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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第三章 クルムファル編

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第七十五話  いつの間にか、18歳になってた

気が付けば、18歳になっていた。気が付いたのは冬で、しかも年も押し迫ったころだった。

とにかく、この秋から冬にかけて俺たちは多忙を極めた。

まず俺であるが、クルムファル領の領国経営にはほとんどタッチせず、どちらかというと結界魔石の製作に没頭していた。なぜかというと、この魔石が爆発的にヒットしたのだ。店の方は冒険者を中心に数十名単位の来客で、それは十分にルアラの店番で事が足りた。一番問題であったのは、帝国軍や皇族、商人などから大量の注文を受けたことだ。下手をすれば万単位の注文が来る。それを対処するべく時間の大半を費やした。石運びにはジェネハたちハーピーにも大いに協力してもらい、本当に感謝である。まあ、驚くほど儲かったので、良しとする。

とはいえ、儲かった金の大半は、クルムファル領への投資で消えていったのだが。

問題のクルムファル領についてだが、農業の方はメイを筆頭に、ゴンとペーリスが担当してくれている。当初はどうなるかと思っていたが、蒔いた種からはきちんと芽が出ているし、生育状況も悪くないとのこと。水田も多くあり、問題はそこからきちんと米がとれるかどうかであり、それは経過観察中である。

漁業の方は逆に絶好調である。カイリークの町の近くに港を整備したため、そこに市が出来、かなりの賑わいが出てきている。エサラハルの料理も好評であり、わざわざそれだけを食べに帝都からやってくる人も見られるようになった。塩田も復活し、こちらの方も順調である。

比較的漁業は税収が大きくアップしたため、農業の赤字を何とか補てんすることが出来た。

嬉しかったことと言えば、この魚料理や取引を目当てに来た客が、クルムファルのことを口コミで広めてくれたことで、少しずつであるが人口が増えてきている。農業を希望する者もおり、俺は休日はクルムファルに行き、土魔法で荒れた土地を農地用の土に変え、そこにメイの肥料を散布するという作業をしていた。

もう一つ嬉しかったことは、塩を生成する際に「ニガリ」が取れることである。これまでは薬屋を通じて買っていたが、今後はそれがなくなった。豆腐も作り放題である。

ホテルの準備は、かなり念入りにしているので、俺としては絶対の自信を持っている。何しろ、そこで働くのはクエナを筆頭とした、帝国王室でリコに仕えていた者たちなのである。当然彼ら彼女らは洗練された動きはもちろん、ベッドメーキングや掃除、気づかいや心配りまで超一流である。そこいらの一流ホテルをはるかに凌駕するサービスの達人たちなのだ。この人たちから一度サービスを受ければ、他のホテルには泊まれないだろう。

当然このホテルにも、水洗式のトイレと便座ウォーム、そして風呂にはこだわった。それらは俺の土魔法で錬成された物を使っており、ちょっとシックな出来栄えになっている。

一番苦労した下水の処理であるが、これも何とか土魔法を駆使して土中に穴を掘り、それを固く錬成して一か所にまとめるようにすることが出来た。土の中を掘っていくのは難航を極め、一度魔力不足でぶっ倒れたが、メイのひざまくらの甲斐あって、どうにか完成させることが出来た。そこには、ファルコ師匠の「魔法はイメージ」という教えが大きなヒントになった。要はきちんとイメージが出来れば魔法は発動することを改めて認識させられたのだ。俺は本当にいい師匠を持ったし、今は心からその師匠に感謝している。

集めた下水は目下、ゴンの手によって農作物用の肥料に変えられている。基本となる下水ラインが出来たので、今後新しく立つ建物は全て水洗式にする予定だ。領内から汲み取り式のトイレをなくすことも、心ひそかに決めた俺の目標になっている。

ホテルの料理のメニューはもっぱらペーリスプロデュースの料理だ。リコの侍女の中で料理に興味のある者や、帝都で募集した者の中から十数名を選んで、ペーリスに料理のレシピを教えさせた。料理の味に関しては絶対の自信を持っている。将来的にはクルムファル領で採れた野菜と魚、そして肉を使った料理を提供するのが目標だ。

ホテル自体は職人を入れて細かい外壁の修理や中身のリフォームを実施した。領主の館ということで、政庁も兼ねていたためかなり部屋数は多かったのだが、バス・トイレの設置と居住性に重点を置いたため館の中身は全部リフォームすることになった。この世界は魔法があるため、職人にかかればものの1か月で全ての作業が完了し、現在では全く別の内装になってしまった。亡きクルムファル伯爵が見たら、腰を抜かすだろう。

