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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第七章 クリミアーナ教国編

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第百九十話  徹夜明けの鉄則

公開質問会以来、メイは帝都の屋敷に帰らずに、帝国大学の医学研究室にこもったままだった。彼女がようやく屋敷に帰って来たのは、十二日後だった。

一見して不眠不休で実験をしたであろうと思わせるほどに、メイは憔悴しきっていた。顔はやつれ、目は充血し、目の下に濃いクマを作っている。それは、メイを転移させてきたローニも同じで、まさしく二人はボロボロの状態だった。

屋敷に、それこそ倒れるようにして帰ってきた二人を、リコは風呂に入るようすすめる。当然俺は反対した。すぐにベッドに放り込むべきだと。しかし、リコは譲らず、二人は疲れた体を引きずるようにして、風呂に向かった。そして案の定、二人は風呂で溺れた。

「徹夜明けの風呂は気をつけなきゃいけないんだ。湯船に入ると、安心感と気持ちよさで寝てしまうことが多い。狭い風呂ならいいんだが、ウチの風呂は広いからな。そりゃ溺れるだろう。徹夜明けは湯船に浸かるな、というのは鉄則なのだ」

湯船から引き揚げたメイを介抱しながらドヤ顔で俺は呟く。しかしリコはせっせとローニを介抱している。リコのこの態度は後ろめたさを感じている時の態度だ。あとで優しくすると、とってもかわいいリコが見られるのだ。

前世の頃、初めて三日三晩で徹夜での作業を経験し、フラフラになりながら帰宅したことがあった。その時先輩に言われたのが、「湯船に浸っちゃダメよ」だった。その当時の俺はそんなアドバイスは耳に入らず、湯船に入ってしまった。実に気持ちいい、天にも昇るような感覚を今でも覚えている。そして・・・記憶は途切れ、気が付くと五時間が経過していた。当然風呂の中は水になり、エライ思いをしたのだ。先輩の一人はそのまま湯船で溺れてしまい、あわやあの世に送られるところだったという。徹夜明けの湯船は、危険なのだ。

メイとローニは泥のように眠り続けた。昏々と眠り続けること丸一日。朝食を食べていると、突然メイがダイニングに飛び込んできた。

「おはよう、メイ」

「申し訳ありません、今日は・・・何日ですか?」

「九月の十四日の朝だよ、メイ」

「よ・・・よかった・・・。締め切りを過ぎた夢を見たもので・・・」

メイはヘナヘナとその場にへたり込む。ローニはまだ寝ているという。取りあえずメイには席についてもらい、一緒に朝食を食べることにする。

「その前に、アリリアは・・・アリリアは」

「ここにいますわよ」

リコがアリリアを連れてくると、メイはうれしそうな顔をしてアリリアを抱っこする。そして、おもむろに胸をはだけて、アリリアに授乳を始めた。

「うっ・・・くっ・・・。実験の最中は胸が張って・・・」

「メイ、無理をしてはダメですわ。さぞ胸が張って痛かったことでしょう」

「搾乳はしていたのですが・・・。リコ様、アリリアを、ありがとうございます」

メイは痛みに耐えながら授乳している。アリリアもお腹がすいていたのか、どんどんメイの母乳を呑んでいる。そして、ようやく授乳が終わり、アリリアもスヤスヤと寝たところで、メイは朝食に手を付けた。

「ああ・・・おいしい。おいしいです。ペーリスちゃん、ありがとう・・・」

心から美味しそうな顔をしてメイは朝食を食べる。彼女たちには毎日研究室までお弁当を届けていたのだが、食べたり食べなかったり、だったようだ。風呂もあったそうだが、眠気覚ましに湯浴びをしたくらいで、ほぼ再現実験に没頭していたのだという。

「で、再現実験は、どうだったんだ?」

メイは食事の手を止め、じっと下を向く。

「全て・・・失敗でした」

「失敗?どういうことだ?」

その時、ダイニングのドアが開き、ローニが現れた。

「おはようロー」

「いい匂い・・・お腹が・・・お腹が・・・」

どうやら、完全に飢える一歩手前のようだ。そういうこともあろうかと、ローニのために沢山のパンとスープ、から揚げ、サラダを作っていたのだ。彼女は片っ端からそれを口の中に放り込んでいく。

「ローニ、食べながらで構わない。今、メイから聞いたんだが、再現実験は失敗したそうだな?」

ローニは食べながらコクコクと頷いている。

「クリミアーナが行ったという、それぞれの病気に罹患した人間と獣人、そしてオーガを一緒に過ごさせるという実験を試みました。彼らの主張では、一日ないし二日で発症とありましたが、全くその兆候は見られませんでした。念のため彼らを一緒にして五日間、様子を見ましたが、獣人たちには全く感染は見られませんでした」

ローニはそこで言葉を切り、ゴクリと口の中の食べ物を飲み込んだ。

「要は・・・。あ、からあげ、おかわりあります?すみません。あと・・・パンも・・・」

ローニがパンを頬張りながら片手を上げている。

「キリスレイ、ガイッシャ、ルロワンスが獣人の体液を媒介して感染するという、クリミアーナの説が証明できません。実験台となった獣人とオーガはどれも感染しませんでした。あ、ふらいどぽてと・・・全然、大丈夫です。食べられます。・・・ええと。そうそう、感染しないものに特効薬も何もありませんが、取りあえず特効薬は作りまして・・・あまりやりたくはなかったのですが、罹患した人間に投与してみましたが、病原菌が消滅した、または症状が改善したという事実は確認できませんでした」

