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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第七章 クリミアーナ教国編

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第百九十二話 メイの連続コンボ

「実験ノートを作っていない?では、どうやって実験が成功したと証明するのですか?」

ローニが厳しい口調でヨームアン王国のガレイシを追及する。

「い・・・いや、その・・・。二週間という短い時間であったために・・・」

「理由にならないでしょう。基本的に、何らかの実験をするのであれば、詳細な実験ノートを取りながら行うことが常識です。それ以外に、実験を行ったと証明できるものがないからです。だからこそ、研究に携わる者が最初に叩き込まれることが、実験ノートの取り方のはずです。素人や学生がやるならともかく、あなたは確か、教鞭を取る身分のはずです。まさか、知らないとは言いませんよね?」

ガレイシは、歯を食いしばりながらローニを睨みつけている。

「確かに、確かに我々の実験は成功したのだ。それは今後、論文で明らかにしていく!」

それを聞いてチワンは、静かに口を開く。

「ガレイシ教授、あなたは先だって我が主、アガルタ王が作られた議事録をお読みになりましたか?それを読めば、この度のような結論にはなりえないと思います。もしかすると、クリミアーナ教国から写しがもらえなかったと仰るかもしれませんが、その点につきましては、ヒーデータ帝国のヴァイラス殿下が写しを作ると仰いました。それすらも、手に入れていないのでしょうか?だとしたら、大変な不手際化と思います。多少入手するまで時間がかかったとしても、議事録を精読して実験に当たらねばならないと思いますが、いかがでしょうか?アガルタ王も仰っていましたよね?議事録を確認しろと。修正点があれば言えと?」

チワンの目が怖い。怒っている。チワンが、怒っている。その雰囲気を察してか、メイが割って入る。

「我々は何も、ガレイシ教授の論を否定したいわけではありません。確認をしたいのです。まずは、議事録はお手元におありなのでしょうか?そして、どのような再現実験をされて、サンクチュアリに記された内容が正しいという結論を導き出されたのか、それを伺いたく思います」

素人目に見ても、そこまでやらなくてもいいじゃん、と思えるほどの助け舟だった。しかし、ガレイシはにべもない返答をする。

「サンクチュアリは正しいのだ。教国の発表には、イマーニ所長とダリーナ副所長がお墨付きを与えておられるのだ。間違いはない。むしろ、それに異を唱えることは、クリミアーナ様の御心に反する。それは・・・」

「ふざけるなっ!!!」

突然、大聖堂に絶叫が響き渡る。全員が声のした方に注目する。そこには、ものすごい目でガレイシたちを睨みつけている、メイの姿があった。

「・・・ふざけないでください。人の、命がかかっているんですよ?人の命を何だと思っているんですか?もし、特効薬ができたら、たくさんの人々が、家族が、仲間が、救われるのですよ?たくさんの人々が救えるのに、なぜ全力でやろうとしないのです。・・・あなた方に、研究者を名乗る資格はありません。・・・出て行ってください。・・・全員、席を立って、出て行ってください。・・・立てと言っているうちに立ちませんと、本当に立つ瀬がなくなりますよ?」

メイの迫力に圧倒されているヨームアン王国の連中は互いに顔を見合わせている。ガレイシはイマーニたちに視線を送るが、完全に無視されている。彼らは、そくさと壇上を降り、そして、大聖堂から退出していった。

「さて、イマーニ所長。あなた方も、ヨームアン王国の方々と同じですか?我々を失望させないでくださいね?」

ローニが鋭い目つきでイマーニを睨んでいる。しかし彼は、全く表情を変えず、落ち着き払って答える。

「もちろんですとも」

イマーニはゆっくりと、ダリーナに視線を移す。

「副所長、あなたが特効薬の効果を発見するまでの経緯を、ここで発表してください」

「畏まりました」

そういうとダリーナはゆっくりと立ち上がる。

「我々は、キリスレイ、ガイッシャ、ルロワンス、それぞれに感染した人間をもとに実験を行いました。すなわち、羊獣人の胆汁に、グラリーナ女史が作成した酸液を1:3の割合で配合し、直接人体に投与しました。投与した直後、キリスレイの患者につきましては、四十度近くまで発熱しましたが、二日後に解熱し、その一日後に意識を取り戻しています。現在では、歩行もでき、会話も問題なくできており、日常説活に支障はありません。次に、ガイッシャの患者ですが、こちらは、既に下半身がマヒ状態にありました。従来でありますと、上半身にマヒが進行し、呼吸困難に陥って死に至りますが、現在は下半身マヒの状態のまま、現状を維持しております。そして最後にキリスレイ。こちらの患者は、首に現れておりました紫の斑点は消え失せ、現在のところ死に至ることはなく、日常生活を送っております。以上です」

