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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第二章 ヒーデータ帝国編

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第六十四話  これからに向けて

「あの地は、とても人の住めるところではない」


帰還したジェネハの第一声がそれだった。実はクルムファル領は大きな問題を抱えていたのだ。

まず第一の大きな問題が、塩害だった。

ジェネハ率いるハーピーたちが上空から見ると、まだクルムファル領では雪が残っていたそうだ。ちょうど喉を潤そうと地上に降り、その雪を口に含んだところかなりのしょっぱさであったという。つまり、白く見える部分は塩だったのだ。領内の農地の大半が白くなっていたとのことで、かなりの塩害を受けていると考えられ、深刻な食糧不足の恐れがある。

第二の問題が、治安の悪化である。

領内では盗賊がいるらしく、近隣の港町が襲われているそうだ。これもパーピーたちが上空から見ると、その惨状がよく見えたそうだ。住民を助けようかとも思ったそうだが、盗賊の数は優に百を超えていたという。ほぼ、ちょっとした軍隊である。さすがのジェネハも、わずか十匹の手勢では分が悪い。今回は泣く泣く見捨てて帰ってきたらしい。

そして第三の問題が、漁業産業の壊滅である。

港町が襲われているとなると、そこに住んでいる住人、つまり漁師やそれに関わる人が殺害されている可能性が極めて高い。そうなると、漁業に深刻な影響が出る。たとえ、塩が名産と言われたクルムファル領であるが、農業と漁業を失っては、立ちいかないだろう。


「クルムファルの兵たちは何をしているのですか?」

リコは思わず声を荒げたが、すぐに思い出した。帝国軍との戦いでその大半が失われていたことを。当然治安は悪くなる。盗賊がのさばっているのは、当然と言える。


「もはや一刻の猶予もないな」

「すぐにでも、クルムファル領に向かうべきですわ!」


次の日、早速俺は宮城に出かけ、宰相閣下にこの件を伝え、早急にクルムファル領へ行きたいと願い出た。


「なるほど。しかし貴殿が行くにはちと間が悪い。もうすぐ恩赦が始まる。そうなった時、貴殿がおらねば誰が彼らを受け入れるのだ」


結局、クルムファル領には帝都から役人と兵隊が派遣されることになり、俺はしばしの間、帝都にとどめ置かれることになった。


ほどなくして、リコの家臣たちの恩赦が始まった。まずその第一回目として、俺を屋敷に襲いに来た十名が解放された。当然彼らは実家から勘当されており、身元引受人は俺だ。宰相閣下の屋敷まで奴らを迎えに行く。


「よー久しぶりー。元気だったか?」

・・・みんな一様に俺を睨みつけてくる。何だお前ら?ケンカなら買ってやんよ??


「ビウス!パルタン!ポピア!無事だったのですね?ニーズは怪我をしているのですか?パーリオは・・・痩せましたね。ああ、ノキュ、ノキタ、ジャクン、ツージン、アーガも無事でしたか!」


「リコレット様!!」

むさくるしい男どもがリコを囲んで泣いている。アーガとかいう少年は今にもリコの胸に飛び込んでいく勢いだ。その胸は俺だけのものだ。触りやがったらただじゃ置かん!しかも、少々暑くなってきているので、奴らが若干匂う。その匂いをリコに移しても、俺はただじゃ置かない。

睨んでいる俺の視線を察してか、野郎どもはリコから離れ、俺のところにやってくる。

「リコレット様のご主人であらせられるか。私はビウス。幼少の頃より、リコレット様の警護をしておりました」

幼少の頃より、というところにちょっと力がこもっていた。もしかして俺に嫉妬してる?


「リコレット様をお救いいただいたのは、我ら一同感謝しております」


「いや、俺ではなくて、陛下にお礼を言うんだな。リコの助命を決断したのも、お前らに恩赦を決断したのも、みんな陛下だ。俺はただ、陛下の命令に従ったに過ぎない」


奴らの目からは、「リコぉ?俺たちのリコレット様を気安く呼んでんじゃねぇよ!」という意思がアリアリと見て取れる。まあ、リコはすでに俺のものだから、どう呼ぼうと俺の勝手なのだが。


「まあ、立ち話も何だ。せっかく外に出られたんだ。メシでも食いながら、今後のことを話そうじゃないか」

俺は奴らを引き連れて、近くのレストランに腰を下ろす。気前よく何でも好きなのを食えと言ったら、本当に好きなものを注文しやがった。遠慮というものを知らないのか、はたまた俺への当てつけなのか。

メシを食いながら話をする。どうやら奴らは宰相閣下の牢からは早々と出され、屋敷の中に軟禁されていたのだそうだ。きちんとメシは出たが必要最小限であり、肉などはほぼ出なかったという。全員若い男子たちだ。皆、肉を注文し、ガツガツ食っている。本当に皇女様の側近なのだろうか。リコはというと、そんな奴らの姿をニコニコして見ている。


