10月11日(月)
昼、入手難易度の高いカツサンドを購買でゲットする。入手方法は購買のおばちゃんを4さまで買収したことにあるらしい。
放課後、下校途中にファラーリ(某スポーツカーの類似品)を発見。追い抜こうとするが50m地点でリタイア。さすがに勝てないらしい。
夜、自宅で何も起こすことなく就寝。
10月12日(火)
朝、寝坊をしたらしく焼けたばかりのトーストをかじったまま登校という奇跡とも言いがたい行動を目の当たりにする。
昼、おばちゃんのミスによりカツサンド入手ならず。仕方なくカレーパンを口にしていると目の前のベンチに座っている男子生徒、織原隼人(柔道部一年)がカツサンドを持っていたという理由だけで襲撃。織原隼人の柔道歴10年という名の技術は塵が如く散っていった。
放課後、最近人気のあるパン屋の漫画を購入。
夜、家が突如爆発する。原因は放課後に買った漫画の影響でパンを作ろうと思いつき、小麦粉をぶち撒けて粉塵爆発を起こしたのだろう。
10月13日(水)
朝、愛機であるビアンキのタイヤがパンクする。たまたまこの日、自転車で登校していた織原隼人から自転車を強奪する。余談だが織原隼人は当然遅刻した。
昼、今日は無事カツサンドを入手した。そこにたまたま通りかかった織原隼人に謝罪なのかめろんパンを渡した。因みに彼が貰っためろんパンというのは名ばかりできゅうりに蜂蜜をかけたものがパンの具として入っている青臭いパンである。やはり、謝罪ではなく嫌がらせだろう。
放課後、帰宅してすぐにパンクを直す。慣れているのか思いの外、手際がよかった。
夜、パンクを直していたらそのほかの部分も気になったようで手入れを終えるのに一夜を明かす。
10月14日(木)
朝、徹夜をしたのにも関わらず自転車を揚々と漕ぐ。
昼、徹夜がやはり効いていたのか購買には顔を見せることなく教室で寝る。寝相なのか何故か偶々教室で昼食を食べていた織原隼人に黒板消しを持って「のっぺらぼうにする」と騒いでいたところを周りが止め織原隼人はチョークの粉が髪に掛かるだけの被害で済んだ。因みにチョークの粉が髪に掛かると禿げるという噂を織原隼人は知らない。
放課後、寝過ごしてしまった為カツサンドを食べれずにイライラしていたところに織原隼人がたまたま部室に移動しようと通りかかり、惨劇は起こった。
夜、何かをする訳でなく就寝。
10月15日(金)
朝、何も事件が起きることがないわけなく朝練でランニングしていた織原隼人を轢殺する。
昼、織原隼人にうにパンを渡す。因みにうにパンとはプリンに醤油をかけたものが入っていて甘いのかしょっぱいのか解らない不思議なパンである。やはり、嫌がらせなのだろう。
放課後、惨劇は同じ場所、同じ織原隼人で再び起こる。
夜、暴れて疲れたのか問題なく就寝。
10月16、17日
行方不明になりこれ以上、記することは出来なかった。
藤村奈々穂の観察日記
厳しかった残暑も終わり秋の香りを報せるように風は吹く。広がる空の青い世界に橙色が少し掛かっていた。
その世界を見る限り平和だった。
紛れもなく宮原 要のいる世界は平和だ。
最近、珍しい事があったといえば、日本の海域に鮫が撲殺されたような痕跡を残して浮いていたというニュースがあったが、それぐらいで俺の平和はなくならない。
なくなりはしないが大変な状況にあったりする。ある意味不幸かもしれない。
「とまぁ、こんな感じなんだよ。藤村」
授業も終わり、部活動でせわしなく活動している声が屋上にいても聞こえてくる。
そんな中、一週間かけて記した観察日記を広げ目の前にいる黒を基調としたセーラー服を着て、黒い髪は肩口まで揃え肌は彼女の性格からは考えられないほど透き通るほど白い、セーラ服とはコントラストになって余計に映えて見える。この少女は美人と言う言葉で納まらない程の美女だったりする少女に見せる。
何てそんな聞いている限りでは素敵な女の子と二人で一緒に、という思春期男子なら間違いなくどきどきのシチュエーションにいたりするが、周りの人間はこれを見ても誰も羨ましがることはない。
「変かなぁ? 私は」
「変だな」
十中八九、俺が書いた彼女の観察日記を見たら、誰もが目の前にいる少女、藤村奈々穂は変だと思うだろう。というか、その八割は織原隼人に同情する。
「そんなはっきり言わなくてもいいと思う」
