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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第二章 ヒーデータ帝国編

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第五十六話  兄妹喧嘩

「しかし、証拠がないでしょう?」

「いや、これから証拠を揃えていくのだ。首魁の名が分かれば、それはたやすい」

そう言うと宰相閣下は足早に地下室を後にした。扉が閉まる際、後ろから

「クルムファル様は関係ない!関係な・・・ぐふっ!」

という声が聞こえたが、聞こえないふりをしておいた。

宰相閣下の館を出ると既に夜が白み始めていた。宰相閣下は一睡もすることなく再び宮城きゅうじょう に戻っていった。俺は店に帰り、そこから屋敷に転移する。中に入ると、ペーリスもメイリアスも起きて待っていた。イリモやジェネハも起きているという。俺は皆に休むよう伝え、風呂にも入らずそのままベッドに倒れ込み、そのまま眠りに落ちた。

目覚めたのは夕方だった。ちょっと早い夕食を取りながら、宰相家であったことを報告する。皆、特に心配してないみたいだ。俺であれば、多少の困難は何とかするだろうと考えているようだ。

「それにしても、リコレット皇女まで死罪っていうのは、ちょっと乱暴だよなー」

「仕方ないでありますー。皇女派を叩きつぶす千載一遇の機会でありますからなー。後々の権力闘争を起こさぬためにも、容赦ない粛清をされるでありましょう」

ふーん、そんなもんかと思いつつ、俺は一日ぶりに入る風呂を堪能し、その日は早めにベッドに入った。

明け方近くに目を覚ます。マップに反応があったからだ。マークは黄色。俺に対して警戒心を持ちながら屋敷に近づいてくる。人数は三人。取りあえずベッドから出て、服を着替える。早く寝たので睡眠は十分だ。

一階に降りると同時に、玄関のドアがノックされる。

「夜分に失礼する!帝国騎士団のセオーノです!リノス殿はご在宅か!お取次ぎ願いたい!」

「セオーノさん、久しぶりですね。一体何の御用でしょうか?」

「大変すまないが、我らと同行の上、宮城きゅうじょう まで来ていただけないだろうか」

宮城きゅうじょう ですか?」

まさか、宮城きゅうじょう に呼び出されるとは思いもよらなかった。セオーノの顔をじっと見る。疲れが色濃く出ている。俺はダイニングで寝ているゴンに声をかけ、イリモに乗ってセオーノの馬を追いかけた。

空が白み始めたころ、宮城きゅうじょう の門に着く。中に入ると、今まで入ったことのないエリアに案内される。廊下は気味が悪いほど静まり返っている。そして、大きな扉のある部屋に案内された。

中に入ると、宰相閣下とヴァイラス殿下ともう一人の男がいた。針金のように細く、目が泳ぎ、ブツブツと何やら呟いている。豪華な衣装を纏っているので、この人も皇族の一人だろうか。

「おお、リノス殿、待ちかねた。ささ、こちらへ」

宰相閣下の手招きで、俺は部屋に入る。

宮城きゅうじょう に呼ばれたので何事かと思いましたが、宰相閣下でしたか」

「いや、急を要することがあってな。貴殿にはご苦労ではあるが、一つ頼まれてもらいたい」

「私で出来ることであれば、何なりと」

「ここにおわす、ヒート殿下、いや、間もなく即位されるので、ヒート陛下にそなたの結界を張ってほしいのだ」

この針金のような男が次の帝国皇帝?俺は驚きを隠しえない。

「兄上、先ほど話しましたリノス殿です。この者の結界は非常に丈夫です。グレモント宰相もこの結界で、どれほど命が助かったのかわかりません。兄上も早く!」

「なぜリコレットが余を弑するのじゃおかしいではないか常日頃からリコレットは世を助けると言い続けてきたではないかあれは嘘かいやそんな訳はないいやしかし宰相の言う通り誰かに謀られているのかもしれぬしかし父上は余の前でリコレットに余を助けよとお命じになられておるそのリコレットに限って・・・」

ブツブツと一人で自問自答しているヒート陛下。俺は取りあえず、結界を張っておく。暗殺の類はこれで十分防げるだろう。

「いや、リノス殿、助かった」

「リコレット皇女の一派が、弓を引いたのですか?」

「リコレット様は今、部屋に軟禁している。問題はリコレット様を担ぎ出そうとする一派の動きだ。昨日、クルムファルを捕らえようと館に向かったところ、館はもぬけの殻であった。おそらく自領に逃げたのだ。しかし、クルムファル夫人の教えを受けた者たちを捕らえ詰問したところ、何とヒート陛下を暗殺する計画まであったのだ」

それで俺が呼ばれたと。

「クルムファル夫婦については現在、追っ手を向かわせている。捕らえられるのもそう遠くはあるまい。しかし、この計画に加担している者がどのような騒ぎを起こすかわからん。そのために、陛下の安全を確保せねばならなかったのだ」

