挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
結界師への転生 作者:片岡直太郎

第八章 疫病撲滅とクリミアーナ教国対決編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

203/262

第二百三話  うちの子に限って・・・

「わが国で・・・クシャナミナは我らが友であり、家族であり、子供であるとされている。むやみに捕らえてて彼らの自由をを奪うことは禁じられているのだ・・・」

サンダンジ王のニケは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、俺たちに話しかける。事前に調べたところによると、この国の発展は、クシャナミナと呼ばれる犬たちと共にあったようだ。

まだ、この国が建国されたばかりの頃、人々は国を発展させるために多大な努力と労力を払っていた。砂漠の中にあったオアシスを拠点に、少しずつ街を広げていったのだが、その際、犬たちは襲いかかる魔物に人間と共に敢然と立ち向かったのだ。それ以降、この国では犬を友として、家族として扱うという風習が根付いた。

その思想は徹底されていて、日本のような犬の殺処分場などは存在しない。なぜなら、捨て犬や飼い主による飼育放棄ということがないからだ。何らかの事情で飼い主が犬を飼えなくなった場合は、国による保護施設まである。そういった意味では、このサンダンジ国は動物愛護にあふれた国であると言える。

メイたちが、俺の鑑定情報をまとめたところによると、感染経路は二つなのだという。しかも、その二つともが、犬がかかわっていたのだ。

一つ目の感染経路が、サンダンジ国の、ある花屋で飼われていた犬である。二十人の内、五人がその犬に嚙まれていた。しかもそれは、一人が尻尾を踏んで噛まれている他は、全員その犬に何かをしたわけではなく、突然その犬に噛まれているのだ。さらに、キリスレイを発症している患者の一人は、その犬を保護しようとしている時に噛まれ、その後発症している。

二つ目の感染経路は、教師の家で飼われていた犬である。四人がその犬に噛まれており、当然その飼い主の教師はキリスレイを発症していた。この犬は散歩に出ている時に、やはり無差別に人を噛んでおり、噛まれた全員が発症していたのだ。

「従って、その二匹の犬をまず保護し、状態を確かめる必要があります」

「・・・わが国では、そうした人を噛むような犬については、専門の調教師が再教育を施すことになっている。それは、調教師の領分であり、今までその領分を犯して、王の命令で犬を捕らえたという例は、ない」

ニケは明らかに動揺していた。目が泳ぎまくっている。王の命令は絶対だと言っていたことから考えると、犬を捕らえる命令は出せないことはないだろうが、彼の中ではその現実が受け入れられないのだろう。

「・・・信じられぬ。我らと共に繁栄を築いてきたクシャナミナが、憎むべきキリスレイの原因であったなどとは」

「サンダンジ王、いや、敢えてニケさんと呼ばせてもらいます。ニケさん、あなたは、この国を救いたいのではないのですか?ポーセハイの彼らが示した可能性は、このまま放っておくと、犬たちも、人も、キリスレイに罹ってしまうのです。この国の王として、それを見過ごしてはいけないと思います」

彼は目を閉じてじっと考えている。そして、ゆっくりと目を開ける。

「誰ぞ」

「お呼びでしょうか王」

「グラワンスを呼べ」

「ハッ」

お付きの者に短く命令をしてニケは、再び目を閉じた。しばらくすると、小柄だが筋骨隆々の、褐色の肌を持った男が現れた。

「グラワンス」

「ハッ」

「至急、花屋で飼われているクシャナミナと、教師の家で飼われていたクシャナミナを探し出し、我が前に連れてこい。人を噛んでいるという。おそらく、調教師の誰かの下に居るはずだ」

「王、恐れ入りますが、理由をお尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「その二匹にクシャナミナが、キリスレイに感染している可能性があり、それを人に感染させている可能性があるのだ」

一瞬の間をおいて、グラワンスと呼ばれた筋骨隆々の男は、大きな声で笑いだした。

「ウハハハハ。王!何を仰るのです。クシャナミナがキリスレイに感染していると?ありえません。クシャナミナは我らが友、家族、我らが子です。何で我らを滅亡に追い込む伝染病をまき散らすのです」