恨みがまし気に見つめてくる自業自得的な藤村。
「いや、事実だし。だからこんなものを俺に書いて欲しいと言ってきたんだろう」
「それはそうなんだけど」
ことの発端は10月11日月曜日の朝の出来事にある。日記の中で抜けていた箇所である。
その日の朝、俺は突然同じクラスである藤村奈々穂に自分の観察日記を書いて欲しいと言われた。
いきなりのことだったし、理由を聞きくとものすごい嫌だったが。中学来の友人と言うこともあって引き受けることにしたのはよかったのだけど。改めて認識したよ藤村奈々穂の中身を。
今年の春、この高校である騒動が起きた。新入生に超が付くほどの美人がいると。その美人とは言うまでもなく藤村奈々穂である。ここの学校の男どもは余程単純なのか二、三年の先輩や俺や藤村と同じ中学の連中を除く一年生も藤村にアプローチをしていた。が、そんな騒ぎは一週間経ってなくなった。理由は藤村奈々穂は変人というレッテルが張られた為である。本人は変人と言われていることを知ってはいるが気にしているような素振りを見せたことはなかった。
しかし、今回に限ってそんな素振りを俺に見せてきやがった。
曰く、こんな事を頼んだ理由は図書委員長の風間明治に惚れたから、相手に気にいられる為にどうしたらいいか、自分が変だと言われている理由は何なのか知って直したいから一週間の自分の行動を書いて欲しいと。
正直、俺は他人の恋愛事なんぞに首を突っ込みたくなかった。ろくなことにならないからである。
「……」
落ち込んだように体育座りをしてしょぼくれている藤村。
「変ではあるが、変人ではないよ藤村は」
「本当!?」
気休めに吐いた言葉ではあるが元気を取り戻したように目を輝かせた。
一応事実である。中学から見てきた俺が言うのだ多分正解しているはず。こいつはただ思い込んだら一直線なだけの性格である。
「迷惑だな」
「何か言った?」
「いえ、何も言ってないのであります」
訝しげな視線を送ってはきたが、気のせいと言うことにしたらしく彼女の言葉はさらに続く。
「じゃあ、例えば土日の連休に知床へ泳いで行こうとして途中でシュモクザメをはったおして時間がない事に気がついて帰ってくるような女の子でも?」
「は?」
というか、ちょっと待て。まさか、今朝のニュースで言ってた鮫の原因はこいつか、挙句変と言われて気落ちしたわりに何故に変人であることを誇示しているのか。
しかも、土日は行方が解らんと思っていたら知床へ行こうとしていたのか、そりゃわかるわけもないな。
「それから……」
「うるさい。少し黙れ変人」
「はうっ!」
図太いように見えるが実はガラスのハートの持ち主らしく俺の一言にまた落ち込む藤村。
めんどくせぇ。
「で、どうする気なんだ? これから」
「どうするって?」
「観察日記を読んで自分の何がいけないのか、どうすれば相手に気に入られるのか、だ」
うーんと唸りながら腕を組む。
どうやら何も考えていなかったらしい。
「ハァ。じゃあ、その風間先輩の何処に惹かれたんだ?」
質問に対し頬を赤く染める藤村。
その反応を見て舌打ちをする自分が腹立たしい。
「普通なところかな」
「普通?」
また、ずいぶん奇妙な。
「うん、一度だけ図書委員の仕事で一緒になったのだけど、何もなかったんだ。その時初めて話して、知ったんだ。先輩は普通な人だって。それがとても安心できて惹かれたんだと思う」
頬を紅潮させたまま熱に浮かされたように喋る。
「ふーん」
くっだらねぇ。
はぁ、しかしどうしたものか。
「私はどうすればいいのかなぁ?」
知るか、てめぇで考えろ、という一言をなんとか喉元で止める。止めた代わりに疑問をぶつけてみる。
「これから何かやって変わるのか?」
「……」
沈黙は肯定の意味を持っているようだ。
やっぱり、馬鹿みたいだ。……俺もか。最初からそういってれば一週間を無駄にせずにすんだってのに。
「じゃあ、いいじゃねぇかそのままで藤村は藤村だろ」
「そ、そうかな」
安心したように顔を緩ませる。
それを見て俺は、
「ああ」
あらゆるものを偽装し隠した。
「じゃあ、俺はこれで。後は頑張れ」
真っ赤に染まった日を眺めながら屋上を出る唯一のドアに手を掛ける。ここを通れば階段が直ぐに見えるが、しかし。
「待った」
擬音語で表すと、
どっどっどっどっ!
