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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第八章 疫病撲滅とクリミアーナ教国対決編

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第二百十話  順調と挫折

二月になった。この月は、リノス家にとっては娘たちの誕生月であるため、一年の中でも最も大切な月であると位置づけられている。リコレットとの間にできた長女、エリルは二月二日が誕生日であり、メイとの間にできた次女、アリリアの誕生日は二月二十八日、しかも、一歳の誕生日ということもあり、リノスのテンションは三日ほど前から、ちょっとおかしなことになっていた。


「ズンダッダダダっ、ズンダッダダダっ、ズンダッダダダッダ~ん。ハアッ!」


またしても、不思議なメロディーを鼻歌で歌いながら、何やらご機嫌の様子なリノスは、ダイニングのテーブルで書き物をしている。そんなリノスの足元に、ヨチヨチ歩きの子供がまとわりつく。

「エリルー。アリリアー」

娘の名前を呼びながら、リノスは二人を膝の上に抱き上げる。

「エリル、アリリア。パパの邪魔をしてはいけませんわ」

「いいよリコ。別に急ぎのことじゃないから大丈夫だ」

「まあ、でも・・・」

リコの心配をよそに、リノスは二人の娘を抱き上げてあやしている。ここ最近、二人の娘はつかまり立ちから、伝わり歩きをするようになってきていた。そんな娘たちが、リノスは可愛くてならない。最近の彼は、寄ると触ると子供たちを抱っこしている。

「リノス・・・。あまり甘やかしすぎては・・・」

「何言ってるんだリコ。どうせ大きくなったら、パパ臭いからイヤ、とか言われるんだ。いつまでこの子たちが抱っこさせてくれるのかわからないんだぞ?ヘタすりゃ、五歳くらいで恋人できるかもしれないんだぞ?そうなれば・・・。いや、待て、エリルは既に陛下の息子のアローズ殿下と婚約してるな。となればだ、この子を抱っこできるのはあと何回だ?そう考えたら・・・。俺は抱っこをする!時間と体力が許す限り、抱っこをするんだ!」

そう言ってリノスは、子供を抱っこしたまま、ダイニングを出て行ってしまった。

「リノス・・・」

そう呟き、半ばあきれながらも、リコはその姿を微笑ましく思う。そして、リノスが書いていた紙に視線を向ける。そこには、エリルとアリリアの誕生日に出す食事のメニューが書かれていた。

「・・・こんなに作って、誰が食べるのかしら?カースシャロレー四頭?何を作る気かしら?」

リコが考えているさなかに、突然ダイニングの扉が開き、リノスが入ってくる。

「リコ!リコ!エリルが喋ったぞ!」

「まあ・・・」

「さっき、トウサン、って言ったんだ!エリル、もう一回ママの前で言ってごらん!さあ、さあ!」

満面の笑みでリノスはエリルを促している。対してエリルはポカンとした顔をリノスに向けている。

「ほうら、エリル」

「・・・まま」

「え?」

「ママ」

「まあ、エリルは、ママと喋れるようになったのですね?偉いですわ!賢いですわ!」

リコはリノスの腕にいるエリルに満面の笑みを投げかける。

「リノス、明日はエリルの誕生日ですわ!盛大にお祝いしましょう!明日は私が、腕によりをかけて食事を作りますわ!」

「ああ、いや、リコ・・・明日はその・・・スキヤキを・・・」

「お任せください。スキヤキの他にも、沢山作りますわっ!ペーリス!フェリス!ルアラ!シディ!ソレイユ!ちょっと来てくださいな!」

ひとりテンションが上がっているリコを見て、リノスは苦笑いを浮かべる。

「まさか俺以上にリコがハジけるとは・・・予想外だな。それにしても、エリルはすごいな。一歳で言葉を喋るのは早い方じゃないか?こりゃ、アリリアももうすぐ喋るのかな?二人とも順調に成長してるんだな。・・・おいおいリコ、そんなデカイ鍋持ち出して、何作る気だ?これは・・・明日はチワンやローニたちだけじゃなく、ラファイエンスやクノゲンたちも呼んだ方が良さそうだな」

リノスは、エリルとアリリアを抱きながら、明日招待するメンバーを頭に思い浮かべるのだった。




一面の銀世界に覆われた草原。その中に突如としてテント村が出現している。二棟のロッジを中心に、それを囲むようにして、草原だけでなく川を越えた森の中にまでテントが立てられている。雪の中におよそ数千に及ぶテントが並ぶ光景は、ある種異様と言えた。それに加えて、あちこちの場所で、同じようなロッジに似た建物が建設されようとしている。

