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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第二章 ヒーデータ帝国編

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第四十九話  敏腕マネージャーの苦悩

とある山間の中に、ポツンと一つの館が建っている。あまりにも深い山の中にあり、人間どころか魔物でさえもたどり着けぬ場所であるため、この館の存在を知る者は少ない。

この館の主こそ、10000年の時を経て生き続ける狐神、おひいさまである。そして、そのおひいさまの側近くに仕える老狐、サンディーユ。自他ともに認める、おひいさまの右腕とも指南役とも言われる敏腕マネージャーである。

最近のサンディーユの悩みは、おひいさまの偏食である。いわゆる「おのこし」の問題である。

一年ほど前からこの狐館には頻繁に貢物が届くようになった。リノスという、ジュカ王国に遣わした白狐が連れてきた少年が、「おはぎ」と「あぶらあげ」を献上してくるようになった。

最初こそ、下賤の者が食すものとして歯牙にもかけなかったサンディーユであるが、おひいさま以下、女官たちがあまりにも、これらの食べ物を美味い美味いと言って食している。時には女官同士で喧嘩になることもあったのだ。

ここに至ってサンディーユも、しぶしぶとこれらの食べ物を食してみた。そして、一瞬で虜になった。特に「あぶらあげ」がサンディーユの好みに合った。

リノスから届けられる「あぶらあげ」は大体、甘辛く味付けられたものと、何も味付けのない物の二種類である。おひいさまは甘辛いものが好みであり、対してサンディーユはノーマルなあぶらあげを好む。このノーマルあぶらあげは、酒のあてに抜群の相性であり、おひいさまの屋敷からあぶらあげを持ち帰り、晩酌のあてにするのを何よりの楽しみにするようになった。

ついひと月前から、「おはぎ」に変化があった。これまでは、豆のような歯ごたえのあるものであったが、それが歯ごたえがなく、まろやかな食感に変わったのだ。要は、リノス家のシェフに就任したペーリスが、リノスの話をヒントにもち米で餅を作り、あんこをこしあんにして「赤福餅」のようなものを作ったのであるが、この「新・おはぎ」をサンディーユは気に入った。

しかし、おひいさまはあんこの中の「餅」が気に入らないらしく、「新・おはぎ」が届けられるといつも、餅の上のあんこだけを食べ、そのまま捨ててしまう。サンディーユはそれが残念でならなかった。

むろんそれは、食べ物を粗末にしてはならぬ、という日ごろからおひいさまに口を酸っぱくして言っている「お行儀」にも反する。しかしそれだけでなく、この「新・おはぎ」は、餅とあんこの絶妙なハーモニーを楽しむものなのだ。口の中でねっとりと餅に絡みついてくるあんこ。それをつるりと飲み込み、そののど越しを堪能する。そこに言うに言われない趣があるのである。

さてそんなある日、いつものようにリノスから「おはぎ」と「あぶらあげ」が届けられた。いつもと違うのは、今日は「新・おはぎ」が三つも届けられていたことである。いつもは二つ。しかも、「新・おはぎ」の時は、おひいさまは一つしか召し上がらず、大抵は残った一つはサンディーユが持ち帰る。今回も、お持ち帰りのパターンである。

しかし、この日のサンディーユは、小腹がすいていた。そこにきての「新・おはぎ」である。取りあえず一つを口の中に放り込む。うまい。どうすればこのような美味いものが作れるのか。人間とは侮りがたいものだ。そう考えながら、無意識のうちについつい手は、二つ目のおはぎに伸びる。口の中に入れる。今度は味を確かめるかのように、咀嚼していく。やはり、美味い。これに合う飲み物は何であろうかと考えながら飲み込む。腹の虫も収まった。大満足である。

ふとみると、おはぎが一つしかない。あ、やっちまったか、という思いもないではなかったが、いつものことである。おひいさまは一つ、しかも半分までしか食べないだろうと思いつつ、おはぎとあぶらあげをおひいさまの所に持っていく。

いつものようにおひいさまは、甘辛く味付けられたあぶらあげを堪能し、おはぎに取り掛かった。今回は「新・おはぎ」である。しかも三個と聞いて、おひいさまは興味なく「左様か」と口にしながら大きく口を開け、中身の餅が顔を出すギリギリのところまであんこを食べ、その味を堪能する。

「サンディーユ、お代わりじゃ」

本来は「お残しはなりません」と小言の一言も言うところであるが、あまり言いすぎて「ええい、お代わりを持って来いというに!」と癇癪を起されると困るのだ。なぜなら、おはぎはもうない。サンディーユの腹の中に納まっているのである。リノスのところに使いをやれば持ってくるであろうが、今の間にはあわない。

「おかわりじゃ」

「おひいさまに申し上げます」

「何じゃ?」

「あちらの庭でごさいますが、この間手入れを致しまして、木々が大変美しくなりましたな」

「庭?・・・おお、きれいになっておるのう。あちらの池の端にも木が植えられて、あれが何とものう」

おひいさまが顔と視線を逸らせている間に、サンディーユはおはぎをクルリとひっくり返した。

「おかわりのおはぎでございます」

再びおひいさまは大きな口を開け、おはぎのあんこを堪能する。

「やはりあんこは美味じゃのう。サンディーユ、お代わりじゃ」

これは困った。今度おはぎをひっくり返せば、餅が出てくるのだ。

「ううう・・・」

「サンディーユお代わりじゃ!・・・もう一ぺん、庭の木々を見ようか?」

その後、しばらくはサンディーユの小言はなくなり、おひいさまは伸び伸びと日々の暮らしを満喫したのであった。
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