という危機感たっぷりな効果音が頭に流れ、肩をつかまれてそれ以上進めなかった。
すごい嫌な予感がするなぁ、というかまだ面倒ごとをやらされる気が。
「お願いがある」
あぁ、神さまは私に何か恨みでもあるのでしょうか?
中学の頃、同級生に綺麗な女の子が一人いた。
最初は皆、親しくなろうと話していたが時間が経つにつれて彼女の性格が見えてきた頃に全員離れていった。それはとても最低な行為だ。でも、その最低な行為に俺も加わっていた。仲間外れにされたくない、そんな自分勝手な思いで彼女を無視した。
ある日、俺は事故で全治三ヶ月という怪我に遭い、入院した。最初の頃は友達は見舞いに来てくれた。でも最初だけだった。用があるのかめんどくさかったのか。でも俺はそれを気にする気はなかった。多分、彼らと同じ状況だったら同じ事をしていたと思うから。
誰も見舞いになんか来ないと思ってたころに彼女が来た。予想外だった。俺の頭の中には彼女が来る項目なんて存在しなかった。自分からそのことを削除していた。だって、そうだろあんなことをしといて思えるわけがない。
「君が来なくて一ヶ月、ずっと入院していたら寂しいでしょ。って思ってたらここにいたんだよね」
何故来たのか、と理由を聞いたら照れたような声で出した答えがそれだった。彼女を無視した最低な俺を心配してくれた。
それから、毎日のように来てくれた。その毎日はとても温かかった。だから、誓った。もう彼女を裏切るような行為をしないと。
その為に、成功するようにと協力を受け入れたのだから。
「という訳で、今日の放課後に屋上に来て欲しいのだけれど」
「理由は?」
風間明治は、昼休みの図書室に突如現れ一方的に話し掛けてきた俺を邪険するようなことなく聴いてくれた。
大物かこいつは。
「んー、ここじゃ言いにくいことかな。用があるのは俺じゃないし。今日が無理なら別の日でも構わないけど」
「いいよ」
即答した。しかも人のよさそうな笑顔で。
風間明治を見ての印象は藤村の言うとおり普通だった。眼鏡を掛け、髪はどこかいじった風もなく身長は俺より高そうだ。座っていたから正確にはわからないけど。
「いいのか?」
「ん? 不思議なことを言うね。来てほしいくないの?」
「いや、そんなことないけど。知らない人間に呼ばれて不安にならないか」
人のいい笑顔で、
「そう言われればそうだけど。君は僕に嫌がらせをしたいの?」
普通に答えた。
人をこうも信じるものか? もしくはバカ? ま、いいか。
「じゃあ、頼んます」
風間先輩は快く頷き、それを見て俺は図書室を出る。
「あ、ちょっと待った」
ドアを閉めようとしたところで呼び止められた。
「なに?」
「うん、年上の人には敬語を使った方がいいよ」
なんて、当たり前の説教をされた。
「ああ、勘違いはしないように。これは説教じゃなくて助言だから」
「助言?」
不思議なことを言う説教でなくてなんなのか。
「敬語を使った方が世の中渡りやすいよ」
そう、自然に言った。
ああ、この人は信じたわけじゃないんだ。ただそうするのが普通なだけ。
俺は苦笑してから、
「わかりました。以後、気をつけますよ」
先輩がうんと頷くのを確認してドアを閉めた。
勝てないわ。まぁ、勝負してなかったんだけど。
さて、これで頼まれたことの一つ目は完了、と。
藤村に頼まれたことは二つある。もう一つは。
風間先輩が屋上の階段を上がっていくのを確認する。
「よし」
屋上へ出るのを確認して俺も入り口まで上る。
藤村から頼まれた二つは先輩をここに呼ぶことそれとここに誰も来ないように見張りつつ見ててほしいとのこと。
はぁ、何も気づいてないんだろうな。だから、こんなことを頼んでくる。
「えーと、僕を呼んだのは藤村さん?」
先輩は屋上を見回し一人いた藤村に目を留める。
「は、はい」
ガチガチだ。緊張のしすぎだろうアレは。顔も真っ赤だし。
「なんの用かな?」
心配するような声はかなり優しく聞こえる。
アレを聞いた人間は確実に落ちるな、うん。
「あ、あの……その……」
ありゃー、無理かな。固まって喋れなくなってる。
「うん」
それでも、先輩は待ってる。
「せ、せせせ先輩のことが、」
声に震えはあるもののしっかりと目を見つめて、
「うん」
「好きです」
はっきりとそう言った。
「え……」
