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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第三章 クルムファル編

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第六十九話  現状確認という名の、尋問

「いやぁぁぁぁぁー見ないでー!」

女は蹲りながらそれでもなお、あふれ出る水分を止められずにいる。お蔭で館の床が水浸しである。ある程度落ち着いたところを見計らって、クエナがテキパキと処置をしてくれ、汚れた床は瞬く間にきれいになった。

「そのまんまの服じゃ居づらいだろ。フェリス、悪いが下着と服を貸してやってもらえないか?」

「まだ買ったまんまの新品がありますが・・・その、斬らないのですか?」

「ああ、貸してやってくれ。頼む」

俺は下半身が濡れたまんまの女を、転移結界のある場所まで引き立てる。俺に無理やり引きずられながら女は怒りをあらわにする。

「覚えてなさいよー!絶対許さないんだからね!」

「何がだ?これはお前のせいでこうなったんだ。お前が、俺の質問に答えないから、15歳にもなって公衆の面前でお漏らしなんかするハメになったのだ」

「・・・」

女は目にいっぱいの涙をためながら、俺たちと共に屋敷に帰った。

「お前を今から風呂に入れるが、熱湯は大丈夫か?」

「・・・」

「無言は肯定と受け取る」

俺はすぐさま風呂を沸かす。そして、フェリスは問答無用で女を風呂に引きずっていく。フェリス君、髪の毛を掴んで引きずっていくのは良くない。お父さんが見たら、腰を抜かすよ?

「やめてー!お願いだからやめてー!」

「うるさいわね!大人しくしなさいよ!ええい!ドン!ドン!・・・ドボォン!!」

「ギヤー!キャー!キャー!痛い痛い!!」

「大人しくしなさい!洗えないでしょ!うりゃぁ!うりゃぁ!」

「ギャー!助けてー助けてー!ごめんなさいー!!」

凄まじい絶叫がしばらく屋敷の中でこだまする。あとはフェリスに任せることにする。間違っても、フェリスがやられることはないだろう。フェリスが殺してしまう危険性はあるかもしれないが。・・・しばらくすると女は服を着替え、フェリスに伴われて、泣きながらダイニングに現れた。

「・・・言うこと聞きますから、もうヒドイことはしないでくださぁい。本当に申し訳ありませんでした。・・・痛いぃぃぃ」

頭を下げて謝っている女の頭を後ろから押さえつけて、頭をテーブルにこすりつけている。フェリス君、それ以上やると死んじゃうから、優しくしてあげよう。

「この女を風呂に入れる時、着ていた服が破けてしまいましたが、どうしましょうか?汚物ですから、捨てませんか?」

「許可する。フェリス、まずはそいつを放してやれ」

乱暴に椅子に座らせられる女。去り際にフェリスが女の耳元で何やら呟く。女の体がビクッと震え、おびえた表情をさらにこわばらせる。フェリス、お前、何を言ったんだ?

「さて、質問の続きだ。お前は一体何しにこの陸に上がってきた?」

「ううううあの、その、やややややや屋敷では、あう、あう、あう、うエエエエン」

何故か泣き出してしまった。リコが机をバシン!と叩く。ビクッと体を震わせて、女はリコを震えながら見る。リコはフェリスに向かって顎をしゃくる。コツ、コツ、コツとゆっくりフェリスは女に近づいていく。二人とも無表情なので、不気味さと恐ろしさが半端ではない。

「イヤ、イヤ、イヤァァァァァ・・・」

「はい、フェリス、そこまでー。席に戻ってくれていいよー」

俺に一礼をして、席に戻るフェリス。席に戻る時も、一瞬たりとも女から目をそらさない。だから、やめなさいって。本当に怖いから、やめよ?

泣きながら震えている女の過去を俺は見る。

「・・・はあ?217番目?ポセイドンは何人子供がいるんだ?まだいるのか?・・・おおう、母親は人間なんだな?・・・ふーん、217番目だから親父に会ったのは一回きりかー。一応、メシは食わしてもらっていたと。ほーう、ちゃんと教育受けてんじゃないか。うん?歌と踊り?・・・お前海の神に歌と踊りをささげる巫女だったのかよー。ほう・・・バカ野郎、イヤじゃねぇよ。・・・お母さんの元いた陸が見たかった?・・・家出じゃねぇかよー。海の神様怒ってんじゃねぇのか?姿くらますためにエサラハルを操ったのか?で?・・・サキュバスと。・・・おおう、エロいな。ふんふん。エサラハルを大量に・・・操り切れずに暴走してんじゃねぇかよー。何やってんだよお前―。しっかりしろよー。で、サキュバスは暴走しているのを知らなかったと。で?・・・海と漁村はエサラハルで占領して、自分たちは陸を占領すると。浅はかすぎるわー。うん、至れり尽くせりだったと。食って寝てばっかりじゃねぇかよー!」

俺の話を聞きながら、どんどん女の瞳孔が開いていく。そして、そのまま固まってしまった。

「ところでお前、海に戻らなくて大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫です。一日一回水浴びをすれば・・・」

「これからお前、どうすんだ?エサラハルが操り切れないんだろ?帰れないんじゃないのか?」

「それは・・・。でも、海の城には帰りたくない。帰っても居場所がない」

「イヤお前、巫女なんだろ?きちんとお勤めを果たせよー」

「踊りは・・・いいんだけど、歌が、その・・・イヤというか、その・・・」

「どんな歌だ?歌ってみろ」

「イヤです!絶対にイヤ!みんな私の歌は気味が悪いっていうの!歌いたくない!」

バシッとリコが再び机をたたく。女は観念したように、泣きながら歌い始めた。

・・・歌って、演歌じゃねぇか。まあ、この年の女の子には、キツイかもしれないな。踊りってこぶしの振り方だったんだな。確かに、演歌はこぶしの効かせ方は大事だ。しかし、まだまだ修行が足りない。これでは歌っているだけで、演歌の味わいは出ていない。

