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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第八章 疫病撲滅とクリミアーナ教国対決編

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第二百六話  ニケの色気とローニの食い気

マトカルは馬車を仕立てて、クリミアーナの小娘と坊主を迎えに行った。それと入れ替わるようにして、メイとローニが執務室に転移してきた。

「今度はメイとローニか」

「え?」

「いや、こっちの話だ」

「ご主人様、お喜びください。キリスレイ撲滅の研究が一歩前進しました」

「え?マジで??」

驚く俺の顔を見て、にこやかな笑顔を交わすメイとローニ。二人とも嬉しさが込み上げてきている。その笑顔のままメイが口を開く。

「先日、サンダンジ国で採取した犬の唾液を大ネズミに注射したところ、キリスレイと同じ症状を発症しました。おそらく、ですが、犬を媒介として感染している可能性が高いです」

メイの説明を補足するかのようにローニがぴょこんと頭を下げて、口を開く。

「今、チワンさんたちが継続して実験していますが、ニ十匹の大ネズミに、犬の唾液を注射したところ、十一匹がキリスレイと同じ症状を発症しています。この先、さらに大ネズミに感染が確認される可能性が極めて高いです。ということは、キリスレイに感染している犬に噛まれると、かなりの確率で人間は感染すると予想されます。リノス様、恐れ入りますが、サンダンジ王にこの旨をお話しいただきたいのです。サンダンジ国でキリスレイが大流行する可能性があります」

「なるほど。わかった。今すぐ行くのか?」

「はい。一旦、我々でサンダンジ王にお目通りを願ってきます。それが許されるのであれば、ご主人様に転移していただきたく思います」

「わかった、任せるよ。じゃ、メイに結界を張ろうか」

結界を張り終えると、メイとローニはすぐさま転移していった。

「よく考えれば、キリスレイは狂犬病……みたいなものだよな? 詳しいことはわからんが……。ああ~やっぱり、勉強しときゃよかったな。それにしても、クリミアーナとキリスレイ・・・。やれやれ、気の休まる時がないな」

俺は天井を見ながら、独り言を呟く。そういえば、クリミアーナの小娘が持ってきた饅頭がまだ残っていたな。濃い緑茶と飲めば疲れは飛ぶだろうか。ああ、前世の頃、贔屓にしていた和菓子が食いたいな。そうそう、東京・両国にある、あの伝説の和菓子屋は絶品だったな。銀座のあの店の、最中は美味だった。瓢箪のお菓子もおいしいんだよね。あとは京都か・・・。北大路のお菓子屋、その手前の駅にあるお菓子屋は美味いが高かったな。和風カステラ、クッキーの店・・・。食いてぇな・・・。

「ご主人様」

「うおっ!」

和菓子のことを思い出していたら、突然声がして、ビビってしまった。見ると、メイとローニが転移してきていた。

「サンダンジ王がお会いになるとのことです。恐れ入りますが・・・」

「ああ、分かった。一緒に行こう」

・・・転移する直前にアガルタの和菓子屋、ヤワサの店でお菓子を買ってくればよかったと、ちょっぴり後悔しつつ俺はサンダンジ国の王宮に転移する。

俺の姿を見つけると、衛兵がすぐさま王宮内に通してくれ、謁見の間に案内してくれる。そこではサンダンジ王、ニケが待ちわびたように部屋をウロウロしている光景が目に入った。

「おお、アガルタ王。キリスレイの原因が分かったとは、誠か?」

「ええ。まだ確定ではありませんが、高い確率であるとは思います」

「・・・やはり、クシャナミナか?」

俺は静かに頷く。

「まさか・・・。我らが友であり、家族であり、子供であるクシャナミナが・・・」

呆然とするニケに、メイが諭すように話しかける。

「サンダンジ王様、お気持ちはよくわかります。しかし、早く手を打たねば、キリスレイが大流行する可能性があります。これ以上、サンダンジ国民の友であり、家族であり、子供であるクシャナミナと、サンダンジ国の皆さんをキリスレイに感染させるべきではありません。サンダンジ王様、お気をしっかり持ってください」

ニケは驚いたような顔をしながら、メイの顔をじっと見つめている。そして、小さく頷いた。

「よろしいですね?では、ローニさん、お願いします」

メイはニケの顔をじっと見て、彼が落ち着きを取り戻したことを確認して、ローニの顔を見る。ローニはぴょこんとお辞儀をして口を開く。

「我々が確認している感染経路は、キリスレイに感染している犬の唾液です。感染している犬に噛まれると、その唾液が人間の体内に入り、感染していると考えます。先日、キリスレイに感染している犬から採取した唾液を、ニ十匹の大ネズミに注射しましたところ、わずか数日で十一匹がキリスレイに似た症状を発症しています。サンダンジ王様におかれましては、キリスレイに感染している犬を隔離していただきますよう、お願い申します」

ニケは無表情でローニに視線を向けている。そして、落ち着いた声で口を開く。

「・・・ローニ殿、キリスレイに感染しているクシャナミナの特徴は?」

「はい。先日、こちらで拝見させていただきました白い犬は、常に興奮状態にあり、非常に攻撃的でした。おそらく、調教師の方も手を焼かれるのではないかと思います。まずは、常に興奮状態であり、誰かれ構わずに噛んだり襲ったりしている攻撃性の強い犬、狂気を感じさせる犬を、隔離いただければと思います」

