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結界師への転生 作者:片岡直太郎

第七章 クリミアーナ教国編

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第百七十九話 神龍様、神様を語る

降っていた雨がやみ、黒く厚い雲の隙間から真っ赤な夕日が顔を出している。その陽の光に照らされて、屋敷の壁が真っ赤に染まっている。もう、日暮れの時間だ。

にもかかわらず、メイは戻ってこない。メイが何の連絡もなしに、この時間まで家を空けることは今までなかったことだ。屋敷のダイニングには皆が顔を揃えていて、心配そうな表情を浮かべている。

俺はテーブルに両肘を突き、神に祈るようなポーズでじっと考えている。メイはきっと戻ってくる・・・そう信じたい。しかし、もし何か事故にでもあっていたら・・・。いや、それならば念話で連絡してくるはずだ・・・。マップで探ってみるが、俺が探知できるのは半径50kmだ。この周辺にメイはいない。各国を転移してマップで・・・いかんいかん、ちょっと心を落ち着けようと、目を閉じてゆっくりと深呼吸をする。しかし、胸に噴水のように湧き上がってくる不安とイヤな予感が、もはや限界を迎えていた。

「・・・メイを探そう」

誰に言うともなく呟く。そしてゆっくり目を開けると、ダイニングにいる全員の視線が俺に向けられていることに気が付く。俺は全員に視線を送り、ゆっくりと立ち上がる。

「みんなで手分けをして、メイを探そう」

全員が無言で頷く。その直後、全員がどこに向かい、何をするかが話し合われる。そして、すぐにその役割が決まった。

「待ってください!」

声を上げたのはソレイユだ。

「どうした?」

「ちょっとだけ、お待ちください・・・」

そう言ってソレイユは、何かに祈り始めた。このポーズは神龍様を呼びだす呪文を唱えている態勢だ。全員が静かにソレイユを見つめる。そしてしばらくすると、ソレイユは、ゆっくりと息を吐き出した。

「・・・少々お待ちください。まもなく、お見えになるはずです」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・相変わらず出てくるのが遅いな、神龍様は」

「そうかー?これでも早くなったのらぞ?」

俺のすぐ横で声がして驚いて飛びのく。そこには、白髪の子供が立っていた。神龍様だ。それを見てソレイユが駆け寄ってくる。

「誠に申し訳ございません、神龍様。私たちの家族のメイ様の行方が分かりません。精霊たちにお声をかけていただき、メイ様を探してはいただけませんでしょうか?」

「うーん?それは難儀な話らー」

「やはり、神龍様でも難しいですか・・・。それなら、人海戦術だ。俺は転移しながらマップで・・・」

「お主らが、難儀らと言うたのらー。羊獣人の女のことらな?川を下っているみたいらぞ?」

「え?もう調べられたのですか?」

ソレイユは目を丸くして驚いている。

「森の精霊からすぐに反応があったのらー。山の上にある街に向かっているみたいらな」

「リノス様!ガルビーだ!」

マトカルが声を上げる。

「アガルタの川はイルベジ川に注いでいる。イルベジ川を下れば、ガルビーに着く。早朝にアガルタの都を出れば、早ければちょうどこのくらいの時間に、ガルビーに着くだろう」

「ガルビー・・・。まさか、クリミア―ナの使者と一緒に居るんじゃないだろうな?病の原因と対策を調べるって言ってたのは、まさか、クリミア―ナ教国に乗り込んで調べるってことだったのか?・・・だとしたら、危険だ。奴らは羊獣人の命を奪うつもりだ。メイが危ない・・・行ってくる」

俺は即座に、裏庭に作っているガルビーに向かう転移結界のもとに向かう。

「待ってリノス!私も一緒に行きますわ!」

リコがエリルを抱っこしながら俺を追いかけてくる。

「リコ、お前は屋敷に居てくれ。エリルとアリリアを守ってくれ」

「でも・・・」

「頼む」

「リノス・・・。メイを・・・メイを・・・」

「わかっている」

「リノス様、ちょっと待ってくれ!」

「何だ、マト?」

マトカルが俺の側にやってくる。

「今、リノス様がガルビーに行けば、秘匿している転移結界がクリミア―ナにバレる恐れがある。行くにしても方法を変えた方がいい」

「ツ・・・」

俺は苦虫を噛み潰したような顔をする。確かに、今着いたばかりのガルビーに俺が現れては、相手に疑われるだろう。俺はしばらく天井を眺めて思案を巡らす。そして、ゆっくりと視線を家族全員に向けた。

「マトの言う通りかもしれん。ガルビーには明日、向かうことにする」

そして俺は、ペーリスに視線を送り、神龍様にぜんざいを温めて出すようにお願いをする。彼女は快く応じてくれ、いそいそと火をおこし始めた。

「おーう。ぜんざいなのらー。楽しみなのらー」

神龍様は椅子に腰かけて、ご機嫌の様子でぜんざいを待っている。この緊迫した空気の中、この人だけがノホホンとしている。俺はその隣に腰かけ、思い切って話しかけてみた。

「恐れ入ります、神龍様。少々お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

「おーう、何ら?」

「神龍様は神様にお会いになったことはあるのでしょうか?」

「カミサマという名前の者には会った記憶はないのらー」

「・・・もしかして、ですが、神龍様がこの世界を創造された創造神様なのでしょうか?」

「我は主の言うような神ではないな」

「大変恐れ入りますが、神龍様、あなたは何者なのですか?」

神龍様は目を閉じてじっと考えている。そしてゆっくりと目を開ける。

「我はただ、他の精霊よりも長く生き、他の精霊よりも多くの能力を有しておるだけの存在ら」

「神ではないと?」

「我がこの世を創造した者ではないのは確からー。我がこの世に生を受けた時から、この世はあったのらー。もっともその時は、人族など弱い弱い存在であった。それが、このように美味いものを作るようになるとは、我も思わなかったのらー」