「お前ヘタクソだな。俺もうまくはないが、こんな感じで歌うんだよ」

俺はコホンと咳ばらいをし、親父のカラオケの18番を歌いだす。

「ン波の~谷間に~命のぉ花が~ふたつゥ~ン並んでぇ~咲いてぇいるゥゥゥゥ~」

「何ですか!今の気味の悪い音は!」

ペーリスとメイが同時にダイニングに入ってくる。リコもフェリスも固まっている。ゴンも唖然としている。女は目をむいて俺を見ていたが、突然俺に向かって土下座をやりだした。

「師匠と呼ばせてください!私が目指していた歌、そのものです!是非私に伝授ください!」

イヤ、ただ親父のマネをして歌っただけなんだが。マジかー。何気に親父はすごかったのか?

「芸の道はいばらの道。どんな苦労も厭わないか?」

「ハイ!死ぬまで付いて行きます!!」

・・・弟子が出来てしまった。まあ取りあえず、不肖の弟子である女、ルアラはしばらくはウチで預かって、最終的には巫女に戻らせることにしよう。


俺たちは再び転移結界に乗り、クルムファル領にある館に戻ってきた。気になるのが、漁村のことだ。クルフムファル領では農業は崩壊している。今、この領地の産業と呼べるものは、漁業しかない。その漁業が壊滅的な被害を受けているらしい。俺としては見過ごすことが出来なかった。俺とゴン、そしてフェリスとルクアは館から20キロほど離れた漁村、カイリークの町に向かった。ルクアは飛べないため、フェリスが抱えて移動する。何度かルクアの悲鳴が後方から聞こえたが、聞こえなかったことにする。

カイリークの町は、石の城壁に囲まれた小さな都市だ。俺たちは門番にこの町の責任者に話がしたいと告げ、案内を頼んだ。かなり面倒くさそうに対応されたところを見ると、この領地の責任者に対して、かなりの不信感があるようだ。

町長の館はすぐに分かった。城門から入ると町が一望できる。その中の一番大きな建物が町長の屋敷なのだ。町は閑散としていて活気がない。人は住んでいるようであるが、人通りはほとんどない。ほどなくして町長の家に着く。出てきた町長は、人間の姿をしているが、皮膚が魚のうろこでおおわれている半魚人のような男だった。あとで聞くと、海人族というのだそうだ。

「海人族の族長のマルセルです。また領主が代わったのですか?あなたも、大変ですな」

「ええ、大変です。赴任した直後からこの領土には問題が山積みです。一つ一つ解決していかねばなりません」

「だといいのですが」

「とりあえず、この町の状況を教えてもらえないだろうか」

「話したところで、今の状況が変わるとは思えませんが」

「でも、頼む」

「我々海人族は海に入って漁を行う民族です。しかし、ここ二か月ほどの間、漁に出ることが出来なくなりました。理由は、エサラハルという魚です。これが大量に発生しまして、我々が漁に出ると鋭い歯で船と漁師を襲います。実際、数隻の船が沈められました。エサラハルは食べられますが、すぐに腐ってしまうため、持ち出しが出来ません。何とか我々は飢えずに済んでいますが、これが続くとなると、かなり厳しい状況です」

「そのエサラハルを駆除すればいいのか」

「夥しい数がいるので、それも難しいでしょう。それに、問題はそれだけではありません」

「と、言うと?」

「農地が荒れてしまって作物が取れず、農民が飢えています。我らの魚を提供しようにも、届いた時にはすでに腐っています。それがために、農民の大半が盗賊と化し、我々海人族の村や町を襲っています。先日も我らの村が襲われたばかりです。正直、我らは人族をあまり信用していません」

「わかった。それはもっともだろう。しかし、盗賊は全員討伐した。もしかしたら、農民の大半を討伐したかもしれんな。あ、これは俺の独り言だ」

「盗賊を全員討伐したのですか?100以上はいたと思いますが・・・」

「ああ、全員討伐した」

「・・・」

「この領地の農業が荒廃しているのは俺も知っている。だからこそ、この漁業まで荒廃しては、この領土は本当に終わる。何としても食い止めねばならん」

「・・・海人族がいる町や村の海全部がエサラハルに占領されている状態ですが・・・」

「まずはどんな状況か見せてくれ」

俺たちは族長の案内のもと、海に向かった。

「うわーこれはひどいことになっているでありますなー」

海の中が真っ黒になっていた。本当にエサラハルが占拠してしまっている。

「これだけいると、海底にサンゴなどがあったら壊滅しているな」

「ここは海底が岩盤なので、生物はあまりいません。沖に行けばイカなど豊富な魚が採れますが、この状況では沖に出ることが出来ない」

「エサラハルを見せてくれるか?」

族長は懐から糸を出し、その先端を海に投げ込む。するとすぐにその糸の先を咥えた大きなエサラハルが釣り上げられてきた。確かに鋭い歯を持っている。

「この魚、食べてみてもいいか?」

近くの漁民の家に行って包丁を借り、族長は見事な手さばきでエサラハルを捌き、瞬く間に刺身が出来上がった。食べてみると、確かに美味い。この味に記憶はある。

「マルセル、と言ったかな?エサラハル、何とかなるかもしれないぞ?」

「ご冗談を。そんなことが出来るのなら、海人族は未来永劫あなた様に忠誠を誓うでしょうな」

「できるんだよ、それが。起死回生の策が、俺にはある」

俺は自分でもわかっていた。かなり、悪そうな顔をしながらこの話をしていることを。
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