ヤラレ役の運命
あの部屋から戻ってきて視界を開くと、真っ暗な闇だった。
しかし、聴覚が闇の向こうで戦闘音を拾って、ここが現実だと理解できる。
ピシッ…
闇に光の亀裂ができてどんどんとヒビが広がっていく。
そして、闇が晴れる。
戦争
そう表現するべく景色が目に入る。
ルアーノの街はもはや戦争の後のように人間が住む家や店等は壊れ燃えて、所々にマーガや人の死体があり、教会に至っては跡形もなく瓦礫の山だ。
今、僕は山の頂上に立っている。
爆発音がして、その方角を見るとタクヤとサリーがいる。
彼等は戦っていた。
勿論、相手は先代魔王の僕“ヴィクトリア”だ。
今のところタクヤ側が劣勢で追い詰められている。
助けにいかないと…
その前にスキルを確認しよう。
【“絶望の使者”
身体能力を上げる。 さらに自動回復して、傷や体力、異常を治す。自動回復するとさらに身体能力が上がる。】
【“悪の遺産”
“邪神の遺産”とも呼ばれる物で、様々な武器や道具がある。 常時、異空間へ収納されているが所有者“ジョナ”はいつでもポイントを消費して利用できる。
毎日10,000pt追加される。】
【悪の遺産に追加されたもの】
《“天地征権”
1,000,000pt→10,000pt(次回より0pt)
神に世界を支配する権利を許された事を示す“存在”
天地征権は森羅万象であり理を支配する。》
《悪意工場
10pt
兵器(武器・乗り物)を作る事ができる。一度作った物は破壊されない限り悪の遺産に収納できる。》
《“生命受肉”
10pt
ヘドロより怪物、魔人を生み出す。ただし、対象への凶化又は魔人化はヘドロを対象に接触させなければならない。一度作った物は破壊されない限り悪の遺産に収納できる。》
《“大地を憎む者”
100pt
ヘドロより悪獣を生み出す。一度作った物は破壊されない限り悪の遺産に収納できる。》
【“追加補足”
悪獣とは神話などに出てくる魔物の事】
……………………うん。
僕は本当に人間を辞めたみたいだ。
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(ジョナがヘドロに飲み込まれた時に遡る。)
屑が黒いヘドロに飲み込まれて私はすぐに行動を起こした。
“止める為に殺す。”
何が起きているか分からないが、待ってやるほど私は優しくない。
手を球体になったヘドロへ向ける。
『引』
しかし、ヘドロはその場を動かなかった。
なっ!? 引き寄せられないだとっ!!??
あれは“私には触れる事が出来ない物”か!?
私のスキル『引斥』には条件がある。それは対象が“触れる事ができる物”しかスキルは対象にならない。
つまり、魔法やエネルギー等は『引斥』が効かない。
まぁ、いいなら“直接”攻撃すればいい。
私はヘドロへ近づいていくと、突然背後から
ブモーーーー…
疫病泥巨人、凶化した大量のスライスが人型になって襲いかかってきた。
「邪魔だ『斥』。」
私を掴もうとのばしてきた右手を吹き飛ばすが直ぐに再生…いや増殖すして元に戻る。
「ちっ!! 面倒な!!」
舌打ちをしながら再び『斥』で吹き飛ばす。
しかし疫病泥巨人は止まらない。
仕方ないな…。
私は疫病泥巨人へ手をのばして『引』を発動して引き寄せる。同時に『斥』も発動する。
すると疫病泥巨人は引き寄せられると“同時”に押し出される。
『引』と『斥』は同じ力で反発しあい、その間にいる疫病泥巨人は“押しつぶされる”
『拒絶する壁』
グシャという音と共に疫病泥巨人は液体となり活動不可能になった。
さてと…
黒い塊の方へ視線を向けると、黒い炎を宿した黒い鬼と刀を持つ鬼である二人の魔人が立っていた。
「短い仲だったが友達であるジョナが命を賭けたんだ、だったら俺も賭けるぜ。」
「タクヤがそうするなら私も手伝うわ。」
まず女の魔人が動いた。
距離を一瞬で詰めて、刀を振るう。
『斥』を使い女を吹き飛ばす。
しかし、私はすぐに彼女の影に隠れていた魔人を見る。
「見え見えだ『せ…「『黒花火』」』。」
男の魔人を吹き飛ばそうとスキルを発動する前に目の前で爆発がした。
爆発により私は“男の魔人を視界から見失った。”
『憤怒の炎』
黒い炎が私に襲いかかった。
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俺はヴィクトリアとジョナの戦いを一部始終見ていた。
それを見て、ヴィクトリアの能力について分かったのは3つ条件があるという事…
1、触れる事ができる物しか対象にならない。
2、対象を視界に入れなければならない。
3、引力と斥力は同時に発動できるが一つの力を連続で発動する事ができない。
3つの条件により、俺の『黒炎』は“対象にならない”
そこで、サリーが囮として行動し、俺はサリーの影に隠れて近づいた。
サリーは吹き飛ばされた時、ヴィクトリアが俺を見る。
すぐに『黒花火』…小さな爆発を起こし光を発生させるスキルで、猫騙しみたいな事をして射程圏内に入る。
『憤怒の炎』
射程圏内が小さく1mくらいしかないが、一度発動すれば離れても“どこにいろうが”炎は俺の許可なく消える事はない。
黒い炎が怒り狂ったように燃えてヴィクトリアを燃やす。
そして、ついに炎の中の人影が倒れる。
「やったか…?」
しまった!?
無意識に“この言葉が出る事は…”
ドス…
何かが刺さる音と共に背中と胸部に激痛がはしった。
後ろを見ると『憤怒の炎』で燃やされた筈のヴィクトリアが、背後から右手を俺の背中に突き刺して胸部から手が貫通していた。
「てめぇ…なんで…」
「よく見ろ。」
ヴィクトリアに言われて『憤怒の炎』を見て消す。
そこには“サリー”が倒れていた。
「『嘘の果実』…お前が見ていた“私”は幻だ。」
ヴィクトリアはそう言うと右腕を俺から引き抜いた。
俺は胸に穴が空いたダメージでその場に倒れてしまう。
まずい…
「止めだ。」
ヴィクトリアが足を挙げて“踏み潰そうとする。”
なんで、俺は“やられキャラ”なんだ?
走馬灯の中、そんな言葉が思い浮かんだ。
…メ…デス。
アナタ…マダ…
「ヤッホー! タクヤ元気かい?」
ドカッ!!!!!!!!
呑気な声と共にヴィクトリアが吹き飛ばされる。
吹き飛ばした人物は黒いコートをなびかせて立っていた。
ヴィクトリアを吹き飛ばしたやはり、一段と“中二病”が深刻になっている“ジョナ”だった。
何だその変な“杖”は?
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