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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第四章 ニザ公国編

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第八十八話  ニザ公国の実情

ニザ公国。ヒーデータ帝国の北西に位置し、代々ドワーフ族が治める地である。森と山に囲まれた地であるものの、山から産出される鉱石を用いて作られる武器や防具は一級品であり、その取引から生まれる財が国を維持している。

ニザ公国の山々から産出される鉱石は多様だ。何といっても、豊富なミスリル鉱石を産出する山を所有しており、その他にも、金山、銀山、銅山を所有している。そのためにこの国では、世界唯一のオリハルコンを製造する技術を持っている。

つまり、この国が存亡の危機に立たされているということは、最高の武器や防具の供給源が枯渇すること意味し、世界に与える衝撃と影響は多大なものになる。これまで数百年にわたりこの国と同盟関係にあったヒーデータ帝国としては、看過できない出来事なのだ。

俺はこの国に出発する前に、かなり入念な準備を行った。というのも、公国内が飢餓状態にあるからだ。俺は、クルムファル領で収穫された大半の食料を集め、それを一旦帝国に買い取ってもらった。そして、その食料を支援物資として届けることにした。農地の荒廃を復旧したところで、すぐに作物が採れるわけではない。最低でも一年間は食いつなげる食料が必要になるからだ。

そして、それらを無限収納に入れ、出発した。当初は俺とゴン、フェリス、イリモで行こうと思ったのだが、メイとルアラがどうしても行きたいと言い出した。

メイの場合は父親がドワーフで、その出身地がニザであり、一度父親の故郷を見たいと思っていたことと、ドワーフの技術を学びに行きたいという思いからだった。メイについては、俺がニザに着き、転移結界を張った段階で連れてくることにした。そして、ルアラについては同行を許可した。もし、大量のシカと戦闘になった時に、俺とフェリスだけでは手に余りそうで、もう一人攻撃が可能な人材が必要だと判断したのだ。ルアラは森で魔物を狩らせてレベルを上げつつ、ニザに向かうことにした。

まず、俺たちは屋敷の西側にある森に入り、そのまま北西に進むことでニザを目指すことにした。その間には大きな谷があり、普通の人間には渡ることは不可能であるが、俺たちにはイリモがいる。彼女の翼で飛べば問題ないだろう。

実際、谷までの行程は全く問題がなかった。普段からジェネハ率いるハーピーたちが森の魔物を駆逐しており、全く拍子抜けするほど楽しいピクニックだったのだ。

大谷に着くと、俺とゴンはイリモに乗り、ルアラはフェリスに抱えられて大空に飛び上がった。そのまま谷を越える。途中、大きな鶏のような鳥が群れで俺たちを攻撃してきたが、全羽撃退し、無限収納の中に納まっている。スケアリーバードというらしく、連携攻撃で獲物を狩るそうだが、ハーピーたちと比べると雲泥の差であり、全く俺たちの敵ではなかった。

谷を越えると、様相が一変した。リークフェザーという植物があちこちに自生していたのだ。こいつは白い小さな花を咲かせているが、その茎と葉には極小の針が生えており、それに触れると麻痺してしまう。別名、「森のトラップ」とも呼ばれる冒険者泣かせの植物らしい。

基本的に俺には麻痺耐性があり、他もその植物で麻痺することは考えにくいが、一応結界を張って進む。しばらくすると、うれしいことにカースシャロレーの群れがいた。大喜びで全て狩りつくしたのは言うまでもない。

そして出発して三日、ようやく森を抜けた。そこには、広大に広がる耕作地があった。

「うわーこれはひどいでありますなー」

「本当ですね。まさかこれほどとは・・・」

「ううっ、ヒドイ」

目の前には、大量のシカが農作物を食い荒らしている光景があった。数百頭のシカが、辺り一面の農作物を片っ端から食べているのだ。

「ああっ!それはダメだ!」

「やめてぇぇぇぇ!!!」

絶叫が聞こえた方に目を向けると、高い壁で囲われた畑にシカが侵入し、畑に芽を出した作物の苗を食べている。その柵の周りで、ドワーフ一家が絶叫している。男と女は身体が小さく、中学生に見える。そしてその二人の娘だろうか、さらに小さい女の子が柵の周りを走り回りながら絶叫している。