神龍様はケラケラと笑う。

「では、クリミア―ナという神はご存じでしょうか?」

「クリミア―ナ?」

神龍様は遠い目をして考えている。

「おお、そうら。その昔、人族を救うておった女がおったのらー。それが確か、そんな名らったな」

「その女が神になったと言われているのですが・・・」

「それは我にもわからん。しかし、クリミア―ナという女は死んだ。それだけは確かなのらー」

ようやく神龍様の前に温められたぜんざいが置かれる。彼は嬉しそうにそれをペロリと平らげ、おかわりを求める。そして神龍は再び語り始める。

「主たちの言う神とは皆、人族が付けたようなものらー」

「どういうことです?」

「神龍・・・狐神・・・猿神・・・犬神・・・猫神・・・鹿神・・・鳥神・・・多くの神と呼ばれる者がこの世にはおる。それらは皆、一族の中で最も長生きをし、最も優れた能力を有する者たちら。人間たちは、自分より優れた能力を持つものを神と言い、貢物などをして崇めてきた。そして神と呼ばれる者たちは、何らかの形で人間にその礼を返した。ただそれだけのことなのらー。我とて、主から美味いものをたんと食わせてもらっておる。だからこそ、その礼として、契約してやっているのら。そんなものなのら」

「つまり・・・神はいないと?」

「我は、今言うた以外の神には会ったことも、話をしたこともないのらー」

再びぜんざいが運ばれてくる。神龍様は嬉しそうにそれを平らげていく。

「昔の人族は弱かったのらー。神と呼ばれる者たちの庇護を受けねば、生きることが出来なかったのらー。人間たちの呼ぶ神が多くいるのも、そのせいかもしれぬなー」

「そうですか……。あと、一つお尋ねします。犯罪奴隷というのはご存知でしょうか?クリミアーナ教が確立したものですが、奴隷魔法以上の効果があるようで、奴隷に死を選ばせることもできるそうなのです」

「犯罪奴隷?うーん、どういうやつら?」

「ええと……。奴隷魔法というのはですね……」

俺は自分がかけられた奴隷魔法のことを詳しく話す。神龍様はおーう、おーうと頷きながらその話を機嫌よく聞いている。

「それならば、我ら竜族にも、そうした魔法があるのらー。その解放は、ある程度の回復魔法と加護のスキルを持つ者であれば、行えるはずなのらー。こんな感じらー」

神龍様が人差し指をピッと立てると、俺の体がほんのりと光る。……なるほど。口で説明するのは難しいが、感覚はわかった。つまり、呪いを除去するイメージと、体ではなく、魂全体に回復魔法をかけるイメージだ。加護を発動させながら、回復魔法を発動するという流れだ。よし、掴めた。

「主ならば、簡単にできるらろう?」

「はい、ありがとうございます。神龍様、今夜は、すきなだけぜんざいをお召し上がりください」

「おーう、食うのらー」

そう言って神龍様は思う存分ぜんざいを堪能しまくり、そのまま機嫌のよさそうな笑い声を残して姿を消した。



次の日の昼過ぎ、俺はガルビーの街に転移した。マップを展開すると、確かにメイの反応があった。俺は念話でメイに呼びかけるが、反応はない。仕方なくマップに示されている場所に向かってみると、そこは思わず舌打ちしてしまうような場所だった。

「教会か・・・」

確かにこの街には、他の街よりも規模の大きい教会があった。その門は固く閉じられており、人の出入りを拒否しているかのようにも見えた。俺は門を掴み、ゆさゆさとゆすってみるが、ビクともしない。全力を出せばどうにでもなるのだが、ハテどうするか。そんなことを考えていると、中から司教らしき男が出てきた。

「どなた様でしょうか?」

「アガルタ王のリノスだ」

「お引き取り下さいませ」

「何?」

「昨日より数日間、我がクリミア―ナ教国の関係者以外は、教会への出入りは差し止められております」

「それは、誰の命令だ?」

「失礼いたします」

俺の質問に答えることなく、司教はその場を後にし、教会の中に入っていった。

「なるほど。メイを渡す気はないってことか・・・?上等だ。何が何でも取り返してやる。獣人たちが病の源か何かは知らんが、人族のために羊獣人の命を奪うって考えが気に入らん。獣人も同じ人間じゃねぇか。何様だ、この野郎ども?ぜってぇメイは取り返す・・・」

俺は教会に向かって小さく呟く。そして、メイに向けて念話を送る。

『メイ、聞こえるか?リノスだ。教会の前に来ている。メイ、俺は教国と戦うことに決めた。やっぱり、ヤツらの言うことは間違っている。だから、ヤツらの言うことは金輪際聞かないつもりだ。メイ、一人で戦おうとしてるんだな?いいんだ。いいんだ、メイ。一人で戦わなくてもいい。俺たちと一緒に、戦おう。だからメイ、俺は必ず、必ずメイを助けるからな。必ず、助けるからな』

『・・・ご・・・ご主人・・・様』

消え入りそうな念話がかすかに聞こえてくる。俺は教会を睨みながらゆっくりと踵を返して、その場から離れる。そして、一旦ガルビーの街を離れ、帝都の屋敷に戻るのだった。
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