「リコレットを呼べ!余が直々に話を聞く!」

ブツブツと独り言を言っていたヒート殿下が、突然声を張り上げる。ビックリするじゃねぇか。

「なりません陛下」

「何故じゃ?この結界師が余に結界を張ったのであろう?リコレットに余が弑される心配はなくなっているではないか。余が直々に聞いても、問題あるまい!」

「兄上、姉上と会われるのは私も反対です。姉上のあのご気性。激高すると何を言われるのか分かったものではありません。場合によっては兄上のお体に障ります。ですからなにとぞここは」

「父上は余に、人の話を聞きながら国を動かせとお命じになられた。それに余は、何故に妹に命を狙われるのかを聞いておきたい。この耳で」

「しかし・・・」

「この結界師がおれば、余の命は守られるのであろう?この結界師がここにおれば問題ないであろう?」

この陛下はかなり精神状態が不安定だ。このまま押し切ると逆効果になりそうだ。

宰相閣下はヴァイラス殿下に耳打ちをする。殿下も渋々ながら同意されたようだ。宰相閣下が部下に指示を出す。

「リノス殿、一つ約束してもらいたい。ここでの話は口外しないでいただきたい」

「いや、この部屋を出ていきますよ。あとは皆さんでおやりになればよいかと思います」

「そなたはここに居よ!この部屋から去ることは許さん!」

「いや、陛下に施しました結界は、私がここに居なくても問題なく稼働します」

「ならんと言うたらならん!もし、そなたの結界が破られるようなことがあれば、再び結界を張らねばなるまい!何?破られる心配はない?何故じゃ?絶対か?それは絶対か?それみよ、即答できんではないか!ここに居よ!余を一人にするでない!!」

あまりの剣幕に取り付く島もない。これだけ情緒不安定で本当に皇帝が務まるのか、逆に不安になる。

しばらくすると、兵士に囲まれてリコレット皇女が連れられてきた。彼女は部屋に入るなり俺を見つけて

「また貴方ですか?何故貴方がここにいるのですか!?」

「その者は余の結界を張っている者じゃ。余がここにいることを許している」

「私は兄上を弑い奉る気は毛頭ございません」

「では、何故クルムファルが帝国に、余に背く!しかも父上が崩御あそばされた直後にだ!」

「それは・・・私も存じませんでした」

リコレット皇女の過去を覗いてみたが、それは本当のようだ。

「まあ、そなたはそう言うだろうな!しかし、クルムファルは一体何をしようとしていたのだ!何が不満なのだ!」

吐き捨てるようにヒート陛下は喚く。

「おそらく、帝国の体制に不満があったのではないでしょうか。帝国の全ての役職が、能力に関係なく貴族の手によって独占されています。一般の臣民にも優秀な人材が沢山おります。その者たちを帝国は生かし切れておりません」

「しかし姉上、帝国は大学を作り、どのような身分の者にも学ぶべき機会を与え、優秀な者は官吏に取り立てているではありませんか?」

「では聞きますがヴァイラス、帝国の宰相、将軍、財務卿、農務卿・・・その他主だった官吏の役職に、帝国の臣民はどのくらい登用されているのですか?」

「それは・・・」

ヴァイラス殿下が口ごもる。

「皆無です。皆無なのです。官吏として小間使いにはなれても、主だった仕事はできないのです。これからの帝国は、貴族も平民も、男も女も、能力に応じた仕事を与えられるべきなのです。一握りの貴族が国を牛耳るのは、間違っています」

「姉上は、帝国の体制そのものを変えよ、そうおっしゃるのですか?」

「リコレット!それは余が無能であるとの当てつけか?皇帝と言えども、優秀な臣民の中から選べと、そう申すのか?」

「いえ、そこまでは・・・」

「言うな!余は生まれたころから皇帝となるべく日々精進してきた。決して楽しい日々ではなかった。決してな!リコレットもヴァイラスも、そうやって日々精進を重ねてきたのではないのか!余は他の主要な職務に就いている貴族たちとて、決して楽しい日々を暮らしてきたのではないと信じる。臣民たちにも苦労はあろう。しかし、我々皇族も貴族たちも、臣民が苦しむ以上の苦しみを味わっている。臣民たちは、努力すれば、金を稼げば自由になれるのであろう?我々は努力しても自由は手に入らん。生涯不自由さの中で生きねばならんのだ。それを支えている物は何だ!帝国のため、帝国臣民のためという思いではないのか!」

ヒート陛下は肩で息をしながら、力なくその体を椅子に預けている。誰も口を開こうとはしない。そんな中、兵士の一人が足早に入出し、宰相閣下に何やら耳打ちをする。

「先ほど、クルムファル領付近で、クルムファル夫婦を捕らえようとしたところ、抵抗され戦闘になりました。帝国軍にも被害が出ましたが、従者は全員斬り捨てました。クルムファル夫婦につきましては、二人とも自害したそうであります」

沈痛な面持ちで宰相閣下はヒート陛下に報告する。

「クルムファルに加担した者どもを捕らえよ。リコレットについては余が追って沙汰を下す。リコレット、そなたは部屋から一歩でも出ることは許さん!連れていけ!」

ヒート陛下が最後の力を振り絞るようにして、大声で外の兵士に命じる。連行されるリコレット皇女を見ると、その目に大粒の涙を溜めていた。
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