卒業論文発表会
2月15日 神戸海軍士官学校
この日、福本・マリーダは母校に来ていた。
目的は勿論、人材探しの為である。
この時期、神戸海軍士官学校では卒業論文の発表が行われる。
神戸士官学校の場合、士官人数の確保が主眼だがそれゆえと言うべきか実力主義的なところがあった。
この卒業論文もその為だ。論文は表現力や文章力がいるから報告書の作成に役に立つ。
しかも論文内容が良ければ希望配属先に学校推薦資料として送られ判断材料にもなるからだ。
福本
「お久しぶりです。教官。」
教官
「おぉ、福本とマリーダか! いや、福本少将とマリーダ大佐かな?」
福本
「やめてください、教官。今まで通りで結構です。」
教官
「まったく、お前達は変わらんな。」
会場である講堂に向かう3人。
世間話をしながら廊下を歩いていると、ふと、何かを思い出したのか教官が話題を変えた。
教官
「そう言えば、最近の若手士官候補生の話題を知ってるか?」
福本
「いいえ。何ですか?」
教官
「そうか、知らんのか。お前達の事だぞ。」
マリーダ
「私達の事ですか!」
教官
「あぁ。大体、今までに20やそこらで少将になった人間が海軍史上あり得ないんだからな。」
福本
「確かに。」
教官
「だから、今やお前達は同世代の士官候補生の間じゃ憧れであり目標なんだと。」
福本
「それは…なんか恥ずかしいですね。」
会場である講堂は反響しやすいように扇状になっており、長椅子・長机の階段状になっている。
その右端上部の席にマリーダと2人(自分達が来る事は生徒達には内緒)で静聴していたのだが……
福本
「マリーダ、そっちは?」
マリーダ
「全然。そっちの方は?」
福本
「こっちも同じ。」
優秀な人間はいるにはいるのだが、前に聴いた事のある内容が多かった。
つまり斬新性がない。
教官
「よう、どうだ?」
福本
「優秀な人間はいますが斬新な意見がありません。」
教官
「手厳しいな。さすが士官制度の改正や年功序列の撤廃を主張した人間だな。」
福本
「…やめてください。」
教官
「すまんすまん。おっと、次は午前の部最後の発表だ。ちゃんと聴いといてあげろよ。」
福本
「?はい…?」
そう言うと教官はそそくさと自分の席に戻っていった。
マリーダ
「…なんか自信ありげだったよーな気が…」
福本
「含みがありそうな言葉だったよな…。」
そして、次の子が出て来た。
福本
「ほー、女の子か。」
マリーダ
「あの子が教官の自信の源?」
福本
「さー。」
教官
「よう、どうだった?」
発表終了後、教官が2人に話し掛けて来た。
福本
「教官が自信をありげだった訳が判りました。」
マリーダ
「わざと彼女を最後にしたんですね。」
教官
「ばれたか。で、感想は?どうだった。」
福本
「具体的な数値やデータを提示し、対策や意見をまとめて主張しています。彼女さえ良ければ、第七艦隊に入れても構わないと思います。」
教官
「そうか。入れても構わないか。」
マリーダ
「あのー、あの子は教官の何なんですか?」
教官
「2人共、昼食はまだだよな?」
教官
「あの子は、俺の同期生の娘だ。」
マリーダ
「教官の…」
教官
「同期生といっても親友であり、ライバルでもあった。だが…」
福本
「だが?」
教官
「第一次大戦の時に、そいつは地中海に行った。勿論無事に帰って来た。しかし、そいつの嫁さんの兄さんが死んだんだよ。」
福本・マリーダ
「………………」
教官
「んで、退役して嫁さん連れて実家に引っ込んじまったんだよ。今は実家を継いで神主やってんだと。」
福本
「あのー。」
教官
「あぁ、すまんすまん。脇にそれちまった。で、そいつとたまたま3年前に会ってな、娘が海軍に入りたいって言ったんだと。」
マリーダ
「その娘さんが…」
教官
「そう言うことだ。」
食堂では生徒達がワイワイと食事中である。発表の終わった生徒はホッとしたのかパクパク食べてるし、終わってない生徒は緊張で食事が喉を通らないらしく、箸が動いていない。それより論文を見ている事が多い。
その中で丸テーブルにぽつんと座り、黙々と食べている女の子が1人。
教官
「神童神子候補生。」
教官が声をかけるとシュッタと椅子から立ち上がり敬礼する。
教官も返礼する。
教官
「発表、良かったよ。」
神童
「ありがとうございます。しかし、良かったのでしょうか、通商路の事なんて発表して…。」
福本
「いや、そんな事はないよ。通商路の事を考えるのは島国としては当たり前だ。対米戦を考えるあまり海軍は戦闘方法を考え、通商路確保の方法を考えていなかった。これでは戦闘に勝てても、戦争には負けてしまう。だから少しもおかしくはないよ。」
神童
「教官、この方達は?」
教官
「君の先輩。君達が憧れ、また目標とする福本少将とマリーダ大佐だよ。」
これを聞いていた他の生徒達の反応は色々だった。
慌て立ち上がり敬礼する生徒、本人か確認する生徒、驚きのあまり喉を詰まらせる生徒。
しかし、彼女は驚きはしたものの先程と同じように背筋を伸ばし敬礼する。
そして2人も返礼で応えた。
福本
「先程、君の発表を聞かせてもらったよ。『通商攻防論』だね。具体的な数値を出している。いい論文だ。」
神童
「ありがとうございます。」
福本
「自分もそれなり通商路の確保は主張している。と言っても護衛艦隊の設立と護衛艦の量産、対潜哨戒機の開発、レーダーなどの哨戒機器の開発を提案はしているが、君のはもっと突っ込んでいるね。」
神童
「はい、暗号を解読し潜水艦を待ち伏せる、対潜兵器の開発、沈下ソナーを沖合に設置する、などです。」
福本
「この論文を山本長官に見せたらどんな顔をするか、興味が沸くよ。」
神童
「山本長官に…ですか?」
マリーダ
「えぇ。山本長官は優れた意見はどんなに下の人間でも耳を貸す御方よ。」
福本
「ところで神童候補生。君の希望部署はどこかね?」
神童
「私は駆逐艦勤務希望です。」
マリーダ
「あら、意外。こんな論文を書くなら、護衛艦隊か潜水艦希望と思ってたのに。」
福本
「まあ、良いじゃないか。」
教官
「おっと。福本、そろそろ午後の発表だ。」
福本
「あ、本当ですね。じゃあ最後に1つ、神童さんは実家では巫女さんをしていらっしゃいますよね?」
神童
「は、はい。」
福本
「じゃあ、艦魂を見たことは有りますか?」
神童
「はい。見たことが有ります。」
福本
「そうですか。判りました。お答えいただいてありがとうございました。」
神童
「それでは、また今度。」
マリーダ
「えぇ。」
次号へ
作者「次号は空母の艦魂を出す予定です。ご意見ご感想をお待ちしております。」
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