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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第三章 クルムファル編

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第八十六話  新たなる始まり

俺は今、皇帝陛下を睨んでいる。不敬だ?んなもん、知ったこっちゃねぇよ。

突然陛下から呼び出された。ご丁寧に、俺とリコ宛に帝国王室からの招待状までつけて。何事やあらんと、夫婦揃って正装をして宮城に赴いた。案内された部屋は、いわゆる「対面の間」で、各国の代表を謁見する場所だった。

リコと二人、顔を見合わせながら待っていると、陛下が現れ玉座に腰を下ろす。そしてその横に宰相閣下とヴァイラス殿下、そして、かなりくたびれた様子のひげ面の小男が別の扉から現れた。

「バーサーム公に置かれては、ご機嫌いかがかな?」

宰相閣下の応対が妙によそよそしい。一体どうしたんだ?

「姉上に置かれては、ますますご機嫌麗しく、なによりです」

「え、ええ、貴方もご壮健でなによりです」

俺が完全にフリーズしているのを見て、ヴァイラス殿下がリコに話を振ってくれた。さすがはリコである。ソツのない答えをとっさに返している。

「義弟どの」

突然、陛下が口を開く。「義弟どの」なんて初めて聞いた。

「義弟どのを呼んだのは他でもない。内密に頼まれてほしいことができたのだ」

「内密に頼みたいこと、でしょうか?」

「うむ。詳しくはそこにおられる、ユーリー殿から聞かれるがよい」

「はじめてお目にかかります、ニザ公国で宰相を務めます、ユーリーと申します」

「バーサーム・ダーケ・リノスです」

「実は侯爵様に内密のお願いがございます。我らニザ公国をお救いいただけませんでしょうか?」

「ニザ公国がどうかされたのですか?」

「実は・・・」

ニザ公国は、ドワーフ族が治める国である。ドワーフと言えば何といっても優秀な鍛冶師の国であり、その技術を駆使して多くの刀や鎧などを作り出しすことで国を発展させてきた。しかしここ数年、農作地が荒廃したため収穫高が激減しており、国家存亡の危機にあるのだと言う。

「何か天変地異があったのですか?」

「いえ、そうではありません。害獣です」

「害獣?」

「その・・・鹿が大量に発生しまして、農作物を食べてしまうのです」

「鹿?そんなの、狩ればいいじゃないですか」

「実は、我々ドワーフにとって鹿は神の使いとされております。従って、ニザ公国内においては、鹿を殺すことは厳罰に処されます」

「で、俺に何をしろと?」

「できますれば、我が国の農作地を復活できますよう、お知恵を借りたいと・・・」

「鹿を間引く以外ないと思いますが・・・」

「でしたら、それをお願いしたく・・・」

要は、自分たちが鹿を間引くと罪に問われる。だから他人にそれをやってもらいましょう、他の国の人間がやれば、「いやー知らない間に鹿の数、減っちゃってたよ、エヘッ」って感じになるってか?アホか、バカも休み休み言え。

「それならば別に俺じゃなくてもいいんじゃないですか?他に人はいるでしょう」

俺は皇帝陛下を睨みつける。わざわざ俺とリコに招待状まで送っておいてこの仕打ちは一体どういうことだ?そんな気配を察してか、宰相閣下が口を開く。

「そこをあえて貴殿に頼むのだ。もう一つ、貴殿に頼みたいことがある」

「何でしょうか?」

「どうやらニザ公国の鹿の大量発生は、人為的になされた可能性があるのだ」

「人為的、ですか?」

「これまでニザ公国においてこのような被害が出たということは聞いたことがない。にもかかわらず、今年になって突然田畑の作物を食い荒らしている。なにやらニザ公国内がおかしい。そこで、貴殿には秘密裏にニザ公国内の様子を探ってほしいのだ」

「はあ・・・」

「義弟どの、ニザ公国とヒーデータ帝国は長い同盟関係にある盟友なのだ。済まぬが、力を貸してやってくれまいか?」

「陛下がそうおっしゃるのであれば・・・」

「うむ。それでは、ニザ公国には、バーサーム侯爵を遣わすこととする。ユーリ殿、よいかな?」

「ハハッ、感謝申し上げます」

ユーリ宰相は退出していく。そして俺たちは陛下に付いてくるように言われる。付いていった先は、陛下の私室だった。そこには、以前陛下がクルムファルホテルに逗留された際に傍に居た女性が居た。彼女は俺たちの姿を見ると、退出しようとする。