「さて、食べながら聞いてくれ。俺はこの度、クルムファル領の管理を任せられることになった。と、言っても勘違いするなよ?領主はヴァイラス皇子だ。俺は皇子の代わりに領地の整備に行くだけにすぎない。クルムファル伯爵夫人はリコの先生であり、お前らの先生でもあるんだろ?その先生の領国は今、乱れた状態にある。それを復興しに行く。ついては、お前らの中で、クルムファルに付いて行きたい者がいれば、一緒に連れて行って復興に手を貸してもらいたい。無理強いはしない」


全員が食べるのを止めて、俯いている。


「リコレット様も行かれるのですか?」


一番若い少年、アーガがリコに話しかける。


「もちろんですわ!」


力強くリコは答える。すると、数人が参加を表明してきた。


「この近くの宿屋に皆の部屋を取っていますわ。宿は一週間取ってあります。行きたい者は、一週間後にこのリノスの屋敷まで来てください。行きたくないという人や他にやりたいことがある人についてはそれを優先してください。私は決して責めません」


そしてリコは、こいつら共に金貨の入った袋を一人一人に手渡した。これまでかけた苦労と世話になった感謝の気持ちを贈りたいと、結婚する時に皇帝陛下から下賜された支度金を切り崩してせっせと拵えたものだ。大体、一人につき百万円相当の金貨を配っている。大盤振る舞いである。当然奴らは泣いていた。


メシを食い終わると、奴らは名残惜しそうに指定された宿屋に向かっていった。

そして、屋敷に帰り、ちょうど一週間後、あのむさくるしい奴ら共が現れた。しかも全員揃って。


「我ら全員、リコレット様の下でその生涯をささげる覚悟です。ぜひ、お供させてください!」


「ありがとう。ありがとうございます・・・」


リコは泣き出し、それを見ていたむさくるしい奴ら共も泣き出した。思わずリコの肩に手をやると、リコは俺の胸に顔をうずめて泣きだした。男たちが一斉に俺に殺気を向ける。その直後、メイ、ペーリス、ゴンが奴らに殺気を放ったため、奴らは一様に目を伏せた。

宰相閣下からの指示がなければ俺たちは出発できないため、宿屋の宿泊を延長し、指示があるまで奴らには待機を命じた。その間奴らは装備を整え、食料を調達するなど、割と真面目に準備をしていたらしい。

男どもが去ったあと、しばらくして一人の女性が屋敷を訪ねてきた。


「まあクエナ、クエナではありませんか!」

彼女はリコの近習を務めていた女官であり、幼いころから彼女を育ててきた母親代わりのような人である。


「クルムファルは私が育った故郷です。そこに姫様がおいでになるのでしたら、是非私もお供させてください」


「貴方がそういうのなら・・・」


クエナ曰く、元々クルムファルは食料の生産は高くないため、基本的に塩を売った金で食料を調達してきたのだそうだ。しかし、領主が亡くなったため塩を売ることが出来ていないため、領内は予想通り深刻な食糧不足に陥りつつあるとのことである。帝国軍が駐留しているが、それにも限度がある。復興を急がねばならないだろう。

出発を待つ間、俺たちは救援物資の準備をしていた。それに合わせて、クルムファル行のメンバーを選定した。クルムファルには、俺とゴン、リコ、フェリス、そして十人の男どもとクエナを連れていくことにした。護衛にハーピーを50羽連れていく。そのためジェネハはお留守番だ。ただし、ある程度メドがついたら俺たちは転移結界で家に帰ってくるつもりだ。

一か月後、宰相閣下からようやくクルムファル行の許可が下りた。季節は夏になろうとしていた。

出発の朝、男たちが俺の屋敷に集合する。全員、馬を準備している。リコとクエナは馬車で移動だ。その準備をしている時間を利用して、俺は野郎どもにハーピーたちを紹介する。


「ハーピー!やっぱりあの時の夢は、夢じゃなかったのか!」


うろたえる男どもに俺は


「こいつらは俺の部下だ。お前たちを襲うことはない。安心しろ」


と一喝する。動揺はすぐに収まった。そして野郎どもに馬車の準備を手伝うため、馬小屋に行くよう指示を出す。俺はゴンと行程について最終確認を行う。しばらくすると、一羽のハーピーが俺の下にやってきて伝える。

「ご主人様、完了しました」

ご苦労と労いの言葉を聞いて、ハーピーは俺の傍から飛び上がっていった。

夏の日差しが眩しい。遠くに目をやると、地平線の彼方が陽炎にゆれている。俺は夏の到来を感じながら、馬小屋を見る。

馬小屋では、冒険者の格好をした10人の男がいた。俺はその男たちの前に、無言で立った。


「よーし、行くぞ!」


颯爽と俺はイリモに跨り、地平線に向かって彼女を走らせた。その後ろには10人の男たちと1台の馬車。これが後に言われる「クルムファルの奇跡」の幕開けであった。
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