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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第九章 夢のかけ橋編

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第二百三十七話 厄介払い

歓迎会は和やかなうちに終了し、参加した人々は、アガルタ国のもてなしに大満足をして会場を後にした。リノスとペーリスの狙いは当たり、特に彼女が苦心して作った、トンカツの上にブラウンソースをかけた「ブラカツ」は、味にうるさい王族や貴族たちにも、大好評だった。

そして次の日の朝、リボーン大上王とメインティア王との会談のため、リノスはメイを伴って、迎賓館の一室に向かった。当初はリノスだけが会う予定だったのだが、リボーン王のたっての頼みで、メイも同席することになったのだ。

「おお! アガルタ王! お会いしたかったですぞ! メイリアス王妃も! お忙しい中、よくぞお時間を取ってくだされた。このリボーン、感謝申しますぞ!」

リノスたちの姿を見るや、リボーン王はすぐさま立ち上がり、大股で二人の前に歩いて来て、力強くその手を握った。間近で見る彼の顔はアバタだらけであり、決して美男とは言えない。しかし、その鋭い眼光は、何物にも屈しない意志の強さを感じさせ、キビキビとした動きは、厳格な彼の性格を如実に表していた。

一方で息子のメインティア王は、柔和な笑顔を湛えたまま、リノスたちの様子を見守っていた。彼はゆっくりと三人の前に進み出ると、優雅に一礼をして、口を開いた。

「フラディメ国のメインティアです。本日は学会の準備でお忙しい中で、父のわがままでお時間をいただくことになりまして、恐縮の限りです」

その言葉を聞いた瞬間、大上王の目がカッと開かれる。そして、その顔のまま彼は素早く首を動かして、息子の顔を睨みつけた。

……怖い。キンタマが縮み上がるくらいに恐ろしい顔だった。さすがの息子もその顔にビビったらしく、彼はゆっくりと父親から目を背けた。

用意された席に着き、挨拶もそこそこにリボーン王は、興奮した声で口を開く。

「いや、この学会を心待ちにしておりましたのです。メイリアス王妃、あなたのお書きになられた論文は、このリボーン、隅から隅まで、一字一句噛みしめるように読ませていただきましたぞ」

「あ……ありがとうございます」

「いや、あなたの明快な論理の組み立ては、私の知的好奇心を刺激してやまぬ。学会での発表を心待ちにしておりますぞ!」

「はい……がんばります」

メイは、眼光鋭い老人の、威圧するような声に戸惑いつつ、笑顔で言葉を返す。

「リボーン大上王は、随分と学問がお好きなのですね」

リノスが何気なく言った一言だったが、リボーン王は我が意を得たりと言わんばかりに、目を大きく見開き、ずいっと体を前に寄せて、嬉しそうに言葉を返す。

「これからは、知性の世の中になると私は信じておりますでな。今までのように、神への信仰ではなく、人間の知的な判断によって国を動かしていかねばならんと思っております。とはいえ、我が国にはまだ、国を動かすほどの知性を備えた家来は少ない。そのために、全ての判断は一国を治める者に求められますのじゃ。それ故に私は、深い教養と広い知識を身に付けねばならぬのです」

「なるほど、素晴らしいお話ですね。私も見習わねばなりませんね」

「何を仰るアガルタ王! 私は貴方の治世を理想としておりますのじゃ! 見習わねばならんのは、我らの方だ」

「そんな……。買いかぶりですよ」

「いやいや! 世界で先駆けてクリミアーナ教からの干渉を脱し、メイリアス王妃をはじめとして、ポーセハイ、ドワーフなどの優れた知識を持つ者を集めて、この国を治めておられる。謙遜されずともよい。こうした優れた者が、それぞれの得意な分野を担当しながら国を治めていく体制が整えば、多少王がバカでも……。いやいや、アガルタ王のことではない。失礼した。王の力量によって国が左右されることはない。いや、貴殿の手腕は見事だ。実に見事だ」

あまりにも手放しで褒められるために、リノスもメイも少し面はゆく、二人は顔を見合わせながら苦笑いをしている。そんな雰囲気を察してか、リボーン王は少し声のトーンを落として、話を続ける。

「今回、お時間をいただいたのは、相談したいことがあるためなのだ」

「相談……ですか?」

「ウム。アガルタ王、メイリアス王妃に相談に乗っていただきたのは、この愚息のことだ」

それからリボーン王は、隣に座る息子がいかに愚かであるかを語った。女にだらしがなく、わがままで、学問を疎かにし、政務を行わないために、家来たちはもとより国中の民衆、果ては鳥、獣に至るまでバカにされていると言って、隣の息子を睨みつけた。しかし、メインティアは柔らかな笑顔を湛えたまま、父王の小言を聞き流している。