「今、副所長のダリーナから申し上げました通りです。我々としては、この実験結果をさらに具体的に、詳細に説明するべく現在、論文を作成中でありますし、もし、要請があるのであれば、実験に協力いただいた患者本人に聞き取り調査を実施していただくのも問題ないと考えております。ただし、」

ここでイマーニは言葉を切り、低い声で、ゆっくりと、集まった研究者に言い聞かせるようにして話を続ける。

「グラリーナ女史が開発した、酸液につきましては、その製造方法の権利は、我がクリミアーナ教国に属し、クリミアーナ教の財産と致します。その点をご了承いただきたい」

またしても、会場内から拍手喝さいが起こる。クリミアーナ教は、こうした時のために練習でもしているのだろうか?やけに統率が取れている。その歓声の中、メイは再び立ち上がる。

「お話はよく分かりました。しかし、大きな疑問がございます」

「大きな疑問、とは?」

「ダリーナ副所長は、実験に使用した患者を、自ら準備されたのですか?」

ダリーナはフン、と鼻で笑いながら言葉を返す。

「アガルタ王妃、実験用の患者を用意する手間がどれだけかかるのかご存知でしょう?私も忙しい身ですからね。そこまでの時間はありませんよ。グラリーナ女史が用意した患者を用いて実験をしたのですよ」

その言葉を聞いてメイが前のめりの姿勢になる。

「と・・・いうことは、ご自身で患者をご用意されていないんですよね?では、どうしてその患者がキリスレイなどに罹患していることが分かったのですか?そのお話ですと、患者が獣人たちの体液を媒介するという根拠にはなりませんね?我々が一番の疑問は、なぜ、これらの病気が特定の獣人たちの体液を媒介して感染するのか、です。その部分には触れておられませんよね?そもそも、きちんと感染経路を調べ、実証もせずに、サンクチュアリに発表したのですか?むしろ、サンクチュアリとは、そのような信ぴょう性の薄い論文を掲載してしまったということでしょうか?」

「アガルタ王妃、言葉が過ぎますぞ!我々は、感染経路の実験を行い、実証している。それを受けて特効薬の実験を実施し、実証したのだ。それは、私が確認している」

ダリーナは、顔を真っ赤にして熱弁をふるう。しかし、メイは冷静さを失っていなかった。

「先ほど、ダリーナ様は、患者はグラリーナ女史が用意したと仰いましたよね?そうですよね?ご主人・・・いえ、リノス様?」

リノスは速記の手を止めて、メイを見る。

「ええと・・・ちょっと待ってね。・・・とリノス・・・じゃない、議事録作成人であるアガルタ王リノスに確認を求めた・・・だ。はい、お待たせしました。ええと、先ほどのダリーナさんの発言は・・・『アガルタ王妃、実験用の患者を用意する手間がどれだけかかるのかご存知でしょう?私も忙しい身ですからね。そこまでの時間はありませんよ。グラリーナ女史が用意した患者を用いて実験をしたのですよ』です。・・・と、復唱したっと。・・・ああ、どうぞ、続けて?」

「ありがとうございます。・・・患者は、グラリーナ女史が用意したのですね?」

ダリーナの顔に刻まれた眉間の皺が深くなっていく。

「はい、患者は私が、ご用意しました。私が、獣人の体液が媒介となり、発症しているのを確認しています」

「その実験ノートを見せていただいてもよろしいでしょうか?」

ローニがすかさず要求する。

「グラリーナ女史、君の実験ノートはすぐに準備できるか?」

イマーニはメイとローニに顔を向けたまま、目だけをグラリーナの方向に動かして尋ねる。彼女はゆっくりとローニに視線を移し、目を細める。

「ええ、問題ありません。すぐにご用意しましょう」

イマーニとダリーナは大きくうなずく。それを確認したかのように、教皇が口を開く。

「準備まで時間がかかりそうですね。一時間、休憩を取ることにしましょう。再開は一時間後とします。よろしいでしょうか?」

メイたちもイマーニたちも頷く。俺は限界近くになっていた右手をプラプラと振りながら頷いた。

そして休憩終了後、壇上に現れたクリミアーナ研究所員たちの様子を見て、大聖堂内は水を打ったような静けさに包まれた。所長のイマーニの姿はなく、副所長のダリーナとグラリーナが壇上に現れ、彼らは呆然とした足取りで、自分の席に向かう。そしてそこで、ダリーナは体を震わせながら口を開いた。

「お集りの皆様に、お詫びがございます。クリミアーナ医学研究所所長、イマーニが・・・倒れました」

全員の目が、テンになった。
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