いのキッカケだった。ちょうど電車がカーブに差し掛かって、大きく揺れた。満員で吊革を持っていなかった彼女は人の波に揉まれるがままになり、踏ん張って態勢を整えようとした所に、あったのが俺の右足だったのだ。
 満員電車の中でものすごい勢いで謝る彼女を見て、俺が最初に抱いた感想は変わったコだなあという程度だった。それから、次第に電車で顔を合わせるようになり、携帯の番号を交換して、俺たちの距離は近づいて行き、今に至るという事だ。

 民俗学のつまらない講義を聞き流しながら、俺は彼女との出会いを思い出していた。その頃は、はつらつとした女の子であったけれど、今は見る影もなかった。ストーカー騒動の少し前から、元気が無かった。思えば、その頃から彼女はいもしないストーカーの影におびえていたのかもしれない。
 朝の通学電車、俺はいつものように彼女と同じ車両に乗った。三年生になって、朝一番の講義は取らなくてもよくなったけれど、半ば彼女との通学が習慣化したので、僕は一時間目の講義を取るようにしていた。
 すぐに彼女を見つけたが、めずらしくその日の彼女は同じ高校の同級生と一緒にいた。友達といるところに割って入るのも悪いと思ったので、少し離れた所に立つことにした。ちょうど、彼女の後ろ側だったので、彼女は俺には気づいていなかった。
 その時、彼女は一緒にいた友達にストーカーの被害にあっていると話していた。冗談を言っている口ぶりではなく、目は真剣に助けを求めているように感じた。俺は、いったい何を言っているのか理解できなくて、ただ、彼女の話に聞き耳を立てる事しかできなかった。
 「彼氏に相談してないの?」
 彼女の友人は言った。彼女の話が本当だと信じて、真剣に話しているというのが伝わってきた。
 「駄目だよ。迷惑、掛けたくないよ。それに、今は大事な時だもん。絶対に、彼には知られたくない」
 そういう彼女の顔は見えなかったけれど、肩が小さく震えているのがわかった。
 その日の夜、俺は彼女の意志を尊重して、聞かなかったことにするか、彼女の助けになるのか、悩んで、悩んで、結論を出した。
 俺は電話で彼女に、ストーカーから守ってやると告げた。彼女は泣きながら、いやだ!やめて!と言ったが、俺は引かなかった。やがて、彼女は何も言わなくなった。ただ、すすり泣く声だけが聞こえた。
 俺は、彼女を守ってやると心に誓ったのだ。




 民俗学の講義を終え、俺は彼女の通っている高校へと歩みを進めた。学校近くのコンビニで30分ほど待つと、校門から出てくる彼女を見つけた。すぐに声をかけて一緒に帰ってもよかったけれど、一緒にいてはストーカーを牽制することは出来ても、捕まえる事が出来ないので、俺は彼女が通り過ぎるのを見て、後をつける。
 自分でも矛盾した考えだというのは理解していた。彼女にストーカーなんていないのだ。しかし、俺はそのストーカーを捕まえようとしている。たぶん、もしかしたら本当にストーカーがいるのかもしれないと、心のどこかで思っているのかもしれない。
 彼女は同級生だろうか、男友達と二人で歩いている。笑顔だ。少し前の元気な笑顔だった。
彼女は駅前でその男友達と別れて、電車に乗り、一駅した所で降りた。彼女の通う進学塾がその駅前にあるのだ。3時間ほどして、彼女は塾のはいっているビルから出てきた。俺は喫茶店で適当に時間を潰していた。帰宅する彼女は駅に入り、電車を待っていた。
 そこで、俺は異変に気付いた。いや、視線に気づいたというべきだろうか、俺の後ろに、彼女を見つめる男が立っていた。20代後半か30代前半だろうか、細身の男は、俺と目が合うとそそくさとどこかに消えた。明らかに、俺と目が合うまでは彼女に視線を向けていた。
 まさか、彼女は本当にストーカー被害に遭っていたのか。疑問が膨れる。電車でも、注意して辺りを見回すと、先ほどの男が隣の車両との連結部分に立っていて、やはりこちらを見つめていた。
 俺は彼女を守る。もう一度、自分に言い聞かせるように心の中でつぶやいた。
 やがて、彼女は電車を降り、自宅への道を歩き出した。
 ストーカーはもう俺に気づかれているのを悟ったのか、堂々と後ろをつけてきている。ここで、捕まえてもよかったが、それでは彼女に心配をかけてしまう。彼女が家について、何も無かったよと、電話してから捕まえてやる。そう心に誓った。
 やがて、彼女は家路につき、彼女の二階の部屋に明かりがともった。俺はそれを確認して、電話をする。彼女が電話に出る。声が震えている。もう大丈夫だよ。安心して。出来るだけ平静を装って、言葉をかける。彼女はだまったままだった。電話を切り、俺は先ほどまでストーカーがいたところに向き直った。
 すると、ストーカーは俺のすぐ後ろにまで近づいて来ていた。緊張が走る。ストーカーは厳しい表情でこちらを見ている。すぐ近くまで、寄ってくると、ストーカーは予想外の事を口にした。意味がわからない。何を言っているんだ。なんだって?頭がおかしいのか?俺が、ストーカーだって?

 男は言った
 「田辺恭一だな。お前をストーカー行為規制法違反の現行犯で逮捕する」

 そういって、俺は抑えらると、数人の男があらわれて、そのままパトカーへと押し込まれた。


エピローグ

 ストーカー逮捕の数日後、この小さな事件は、夕方のニュース番組に小さく報道されていた。私の名前や写真は出ることはなかったけれど、ストーカー男の名前と写真ははっきりとテレビ画面に映って、アナウンサーが名前を読み上げていた。
 数日前、警察署で見た顔と同じ、さえない、若干腫れぼったい顔をして、黒ぶちメガネの男だ。私はこの男に見覚えがなかった。警察に相談して、一週間もたたないうちに男は逮捕された。ストーカー被害では警察は中々動いてくれないと以前テレビ番組でやっていたが、今はそうでもないようで、迅速に解決へと導いてくれた。
 ストーカー男の供述を聞いて、私はようやく、電車でなんどか見た事のある顔だと思いだした。ただ、直接会話もしたことが無いし、もちろん携帯の番号も教えていなかった。どこからか私の番号を手に入れて、夜な夜な訳のわからない電話をしてきたのだ。今考えても、寒気がするほど気味が悪い。
 警察の話によると、どうやらストーカー男は精神疾患を患っているようで、一種の妄想癖のような症状が出ていて、私を完全に恋人だと認識しているとの事だった。たしかに、電話でそれらしい言動があった事を思い出した。
 ストーカー男は未だに、何故自分が逮捕されたのか理解していないらしい。
 彼は今も、いもしない、架空の恋人を守っているのだ。
事実をいかにゆがめて、整合性のあるものに見せることが出来るかという、思いつきから考えた話です。

深夜のテンションで一気に書いたので、全体的に作りが雑になってしまいました。反省。
でも、これだまされてくれる人はいるのかなぁと少し不安だったりします。
評価
ポイントを選んで「評価する」ボタンを押してください。

▼この作品の書き方はどうでしたか?(文法・文章評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
▼物語(ストーリー)はどうでしたか?満足しましたか?(ストーリー評価)
1pt 2pt 3pt 4pt 5pt
  ※評価するにはログインしてください。
ついったーで読了宣言!
ついったー
― 感想を書く ―
⇒感想一覧を見る
※感想を書く場合はログインしてください。
▼良い点
▼悪い点
▼一言

1項目の入力から送信できます。
感想を書く場合の注意事項を必ずお読みください。
+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。