「我が国では、カラスまでが息子のことをバカにすると言われているのだ」

「カラスまでも……ですか?」

「民が言うには、カラスというのは賢く、働き者の鳥だという。朝早く起きて城下に飛んでくると、家々の嫁たちを起こして回るのだそうじゃ」

「ほう……」

「カラスは家の窓から顔を出し、おっカァー、おっカァーと鳴く」

あまりのブッ込みように、リノスは目を見開いて固まる。リボーン王はそんな様子などに目もくれず、話を続ける。

「しかしな、我がアリスン城の屋根にとまると、カラスの鳴き声が変わるのだそうだ」

「鳴き声が……それは何と?」

「アホーアホーと鳴いていると言うのだ!」

……何故かメイがウケている。クスクスと体を震わせながら、必死で笑いをこらえている。

「笑いごとでなぁぁぁぁぁぁい!!」

部屋の中にリボーン王の大音声がこだまする。リノスもメイも、あまりのことに固まる。メインティア王は父王の様子を察して、既に両耳を指で塞いでいた。

「……失礼した。アガルタ王とメイリアス王妃に相談したいことは、どうしたら、この息子が王として相応しい人物になるかということなのだ。これでも幼少の頃は利発で聡明だった。私も、その成長を楽しみにしていたのですじゃ。しかし、成長と共に堕落が始まり、王に即位してからさらに堕落しおった。最早私の手には負えませぬのじゃ」

「う~ん。まずは、父子おやこで腹を割って話をしてみればいかがですか?」

「アガルタ王、そうできるものならば、そうしておりますじゃ。まず、息子は私が呼んでも仮病を使って出ては来ん。何か小言を言っても、今のように薄ら笑いを湛えたまま何も言わんのだ」

「う~ん」

「私は、息子が何かの病に罹っているのではと疑っていますのじゃ」

「まさかぁ」

「私もそう思う。しかし、そう考えざるを得ないのだ。アガルタの医療技術は世界一ですじゃ。世界中の有能な研究者が集まっている。不躾ではあるが、アガルタ王、我が息子を一度、診察してもらえぬだろうか?」

リノスはメイと顔を見合わせる。その時、今まで沈黙したままであったメインティア王が口を開いた。

「父上、私を、アガルタに追放するおつもりですか?」

「大バカ者ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

再び大上王の大音声が響き渡る。

「そなたを追放しようと思うのであれば、今頃とっくに追放しておるわ。私はそなたがバカには思えぬ。あれだけ聡明であったお主が、このように堕落するなど、私は信じられぬのだ。病に罹っておるのであれば、治せばよい。一度、アガルタ王と王妃殿に診てもらうのじゃ」

「……父上。これまで何度も申し上げておりますが、私は病でも何でもありません」

大上王は忌々しそうにメインティア王を睨みつけると、さっと、リノスたちに向き直る。

「病気でなければ、ただ軟弱になっただけのこと。アガルタ王、そのときは、この愚息の根性を叩きなおしてもらえんだろうか? 私ではもう、どうにもならんのですじゃ!」

あまりの話に、さすがのリノスも目が泳ぐ。そして、両手を挙げて二人を宥めるようなポーズを取りながら、口を開く。

「いやいや、ちょっと待ってください。根性を叩きなおすなど私には……。それに、こちらのメインティア王は、フラディメ国の国王でしょう? 国王が国を離れるのはよろしくないかと思いますが……」

「問題ない。愚息は即位して以来、政務を執ろうとはせなんだのだ。従って、国内の政治は全て私と家来たちが見てきた。恥ずかしい話だが、愚息がおらなんでも、国の政治は問題ないのだ。むしろ、子供が増えぬので、家来たちは安心するであろう」

「いや、そうは言ってもですね……」

「分かりました。父上の望むとおりに致しましょう。アガルタ王、メイリアス王妃、一度、私の体を調べてください。そして、しばらくの間、このアガルタに逗留させてください」

メインティア王が早口でまくし立てる。そして、彼は父王に向き直り、噛んで含めるような言い回しで言葉を続けた。

「そして、このアガルタで、自らを見つめなおし、見聞を広めて参ります。それでよろしいのでしょう? 父上?」

しばらくの沈黙の後、大上王はゆっくりと口を開く。

「それでよい。これで、学会に集中できるというものじゃ」

再び、重苦しい沈黙が訪れていた。
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