そのテント村の中心にあるロッジの一室では、先ほどから重苦しい沈黙が流れている。テーブルには、数名の司教たちが居並んで座っており、その一番奥の椅子には、一人の少女と一人の少年が座っている。彼らの視線は、ちょうど部屋の入り口に立っている男に向けられていた。その男の服はくたびれ果てており、足は泥にまみれ、顔は疲労の色が色濃く出ていた。

「ガルビー沖に停泊している方々が、アガルタに来られないとは・・・。どういうことでしょう?」

言葉を発したのは、ヴィエイユだ。いつものように微笑みを湛えてはいるが、声にすこし怒気が混じっている。

「ガルビーに上陸することができません。そのため、シルエナイ、ナライブツ、カトワタルロ、ホーエインス、ザカリ、ゲイランの各国々からの船は一旦、自国に引きあげることとなりました」

ヴィエイユを始めとした司教たちの目が大きく見開かれる。その中の一人である、司教のコフレシは唾を飲み込みながら口を開く。

「何故です?何故、我々の命令なく勝手に引き上げるのですか!」

「ガルビーに鉄砲水が発生したのです。それ以後、川の水が増水して、我々は川を上ってくることができなくなりました。ガルビーからの物資が届かないのは、そのためです。私はラマロンから大きく迂回してここまでやってきましたが、イルベジ川が増水していたために、渡河するのに多大な労力を費やしました。あの川を、信徒が渡るのは不可能です。ましてや物資を満載した荷台が渡るなどは・・・。それに、アガルタ王に再び神託が下っておりまして・・・」

「神託?」

「信徒を集めてはならぬ、との神託があったようです。ガルビーの鉄砲水は、そのお告げを守らなかったためであると考えます」

ヴィエイユの顔は凍り付いている。そんな中、カッセルが声を上げる。

「やはりこの国はまだ、大魔王の影響下にあるのではないでしょうか・・・」

カッセルがそう思うのも無理はない。実を言えば、ヴィエイユたちクリミアーナ教が当初立てた計画は全て頓挫し、現在は打つ手のない状況に追い込まれていたのだ。

彼らは当初、アガルタの都近くに、クリミアーナ教国からの移住者が集まる集落を作る予定であった。圧倒的な物量で、わずかな日数であっという間に都市を建築し、クリミアーナ教国の国力を見せつける。そして、豊富な食料と共に潤沢な資金で、アガルタの都の食糧を買い占め、一時的に食料不足の状況を作り出そうとしていた。

イルベジ川は春になると増水する。そうなれば一時的とはいえ、アガルタの物流は滞る。その時を見計らって食料の買い占めを行えば、一時的とはいえ、都の人々に不安を与えることができる。一度、大魔王に支配され、内戦を経験し、苦汁をなめた経験のあるアガルタ国民である。再びその惨禍が起こるのではないかと思うそのスキを狙って、教国が食料援助を行う。特に信徒には手厚い支援を実施することで、人々にクリミアーナ教への関心を高める。その後、クリミアーナ教を布教すれば、多くの信者獲得につながる。そうしてアガルタの国中に信者の数を増やしていき、最終的にアガルタを乗っ取ろうという算段であったのだ。

これはある意味でクリミアーナの常套手段とも言えるやり方であった。人心の不安につけこみ、それを解決することで信者を増やしていく。そのために敢えて災害や騒乱を起こすことも厭わなかった。そのお陰もあってクリミアーナ教は順調に信者を増やしていき、世界中に拠点を持つ国家に成長したのである。

しかし、アガルタは違った。手始めに布教に出かけたアガルタの都では、クリミアーナ教は歯牙にもかけられなかった。食料は十分にあり、精強な軍隊を持ち、資金も潤沢。そして何より、都の人々全員が、王であるリノスを信頼していたのである。司教が大魔王や疫病をはじめとした、様々な不安をあおっても、人々は必ずこのような返答を返した。

「リノス様が居るから、大丈夫」

「この国のヤツらはいい奴ばっかりだから、大丈夫」

ある司教などは、この真冬のさ中であるにもかかわらず、褌一つに半纏を纏った、恐ろしく薄着の男に一喝されたのだ。

「バカ野郎!何を信じてもいいが、人をテメエの信心する神サマに誘い込むんじゃねぇ!ケジメってぇものがねぇのか!テメエは!」


ガルビー沖の停泊している船に積んでいる、大量の物資が到着しないという事実。さらに、リノスが聞いたという、信徒を集めてはならぬ、というクリミアーナ様からの神託。ヴィエイユたちクリミアーナの人々にとって、受難ともいえる出来事がこの先、待ち構えているのだが、ヴィエイユたちはまだ、それを知らない・・・。
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