嘘の罪
邪悪なる光を剣状に凝縮して暗黒玉より強力な『閃黒剣』を作った。
暗黒玉は彼女にとってただの鉄球が全力で飛んできた感覚だろう、閃黒剣ならば切れるかどうかは正直にいうと分からなかったけど、全力の邪悪なる光で彼女を斬る事が出来ると分かった。
だけど閃黒剣には欠点がある。
まず発動中は邪悪なる光による強化以外が使用出来ない。
つまり回復能力が使えない。
次にこの剣は取っ手みたいのが無い為、僕以外が触れると“手が無くなる”さらに僕から離れ過ぎると“直径50mぐらいのクレータができる爆発”が起きる。
ヤバいの作ったね…うん。
さてとDr.ルーナが仲間にならないのは残念だけど“殺すか”。
僕は閃黒剣をヴィクトリアに振り下ろした。
生暖かい液体が僕の顔にかかる。
剣の時は“負ける”と直感が言っていたのにこんなに簡単に倒して良かったのか…?
疑問に悩みながら僕はヴィクトリアの遺体を見る。しかし、そこには何もなかった。
「だよね〜」
ボス級の奴を簡単に倒しましたなんて妄想しかないもんね。
さてと、ヴィクトリアは何処に…いや、“此処”はどこだ?
周りを見ると一面が闇が支配していた。
「ヴィクトリア…私は怖いよ。」
「大丈夫です我が君よ。私が必ず守ります。」
突然背後からヴィクトリアと男の声がして、声がする方を見る
そこには黒い騎士が玉座に座り、騎士の足下にはヴィクトリアがまるで愛人のように騎士の足にしがみついていた。
「いや、違うんだ。私は…沢山の人を今まで殺めてきた。その罪のせいか毎晩見るんだ悪夢を…」
「我が君…」
「何故、人間は同じ生物なのに“争い”、“身分差別”をするんだ? 私達はただ“普通に人として生きていたい”だけなのに」
黒い騎士は恐らく“魔王”だろう、記録では彼はとある国の奴隷だった。
ある日、僕と同じようにガラス玉を拾い“魔王”になった… そして、“悪の書”で魔人を増やし『怪物工場』で魔物を従えて“戦争”を起こした。
しかし、光の精霊の助言と知恵を授かった“聖光教会”が異世界の“勇者”を召喚し、勇者は“五つの聖具”を使い魔王を倒した。
スキル以外の事が記録に残っている。
だが一つ疑問がある。
僕と同じ怪物工場ならば“凶化”が出来た筈だ。
何故、魔王は魔人と魔物だけで“凶化”を使わなかった?
視線を魔王へ戻す。
そこにはいつの間にか混沌を呼ぶを持つ魔王が白い鎧を着た騎士と戦っているところだった。
白い騎士はたぶん“勇者”だろう、コト村付近で出会った勇者ユウキが持っていた剣を持って戦っている。
『フェアリー・アローっ!!』
あっ、女勇者アイと同じ武器を使ってる。
勇者は槍を召喚しそれを撃つ。
『引斥っ!!』
その槍をヴィクトリアが使っていたスキル…『引斥』っていうのか?を使って槍を吹き飛ばす。
『〇◎%〆∴$っ!!』
ん?勇者の奴、何て言った?
ドスッ…
あれ?
何で僕の目の前に“魔王がいる”?
手元を見ると僕は剣で魔王の胸を突き刺している。
「ガフッ…」
魔王が崩れる。
その時に魔王が装備している兜が取れて落ちる。兜はカンっと金属の音を鳴らして転がる。
兜がない為、魔王の素顔が目に入る。
魔王は“普通の少年”だった。
瞳は悲しみに満ちて溢れた悲しみが涙となって流れていた。
―‥“私、僕はただ普通に生きたかったのに”
魔王が僕の胸に顔を沈め息を引き取った。
「お前が…殺した。」
背後から聞き覚えがある声がした。
振り返るとそこには“死んだ筈のコト村の村長”がいた。
村長は血まみれで僕を怨めしそうに睨んでいる。
「お前が殺した。」
また声がして振り向く。
そこには“僕を殺した兵士”がいた。
「お前が…」「殺した」「殺した」「お前のせいだ」「人殺し」……
どんどんと“死んだ筈の人”が現れる。
「止めて…くれ……」
思わず僕は“呟いた”。
そして僕は急に溢れてきた“感情”を隠そうと手で顔を覆い、顔を伏せる。
「お前が死ねば…」「何故、お前が生きている」「死ね」「詫びろ」「俺の命を返せ」「憎い」「お前のせいだ…」
次々と僕への言葉が出てくる。
僕は必死に“その感情”を出さないように耐える。
ふと前を見ると僕の目の前にマオ…マオ・リュンクスがいた。
マオは僕に笑顔を見せていた。
「全部、貴方の間違いのせいよ。」
マオは淡々と言った。
「…僕は、間違って……」
僕は振り絞って言う。
「貴方は責任を取らないといけないわ。」
マオの手にはナイフが握られている。
「さようなら。」
ナイフが迫ってきて……
血飛沫が舞った。
あはっ、もう駄目だ。
「えっ…?」
マオは自分の胸に刺さった閃黒剣を見る。
「――…何で…?」
「あはっ、あははははははは、ひゃはははははははハハハハハハっ!!」
何故、刺されたのかを理解してないマオの言葉に僕は我慢していた“感情”を現す。
そして、笑顔で口を開く。
「君は“ジョナ”の本質を理解していない。
僕は自分で言うのは変だけど“異常者”だ。
だから、僕には“罪悪感”を使った攻撃は効かない。」
僕はマオ…いや幻術で変身しているヴィクトリアから閃黒剣を引き抜いた。
何のスキルかは知らないけど幻術は解けて、世界が元のルアーノの聖光教会支部へ戻る。
「私の…絶対催眠術『嘘の果実』が効かない?」
ヴィクトリアは驚いた顔で言う。
あれ?胸に風穴を開けたのにもう塞がってる。
「お前は人の命を何だと思っている!」
ヴィクトリアは怒りに染まった顔で僕へ言葉をかける。
「弱肉強食、力が無い者がある者の歯車の一つになる世界だ? そんな世界に誰がした? 僕?いや違うぞヴィクトリア。
この世界は過去のくだらない“行動”によってできた“結果”だ。
その結果は常にあり続けて伝説や記録などに残り、その“行動”が正しいと子供が読んで理解する。
お前達は“自分の自由”の為に戦った。
じゃあ、お前達に殺された人は全てが悪だったのか?
いや、中にはお前達が作った魔物から家族を守る為に戦った人もいた筈だ。
分かるか?この世界では“自分”の為にやった事が正しいとお前達は僕に教えてくれたのだ。
―だから僕は間違っていない、間違っていたのは君だったんだよヴィクトリア。」
そう言って僕は“悪の書”を作成する。
「さぁ、先代がしなかった事をやろうか。」
僕は笑顔で言った。