ホテル自体は、年明けの二月ごろにオープンする予定だ。

これらの事業に加え、収税、財務、クルムファル軍や警察、警備、消防、裁判といった事柄をリコを中心に、リコの側近たちが実に頑張ってまとめてくれている。ピウスとアーガは軍の担当、パルタンとポピアは警察と警備、パーリオは抜群の計算能力を生かして収税を、ノキュは財務、ノキタは消防、ジャクンは裁判や訴訟を。そして抜群の事務処理能力を持つニーズとツージンは総務として、それぞれが忙しいときに助けに入る役割も兼ねている。これらの下に、帝都から連れてきた者たちを部下として付けている。全員、希望してその仕事に就いているので、モチベーションが高く、仕事の効率もよいようだ。貴族もいれば平民もいる、獣人もいるなど多国籍化しているのだが、これらを見事にまとめるリコの力量も素晴らしい。

屋敷内の料理は、忙しいペーリスに替り、フェリスが担うことが多くなった。彼女もペーリスに劣らず料理上手である。朝早く起きて俺たちの朝食を作り、昼は帝都に買い出し、そして、くたくたになって帰ってくる俺たちのために、夕食を作って待っていてくれる。俺たちの約束として、どんなに忙しくとも、できるだけ朝食と夕食は一緒に食べるということを約束した。そして、その食事タイムがそれぞれの報告と予定の確認の時間になっているのだ。

このところメイは食事が終わった後に研究室にこもることが多くなった。増加する農民の農具を研究しているのだという。かなり丈夫で使いやすいものを開発し、それを無料で提供しているので、農民からの感謝のされようは半端ではない。その上あの、美貌と巨乳である。男どもからの人気はとんでもないものらしい。しかし、メイの偉い所は、女性からも人気が高いところだ。常に謙虚でつつましやかな態度が、人々の心を開かせるのだろう。

そういうわけで、夜は自然とリコと一緒に過ごすことが多くなった。リコはリコでそれがうれしくてならないらしい。このところ、忙しいにもかかわらず、彼女は常に穏やかである。とはいえ、リコが一緒にいられない時は、必ずメイが一緒にいてくれる。リコとは違い、夜は溜まっていたものをぶつけたくなるようで、いつになく彼女は積極的になる。結果的に、俺もリコもメイも、三人がうまくバランスが取れているような格好になっている。

そんなことをしていると、年が明けてしまった。年明けは休暇を長めに取り、それぞれが英気を養った後、俺たちは本格的にホテルの開業準備をすすめた。

港を整備して取引を拡大し、冒険者や旅行者の来訪もあり、彼らの宿泊スペースの準備が急務となっていた。取りあえず、住居用結界を張って対応していたのだが、所詮はキャンプである。きちんとした宿屋の建設の要望が多かったので、年の暮れから突貫工事で宿屋の建設を依頼していたのだ。この世界には新年を祝う行事は特にはない。国の一大イベントは皇帝の誕生日か皇族の結婚や出産、戴冠式くらいのものであり、わざわざ年末年始に休暇を取るのはダーケ商会くらいなものだ。しかし俺は、そこにはこだわった。ダーケ商会は帝国一のホワイト企業を目指すのだ。

突貫工事の甲斐あって、年始休暇が終わるころに宿屋は完成した。部屋数、約40。こには、海人族や農業から離れた女将さん連中が店を切り盛りすることになった。ここは税金さえ納めてくれれば経営には口を出さないつもりだ。

そしていよいよ、ホテルのオープンが迫ってきた。栄えある来客一号は、なんと皇帝陛下である。休暇を過ごすための行幸で、完全にプライベートということであったが、必要最低限の従者は連れて来ていたため、16ある部屋が全部埋まってしまった。

陛下は、大人しくつつましやかそうな、美しい、というよりかわいらしい感じの女性を連れてやってきた。おそらくこの人が陛下が一番寵愛している人なのだろう。噂に聞くと、平民の出であるそうな。彼女の飾らない、純朴さに惹かれたのだと思うと、陛下のことが好きになった。

陛下は我々のサービスに痛く満足され、三日間の逗留を心から楽しんでくれた。従業員にも気さくに声をかけ、料理長が出す料理に舌鼓を打ち、皇帝の料理番をこのホテルに修行に来させるとも仰った。

逗留を終えて帝都に帰るその日の朝、ロビーで見送る俺たちに陛下は、

「来年の同じ時期にまた来るぞ。今後、余の休暇はここで取ることにする。部屋の調度品から皆の応対、窓から見える景色に日々の料理。どれも気に入った。できるなら、宮城をここに移したいくらいだの。いや、宮城を移しては、この趣が無くなってしまうか。ハハハハハ」

そう言って大満足の中、帝都に還御されたのだった。

結果的に陛下の行幸は大成功だった。ヒーデータ帝国皇帝が大満足されたサービスを受けようと、オープン以来ずっと満室の状態で、逆にクレームが出るくらいだ。しかし今のところ、サービスや料理についてのクレームは一件もない。しかしこの間、スタッフ全員で対策を協議する必要があるクレームが初めて寄せられた。その客は、チェックアウトの際、フロントで怒りの声を上げた。

「帰らなきゃいけないのに、ここの居心地が良すぎて帰れない。どうしてくれるんだぁ!」
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