最初はこうだ。
「じゃあ、はじめるよ〜ぅ、うるとらま〜ん、じゅわっちっ! しょいーん、ぽがーにょぽがーにょしゅぽぽぽぽーん、うわっは! しゅすしゅしゅそいうぅ〜ととととととぉーうっ、うふ〜ごきげんよぉ〜うぅ」
しかし、途中からはこうだ。
「にょーぅ、はだだだだぁーっ! あい〜ちょっくらごめんよ〜ちょいとちょいとぉ〜。それは、いけやせんぜぇ奥さーん、いや〜っダメぇっとくろーさんっ、あぁそんなぁっふゅーん、と、と、ころっはぁん、いっじらないでぇっく、やぁんぁっ、だめぇっ、い、いくっ、いくっ、はぁ〜んっ…………」
といつもの様につややかな声を発し、パソコンの前でオナニープレイを始めたのは18歳の「山村太郎」であり美少女だ。と言っても、もともと男であったとかそういうことではなく、もちろんこれも俺の想像ではあるのだが、彼女は純正の女の子であった。
「山村太郎」はペンネームである。
彼女は何もエロサイトを閲覧し、指で性器をいじくっている訳ではない。がしかし、性器はぐしょぐしょに濡れている。あれが、彼女の執筆兼、オナニーのスタイルなのだ。まぁ、一種のトランス状態と言っても良いのかも知れない。経触のオナニーでは感じられないので、ああいった方法をとっているらしいのだが、俺には女体の神秘とくに、彼女の物はほとんど理解できていない。
「くぅぅぅぅ…(声がしぼるように高まっていく)……………ハァ、ハァで、できたぁ〜。うぅっ!」
ガクガクと震えたまま、原稿を印刷し見せてくれた。
「ね、ねぇ? ど、どやぁっ!? うっく」
汗が噴き出し、紅潮した頬、快楽に歪む表情だが目はきらきらわくわくで、俺を上目る(動詞・上目遣いすること)。まだイった余韻が体に残っているようだ。
そのまま俺の答えを待ち、小さな手でシャツの裾を掴み、机にゆっくりと倒れた。
実際のところ方法がどうであれ、彼女が書くよみものとしての作品は、面白すぎてヒの打ち所がなく、読めば二度と抜け出せず、誰もがその魅力に取り憑かれ、縛られていた。
かく言う俺もその内の一人である。
「あっははは……これかなり良いですよ! 山村さん!」思わず笑ってしまう。
絶賛に値する文章と引き込み。これは彼女だけが持つ力である。
当の山村太郎本人は、うはっ! 可愛い声を出し、くねくねと動いた。
「ふぅぁら〜うっしゃ〜やるよやるよやったうよ〜ぅ! そりゃ〜しゅしゅしゅ〜あっ、間違えちゃったバックバック、え〜バック〜? 後背位〜? も〜やだなぁ〜ケンちゃんはぁ〜えっちなんだからぁ〜っえ〜? しょうがないなぁ〜う〜ん? うそだよきゃは! 良いよん入れて〜?」
今度は踊りながら、細い指が見えないスピードで打ちこんでいった。例によって、その後絶頂を迎える。
……
重々、彼女のペンネームは「山村太郎」であるが、男ではない。
文字通りの処女作『ネコと私の主従の関係』で賞をとるが、授賞式を欠席して話題を呼んだ。同作は100万部のベストセラーを記録。しかし、素性はおろか、テレビ、雑誌、ウィキペディア、出版社のインタビューにすらも頑なにその姿を表さなかったのであった。出版に携わった一部の人間だけ、彼女の正体を知り得たはずであろうが、前件のこともあり、沈黙を貫いていた。
山村太郎が正体をひた隠す理由……
「うぁ! も、だめっ! いくっ、いあぁぁぁぁぁんっ!!」
この日、三度目の絶頂である。いつも、パンツや椅子をべちゃべちゃに濡らしていたので、おしめをするか裸で書いたらどうですか? と言う俺の提案を飲み、彼女は今おしめをはいている。
こんな事実が流出した際、山村太郎は美少女だった……!? 執筆方法はオナニー!?
など写真並びに画像の流出、PF露呈個人の判明を恐れていたからであった。
そしてなおかつ、今それを目にしていても、俺のペニスが立っていないことが、こっちの出版社で続編を書いている理由でもあった。多分、彼女は向こうの大手出版社では問題になっていたはずである。付いた担当者は絶対に襲ってしまう。だがしかし、俺は襲えても、立たないので無意味だった。
少々自虐的であったが俺は、大手だがその中の言うとお荷物部署の編集者である。
廃刊寸前の文藝雑誌と、お得意のペーパーバック小説家を数人、抱えているだけであった。
…………以後大まかな設定と、それに付随した主人公とその他のやりとり…………
長い下読みと文章校正の経験を生かしたが、元々の夢である小説家にはなれなかったので、俺は編集者となった。入社し配属され、「編集者」としての人生は順風満帆かに見えた。
なにやら怪しげな場所へと案内され、女子社員がそそくさと去っていく。
がちゃ。
! 机が三つだけ!?
いやぁ良く来てくれたっー!
諸手を挙げて喜ぶ編集長、男女雇用機会均等法に則っていないような、お茶くみの吉田さん(24)おおラッキーなんでこんな美人が、二人だけであった。
吉田さん(24)に後で聞いたところによると「ここは、もうそろそろ跡形もなく消滅して、会社の古書倉庫になるはずですよ……」
編集長に聞いたところによると「ねぇねぇ新人君、ここだけの話(社内中に知れ渡っているどころかもう、メタの領域である)吉田さんは、訳ありでここにとばされてきたんだよね〜なんつって、あっはっは……」編集長、それまでは一人だったのか?