「その・・・可能性があるのだ」

「王、如何されました?今までそのようなこと、あった試しがありませぬ」

「グラワンス・・・。これは・・・命令で・・・ある」

ニケの目に涙が光っていた。その様子にグラワンスは目を丸くして驚いている。

「私とて、信じたくはない。信じたくはないのだ。友を、家族を、子を疑いたくはない。しかし、キリスレイを再び我が国で流行らせるわけにはいかん。いかんのだ。グラワンス・・・察してくれ」

グラワンスは、ゆっくりと頭を下げ、足早に部屋を出ていった。

そして、しばらくすると、グラワンスは、檻の中に入れられた一匹の白い犬を運んできた。それを見てニケは口を開く。

「あとの一匹はどうしたのだ?」

「ハッ・・・あとの一匹は・・・既に亡くなっておりました」

「・・・」

絶句しているニケを尻目に、チワンたちがその犬を観察しようとする。しかし犬はかなりの興奮状態であり、檻の中で暴れ始めた。その時、グラワンスが何やら呪文を唱えると、犬は押さえつけられるように頭を下げる。しかし、犬はガルルルル―と唸り続けている。グラワンスはため息をつき、口を開く。

「このクシャナミナは興奮状態にありました。それで人を噛んだのです」

「なるほど。リノス様、この犬でしょうか?」

チワンがグラワンスの言葉に同意しながら、俺に意見を求める。俺はこの犬を鑑定する。

「ああ、間違いない。この犬だ。……この犬も、別の犬に嚙まれているな」

その説明を聞きながら、ローニは檻の周りをウロウロしながら観察している。

「興奮しているのでしょうか?それにしては、涎を垂らしていますし、目が座っていますね。何か狂気を感じるのは私だけでしょうか?」

「そうですね・・・。何かに取りつかれているような雰囲気ですよね」

メイもその様子を見て不気味そうな顔をしている。しかし、グラワンスはその話を言下に否定する。

「それは、いきなり見ず知らずの人の下に呼び出されたからです。彼は大変に気が強い性格だ。何もしていないのに籠に閉じ込められて、このような場所に引き出されては、誰でも怒るというものだ」

ローニはすっと立ち上がり、グラワンスに視線を向ける。

「なるほど、仰る通りかもしれません。しかし、この犬に噛まれた方々全員が、今のところキリスレイを発症しているようです。一度、我々でお調べさせていただきます」

グラワンスは眉間にしわを刻み、ニケの方向に振り返った。ニケは静かに頷いた。

「クシャナミナは我らの友であり、家族なのだ。手荒なマネは、許さん」

グラワンスはローニたちに向かってそう言い放ち、足早にその場を後にした。それを見送ったチワンは、再びその犬の下に近づく。

「さて、この犬を傷つけずに丁重に運ぶには・・・」

「俺が結界を張ろう」

そう言って俺は、その犬に檻ごと結界に閉じ込め、眠りに落ちる効果を付与していく。

「・・・あれ?眠らないな?」

普通であれば眠りに落ちる効果が、この犬には効かない。さらに効果を強めて強い眠りに誘導する。しばらくすると、犬から唸り声が消え、ようやく深い眠りに落ちた。

「かなりの興奮状態にあったみたいだな。ここまで効果を付与して眠らせたのは初めてだ」

「アガルタ王・・・あなたは・・・」

ニケが目を丸くして驚いている。

「ああ、俺の本職は結界師なのです。そこそこの結界を張れるんですよ?」

「結界師・・・」

「よい師、よい主人、よい姉に恵まれたお陰で、何とか思い通りの結界を張ることができるようになりましたが・・・。しかし、できれば・・・結界師が活躍しなくてもよい世の中になればいいのですがね」

そんな俺の発言に、ニケは驚きの声を上げる。

「何を言われるアガルタ王。結界師は王を守るうえで最も必要なスキルだ。それが必要なくなるなどとは・・・。寧ろ私は、結界スキルを持つ貴殿がうらやましい」

「・・・まあ、便利なスキルではありますけどね。ただ、王であれ何であれ、常に命の危険に晒されなければならない世の中を、何とか変えてみたいのですよ」

「アガルタ王、それは難しいだろう。我ら王族は・・・他者から命を狙われるのは、ある種の義務と捉えねばならない」

「なるほど。そういう考え方も、ありますね」

「リノス様、そろそろ参りましょうか」

結界に閉じ込められた犬を抱えながらローニが促してくる。俺は静かに頷き、ニケに一礼をして、その場を後にしたのだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