先輩は少し驚いたような反応をする。
まさかこの状況でこの展開を予想してなかったのかあの先輩は。
ま、何はともあれよかったな藤村。これで俺も御役御免か、助かると言えば助かるがなんかな。
「ごめん」
と、頭を下げた。
「え?」
驚きは藤村のものではなく俺のもの。当たり前のことを失念していた。告白したから成功ではないのだ。
「あ、あの先輩が頭を下げることないです。謝るのは私の方ですから、頭を上げてください」
慌てたように藤村はまくしたてるように言う。先輩は言われたとおりに頭をあげる。
「今日はすみませんでした。こんなことにつき合わせちゃって」
勢いよく頭を下げる藤村。
「こんなことじゃないよ」
先輩の声はこんな時でも変わらない。
ただ、それが引き鉄となったのか俯かせているものの藤村が涙を流しているのが遠目ながらもわかる。
その涙を見て偽装していた心が崩れかける。
「今日はありがとうございました」
先輩はうん、と頷いてこっちに足を向けた。藤村は涙を隠すため顔を上げない。
ちょっと待ってくれ。これで終わり? 先輩は泣いてるあいつをほっとくのか。
「あれ?」
入り口に俺がいたことに気づく。その声が俺の偽者を壊した。
さっきのを見ていたことに後ろめたさを感じる前に、先輩の胸倉をつかんでいた。
「な、んで、断ったんだ。あいつがこの時の為にどれだけ悩んだと思ってる」
普段自分が変だなんて気にしていなかった奴が、直したいと思って俺に頼むくらい、悩んでたってのに。
「なんで、応えてやらなかったんだよ」
「……はぁ」
ため息を吐いた。それがとても、とても癇に障った。
「なん……」
「じゃあ、君の言うとおり。僕が藤村さんを好きでもないのに彼女の告白に応じていれば良かったのか?」
静かに響く声。だけどそれに怒気が混ざっているのがわかる。
「そんなことをして誰が報われる? 僕か藤村さん? 違うよ第三者である君だけだ。しかもそれは唯の自己満足にすぎない」
怒っている。この先輩は。
「ふざけるな、そんな人の思いを土足で踏み荒らすだけの行為なんて僕は許さない」
「……!」
「それに君はそれを見ていたかった?」
包むような優しい声にもう怒りなんて見当たらない。先輩をつかんでいた手の力が緩む。
ああ、そうだ。嘘でも本当でも二人が一緒にいるところなんざ見ていたくなかった。でも、二人が一緒にいるところを見れば諦めがつくと思ってたから。……だけど、そんなの俺のわがままだ。勝手に俺の思いを他人に預けて終わらそうなんて、都合がよすぎる。この思いとは自分で決着つけないといけないんだから。
「すいませんでした」
やっぱり敵わない。というか俺が一方的に弱いだけ。
うん、いいよと言って先輩は階段を下りていく。
「あ、その前に」
と先輩は歩を止めた。
「年上の人には敬語は使っておいた方がいいよ」
あんなことを言っていた俺に当たり前のように言うこの先輩は頭のねじが外れているのかもしれない。
「気を付けます」
これで最後だから、と最後通牒を残し再び足を進めた。
「しかし」
あれをどうしようか。
立っていたはずの藤村は体育座りをして顔を膝の間に顔を埋めている。身体は震えている。
声を掛けるべきか放っとくべきか。
「……」
まぁ、掛けるべき声も見つからないしこのまま帰るか。
「待って」
階段を下りようとしたら、そう呼び止められた。
「なに」
座っていたと思ったら、今度は立っていた。忙しい奴だ。
泣いていたせいで目は真っ赤だ。その目でこちらを見据えてくる。
「ありがとう、それとごめんね。せっかく協力してもらったのに」
「別にいい」
どうしようか、このしんみりした空気。
「それで、お礼に今度は私が手伝ってあげる」
「は?」
「協力は必要でしょ? 同じ状況になったら」
「……」
あーあ、やっぱ気づいてないし。しかも、この状況じゃ何も言えなくなるし。ある意味わかって言ってんじゃないかなーと疑いたくなる発言だ。
「どうしたの?」
何も知らないような顔をしやがって。
「なんでもない、帰る」
「うん」
なんて元気一杯に返事をする。
俺の思いは決着なんかつかないんじゃないかと思いつつ今日は終わる。
藤村奈々穂の観察日記、終わり。
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