「食べちゃダメ!食べちゃダメぇ!」

「もう許さん!」

父親と思わしき中学生が斧を片手に柵の中に入ろうとする。するとどこからか、大人びたドワーフが現れ、斧を持ったドワーフを羽交い絞めにする。

「やめんか!神の使いだぞ!」

「何が神だ!俺たちの作物を食い荒らしてるだろうが!!」

「この国ではシカを殺すと死罪だ!やめんか!」

「構わん!せっかく芽を出した作物まで食い荒らされたら俺たちは死ぬしかないんだ!飢え死ぬんだったら、殺された方がマシだ!」

羽交い絞めにした男を振り切って、中学生ドワーフは柵の中に入り、シカの背中に向けて斧を振り下ろした。いきなり背中を傷つけられたシカは驚いて飛びのき、中学生ドワーフをじっと見つめる。

しばらくするとシカは驚くべき跳躍力で柵の外に飛び出した。そして再びドワーフたちを凝視して、どこへとなく消えていった。

「ガミヒ、何ということを!」

「構わん!こうでもしなきゃ、奴らまた襲ってきやがる!」

「ガミヒ・・・」

中学生ドワーフは泣いていた。俺は無限収納から救援物資用に作った弁当と、クルムファルの収穫物の一部を取り出し、泣いている一家の所へ向かう。

「よかったら、食べてください」

「!!!あんたは!?・・・冒険者か?そんな施しを受けては・・・」

「いいんです。こちらこそ、余りもので恐縮です。ところでここは、ニザ公国で間違いないですか?」

「・・・ああ、そうだ。ニザ公国だ。しかし不運だったな。今この国では食料はない。だから宿に泊まっても食事は出ないそ」

「噂では聞いていました。俺たちは大丈夫です。食料はありますから。すみません、王宮に行きたいのですが、どの方角に行ったらいいでしょうか?」

「ああ、それなら、この道を真っすぐに行けばすぐに大きな町が見えてくる。そうすれば王宮はすぐにわかる」

「ありがとうございます。それでしたら、道を教えていただいたお礼に、よかったら、この食料をお受け取りいただけませんか?」

「・・・いいのか?」

「ええ、もちろんです」

「・・・すまん。感謝する」

ガミヒと呼ばれたドワーフは、俺たちからの食料を受け取り、礼を言うとすぐに家の中に入ってしまった。

「ほんとうにありがとうございます。何とお礼を言っていいやら」

「気にしないでください」

「お兄ちゃん、冒険者なの?じゃああのシカたちを追っ払ってよ」

「ジャニ、滅多なことは言うもんじゃありません!」

「そんなにシカの被害は深刻なんですか?」

聞けば、シカが大量発生したのは二年前からなのだそうだ。それ以降、里に現れては農作物を食い荒らしていく。ニザ公国は小さい国だ。しかも山国なので国民が時給自作の生活ができる最低限の食料しか生産することが出来ない。そこに来てのシカの被害なのだ。国のダメージは計り知れないものがあった。

最初の一年は備蓄していた食料を放出して、何とか凌ぎ切ったが、二年目も同じ状況ともなると、打つ手が全くない。他国から食糧支援を受けているとはいえ、国民全員を食わせるほどの食料は集められない。それでも何とかこの冬は少ないながらも食料の配給があったが、ここ二週間はそれも止まった状態なのだという。ドワーフ王がヒーデータに緊急支援を求めたのは、こうした背景があったのだ。

