第16羽:エン逃走
「は・・・?」
(何を言ってるんだ・・・?)
エンは一瞬、何を言われたのか理解ができなかった。
「え・・・?」
それはティアも同じだった。
そんなの信じられるわけが無い。しかし、現にヒサメの動きは止まっている。
エン達が迷っていると、ヒサメは武器をそっと捨てた。
カランカラン
かわいた音をたてて、槍が石畳の上に落ちる。
「信じられないのも、無理はありませんね。」
ヒサメはエン達に静かに語りかける。敵意はあきらかに無い。
「僕はね、さっきも言ったようにある方の命令で――、
君達をお連れするように言われてるんですよ。」
ヒサメは静かに歩き出した。エン達は動かない。
「どこへ?」
エンは武器を構えたまま、ヒサメに聞いた。
「西の大陸『ドラディア』、です」
淡々と言うヒサメ。エン達は、眉を顰めた。
「『ドラディア』? あそこの組織は確か『西の竜』・・・。
? どうしたのエン?」
ティアは、顔面蒼白になっているエンを見て不思議そうに言った。
「まさかとは思うけどよ・・・。お前もしかして・・・、スパイだったのか?」
「そうです。」「えぇっ?!」
ヒサメの声と、ティアの声が被る。
「僕は『西の竜』の幹部です。ある方の命令により『南の鳥』を調査していたのですが・・・。」
ヒサメはそこで言葉を区切り、エン達を見る。
「別の命令がきたので、あなた達を迎えに来ました。」
「そういうことかよ・・・。」
エンは、はぁ、とため息をつく。
前々からおかしいとは、思っていたのだ。
ヒサメはエンの組織ではなんとなく浮いた存在だったし、言動もどことなくおかしかった。
それに、エンの組織の人の大半は『火属性』なのにヒサメだけ『水属性』だった。もっとも、レキは不明だったが。
(けど、問題はそこじゃねぇ・・・。)
「? エン・・・?」
ティアが再び、エンに声をかけた。何故かと言うと、
「エン大丈夫? 顔色が悪いよ?」
エンが、相変わらず顔面蒼白だったからだった。
「大丈夫。」
と、二人がそんなやり取りをしていると、ヒサメが声をかけてきた。
「じゃあ、行くということでいいんでしょうか?」
「まあ・・・、その・・・行くのはいいけどよ。」
「?」
ヒサメが不思議そうに首をかしげる。
(そう、問題はそこじゃない。問題は・・・移動手段。)
「・・・何で行くんだ?」
「? 船ですけど・・・・。って、あっ。」
「エン?!」
エンは、それを聞くや否や、全速力で走り出した。ティアを置いて。
「置いてかないでよーーーーっ!!」
ティアの叫びも虚しく空に響いたのであった――。 |