「ということは、クリミアーナは嘘っぱちを発表したってことか?」

「まだ、何とも言えません。もしかすると、クリミアーナでは成功しているかもしれませんし、その他の国でも成功していたら・・・」

メイは不安そうな顔をしながら答える。ローニは頬張っていた食べ物を再びゴクリと飲み込む。

「メイ様、大丈夫です。あれだけ実験したのです。あれ以上のことはもう、できないくらいにやったのです。我々の実験は完璧でした。ないものはない、でないものは、でないのです」

「そうだメイ。自信を持て。必死で、何度も何度も繰り返し繰り返しやって同じ結果が出たんだろ?仕方がないよ。それでいいじゃないか」

「ハイ・・・。しかし、サンクチュアリに掲載されたほどの論なので・・・」

「メイ、自分を信じるんだ。サンクチュアリが絶対とは限らない。だって人間が作ってるんだろ?間違いはあるはずだ。むしろ、間違いが正しいとされるのが、俺は一番怖い。俺たちの実験が間違っていたら、次にやり直せばいいんだ。大丈夫だ、自信を持て!」

「・・・わかりました」

メイは何かを決意したかのような目になった。俺は黙って頷く。

「で、あれば大変申し訳ないのですが、リノス様にお願いがあります」

ローニがサンドイッチを片手に話しかけてくる。てゆうか、まだ食うのか、コイツは。

「俺でよければ何なりと力になるぞ?」

「この数日の実験で採りましたデータが膨大な量になっていまして・・・恐れ入りますが、リノス様に転移結界を張っていただいて、こちらのお屋敷に保管いただきたいのですが・・・」

「何だそんなことか。それなら、お安い御用だ」

ローニがサンドイッチを食べ終わるのを待って、俺はローニと共に、帝都大学の医学研究室に転移する。そこには黙々と実験道具を片付けるチワンの姿があった。彼は俺たちを見つけるなリ、激高する。

「遅っそぉぉぉぉぉぉぉいィィィィィィィ!!!!何してたんだ!!!」

ローニがぴょこんと頭を下げる。

「申し訳ありませんでした!リノス様のお屋敷でお風呂をいただき、そのまま気絶しておりました!」

「ローニ!お前はメイ様を送ってくるだけの役割だったはずだ!丸一日研究室を空けるとは!研究者として片付けができないのは失格だ!出したらなおす!使ったら片づけると何度言ったらわかるんだ!」

「申し訳ありません!」

「チ・・・チワン・・・そう怒るな。まあ、ローニも疲れていたからな。仕方がない。昨日一日、チワンは片づけをしてくれていたのか?すまなかったな。キレイに片付いてるじゃないか・・・。ローニに頼まれて実験結果を取りに来たんだが・・・どこにあるんだ?」

チワンは俺をジロリと睨んだが、すぐにいつもの様子に戻る。

「リノス様、わざわざご足労いただきありがとうございます。実験結果はこちらになります」

そう言って隣の部屋の扉を開ける。

「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!!!!」

部屋いっぱいに、何十冊あるかわからない程の分厚い冊子が積まれていた。

「こ、これ、全部、実験結果?」

「ええそうです。もう少しやりたかったのですが、獣人たちの力が尽きてしまいまして・・・」

申し訳なさそうにチワンが謝る。

ふと見ると、牢屋に入れられた獣人たち全員が、俺たちに向かって土下座をし、両手を頭の上に合わせて震えている。みな、泣きながらゴメンナサイを呪文のように連呼している。

「いや・・・いいんだ。しかしこの実験結果は・・・転移結界を使わないと、運べないよな。あ、無限収納があるから、それに入れて俺が持っておこう」

「そうしていただけると助かります」

俺は無限収納に数十冊の実験結果を収納する。

「チワン、お前は寝たのか?」

「寝ましたとも。三日前に二時間ほど」

「はあ?何言ってんのお前?」

「実は、ちょっと眠いのです」

「屋敷のベッドを使ってくれ。ゆっくり寝てくれ。メシも用意する。たらふく食ってくれ」

「そうしていただけると助かります」

チワンは喜んで屋敷に転移し、そして、寝室に向かった。

「ローニ、チワンはどんな体してるんだ?大丈夫か?」

「あの方は、三日間くらい寝なくても平気なのです。お陰で私は何度徹夜させられたことか・・・」

ローニはうんざりした顔で嘆いている。

「でも、チワンさんには本当に助けていただきました。感謝です」

メイがホッとした顔で口を開く。その時、ルアラがダイニングに入ってきた。

「あ、ルアラ、チワンはちゃんと寝室に行ったか?途中で倒れてなかっただろうな?」

「はい、大丈夫です。でも、すっごく臭かったので、お風呂を沸かしました。今、入っていただいています」

「風呂?・・・まさか・・・」

慌てて風呂を覗いてみると、そこには湯船の中で仰向けになり、既に意識を失いながらも、幸せそうな顔をして溺れている、チワンの姿があった・・・。
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