この親子には、約一週間分の食料をさらに手渡し、俺たちは王宮へ向かう。途中何度も大量のシカたちが農作物を食い荒らしている場面に遭遇する。

「一体どれだけのシカがいるんだろうな」

「わからないでありますなー。人間たちが襲われていないのがせめてもの救いではありますなー」

「しかし、農作物が全て食い尽くされると・・・」

「人間を襲うことも考えられるでありますなー」

「そうなる前に止めないとな」

ほどなく俺たちは町に入り、王宮に着いた。町では、あちこちから煙が上がっている。おそらく、ドワーフたちの工房なのだろう。店も武器、防具などいろいろな看板を掲げた店があるが、その大半が閉店状態だ。

王宮に着き、俺の名前を告げると、警備の兵士は飛び上がって喜び、城内の兵士の大半が俺を出迎えてくれた。そして、広い部屋に通される。どうやら王族が使っていた部屋とのことで、調度品など実に豪華だ。ゆっくりする間もなく、宰相のユーリーが入室してくる。

「早々のご到着、感謝します。侯爵のお着きを心待ちにしておりました。王は明日の早朝に侯爵にお会いになるとのことです。本日はごゆっくりお寛ぎください」

「あの・・・ヒーデータより救援物資として食料を持ってきたのですが」

「何と!それはありがたい!早速受け取らせていただきたい」

「ええと、ここでは狭いですね」

「わかりました。それではこちらへどうぞ」

とても広い地下室に案内される。薄暗くて、不気味な部屋だ。

「ここは食糧を備蓄していた部屋です。ご覧のとおり、わが国には食料と呼べるものがありません。食料を支援していただくのは、何よりもありがたいのです」

俺は無限収納の中から、大量の食料を取り出していく。最初は目を丸くしていた宰相だが、やがてその顔は満面の笑みに変わった。

「こ・・・これだけの食料があれば、数か月は食いつなげる。バーサーム侯爵、本当に、本当に感謝する」

宰相は俺の手をがっちり握る。そして兵士たちを呼び、大量の食料を整理していくよう命じる。

「今宵は、我がニザ公国で取れた食料でもてなします故、存分にご堪能ください」

夜になり、俺たちの部屋に料理が運ばれてくる。山国だけあって野菜料理が中心だ。俺たちは取りあえず、出された料理を口に運ぶ。

「・・・微妙だな」

「何でありますかこの味はー」

「マズイですね」

「美味しくない・・・」

一口食べれば十分、という味だ。何というか、野菜の苦みやえぐみが取れていないのだ。下処理が全くされていないのかもしれない。

早速俺たちは転移結界を張り、ヒーデータの屋敷に帰った。部屋にはフェリスを置いてきた。人が来た時に俺に知らせることが出来る念話のスキルを持っているのがフェリスだけだったのだ。

俺たちはリコとペーリスが作る料理に感心しつつ、夕食を楽しんだ。そしてお留守番のフェリスには特製のお弁当を用意してもらい、そしてイリモにも、クルムファルで取れた人参を大量に持ってニザ王宮の部屋に帰った。

リコにはしばらくは王宮に止まるかもしれないと伝えておいた。全く普段通りのリコの態度で了承してくれたが、心中は穏やかではあるまい。早くコトを片付けて、リコの傍にいてやりたいものだ。

外の馬小屋にいるイリモにニンジンを持っていく。

「助かりましたー。ここの食事は美味しくなくて困っていました」

もしかしたら、ドワーフの味覚は、俺たちとかなり異なるものなのかもしれない。

俺たちに与えられた部屋は、応接室のほかに、ベッドルームが三つもあり、それぞれに二つずつ高級そうなベッドがある。どうやら一つは王族用で、後は警護や侍女の控室のようなものらしい。俺は一番広いベッドルームを与えられ、フェリスとルノアはそれぞれの部屋で寝るようだ。応接室のソファーにはゴンが居座っている。

隣を見ると誰も居ないベッドが見える。夜、寝る時くらいは、リコかメイを連れてきてもいいなと思いつつ、俺は眠りに入るのであった。
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