何も洒落になってない。この状況、ウソだろマジで……。
初日なのに、吉田さんがラブホに行こうと誘ってきた。美人であったし断る理由もないので、俺は同伴した。しかし…………
あれ……? たた、ナイのキミ、若いのに。
俺の方が年上なのに、会社では敬語だったのに。
俺はベッドの縁に頭を抱えて座っていた。彼女は俺の「ふにゃふにゃのふにゃ(吉田命名)」をしばらくふにゃふにゃと弄っていた。
その後も色々なテクを使って試したが、俺のそれ(ふにゃふにゃのふにゃ、自分でいっちまったよもうどうにでもなれだ)は不能であった。
もうやめてくれ。あぁぁぁぁぁぁぁぁ! もうシラネェェェェェ!!
次の日、編集部の新歓PT(リアルにFFっぽい三人だけというね)、俺は、酔った勢いで「立たなくてわるいかっー!」っと公衆の面前で叫んでいたらしい。くそ。編集長にもばれたので、以来酒は断っている。BARにも行きたくないし、行ったところでイケはしない。
俺のあだ名は「ふにゃ」に決定した。
そんな俺の最初のお仕事、初めてなのに担当を持つこと。何でぇ? と思っていたが、それなりの理由があったってわけだ。
……
作者です。こんなのどうよ。
『設定:実は新歓PTのとき、情報収集と取材を兼ねて、街を散策してた太郎ちゃんが偶然にも聞いていた』
……
うぇ!? 「山村太郎」ってあの賞、自分で応募しといて授賞式を辞退したっていう狂人ですか? 何でこっちに? ていうか、何で俺が… …いーから、何も言わずに行ってきてくれ! 彼の様な男を埋もれさすには惜しいんだよ〜。いや、これは我が部署の存亡を掛けた戦いなんだ(いみわからん)! 実はな……編集長は、突然裕次郎風になった……このあいだ、変成器を使った彼からの電話があってな、山村太郎だが、ち○こが立たない編集者はいないかぁと聞かれたんだ! 一体どういう理由なのかは知らん。が、作家の書きやすい状況を作るのも編集者の仕事だ。一度会って、本人か確かめてこい! それから決める! これが決まればかなりの利益!
うぇ。利益……編集長目の色変わってるし。
でも、覆面でしょ? どういう人なんですか?
しらん。行けばわかるそうだ。
うさんくせー。
つーか、何で山村太郎はウチなんかを選んだのだろう?
他のいいところにも立たなそうなベテランは一杯いるというのに……みんなお盛んだなぁ………………はぁ。これで売れたら、特別手当もらってEDを治そう。
などと思いながら、待ち合わせ場所のカフェに到着。
うぃーん。
いらっしゃいませー。
白い服、白い服……
事前にもう一度連絡があり、山村さんは白い服を着てくる、このカフェで待ち合わせ、こちら側は編集者一人だけということに決められていた。勝手な……。
編集長が行けば良かったのに、いやぁ今度子供が生まれちゃうから、なんつってあっはっは……とか何とかで……負けたのか……俺は負けたのかメーテル? メーテル、俺は機械のからだが欲しい。そしてお前を抱いてやる。指さして宣言。
でも、新人の俺に任せるなんて、よっぽど取っつきにくいんだろうな。ジレンマだ。出せば売れるが、書かせるまでが難という。
白い服、だけじゃ、たくさんいすぎてわからねぇ。
さすが覆面、徹底してるな。というか、こっちももっと聞いておいてくれよなぁ……。
殆どがカップル組だった。
一人と言えば…………あれだ、とびきりでかいサンドイッチをほおばる美少女くらいだ。
しかも白いワンピースである。
まぁ白い服だけど、ぜってー違う。んなわけあるかい。やつは山村太郎……
あ。
ペンネームの可能性にも気づいたのであるが、同時にしばし、その可愛さと奇行に目を奪われてもいた。
可愛らしい顔には似つかわしくないLLサイズの紙コップと、細長いストローで、じるじるじるじるじ〜っておい、音がでかいぞ。なんなんだあいつは?
ちょんと目が合い、くいくい手招き、にっこり微笑み。
うそ? 冗談だろ?
ちなみに、こちらの情報は編集長のせいでだだ漏れであった。
……
「あの〜、あなたが山村さん? ですかね?」
「ずごごごごご〜」最後の最後まで吸い尽くしている。
「すぅ〜〜〜っげ、げっほげっほけほ、きゅふきゅふ」
咳き込んだ。
「だ大丈夫ですか?」
「だいじょうぶです〜」
涙目と無垢な笑顔。こいつ、ホントにあの山村太郎か?
俺も読んだ山村太郎の作品『ネコと彼女の主従の関係』はとても、女性が書いたとは思えないような文体、作風であったはずだ。しかし、眼前にいる山村太郎らしき人物である美少女は、顔の倍はあるサンドイッチをほおばっている、どこからどう見ても女であり、とすると山村太郎は、ペンネームだったのか……。
何らかの詐欺(しかも二度目)にでもあっている気分であった。
幸福な表情に頬をふくらませ、もしゃもしゃと食べる。
「もふ、うおううふふうおむふ?」
……
後に聞けば、あなたも食べますか〜?という問いかけだったらしい。
それは遠慮しておいた。
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