「・・・わかった。誰ぞある。グラワンスを呼べ」

そう命じてニケは目を閉じた。彼なりに心の整理をする時間が欲しいのだろうと察した俺たちは、しばらく無言で彼を見守った。しばらくして、グラワンスが部屋に入ってきた。

「王、お呼びでしょうか」

「常に興奮状態にあり、常に攻撃的な姿勢を取っているクシャナミナを、すぐさま隔離せよ。国中の、該当するクシャナミナを、調べよ」

「王、それは・・・」

「グラワンス、主命だ。王の命令は、絶対だ。・・・わかるな?」

「・・・畏まりました」

苦虫をかみつぶしたような顔をしてグラワンスは頭を下げる。

「グラワンス、許せ。隔離したクシャナミナについては、手厚く、手厚く保護せよ」

ニケの言葉に、グラワンスは何も返答することなく、一礼をして足早に部屋を後にした。

「・・・グラワンスの名誉と、誇りを傷つけたな」

息をゆっくりと吐きながらニケは呟く。俺たちはただ、静かにニケを見守っている。

「アガルタ王」

不意にニケが言葉を発する。俺は彼に視線を向ける。

「あなたは、優秀な部下と・・・妃をお持ちだな。うらやましい」

「ありがとうございます。しかし、妃とは・・・?メイリアスはここにはおりませんが?」

抜け抜けと俺は返答する。それを聞いてニケは、メイに視線を移す。

「そのポーセハイはおそらく、メイリアス殿であろう?」

思わず俺は固まる。なぜ、バレたんだ?LV5の結界なのに!そんな俺たちを見ながら、ニケはニヤリと笑みを漏らす。

「ポーセハイが転移する時は、一人ひとりそれぞれが転移していた。しかし、彼女だけは何故かローニ殿と一緒に転移している。初めはそのスキルがないものだと思っていたが、ポーセハイは全員が転移スキルを持っていると聞いた。で、あれば、誰かが変装していると考えるのが普通であろう。しかし、何度見ても変装には見えなかったが、今日、話をしてみてわかったのだ。私に気をしっかり持て、などという者はそういない。我が母にも、そのようなことは言われた記憶がない。私が知る限り、そのような胆力があるのはただ一人。メイリアス殿だけだ。違うか?」

俺はその言葉を聞いて思わず笑みを漏らす。

「ご名答です。さすがですね。ええ、このポーセハイは、我が妻であるメイリアスです。ポーセハイに見える結界を張っていたのですが、まさか、そのような形で見破られるとは思いませんでした。俺の結界を見破った人間は、そうはいないですよ?」

そう言って俺は、メイの結界を解除する。

「やはり、メイリアス殿か。いつ見ても、美しいな」

メイはにっこりと笑って、俺の後ろに隠れるようにして立つ。ニケはメイの姿が見えなくなって、ちょっと残念そうだ。それを見て、ローニが口を開く。

「サンダンジ王様、我々はこれより、キリスレイの特効薬の開発にかかります。それまで、お手数ではありますが、キリスレイに感染している可能性のある犬の隔離を、よろしくお願いいたします。また、その隔離した犬をお借りするかもしれません。その時は是非、ご協力をいただきますと嬉しく思います」

「・・・わかった。ただし、条件がある」

「条件・・・ですか?」

「ローニ殿、しばらくこのサンダンジ王国に留まっていただけないだろうか?この国にキリスレイに感染している者も多くいよう。その者たちを助けてもらいたいのだ。貴殿は実に優秀な医者だ。できれば、王宮の専属医師として迎えたいくらいだ」

ニケの言葉に、ローニは相変わらず毅然とした態度を見せる。

「私はまだ、未熟者です。そのような大役は務まりません。これまで通り、アガルタとサンダンジを行き来しながら、研究と患者の治療を並行して行いたく思います。どうしても、医師を常駐させたいのであれば、チワンさんに相談ください。それすらも認めぬ、とおっしゃるのであれば、私は、このお仕事を遠慮させていただきます」

ニケは目を丸くして驚いていたが、やがて、ニヤリと笑みを見せた。

「ローニ殿は手厳しい。わかった。貴殿は今のままでよい。医師の常駐はチワン殿に相談してみよう。・・・そうだ、ローニ殿を我が妃として迎えれば、貴殿はこの国に居てもらえるな?」

ローニはシャキッと背筋を伸ばし、再びぴょこんと頭を下げる。

「お断り申し上げます。僭越ながら、サンダンジ王様は私の好みではありません」

「これは手厳しい。フフフフフ・・・」

ニケは満足そうな顔で頷いていた。結局、ローニもメイも、今のままでいいということになり、俺たちは謁見の間を後にした。

「まさかニケから口説かれるとは、ローニもやるな?」

俺の質問にローニは無表情で答える。

「多くの女性と交わる男性は、嫌いなのです」

「ほう、それは初耳だな。ということは、五人も嫁がいる俺は、ローニは嫌いってことか?」

ローニの顎がゆっくりと上がっていく。そして、絞り出すように声を出す。

「おいしい食事を作る方は・・・その限りではありません」

「なんだ・・・。ローニはやっぱり、色気より食い気なんだな」

ローニはすました表情をしている。それを見て、俺とメイは笑顔を交わし合うのだった。
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