「タウンゼット、よい。ここにおれ」

「しかし・・・陛下・・・」

「構わぬ。ここにいるのは皆、身内みたいなものじゃ」

タウンゼットと呼ばれた女性は、申し訳なさそうに元居た椅子に腰を掛ける。

「皆の者、タウンゼットが同席することを許せ。何しろ身籠っておるのでな」

「ええっ!?それは・・・おめでとうございます!」

宰相閣下も知らなかったようだ。とんだサプライズだ。さすがに宰相閣下は何かを察したらしく、したり顔で頷いている。

「なるほど、だからタウンゼット様が陛下のお部屋に・・・」

「うむ。後宮の女どもは嫉妬深いからの。タウンゼットの身にもしものことがあってはならぬ故、余の部屋に住まわしておる。後宮の女たちの間では、余がタウンゼットを昼となく夜となく傍に置いていると噂のようじゃ。ハハハハハ」

「と、いうことは、俺に結界を・・・」

「察しが良いの。済まぬが、頼みたい」

俺はタウンゼット様に結界を張る。サービスして、かなり強力な結界を張っておく。

「さて皆の者、そして義弟どの。本日呼び出したのは他でもない。あのニザ公国のことじゃ」

「陛下、別に俺が行く必要はないかと思いますが・・・」

「兄上、なぜリノスなのですの?その理由をお聞かせくださいませ」

「実はあの国に、魔族が入り込んでおるらしいのだ。そして、そやつらがどうやら国を混乱に陥れようとしているらしい。ドワーフ王から内々の密書が届いた。ニザ公国と我がヒーデータ帝国は、商業上の取引はもちろん、地理的にも我が喉元にあると言って過言でない。むろん、盾として扱う気は毛頭ないが、ドワーフ王にはいろいろと便宜を図ってもらっておるからの。余の個人的な感情ではあるが、助けてやりたいのだ」

なるほど、戦略上重要な国でもあり、そこが瓦解するといろいろと困るのか。

「リノス殿には、余からの公使としてニザ公国に行ってもらう。表向きは国内の農業改革の手伝いじゃ。なにしろ、クルムファルを復興させた実績があるからの。大歓迎で迎えられるであろうな。しかし、その一方で国内を混乱させている魔族を駆逐してほしい。放っておいては後々、我が帝国にも触手を伸ばすやもしれん。済まぬが、やってくれまいか」

「イヤ・・・とは言えないですよね?」

「リノス殿は余の義弟であり、ヒーデータ帝国皇帝の身内じゃ。粗略には扱われまい。そして、公国まで長い森を抜けることになるが、その際に鹿の状況も見てもらいたいのじゃ。その二つをやり遂げられるものは、リノス殿を置いて他にない」

「・・・わかりました」

「頼む」

陛下に懇願されて、渋々承諾させられてしまった。

早速屋敷に帰り、皆に報告をする。

「う~ん、鹿が急に大量発生するのは、考えられないですね」

メイが首をかしげている。

「ご主人1人で行かれるのでありますか?」

「イヤ、ゴンと・・・フェリスは付いて来てくれ。他は屋敷で待機してくれ。準備が整い次第、出発する」

その夜、俺が寝ようとすると、リコがベッドに入ってくる。今日はいつになく積極的で、リコから求めてくるのは珍しい。

「どうしたんだ、リコ?」

「・・・旅に出るのでしょう?私は連れて行っていただけないのですね?」

「クルムファルのことがあるだろう?」

「そうですけど・・・。一人で寝るのは、イヤですわ」

「大丈夫。夜は転移結界で屋敷に帰ってくる。心配いらないよ」

「毎晩、一緒に寝てくれますの?」

「もちろんだよ。毎晩、リコを抱きしめるよ」

「必ず、必ず、帰ってきてくださいませね」

俺はリコを抱きしめ、背中からお尻の方をゆっくり撫でてやる。その指の動きに敏感に反応したリコは、俺にしがみついたままピクピクと体を震わせて息を荒くするのだった。

ゆっくりと、夜が更けていった。
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