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油揚げ鳶に浚われた、鳶じゃなくて鷹だった

作者: 忍龍

「…まさか陛下がそのような趣向をお持ちとは…

 いえっ、いいのです、お気になさらないで下さいませ…っ」



心持ち怯えたような…

髪はほつれ、顔色も全体的に白い…唇も頬も、血の気の失せたような…



「マ、マリューヴェル…?」



昨夜、彼女が纏っていたはずの夜着は引き裂かれて寝台周辺に散らばり

枕は裂け目から羽毛がはみ出し、ぼろぼろになったシーツは彼女が身を守るように纏っていた



え、まさか、え?、え?



フォルドラフィーダ王は意味を成さない声をもらし、爽やかな朝のベッドの上で際限なくうろたえていたが

やがて侍女のノックで我に返り、慌てて身支度を整えて第五側妃の居室から遁走した


その後、さり気なく王が探りを入れると、第五側妃はその日から湯浴みや身支度を生家から連れてきた年嵩の信を置く侍女にのみ手伝わせるようになり、肌を晒さなくなったという話だった


己の知られざる性癖に苦悩した王は、その側妃への渡りはその日限りでそれ以降は別の側妃や正妃のもとに通い

暫く経った頃 自信を取り戻した彼は、あれは一時の気の迷いだったのだな、と

名誉挽回というか汚名返上を賭け、第五側妃のもとへ二度目の渡りをつけた



…が、やはり翌朝…



自信を失っては時間を掛けて立ち直り、再戦を挑んだ王であったが

ついに五度目の渡りで心が折れた


第五側妃は特別美しいわけでも、唄が上手いわけでも踊りが上手いわけでもなかったが、相応しい身分と血筋を持つために召し上げられ、…けれどもこの度、側妃を辞すことになった



側妃の任を辞す理由は色々ある



功績を立てた臣下に妻として下げ渡されたり、生家の跡取りを失った場合に戻って婿をとったり

口も憚るようなことをしでかして任を剥奪される、などということもある











宰相、エヴァンリュールは午後の目もくらむような強い日差しの中、外回廊を通って広い庭園の中央に設けられたサロンへ足を向けていた


彼の目当てはある人物にあった


その人物は後宮に居を持っている為に、男である彼は後宮に尋ねていくことはできないが

サロンならば彼の身分であれば問題なく接触することができた

相手がその時間にサロンにいることは事前に調べてあったし、二人きりで個室にいたのではあらぬ噂を立てられる

それに、目的を果たすのにこれほどよい場所もない

サロンに居る時間を狙うのが一番 理に叶っていた


果たしてサロンに着くなり目的の人物を素早く見つけた宰相は、最低限の挨拶もそこそこにその人物に話し掛けた

相手は椅子を勧めてきたが、彼はその時それには応じなかった

高い身の丈を持つ宰相はサロンで程よく目立ち、相手はじっと注視しなければ分からない程度に眉を顰めた



宰相はそっと相手に伝わる声で話し出す



「初夜は香でしたか」


「…香がどうかなさいましたか宰相殿」


「二夜は寝酒に」


「お酒ですか?」


「三夜は遅くの訪問を見越して夜食に」


「何のお話ですの?」


「四夜では、お疲れの様子に侍女に申し付けてマッサージ」


「…宰相殿」


「昨夜は緊張する様子に安らぐ効果があると、初夜とは違う香で」


「…申し訳ありません、わたくしはあまり難しいお話は得意ではないので

 一体、宰相殿が何を仰りたいのか、然程も分からないのです」



周囲では会話の声も潜められ、周りの人々がこちらの会話に聞き耳を立てているのがよく分かった

尤も、その努力も会話の相手でなければ聞き取れない宰相の声には歯が立たなかったが



「わたしの好みは貞操観念が硬く頭の良い人です、

 自身の身を守る為に陛下を眠らせて衣服を剥ぎ取り、自らの寝具を引き裂いて

 冬は朝まで薄着のままテラスに立ち、夏に風邪をひくほど冷水を被ってまで悲壮感を演出し

 陛下の探りが入ることを想定した上で、

 可能な限り人気の多い場所で過ごしたいという、まるで何かに怯えるような日常の振る舞い

 悪知恵のよく回る貴女のような女性がとても好みです」


「ッ! ちょ、そんなことこんな場所でっ!!」



べろりと蠱惑的な仕草で唇を舐めた姿に、相手、第五側妃は ひっと竦み上がり小声で抗議し、ぷるぷると動揺を隠しきれない様子でうろたえるその姿は、宰相の加虐心を程よく刺激した

そこで宰相は仕上げに取り掛かった



「第五側妃マリューヴェル・ラ・サイフォニシェル嬢

 このたび、陛下より貴女をわたしの妻に賜ることになりました」



ひぃぃぃいいいいいっっ!!!

そんな声にならない悲鳴を、確かに宰相は聞いた、宰相だけが認識した


宰相のそれまでの潜めるようなものとは一転した大きな声に、サロンはざわざわとざわめきだす


王の側妃を下げ渡されるというのは、とても栄誉なことだ

王という絶対的な存在から花嫁を斡旋され、しかもそれが王に召し上げられた身分も血筋も申し分ない女だ

彼は王の信頼を得ていると周囲に認識される上に、上質の女を手に入れたということになる


それも、彼曰く"とても好み"の女を




真っ白に燃え尽きた様子で座ったまま気絶した元第五側妃マリューヴェル・ラ・サイフォニシェルの白く滑らかで小さな手をそっと取り


宰相エヴァンリュールは衆目の前で宣言するかのごとく、恭しくその甲に口吻けた

最初は鷹じゃなくて鷲にしようかと思ったのですが、鳶が鷹を産むって諺もあるから、ここは鷹の方がしっくりくるかな、と思ってタイトルは鷹になりました


上手いこと身奇麗なまま実家に帰ろうとした第五側妃は別の猛禽類を知らずに呼び寄せて掻っ攫われてしまいましたとさ、めでたしめでたし。

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― 新着の感想 ―
[一言] ぶはッw なんて素敵な宰相さまの腹黒っプリw 最高です^^ マリューヴェルが太刀打ちできないほどの腹黒さタマリマセンw 素敵なお話を有難うございます^^
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